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先輩研究者のご紹介 宮ア 星さん
こんにちは。科学振興チームです。
本日は、2022年度「パンデミック禍における保健所保健師の苦悩と支援策の探究−個人・組織のレジリエンスを高めるために−」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、筑波大学大学院(助成時)の宮ア 星さんからのお話をお届けします。 <宮アさんより> 私は、2022年度、修士課程の時に笹川科学研究助成にてご支援いただき、パンデミック禍の保健所保健師を対象とした研究を実施しました。パンデミック禍の保健所保健師たちがどのような困難を経験したのか、また過酷な中でも責務を全うし続けている理由をインタビューで聞き取り、質的に分析した後に、それを基に作成したアンケート調査票を用いて全国の保健所保健師たちの経験や個人の逆境を乗り越える力(レジリエンス)及び組織の逆境を乗り越える力(組織レジリエンス)がバーンアウトとどのように関連するのかを量的に分析しました。 インタビュー調査では、パンデミック初期には、多くの保健師たちが、不確かな状況に不安や怒りを抱えた住民への対応や、医療機関からの協力が得られない状況を経験し、また、陽性者が増加してからは、病院のように満床という概念がない中で終わりが見えない状況を経験していたことなどが分かりました。 いくつかのこれらの保健師たちの経験は、将来のパンデミックにおいても、繰り返される可能性があります。しかし、そのような状況下でも、組織レジリエンスが強ければ、地域保健の要である保健師たちが、個人のレジリエンスの高低によらず、バーンアウトに陥らず役割を全うし続けることができる可能性が、アンケート調査研究により明らかになりました。 (※本研究における「組織レジリエンス」の因子には、迅速な決断や明確な指示ができるリーダーやその補佐的な役割を担う保健師の存在、個人的な感情を気軽に吐露できる環境等が含まれます。) 笹川科学研究助成制度は、私のような研究実績のない若手研究者にも機会を与えてくださりました。そのお陰で、当事者としても、社会的にも重大で、喫緊の課題を全国調査により探究し、更にその結果を国際誌への投稿により世界へ発信することができました。 https://doi.org/10.3934/publichealth.2023018 https://doi.org/10.3390/healthcare11081114 公衆衛生の仕組みやパンデミックへの対応は、国によっても様々ですが、この研究結果が、今後の国内外でのパンデミック対策に少しでも貢献できるのであれば、大変嬉しく思います。 私は、現在は、茨城県庁で高齢化の進行に対応するための地域包括ケアシステムの推進に携わっています。今年、団塊の世代全員が75歳となる2025年を迎えましたが、今後ますます介護と医療の両方を必要とする高齢者が増加することを踏まえると、保健師等の地域の専門職による住民の力を効果的に引き出す効率的な保健活動の重要性が高まっていることを実感しております。そのような中、最前線の関係者の生の声を聞き、研究の経験を生かしてデータを様々な角度から解釈するなど、保健師と研究者の両方の視点を併せた実践を意識して、日々研鑽しています。次にまた研究に携わる際にも、「実際の現場に生きる研究、現場に還元できる研究」を実践していきたいと思います。 <以上> 日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。 ※テキスト、画像等の無断転載・無断使用、複製、改変等は禁止いたします。
先輩研究者のご紹介 山本 翔平さん
こんにちは。科学振興チームです。
本日は、2022年度「無料学習サイト大規模フィールド実験でのピア効果による学習時間と学習定着の促進」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、一橋大学特任講師の山本 翔平さんからのお話をお届けします。 <山本さんより> この記事を読んでくださっている皆様、山本翔平と申します。皆様は、友人や他の人と一緒に仕事や勉強をすることで、継続しやすくなった経験はありませんか? 本研究では、模擬的な英語学習スマートフォンアプリを用いて、オンライン学習における学習パートナーの影響を検証しました。具体的には、学習者の成績や忍耐力が、パートナーの学習態度(どのように提示させたかどうかは図1参照)によってどのように変化するのかを調べました。 右上には、学習パートナー(PTQOI84)の学習状況が表示されています。