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2021年度笹川科学研究助成の募集について [2020年09月01日(Tue)]
2021年度笹川科学研究助成の募集要項を公開いたしました。
本年度も、よろしくお願いいたします。

◆申請について
詳細については、下記の本会Webサイトをご確認ください。
・本会Webサイト
https://www.jss.or.jp/ikusei/sasakawa/

■申請期間
・申請期間 :2020年 9月15日 から 2020年10月15日 23:59 まで

■募集部門
【学術研究部門】
 ・35歳以下の若手研究者
   大学院生(修士課程・博士課程)
   所属機関等で非常勤または任期付き雇用研究者として研究活動に従事する方
 ・1件あたりの助成額の上限は100万円
 ・「海に関係する研究」は重点テーマとし、雇用形態は問わない

【実践研究部門】
 ・博物館、NPOなどに所属している者
 ・1件あたりの助成額の上限は50万円

■申請方法
 Webからの申請です。

◆ご周知について
下記の本会Webサイトへのリンクや、ポスターを印刷し、ご周知頂けますと幸いです。
・本会Webサイト
 https://www.jss.or.jp/ikusei/sasakawa/ 
・募集告知ポスター
 https://www.jss.or.jp/ikusei/sasakawa/data/poster.pdf
Poster2021.jpg


皆様のご申請、お待ちしております。

<問い合わせ先>
公益財団法人日本科学協会 笹川科学研究助成係
TEL 03-6229-5365 FAX 03-6229-5369
https://www.jss.or.jp
E-mail:josei@jss.or.jp
Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 09:28 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
先輩研究者のご紹介(金崎 由布子さん) [2020年08月31日(Mon)]
 こんにちは。科学振興チームの豊田です。
 本日は、2019年度に「アンデス文明形成期後期から末期の地域動態:ペルーワヌコ盆地ビチャイコト遺跡の考古学調査を中心として」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、東京大学人文社会系研究科考古学専門分野所属の、金崎 由布子さんから助成時の研究について、コメントを頂きました。

<金崎さんより>
 私はアンデスの考古学を専門に研究をしています。私の調査地は、南米ペルー・アンデス山脈の東側、ワヌコ盆地という場所にあります。笹川科学研究助成を受け、2019年の8月から11月にかけて現地で発掘調査を行ってきました。

 ワヌコ盆地では、文明形成期とよばれる紀元前の時代の神殿遺跡が多く見つかっています。私たちが今回発掘したビチャイコト遺跡もそのような時代の遺跡の一つです。ワヌコ盆地は標高2000mほどの山間盆地ですが、アマゾン低地や、標高4000mを超える高原地帯と距離が近く、文化の要衝地であったと言われています。私は、このような特殊な環境の中で、神殿を中心とした生活がどのように営まれたのかを知るために、これまで調査が行われていなかった、ビチャイコト遺跡の発掘調査をすることにしました。

図1.jpg
図1 朝6時のビチャイコト遺跡

 発掘調査では、予想を上回る色々な成果が得られました。形成期には、熱帯地域と関係の深い土器を伴う神殿が見つかりました。また、これまで地域で発見されていなかった新たな時代の文化も見つかりました。この時代は、形成期よりもう少し新しい時代のもので、地元の土器とともに、珍しい遺物が出土しました。何百キロも離れたペルー北部の山地とよく似た土器や、さらに遠いエクアドルの海でしかとれないウミギクガイが、この場所まで運ばれてきていたのです。

図2.jpg
図2 出土したウミギクガイ

 この調査の成果は、地元の人たちにもとても喜ばれました。遺跡のある丘のふもとの村では、学校の先生が子供たちをつれて見学に訪れ、調査後におこなった現地説明会では村中の人たちが話を聞きにきてくれました。地元の新聞やラジオでも、調査の様子が報道され、私たちも参加した地区の会議では、地域をあげて遺跡を保存・活用していくことが決まりました。

 考古学は、文字のない時代・地域の過去の姿を知ることができる唯一の研究分野です。とてもやりがいのある研究分野ですが、フィールドワークを中心としているため、現地調査の費用の捻出は、いつも頭が痛い問題です。今回、笹川科学研究助成を受けて、とても貴重な機会を得ることができました。これから助成の応募を考えている方には、ぜひチャレンジしてみて欲しいと思います。

図3.jpg
図3 発掘チーム

<以上>

 考古学では、文字の無い時代にまで戻り、地域の過去の姿を知り、どのように人々が生活を行っていたか、ということまでも調べられるということに驚きました。また調査の成果が、地元の人たちにもとても喜ばれたことは、過去から現在まで、その地域の歴史が繋がっていくからではないかと思いました。新型コロナウイルスの影響等により、フィールドワークを行うことが難しい状況となっておりますが、今後も良い成果がでますよう、陰ながら応援させていただきたいと思います。

 日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 13:04 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
第9回サイエンスメンタープログラム研究発表会 [2020年08月21日(Fri)]

