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先輩研究者のご紹介(柴田 明裕さん) [2019年09月24日(Tue)]
 こんにちは。科学振興チームの豊田です。
 本日は、2018年度に「新規光活性化型CaMKIIを用いた、長期増強を誘起するシグナル伝達機構の解明」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、自然科学研究機構 生理学研究所所属の、柴田 明裕さんから最近の研究について、コメントを頂きました。

<柴田さんより>
私たちの研究室では、記憶の仕組みについて研究しています。私たちが日頃から当たり前のように行っている記憶という行為は、脳内の神経細胞の働きによって行われていると考えられています。この脳内では、多くの神経細胞が神経ネットワークを形成しており、各神経細胞は、シナプス(神経細胞同士の結合領域)を介して情報伝達を行っています。このシナプスは、外部から強い刺激(勉強学習やスポーツなどの反復練習、恐怖体験、成功体験など)により情報伝達量が長期的に増加することが分かっています。この現象は、長期増強と呼ばれており、神経ネットワークの情報伝達の基礎となるため、記憶の根幹を成していると考えられています。

笹川ブログfig1.jpg
図1、記憶と脳の関係

特に私たちの研究室では、脳への記憶方法が、長期増強のOn・Offを信号伝達の有無に変換するデジタル方式(ハードディスクのように0と1のような仕組み)なのか、長期増強の強弱をそのまま信号として利用するアナログ方式(磁気を用いたビデオテープの仕組む)なのかを研究しています。

笹川ブログfig2.jpg
図2、デジタル式とアナログ式

しかし、現在では神経細胞全体を活性化させる方法はありますが、特定のシナプス群を活性化させる方法がありません。そのため、脳への記録方法が、デジタル方式なのかアナログ方式なのか、全く分かっていません。そこで、私たちは、特定のシナプスに長期増強を誘起することが可能な新しいツールの開発を行いました。

 それには、記憶の形成と、長期増強の誘起に必須のシグナル分子、カルシウムカルモジュリン依存性タンパク質キナーゼ(CaMKII、カムケーツー)に着目し、光を用いて制御することができる新しい光遺伝学的ツール、光活性化型CaMKIIの開発に成功しました。

 そして、ラットの海馬領域の(記憶に重要な領域)神経細胞に光活性化型CaMKIIを遺伝子導入し、特定のシナプスに光刺激を行いました。その結果、シナプスの長期増強を誘起するために必要なシナプスの体積増加、 受容体(AMPA受容体)の集積、シナプス間の電気信号量(興奮性シナプス後電位)の増加を誘起することに成功しました。これらの結果から、特定のシナプスに長期増強を誘起可能な、新たなツールの開発に成功しました。

笹川ブログfig3.jpg
図3、光活性型CaMKII

 また、これまで、シナプスの長期増強に必要なシグナル伝達機構は、ほとんど分かっていませんでした。なぜなら、一般的には、シナプスに長期増強を誘起すためには、100種類以上のタンパク質、200種類以上の遺伝子発現の増減が関与しているとされています。そのため、非常に多くのタンパク質によるシグナル経路があり、軸となるシグナル経路の同定は非常に困難でした。

 しかし、今回の研究結果により、必要なシグナルCaMKIIを用いてシナプスに長期増強を誘起させるため、長期増強にはCaMKIIから始まる細胞内シグナル伝達経路が必要であることが分かってきました。今後は、プロテオミクスやゲノミクスを用いて、必要なタンパク質や遺伝子を網羅的に同定していく予定です。そして、ラットやマウスを用いた行動実験により、特定のシナプス集団に長期増強を強制的に誘起させ、全てOn(ハードディスク上の1の状態)にすることで、記憶が消去されるのか(デジタル方式の場合)、それともさらに強力に記憶されるのか(アナログ方式)を明らかにしてく予定です。

笹川ブログfig4.jpg
図4、今後の予定

<以上>

 遺伝子組導入と光刺激によって、記憶の仕組みについて研究をされているとのことでした。勉強しなくても賢くなれたらいいなぁと思いますが、遺伝子組み換えではない私には、この方法は使えなさそうなので諦めることにします。まだまだ分からないことの多い記憶について解明が進むよう、これからも頑張っていただきたいと思います。

 日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 10:40 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
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