参加者は、提示された英単語の正しい日本語訳を、5つの選択肢の中から選びます。 結果と議論 しかし、予想に反し、忍耐力の高い学習パートナーは、参加者の成績や忍耐力への影響はみられませんでした。一方、忍耐力の低い学習パートナーと学ぶ場合、参加者の成績や忍耐力が低下してしまうことが明らかになりました (Yamamoto & Iwatani, 2024)。この結果から、教育や職場においてペアを組んで取り組む際には、ネガティブな影響が生じる可能性に注意を払う必要があることが示唆されました。 フィールド実験 2025年2月から、カナダのトロントでの実際の授業「Management and Human Resource」において約1,500人の学生を対象に、ピア効果が課題の達成率やテスト成績に与える影響を調査しています。この実験には、以下のような意義があります。 1. 学生のモチベーション向上: クラスメイトとの学習を通じて、学生のモチベーションが高まり、授業がより魅力的になる可能性があります。また、大学側も学生の学習意欲の向上に関心を持っています。 2. 外的妥当性の向上: 実験室ではなく、実際の授業でデータを収集するため、より一般化可能な研究成果が得られます。 3. 追加報酬が不要: 課題やテストが通常の学習活動の一環として行われるため、金銭的なインセンティブを設ける必要がありません。特に研究資金が限られる若手研究者にとって、大きな利点です。 さらに、このシステムはピア効果の研究にとどまらず、学習内容や介入方法を変更することで、他の教育研究にも応用可能です。 研究の発展と今後の展望 この研究は現在ワーキングペーパーとしてまとめられ、国際学会で発表しました。今後は論文誌への掲載を目指し、さらなる発展を図っていきます。 挑戦的な研究に取り組める機会は決して多くありません。しかし、笹川科学研究助成ではこうした革新的な研究を積極的に支援しているため、思い切って申請することを決めました。これから挑戦的な研究の申請を考えている方も、ぜひ前向きにチャレンジしてみることをお勧めします。 この研究を実施するにあたり、笹川科学研究助成の支援を受けられたことに、心より感謝申し上げます。研究を通じて得られた知見が、今後の教育や学習環境の改善につながることを願っています。 <以上> 日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。 ※テキスト、画像等の無断転載・無断使用、複製、改変等は禁止いたします。
先輩研究者のご紹介 山ア 綾子さん
こんにちは。科学振興チームです。
本日は、2022年度「新たなセラミド1-リン酸産生酵素の同定と生理機能解明」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、千葉大学大学院医学薬学府(助成時)の山ア 綾子さんからのお話をお届けします。 <山アさんより> 「セラミド」という単語を、化粧品のパッケージなどで目にしたことのある方もいるのではないでしょうか。セラミドはスフィンゴ脂質とよばれる脂質の一種です。皮膚では角質層を構成する成分として、お肌のうるおい(皮膚のバリア機能)に役立っていますが、実はそれだけでなく、体内では細胞増殖や細胞死、炎症応答など、非常に多様な生理機能を制御しています。 私は2022年度に笹川科学研究助成にてご支援いただき、この「セラミド」の代謝についての研究を行いました。セラミドは細胞内で、様々な酵素によって様々な形に代謝されます。セラミドにリン酸基を付加して「セラミド1-リン酸」を産生する酵素として、1989年に初めて「セラミドキナーゼ」が発見されました。しかしその後、セラミドキナーゼが存在しなくてもセラミド1-リン酸が産生されることが明らかになり、セラミドキナーゼ以外にも未知の産生経路が存在すると考えられてきました。そこで私は、新たな産生経路の探索を行い、「ジアシルグリセロールキナーゼζ」という酵素が、セラミドをリン酸化してセラミド1-リン酸を産生できることを明らかにしました。この研究成果は以下の論文として国際誌に掲載されています。 文献:A. Yamazaki, A. Kawashima, T. Honda, T. Kohama, C. Murakami, F. Sakane, T. Murayama, H. Nakamura. Identification and characterization of diacylglycerol kinase ζ as a novel enzyme producing ceramide-1-phosphate. BBA-Molecular and Cell Biology of Lipids, 1868, 159307, 2023. 