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先輩研究者のご紹介(飯島 孝良さん) [2020年03月16日(Mon)]
 こんにちは。科学振興チームの豊田です。
 本日は、2018年度に「一休の「像」の文化史的研究 -室町期から近現代における「禅」イメージの形成史として-」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、明治大学文学部所属の、飯島 孝良さんから研究についてのコメントを頂きました。

<飯島さんより>
●我々は「禅」にどのように出会っているのか
 先日、恩師がタイに行った際に土産を買ってきてくださいました。

写真 (1).jpg
【@2020年の正月をタイのバンコクで過ごした恩師の土産。でも、どうやらこの小坊主はタイ人ではないらしく……】

 これは何だろうかと思っていると、「土産物屋が、この小坊主を『イッキュウさんだ』というから、買って来たんだよ」とおっしゃるのです。一瞬、「えっ、どういうことだ?」と思いながらも、すぐに合点がいきました。
 というのも、タイや中国など、アジア諸国ではずいぶん前からアニメの『一休さん』が人気で、いわばあの名作ドラマ『おしん』のような知名度です。タイのお母さんのなかには、息子に「イッキュウ」と名づける方がおられるほどだそうです(NHK『日本人のおなまえっ!』2018年7月19日放送分)。
 とはいえ、気になる点はいくつも残ります。まず、このポーズ。どうして口をふさいでいるのでしょうか。あたかも「見ざる聞かざる言わざる」の「言わざる」のようですが、一休が臨済禅の僧侶であることを考え合わせると、「もしかしたら、禅宗で重んじられる“不立文字”(経典などのことばによって知性や判断を縛りつけられてはならない)という教えを示しているのでは」と思われてきます。ただ、もうひとつ気になるのは、タイは所謂上座部仏教に属しており、日本の臨済宗など禅宗が属する大乗仏教とは異なる流れにあります。そういう意味では、タイでの一休さん人気は、仏教の歴史的な流れとは無関係という外ありません。にもかかわらず、一休さんがここまで受容されているのは、仏教国のタイならではの「美しき誤解」といえるのでしょうか。
 実は、一休さんも、禅も、古今東西を問わずさまざまな形で我々の前に現れてきます。「禅文化」にちなんだものに、我々は意外なところで出逢うことが多いのです。それはどうしてなのだろうか?――端的に言えば、私の研究関心はこうしたところにあります。

●禅文化のなかの一休―その「語られる」イメージ 
 私が研究テーマとしている一休宗純いっきゅうそうじゅん(1394〜1481)は、御小松天皇ごこまつてんのう(1377〜1433)の御落胤ごらくいん(天皇の落とし子)とされる一方、居酒屋や色町など民の集う十字街頭を自由闊達に行き来する臨済宗大徳寺派の禅僧でした。更には、当時の主流派における堕落を痛烈に批判しながらも、晩年は大徳寺住持(四十七世)となって再興に尽力しています。これらは一見すれば矛盾してみえるのですが、その言動は凝り固まった常識や傲り高ぶり、或いは権威化や形骸化を一貫してゆるさない厳しい姿勢とも捉えられます。破天荒といえるその姿は、総体として在世当時から多くの耳目を集めることとなっており、近年にとんち話やアニメで知られる「可愛らしく賢い小坊主」というイメージと大いに異なるものです。
 その一休は、多くの文人や茶人と交流したと言われています。例えば『山上宗二記やまのうえそうじき』(天正十六[1588]年)によれば、一休が「茶祖」といわれる珠光しゅこう(1423〜1502)に宋代の高僧・圓悟克勤えんごこくごん(1063〜1135)の墨蹟を授与し、茶道は禅から強い影響を受けたといわれてきました。ただ、この逸話にある一休と珠光の交流には、現在は歴史学的に疑義も呈されています。つまり、一休と茶道との影響関係は、ひとつの「物語」として重んじられてきたものだというのです。ただ、少なくともここで重要なのは、何故そうした逸話が残されたのかではないでしょうか。
 茶道では、師資相承ししそうじょう(師から弟子に脈々と教えが受け継がれていくべきこと)が重視され、その作法において平常無事びょうじょうぶじ(普段どおりのありのままにこそ教えが体現されるべきこと)が重んじられますが、これらは禅宗で強調される基本的な姿勢そのものです。こうしたものに見出せる禅からの影響関係の出発点に、他ならぬ一休が据えられていたことに、「禅文化」の大きな特徴が見出せるように思います。言い換えれば、一休の〈像(イメージ)〉を介した「語り」の形成にこそ、禅が日本文化の中に位置づけられた一端が見出せるのです。
 一休に深く傾倒し私淑した文人は少なくなく、寛永年間頃には、一休のつい棲家すみかとなった酬恩庵しゅうおんあん(京都府京田辺市)に多くの文人が集い、一種の「禅文化」のサロンの様相を呈しました。佐川田喜六昌俊さがわだきろくまさとし(1579〜1643)は茶人や庭師や禅僧とも密接な交流を重ね、隠居後には酬恩庵のすぐ傍に黙々庵もくもくあんと号した居を構え、一休の下で生を全うせんと願ったと伝えられています。

