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先輩研究者のご紹介(早川 千尋さん) [2019年09月30日(Mon)]
 こんにちは。科学振興チームの豊田です。本日は、2018年度に「女性主導の森林管理とREDD+への応用〜ネパールコミュニティフォレストを事例に〜」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、名古屋大学大学院生命農学研究科森林・環境資源科学専攻所属の、早川 千尋さんから研究分野・助成時の研究について、コメントを頂きました。

<早川さんより>
 私は現在、森林社会共生学研究室というところに在籍しています。大学以外のところで話すと「何それ・・・?」という反応が返ってきます。今回は「森林社会学」と呼ばれる私の専門分野と研究を通して学んだことなどについて書いてみたいと思います。

 森林社会学、あまり聞きなれない言葉だと思います。私たち先進国は科学技術を大きく進歩させ豊かな生活を手に入れています。しかし、その背景には森林破壊や地球温暖化など多くの犠牲を伴っています。そうして招いた森林減少の結果、困るのは途上国に住む森林と隣り合わせで生きている地域住民です。森林社会学の分野では現地でのフィールドワークに重点を置き、地域住民たちや行政、ときにはNGOからも話を聞きながら様々な観点から現場を見つめ、地域社会に何が起きているのか何が求められているのか研究を行います。机上だけの議論にとどまらず、「現場に赴く」という行為が研究を何倍も味わいのあるものにしています。

写真1(早川).jpg
写真1:聞き取り調査の様子

 それでは森林社会学の醍醐味と言えるフィールドワークについて私の調査対象地であるネパールでの経験も交えながら自分なりに記してみたいと思います。私は学部4年生の頃より現在に至るまでネパールの農村でホームステイをしながら研究を行ってきました。まさに現場の最前線。ボロボロの服を着ている子供、昼間からお酒を飲んでいる世帯主、頻繁に停電する家屋・・・そこには論文や書籍、写真では感じることのできない生々しいリアリティがあります。当然、学ぶことも多くあります。

写真2(早川).jpg
写真2:筆者が森から家畜のエサを運んでくるところ(かなり重たいです)

 私は研究の過程で農村に住む人々への聞き取りを主な調査としていましたが、これが大変難儀なものであることに早々に気が付かされました。日本であらかじめ考えていった質問項目を聞いて答えをもらえばおしまいだと思っていたのですが、村人が質問の内容を理解してくれません。それどころか、雇っていた通訳も私の質問を理解していないようでした。なんとか自分の意図を伝えても、的外れな回答が返ってきます。後から考えてみればこれは当然のことで、私がした質問には専門用語が含まれており村人が理解できるはずもないのです。私はそのとき何を聞くかにばかり気を取られて、質問される側のことを何も考えていませんでした。でもいったいどうすればうまく聞き出せるのか。極限まで質問をかみ砕くしかない。しかしそうしているうちに自分が何を聞きたかったのか分からなくなる。このジレンマの中でもがき苦しんでようやく本質が見えてくる気がします。まだまだ駆け出しの私ですが、質問の仕方、これはフィールドワークにおいてかなり重要なことと認識しています。
 また、国の文化・慣習にも気をつけねばなりません。普段日本で生活していると電車も人もだいたい時間通りに来てくれます。そうした日本での生活に慣れていた私は、ネパールで日本とのギャップに苦しむことになりました。迎えはいつまでたっても来ないし、通訳は約束していた日に手伝ってくれないし、今日やるはずだったことが明日、明後日に先延ばしされていく・・・予定していたことが何も終わらない。明日は何ができるのだろう。日本にはいつ帰れるのだろう。停電して明かりのともらない部屋の中で、不安と焦りに押しつぶされながら何度も泣きました。
 当たり前だと思っていたことは、場所や状況が変われば簡単に崩れ去っていきます。どんな場面でも慢心せず、あの手この手でやり方を変容させていかなければ自分の欲しい結果は得られない。そんな教訓をフィールドワークから学びました。そして、こうした試行錯誤の連続であるフィールドワークから得た調査データはなによりも貴重です。自分の体を使って得た情報というのは、苦労した思いがそのまま乗っかっている分、ネットや本から得た情報とは重みが全然違います。決して一筋縄ではいかないという部分がフィールドワークを味わい深いものにしているのでしょう。これからもこの味をかみしめつつ、まだまだ未知なるフィールドワークなるものについて知りたいと思っています。

 このような人生における貴重な経験ができたのは笹川科学研究助成によりご支援していただいたからです。助成していただいていた期間の研究生活は私のこれからの将来の選択肢をぐっと押し広げてくれました。申請書作成時に助力してくださった同研究室の先生方、先輩、友人、そして日本科学協会の皆様には心より感謝しています。
<以上>


 一瞬、当会の助成のせいで酷い目に合ってきたのかと思いましたが、貴重な体験ができたとのことで、よかったと思います。大変ですが、現場に赴かないと分からないことがたくさんあるのだと思います。この経験を活かして、様々な場所でのフィールドワークを行い、これからも頑張っていただきたいと思います。

 日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 09:05 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
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