実は当初、自分は大学院生のうちには研究助成を受けられないのではないか、と悲観していました。私は6年制薬学部を卒業後に、異なる大学の大学院4年制博士課程に入学しています。そのため実際の研究歴は浅く、申請書を作成した時点での肩書は博士課程3年目、しかしそのじつ、研究生活を学び始めた新人3年目の夏でした。当時、博士課程でありながらほぼ業績なし、研究テーマも少しマイナーな分野の基礎研究。もちろん私にとっては、非常に魅力的で価値の高い研究です。しかし何年もかけて積み重ね、社会貢献に直結するような他の研究課題との競争になると、どうしても不利になってしまいます。そんな本研究を、内容で評価してくださった日本科学協会の皆様には心から感謝しております。 助成をいただいたことは、金銭的な面ではもちろん、それ以外の多くの面でも大きな助けとなりました。自分の研究費があることで、本当にやりたい実験を妥協することなく進めることができましたし、研究費を一年間でやりくりする経験は、現在の研究生活でも役立っています。なにより採択されたことで、研究への自信と誇りにつながりました。 現在は大学院を修了して所属が変わり、国立障害者リハビリテーションセンター研究所で研究活動を進めています。大学院時代と比べると、研究所では自分の研究だけに向き合う時間が多くなりました。まだまだ研究者としては、つかまり立ちを始めたところですので、今後とも精進していきたいと思います。 申請時、本助成を研究者としての第一歩としたい、と書いたのですが、笹川科学研究助成にてご支援いただけたことが、本当に私の研究者としての第一歩となりました。 もし応募を検討しているようであれば、皆様もぜひ、チャレンジしてみませんか。 <以上> 日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。 ※テキスト、画像等の無断転載・無断使用、複製、改変等は禁止いたします。
先輩研究者のご紹介 坂井華海さん
こんにちは。科学振興チームです。
本日は、2022年度「民間による国際協力の可能性の検証」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、熊本大学大学院自然科学教育部工学専攻博士後期課程所属の、坂井華海さんからのお話をお届けします。 <坂井さんより> わたしは、現在熊本大学大学院自然科学教育部工学専攻の博士後期課程でパブリックヒストリーに関する研究に取り組んでいます。 2022年度に笹川科学研究助成から支援を受けた「民間による国際協力の可能性の検証」では、民間による国際協力の可能性について、元駐ラオス特命全権大使・坂井弘臣氏が発起人となって熊本ラオス友好協会が2000年に開始した「ラオス遠隔地高校生就学支援事業」(以下、就学支援事業)を通じて検証を試みました。 就学支援事業は、ラオス全国の中学卒業予定者のうち、各県2名を選抜、首都・ビエンチャンにあるビエンチャン高校へ進学させ、そこでの生活を支援する、というものです。調査の過程で、2000年から2022年までの間、運営の主体や方法は変化をしながらも、一貫して顔の見える支援にこだわって実施されてきたこと、これまでに500人を超えるラオスの子どもたちが高等教育を受ける機会を得てきたことが分かっています。2022年度は、支援者と被支援者に対しアンケート調査とインタビュー調査を実施しました。その結果、@支援事業は坂井氏以外にもこれまでマスメディア等では取り上げられることはなかった少なくないキーパーソンの存在と行動があって現在まで継続されてきたこと、A被支援者の間でしか知られていなかった支援事業の実態の一端を明らかにすることができました。 支援を受けた2022年度はコロナ禍が終息に向かっていく途中で、海外調査を実施するにあたっては抗体検査(陽性となった場合の追加の宿泊費や再検査費用)などの費用も必要でしたので、調査活動において必要になる経費が柔軟に支出可能である笹川科学研究助成を受けられたことは大変心強かったです。 本研究対象・フィールド自体は、“知る人ぞ知る”国際協力の現場やその歴史の一つであると思います。しかし、本助成を受けられたことにより学会発表等が可能となり、日本の民間、草の根による国際協力が現在抱えている課題(担い手の高齢化、後継者不足、支援のあり方など)について、多くの研究者や実務家の方たちと共有、議論する機会を得ることができました。研究を開始した当初は想像もしなかった研究の方向性や価値も見出すことができました。今後も“ふつうの人”の情熱や物語に注目をして調査活動を続けることにより、過去と現在と未来、地域と地域、そして人と人をつないでいきたいと考えています。 <以上> 日本科学協会では過去助成者の皆さんより、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。 ※テキスト、画像等の無断転載・無断使用、複製、改変等は禁止いたします。