2020年8月16日に第9回サイエンスメンタープログラム研究発表会をオンラインで開催しました。
 午前中は、東邦大学の村本哲也先生を講師として研究倫理についてご教示頂きました。
 午後の研究発表会は、2グループに分かれて発表を行いました。

 発表課題は、次のとおりです。

グループ A
1「メタンハイドレートの分析及び、環境に配慮した上で私たちの生活に本当に活用できるのか」
 洗足学園高等学校 平野 りん(メンター:法政大学 藤田 貢崇)

2「リップルマークの研究」
 海城高等学校 遠田 剛志(共同研究者:三井 隆太郎、メンター:茨城大学 山口 直文)

3「操作性と応用性に優れたポータブル赤道儀の開発」
 海城高等学校 池田 準(メンター:千葉大学 椎名 達雄)

4「柱状節理の断面の形と溶岩の粘性の関係」
 海城高等学校 高倉 幹太(メンター:山梨大学 秋葉 祐里)

5「回折格子を用いた流星の分光観測」
 宮城県古川黎明高等学校 三野 正太郎(メンター:高知工科大学 山本 真行)

グループ B
1「植物廃材を利用したバイオエネルギー」
 茨城県立並木中等教育学校 清水 亮祐(メンター:和洋女子大学 鬘谷 要)

2「Mg2+と Ca2+による刺胞射出の抑制 ポリプにおける刺胞射出抑制効果の検証」
 愛媛県立長浜高等学校 河原 羽夢(メンター:愛媛大学 高田 裕美)

3「フジノハナガイの行動と生活史の解明」
 皇學館高等学校 中野 優子(メンター:三重大学 木村 妙子)

4「錠剤を飲み込みやすくする方法〜粘性を調整する〜」
 洗足学園高等学校 川村 佳未(メンター:東京農工大学 斎藤 拓)

5「シマミミズ Eisenia fetida を用いたヘドロ堆肥化の可能性」
 清風高等学校 野田 晃司(メンター:農研機構 金田 哲)

Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 10:08 | サイエンスメンタープログラム | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
先輩研究者のご紹介(戸矢 樹さん) [2020年08月17日(Mon)]
 こんにちは。科学振興チームの豊田です。
 本日は、2019年度に「魚類の学習と記憶に及ぼす反復訓練、睡眠およびストレスの影響」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、京都大学大学院農学部応用生物科学専攻所属の、戸矢 樹さんから助成時の研究について、コメントを頂きました。

<戸矢さんより>
 みなさんは試験勉強の時には一夜漬けで乗り切る派でしょうか?それともコツコツと積み上げる派でしょうか?一般的に徹夜や短期学習は記憶に残りにくいと言われていますが、この考えを支持する結果が魚類を使った実験で得られたので紹介します。

 私の研究では、ヒトにおいて記憶定着効果があるとされている反復学習(復習)と睡眠が魚類においても同様に有効であるのかを、マダイ稚魚を用いて調べました。記憶の定着度合いを調べる方法として、図1のようなY字型の迷路を用いた学習訓練を施しました。訓練では、スタートエリアから魚を網で追い、左右のどちらか一方の道を選択させる試行を繰り返します。その際、右の道を選択した場合のみ先で閉じ込める罰を与えることで、左の道を選択するように訓練しました。
 1つ目の実験として、上記の訓練を1セットのみ行う場合(復習なし)と翌日にもう1セット行う場合 (復習あり) で、学習訓練記憶の保持期間に差が出るのかを調べました。
また2つ目の実験として、上記の訓練をした日の夜間に通常の睡眠をさせた場合と、夜間にライトを常時点灯し徹夜させる場合とで、訓練の記憶定着具合に差が出るのかを調べました。

図1.JPG
図1 学習訓練に使用したY字型の迷路

図2.jpg
図2 今回の実験対象魚のマダイ

 実験の結果、マダイにおいても復習をさせることで記憶の保持期間を長期化させられることが明らかとなりました。また、徹夜により記憶の定着が阻害されることもわかりました。これらのことは、ヒトと類似した記憶定着機構を魚類が持っている可能性を示唆します。

 「魚の記憶能力を調べる」という風変わりな研究テーマでしたが、独創性・萌芽性を重視して助成をしていただける笹川科学研究助成は、非常に素晴らしい制度だと思います。また、申請書の作成は自分の研究計画の意義や面白さをどう伝えるかという訓練になり、その後の人生にも役立つことですので、とりあえずでも申請してみることをお勧めします。
 現在は、水族館に勤務しつつ、上記の研究成果について英語論文としてとりまとめており、間も無く英文校閲に出した後、国際学術雑誌に投稿予定です。
<以上>

 魚も人間と同様に学習し、記憶できるということに驚きました。私は、試験前ギリギリになってから夜遅くまで勉強する一夜漬けタイプでしたが、効率を上げるためにも計画をもって早めに勉強するよう、反省したいと思います。今後も水族館で、魚について様々な発見ができるよう、陰ながら応援させていただきます。

 日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 14:34 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
〜新型コロナ感染症を考える〜 ウイズ・コロナのディレンマと「社会的距離」の危うさ 金子務先生 [2020年08月11日(Tue)]
 