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【A黙々寺跡を示す石碑。現在の酬恩庵の裏山に位置し、往時をしのばせる。】

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【B黙々寺跡にある石碑のひとつ。卵塔(禅宗によくみられる墓石)のような形状をしたところに「是什麽」(「何だ」の意)という禅語――禅の問答で相手の境地を訊ねる基本の句――が刻されているが、これは茶席に掲げられる墨蹟としても非常に多くみられるもの。】

 一休がこれほど人気を集めたのは、前述しましたように、常識や形骸化を繰り返し批判したその精神が、新たな文化を切り開こうとする文人へインパクトを与えたからだといえます。こうした影響を明らかにすることで、中世から近現代に到る「禅文化」の展開が窺い知れるのではないか――そう考え、関連の文献や史跡の調査のために東京と京都を行き来する日々を送っています。こうした作業を進めるうえでも、日本科学協会の研究助成はたいへん貴重な援助となりました。とくに当方は2年間にわたる助成を賜ることが出来、ここに改めて深謝致します。

●禅からZenへ―そして「日本」を捉え直す視点として
 こうしたことについては、国外でも御話しさせて頂くことがあります。縁あって、2018年春にはシカゴ大学で開催される日本研究ワークショップで研究を発表する機会がありました。“Problematic issues on the image of Zen culture and Ikkyū Sōjun”(「禅文化と一休宗純のイメージにおける諸問題」)と題した発表には、御列席の方からさまざまにリアクションを頂戴し、たいへん有難い一日でした。

写真 (4).jpg
【C5th U ToKyo / U Chicago Graduate Japan Studies Workshopのパンフレット。】

 ここでは、日本仏教を研究しようとシカゴ大学に留学している各国の研究者と出逢うことが出来ました。歓待して下さった諸氏の研究にかける熱意は、ときに驚嘆と感激を与えてくれる程のものでした。大正大藏経を開きながら密教について熱っぽく語り合ったオランダからの研究者、近代日本仏教を瑞々しい視座から論じているイタリアからの研究者、……シカゴビールを傾けつつ、飽きることなく長時間にわたり語り尽くしたその空間は、初春の寒風をものともせぬものになりました。

写真 (5).jpg
【Dシカゴ大学で催されたワークショップの様子(著者はスクリーンのすぐ左で拝聴している)。】

 このシカゴは、『禅と日本文化Zen and Japanese Culture』(英文初版1938年)などで国際的に禅文化を伝えた鈴木大拙(1870〜1966)が長く苦しい研究生活を営んだゆかりの地でもあります。大拙をはじめとして、20世紀は禅からZenへ「語り」が広く展開する時代でもありました。その意味でも、このワークショップは非常に印象深い催しとなりました。
 中世から近現代にかけてさまざまに展開した「禅文化」という「語り」を探究すると、それが如何に重層的な構造を有してきたのかを考えさせられます。日本の禅が歴史の中でインドや中国から多くの影響を受け、日本において「禅文化」という特徴ある変容を遂げ、更には世界各国にZen culture(s)として広く展開していった過程が明らかになればなるほど、禅が現代の我々にみせてくれる「イメージ」が如何に多様で豊かであるかを深く知り得るのではないか――そう考えています。そしてそれは、現代の日本人がどのように自己を認識するかという、きわめて本質的で不可避の問いを多角的に照らし直すものになるのではないでしょうか。

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【E一休研究の最新の成果は、芳澤勝弘編『別冊太陽 一休―虚と実に生きる』(平凡社、二〇一五年)を御参照頂ければと思います。拙論「一休はどう読まれてきたか」などが収録されています。】

<以上>

 一休さんは絵本などでも取り上げられるので、「桃太郎」や「金太郎」のような存在とみられることも多いように思います。一休はもちろん実在の人物で、禅の文化の普及に強い影響を与えたそうです。また、現代でもアニメがアジア諸国で放送されることで、禅の文化を広め続けているということに驚きました。今後も世界中でご活躍されますよう、陰ながら応援させていただきます。

 日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 08:33 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
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