先輩研究者のご紹介 池垣 幸宏さん
こんにちは。科学振興チームです。
本日は、2022年度「新規老化関連遺伝子EPN3の機能解析−老化関連疾患に向けた治療法の分子基盤の確立−」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、神戸大学理学研究科の池垣 幸宏さんからのお話をお届けします。 <池垣さんより> 2022年度の笹川科学研究助成でご支援いただいた神戸大学理学研究科の池垣幸宏と申します。その節はたいへんお世話になり、心よりお礼申し上げます。 当研究室では、老化細胞の分子メカニズムについて研究を行っております。その中で私が研究しているのは、老化細胞で発現が上昇する遺伝子EPN3の機能解析です。EPN3は膜小胞エクソソームを介して周辺の細胞にDNA損傷を誘導することが示されていますが、その具体的な分子メカニズムに関してはまだまだ分からない部分が多くあります。本研究ではその分子メカニズムを解明することを目的としています。 笹川科学研究助成をいただいた感想としましては、研究者の実務能力の向上に大きく寄与できるものだと感じました。当時は研究費に関する実務は指導教員の先生に頼りきりでしたが、笹川科学研究助成に支援いただいたことで、より能動的に研究費を管理していくことを学べました。これは研究者としての成長に大きく寄与したと考えています。お金自体はもちろん、そういった意味でも非常に得るものの多い支援だと感じております。 申請書の書き方については、とにかく多くの人の目に自分の申請書をさらすことが大事だと考えています。私自身、先輩や同僚の方に目を通していただいたことで、自分では気づかないところまで申請書をブラッシュアップできたと思います。興味のある方はぜひ挑戦することをおすすめいたします。 <以上> 日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。 ※テキスト、画像等の無断転載・無断使用、複製、改変等は禁止いたします。
サイエンスセミナー『生き物の運動方程式!? 流れを読み解く数学の世界』を開催しました!
2024年11月4日、オンラインセミナー『生き物の運動方程式!? 流れを読み解く数学の世界』を開催しました。 今回の講師は、京都大学数理解析研究所准教授の石本健太先生です。 セミナーは先生が研究されている“流体と生命現象”の話から始まりました。 運動方程式を用いると未来を予測することが出来るのですが、その仕組みを生き物に応用されたのが先生の研究です。つまり先生は現実の現象と方程式の橋渡しの役割を担われています。 先生のお話の中で特に驚いたのが、『レイノルズ数』という流体のさらさら度を示すものです。なんと体が大きければ大きいほどさらさらであると生き物は感じ、体が小さい微生物はネバネバと感じるらしいです。※下の図のRがレイノルズ数です。 また、生き物の運動の鍵を握っているのは“渦”なんです。 鳥が空を飛べる理由や飛行機がとべる理由には、渦が関連しています。 先生は今後も“生き物の知性を数学にできるのか?”ということに取り組まれていかれます。 つぎに『何故先生が研究者という職を選んだのか?どのように研究者になったのか?』という経緯を話していただきました。 かつて呆然と、となりのトトロのお父さん(考古学者)にみたいな人に将来なりたいなとイメージしていた先生。中学時代は、何か特別なことに興味があるというより色々な世界に触れたいという少年だったそう。 そんな先生は、大学院の修士課程が終わったら企業に就職しようと考えていたらしいのですが、大学4年生の時に、鴨川を見てぼーとしていた時に「自然現象に興味があると思い勉強をしてきたのに、世界を知らないな。流体を理解すれば世界が違って見えて豊かで幸せな人生になるのでは?」と考え始めます。また修士1年の時に、担当教授から「生物に興味はないか?」と言われたことをきっかけに、“生物 ![]() ![]() 最後に「研究は楽しいですか?」という質問に対し、先生は「研究者はクリエイティブな仕事で、クリエイティブな人生なので楽しい!」と答えられていました。いいアイディアが生まれたり、深遠で巧妙な数学世界の美しさに触れたりしたときなどに嬉しい気分になるとのこと。 セミナーに参加して下さったみなさん、石本先生、本当にありがとうございました。ぜひ先生の話を聞いて研究者という職業や、流体力学の勉強に興味を持たれた方はその道に進んでみて下さいね!
