先輩研究者のご紹介(成山 奏子さん)
[2019年10月28日(Mon)]
こんにちは。科学振興チームの豊田です。
本日は、2018年度に「カタユウレイボヤの受精における自己非自己認識タンパク質の相互作用解析」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、名古屋大学大学院理学部理学研究科生命理学専攻所属(助成時)の、成山 奏子さんから助成時の研究について、コメントを頂きました。
<成山さんより>
みなさんはホヤという生き物をご存知でしょうか?(図1) クラゲでも貝でもなく、魚やヒトといった脊椎動物と近縁な生き物です。当研究室では、「ホヤの自己非自己認識」について研究しています。なかでも、私はモデル生物として確立されているカタユウレイボヤを研究対象としていました。カタユウレイボヤは雌雄同体の海産動物で、精子と卵をほぼ同時に海中に放出しますが、自家受精は起こりません。つまり、カタユウレイボヤの配偶子は自己と非自己を識別することができるのです。しかし、カタユウレイボヤは我々と違って、獲得免疫系を持っていません。では、どのようにして自己と非自己の細胞を識別しているのでしょうか。こうしたホヤの自家不和合性については1910年に(ハエの染色体地図でノーベル賞を受賞したことで有名な)トーマス・ハント・モーガン氏が報告して以来、動物学100年の大きな謎とされていました。
私たちの研究室では、この自家不和合性のメカニズムを明らかにするべく、遺伝学や分子生物学的手法でさまざまな解析を行い、2008年にs-Themisとv-Themisという候補遺伝子を同定しました。私たちは精子側のs-Themis分子と卵側のv-Themis分子が対になり結合することで、自己か非自己かの認識が行われると考えています。(図2) しかし、生体由来のs-Themis、v-Themisタンパク質は量が少なく精製も困難であったため、タンパク質同士の相互作用の検証はできていませんでした。
そこで「タンパク質がなければ、作ればいいじゃない!」と考え、今回の笹川研究助成をいただき、s-Themisとv-Themisタンパク質の培養細胞による発現と相互作用解析を試みました。
様々な検討を重ね、真核細胞であり高度な翻訳後修飾と大量発現が可能な昆虫細胞を用いた実験を行いました。その結果、v-Themis-B、s-Themis-Bそれぞれの組み換えタンパク質の発現に世界で初めて成功しました。そして、生化学的な実験によりv-Themis-B組み換えタンパク質と s-Themis-B組み換えタンパク質の共存下でのみ、なんらかの二量体が形成されることを明らかにしました。よって間接的ではありますがv-Themis-Bとs-Themis-Bの相互作用を示唆することができました。現在は両者の直接的、定量的な相互作用の解析を進め、「ホヤの自家不和合性」という動物学100年の謎の全貌解明を目指しています。
笹川科学研究助成は今年で32年目となりますが、それよりもずっと昔から謎とされている「ホヤの自己非自己認識」という動物学100年の謎に挑戦され、組み換えタンパク質の発現に世界で初めて成功したそうです。わずかな助成ではありますが、そのお手伝いが出来たと思いますと、私たちとしても嬉しく思います。全貌解明には何年かかるか分かりませんが、諦めずに頑張っていただきたいと思います。
日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本日は、2018年度に「カタユウレイボヤの受精における自己非自己認識タンパク質の相互作用解析」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、名古屋大学大学院理学部理学研究科生命理学専攻所属(助成時)の、成山 奏子さんから助成時の研究について、コメントを頂きました。
<成山さんより>
みなさんはホヤという生き物をご存知でしょうか?(図1) クラゲでも貝でもなく、魚やヒトといった脊椎動物と近縁な生き物です。当研究室では、「ホヤの自己非自己認識」について研究しています。なかでも、私はモデル生物として確立されているカタユウレイボヤを研究対象としていました。カタユウレイボヤは雌雄同体の海産動物で、精子と卵をほぼ同時に海中に放出しますが、自家受精は起こりません。つまり、カタユウレイボヤの配偶子は自己と非自己を識別することができるのです。しかし、カタユウレイボヤは我々と違って、獲得免疫系を持っていません。では、どのようにして自己と非自己の細胞を識別しているのでしょうか。こうしたホヤの自家不和合性については1910年に(ハエの染色体地図でノーベル賞を受賞したことで有名な)トーマス・ハント・モーガン氏が報告して以来、動物学100年の大きな謎とされていました。
私たちの研究室では、この自家不和合性のメカニズムを明らかにするべく、遺伝学や分子生物学的手法でさまざまな解析を行い、2008年にs-Themisとv-Themisという候補遺伝子を同定しました。私たちは精子側のs-Themis分子と卵側のv-Themis分子が対になり結合することで、自己か非自己かの認識が行われると考えています。(図2) しかし、生体由来のs-Themis、v-Themisタンパク質は量が少なく精製も困難であったため、タンパク質同士の相互作用の検証はできていませんでした。
そこで「タンパク質がなければ、作ればいいじゃない!」と考え、今回の笹川研究助成をいただき、s-Themisとv-Themisタンパク質の培養細胞による発現と相互作用解析を試みました。
様々な検討を重ね、真核細胞であり高度な翻訳後修飾と大量発現が可能な昆虫細胞を用いた実験を行いました。その結果、v-Themis-B、s-Themis-Bそれぞれの組み換えタンパク質の発現に世界で初めて成功しました。そして、生化学的な実験によりv-Themis-B組み換えタンパク質と s-Themis-B組み換えタンパク質の共存下でのみ、なんらかの二量体が形成されることを明らかにしました。よって間接的ではありますがv-Themis-Bとs-Themis-Bの相互作用を示唆することができました。現在は両者の直接的、定量的な相互作用の解析を進め、「ホヤの自家不和合性」という動物学100年の謎の全貌解明を目指しています。
<以上>
笹川科学研究助成は今年で32年目となりますが、それよりもずっと昔から謎とされている「ホヤの自己非自己認識」という動物学100年の謎に挑戦され、組み換えタンパク質の発現に世界で初めて成功したそうです。わずかな助成ではありますが、そのお手伝いが出来たと思いますと、私たちとしても嬉しく思います。全貌解明には何年かかるか分かりませんが、諦めずに頑張っていただきたいと思います。
日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。