先輩研究者のご紹介 藤原 睦也さん
こんにちは。科学振興チームです。
本日は、2022年度「光遺伝学による液−液相分離制御を用いた局所翻訳調節とシナプスの形態・機能の解析」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、横浜市立大学大学院生命医科学研究科(助成時)の藤原 睦也さんからのお話をお届けします。 <藤原さんより> 2022年度に笹川科学研究助成を頂いておりました、藤原睦也です。まず、本課題のご支援を頂きましたことに深くお礼申し上げます。 私が行っていた課題は、外部環境変化に応じて急激にタンパク質の需要量が変わる神経細胞で、長い神経突起末端へのタンパク質の迅速な供給を可能にする輸送システムに関する研究です。神経細胞は、必要なタンパク質をmRNAの状態で輸送することで、細胞体から遠く離れた軸索や樹状突起などの神経突起の成長やシナプス形成におけるタンパク質の需要に対応しています。この輸送は必要なタンパク質の情報を担うmRNAと、それと相互作用できるタンパク質が「神経輸送顆粒」を形成することで能動的に行われると考えられています。本課題では、この神経輸送顆粒が形成・輸送されるメカニズムを「光遺伝学」という方法を用いて再現する研究をしていました。 助成いただいた感想と致しましては、率直にありがたかったと感じています。特にありがたかった点は、研究の萌芽性を評価して助成いただけた点です。私は神経輸送顆粒の形成メカニズムについて、「液-液相分離」という現象に着目していました。この現象は近年注目されてきたものであり、研究計画開始当初、神経細胞でこの現象を光遺伝学的に制御する、というのは前例のない事でした。そのため研究を行う中で新たな実験手法と未経験の機器の使用によって、多くの試行錯誤とコストを必要としていました。その中で本助成の支援を得られた事で、スムーズに研究を遂行する事が出来たと感じております。使い勝手に関しましても、特に不自由する事はありませんでした。 申請書の作成について、特に修士課程で、萌芽性のある研究を自分で舵取りをして進めていきたいという方にはぜひ、応募をお勧めいたします。また、申請書を書くというのはかなり労力を要する作業ではありますが、私は申請書を書く中で自分の研究をブラッシュアップし、具体性や新規性のある実験計画を立てる事が出来たと感じています。ぜひ、挑戦してみてください。 <以上> 日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。 ※テキスト、画像等の無断転載・無断使用、複製、改変等は禁止いたします。
先輩研究者のご紹介 古谷 悠真さん
こんにちは。科学振興チームです。
本日は、2022年度「近代日本における海員養成 −日本海員掖済会による普通海員養成の実態および歴史的役割−」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、東京海洋大学大学院の古谷 悠真さんからのお話をお届けします。 <古谷さんより> こんにちは。東京海洋大学大学院博士後期課程で、海洋に関する経済史の研究をしている古谷です。 私は2022年度の笹川科学研究助成にて、明治中期から昭和戦前期にかけてのわが国における船員養成史を課題とした研究に取り組みました。 船員という職業に馴染みがない方もおられるかと思いますが、わが国の貿易や流通は海運に多くを頼っており、船員は船を確実・安全に運航することでそれを支える役割を担っています。明治以降の海運業の近代化と外航海運の伸長の中で、どのように船員が育てられていたのか興味深く感じ、この研究を始めました。 船員は、船長や航海士(運転士)、機関士といった「船舶職員」と、甲板長(水夫長)、操機長(火夫長)以下の「普通船員」に分かれます(図)。法律上、普通船員となるのには特別な資格は必要としませんが、船舶職員になるにはライセンス(海技免状)が必要となるのが大きな違いです。 明治期以来、政府や一部の地方庁が海運の振興のため船員養成を行ってきましたが、その対象は基本的に船舶職員であり、普通船員は行政による養成の対象外とされていました。 では、普通船員養成は業界的に必要とされていなかったのかというと、そういうわけではなかったようです。船員は技術職であり、海上という特殊な労働環境に置かれます。全く経験のない人よりも、ある程度基礎を持ち、船上生活に慣れた人が業界からは求められていました。 そのような業界のニーズを汲みとり、普通船員養成を行っていたのが「日本海員掖済会」(以下、掖済会)でした。この会は船員に関するさまざまな業務を行ってきましたが、主要業務として船員養成があり、1888年から1944年までのおよそ57年間にわたって普通船員養成を実施していました。 笹川科学研究助成をいただいた際は、この掖済会による船員養成の内容と、業界からのニーズに特に注目して分析を行いました。普通船員養成についての先行研究はあまり多くありません。史料もまとまって残されているわけではなく、各地の文書館や図書館に出張して史料を閲覧することが重要な作業になりました。助成をいただいたおかげで、船員養成に関する史料が保管されている土地に何度か出向き、これまでの研究で分析されてこなかった多くの史料に触れることができたのは非常に大きな喜びでした。 私が笹川科学研究助成をいただいたのは修士2年のときでしたが、修士課程の学生が受けられる研究助成は限られており、研究を行う上で大きな助けとなりました。対象となるテーマも広く、本助成は大変貴重なプログラムだと思います。 また、申請書を書く過程や、助成を受け研究をするということそのものにも、得るものが多くあったように感じています。 最後に、研究をご支援いただきました日本科学協会と、同会の皆様にこの場を借りて心より感謝申し上げます。 <以上> 日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。 ※テキスト、画像等の無断転載・無断使用、複製、改変等は禁止いたします。
先輩研究者のご紹介 上村 知春さん
こんにちは。科学振興チームです。
本日は、2022年度「エチオピア正教徒の食実践をめぐるローカルな健やかさの民族誌的研究」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、立命館大学・日本学術振興会特別研究員CPDの上村知春さんからのお話をお届けします。 <上村さんより> はじめに、研究活動をご支援くださった貴財団に、心より感謝申し上げます。 わたしは、エチオピアのキリスト教コミュニティにて人びとの宗教生活を民族誌的に調査することを通じて、食と人間の関係を探究しています。 エチオピアでは、人口の4割以上がエチオピア正統テワヒド教会(一般には「エチオピア正教会」として知られています)というキリスト教会に属しています。わたしがフィールドワークをしてきたコミュニティの人びとは、この教会の信徒です。 サブサハラ・アフリカの国としては珍しく、エチオピアは、古代からキリスト教会と密接な結びつきをもってきました。はやくも4世紀に北部の王がキリスト教に改宗するという出来事があり、それがその後のエチオピアのなりたちに大きな影響を与えたのですが、キリスト教会自体もまた、地域社会の風土のなかで独自に発展してきました。エチオピア正教会は、その長い歴史的なプロセスを経て現代のエチオピアに息づくキリスト教会です。 エチオピア正教会と食といってまずとりあげなければならないのは「断食」でしょう。というのも、この教会では、一般信徒が1年のうちの180日前後を断食して過ごすのです。個々の断食の時期と期間にはばらつきがありますが、代表的なものにはたとえば、毎週水曜日と金曜日の断食や、長く厳しいイースター前の55日間断食などがあります。その内容は、原則として断食日前日の午後10時から当日の午後3時まで一切の飲食を慎むことと、断食日には動物性の食品を摂取しないことです。時間の規則は比較的緩やかにとらえられており、人によってあるいは状況によっては、昼頃に最初の食事をとることもありますが、飲食物の内容に関する規則は大半の信徒がしっかり守ります。 わたしはこれまで、こうした食の規範にしたがって生活を営む人たちの間でフィールドワークをおこなってきました。そのなかで、食べることと食べないことがいかに人びとの宗教心、人間関係や社会関係に影響を与えるのかを明らかにしてきました。とくに、宗教上重要な意味をもつ儀礼だけでなく、平凡な日々の活動−−農作業や毎日の食事づくりなど−−も儀礼と同様の重きをおいて調査するアプローチをとることによって、信仰心をもつ人びとが、日常のなかでいかに食と関わりながら現代を生きていくのかを考察しています。 わたしは、修士課程の調査でエチオピアに通い始めた2010年から、キリスト教徒と食の関係に関心を抱きつづけてきました。修士の学生の頃は別の分野で研究に携わっていたのですが、フィールドワーク中に周囲の信徒たちが頻繁にそして熱心に断食する姿を目のあたりにし、この人びとの宗教生活には食が深く関わっていること、それが生きる上での最重要事項であることに気づいていきました。 ですが、この関心を自らの研究の主題に据えることができるようになるまでには、かなりの時間を要しました。笹川科学研究助成は、キリスト教徒と食の関係を題目に掲げて採用されたはじめての競争的資金です。本研究助成に採択していただいたことで、自らの研究方針に自信をもつことができるようになりました。今年の夏からは、これまでの成果を土台にして研究をさらに深めるため、ボストン大学の客員研究員として、あらたな環境で研究活動を開始しています。 わたしは、本助成の申請書作成作業を通じて、博士後期課程修了後の研究の道筋をたてることができました。読む人の立場にたって申請書を書くことは、研究計画を練り直すことにつながると思います。申請を検討していらっしゃる方は、ぜひ挑戦してください。 研究活動を継続するうえで重要な助成を賜りましたことに、重ねて御礼申し上げます。まことに、ありがとうございました。 <以上> 日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。 ※テキスト、画像等の無断転載・無断使用、複製、改変等は禁止いたします。
先輩研究者のご紹介 小嶋 翔さん
こんにちは。科学振興チームです。
本日は、2022年度「民間による地域アーカイブズの経営と活用」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、吉野作造記念館の小嶋 翔さんからのお話をお届けします。 <小嶋さんより> 私は宮城県にある吉野作造記念館(写真1)という歴史資料館の研究員です。研究者としての専門は日本近代思想史で、明治時代のキリスト教や大正デモクラシー運動について研究しています。ですが、私が助成を頂いたのは実践研究(教員・NPO職員等が行う問題解決型研究)の部門でした。 私の勤務先は、大正デモクラシーや吉野作造に関する歴史資料の他、郷土資料も幅広く所蔵し、地域の歴史伝承を担っています(写真2)。また、そこで行われる事業は地域の先人顕彰活動の一部であり、施設運営に関する文書も長い目で見れば歴史資料になります。こうした歴史資料や文書は公的なもの、つまり市民の財産ですから、自治体が設置した歴史資料館や文書館(公文書館)などの施設で保存・管理するのが普通です。 しかし、その施設が民営化されたらどうでしょうか。吉野作造記念館の設置者は自治体ですが、運営者は自治体から独立したNPO法人で、スタッフも公務員ではありません。そこで収集した歴史資料、あるいは作成した施設運営に関する文書は、どうすれば公的なものとして、適切に扱えるでしょうか。 歴史資料や文書の保存・管理・活用までのプロセスを体系的に行うための学問分野をアーカイブズ学といいます。しかし、この分野ではこれまで、民営化の問題は正面切って議論されなかったように思います。文書館運営には知る権利の保障や個人情報保護といった公的な責任が伴うので、そもそも民営化には適さないと考えられた面がありました。しかし、実際の問題は常に現場で起きるもの。そこで私は、民営化された文書館の先進事例を調査し、公立民営アーカイブズ施設に必要な制度設計について考察しました。 アーカイブズ学に関して、私は必ずしも体系だった専門知を修めていませんでした。そのため、問題解決型のテーマ設定が可能な実践研究部門の助成は非常にありがたいものでした。研究で得られた知見は実際の資料管理に活かせていますし、成果をまとめた論文が専門誌に掲載される機会も得ました。民間研究助成の良さは、チャレンジングな問題関心を率直に表現しやすい点にありますが、笹川科学研究助成の実践研究部門は私のニーズにとって最適でした。今後も実践性とチャレンジ精神に富んだ成果が、ここから生まれてくることを期待したいです。 <以上> 日本科学協会では過去助成者の皆様より、研究成果や近況についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。 ※テキスト、画像等の無断転載・無断使用、複製、改変等は禁止いたします。
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