 科学隣接領域研究会では、研究会メンバーの先生方からの「新型コロナウイルス感染症」に関する寄稿をご紹介いたします。第5回目は金子務先生(所属:大阪府立大学名誉教授 専門:科学技術史、科学哲学)から ウイズ・コロナのディレンマと「社会的距離」の危うさ です。


ウイズ・コロナのディレンマと「社会的距離」の危うさ

金子 務
科学と政治のディレンマ
 いくら強面の新型コロナのパンデミックであろうとも、世界でロックダウンする国が増え、人々の接触が減れば、確実に感染者の数は減る。このことは中世末から近年に至るペスト対策で、都市封鎖が究極の手段であったことを思い出させる。
 ネズミの病原菌であるペスト菌が見つかるのは19世紀末、1894年のことだ。ノミが病原菌のペスト菌を含むネズミの血液を吸って人間に伝染することが確認されたのはその後のことである。微積分法を考案し、計算機の原理を立てた万能の哲学者ライプニッツが、17世紀の1681年にハノーファー公爵に送った「ペスト対策メモ」は、まだ医学的対策の未知であるとき、打てる対策は政治的ロックダウンであり、もう一つは各家で他人との接触を避ける努力、というのだから、いまの新型コロナ世界流行にもそのまま通用する話である。19世紀末のペスト菌発見以降出版されたカミューの『ペスト』でも、まだ有効な対策としてロックダウンされた仮想都市で起こる悲喜劇を描いたものだ。
 今回の新型コロナ汚染問題でも、各国は都市や地域、特定業種などを封鎖し、感染を遮断しようとしたのだが、そのために政府や地方自治体は過大な財政負担によって疲労し、企業や従業員の収入途絶を招いた。いつまでも経済活動の停止を続けるわけにも行かないのである。科学(医学)による悪疫封鎖と政治による経済振興、科学と政治は巨大なディレンマに直面している。当面、科学界はあくまでも社会への忖度なしに客観的な解を求めるべきだし、政治分野ではあくまでも科学的見解を踏まえて、人々の幸福を最大にするよう高次な合理的最適解を求めるべきだろう。ともあれ、このディレンマを解く最終手段は、ワクチンを開発・量産・適正配分して人々に新型コロナへの抵抗力を持たせることにあることは明白であろう。この夏現在で期待が持てる先頭集団にあるのがmRNAワクチンと呼ばれるもので、この開発を進めている米系企業など2社の名が上がっている。両社は、免疫系にコロナに対する抗体の生成を誘発させるのに、これまでのワクチンのように、弱毒化したウイルスやそのウイルスから取り出したタンパク質をワクチンにして人体に注入するのでなく、ウイルスの遺伝子情報から合成しプログラミングされたmRNAワクチンを使って、人体細胞にタンパクを生産させて抗体の産生を促すようにするものである。遺伝子の人工合成によるのだから開発時間が短縮できるメリットはある。ただしこれまで、この技術を使用したワクチンが認可された実績はない。
 コロナ騒ぎの直前、コロンビア大学の先生に会う急用が出来て、アメリカに行った。2月中旬である。中国武漢の感染爆発はまだ対岸の騒ぎであり、横浜外港の大黒埠頭に停泊した巨大クルーズ船のクラスター問題もまだ限定区域の問題とみられていた。それでもアメリカは中国に出入りしたものを入国禁止にしていた。パスポートを更新したての同行の一人は、疑われて入国審査に手間取っていた。羽田集合の時みなマスク姿だったが、シカゴ空港に着いたときにはかえって病人ではないかと怪しまれる始末で、以降、シカゴやニューヨークではマスクをポケットに入れたままだった。
 ニューヨークの夜はブロードウェイでミュージカルを見てきた。「オズの魔法使い」の裏話仕立ての、庶民向け人気出し物「ウイキッド」である。この「ウイキッド」は正面舞台から3階までせり上がる階段状の観客席が、サーカスを観るような普段着の親子連れで満員、まだマスク姿もゼロであった。前から2列目、特上席の切符をやっと入手して見たのだが、当時は舞台からの飛沫感染など、誰も考えもしなかっただろう。劇場ではいまや前2列を空けるのが世界的ルールになったというのに。

「社会的距離」というけれど
 それから半月後には、アメリカはもちろん、世界中の人々がマスク姿で三ミツ(密接・密集・密閉)対策を意図するなど、ものすごい変わりようだ。アインシュタインが日本に来た関東大震災前年1922年(大正11年)の冬、火鉢を囲んで、ア博士が吹かすパイプの紫煙がなぜ渦を巻くのか、石原純と議論していた。紫煙は細かなコロイド状の粒子からなる。熱せられて上昇し、美しい輪を描く。ところで発話と共に吐き出される新型コロナ・ウイルスを含む飛沫は、水滴の重い成分は放物線を描いて落下するが、軽い霧状のコロイド成分は上昇して部屋に漂い続ける。おそらくかなりの人々が、テレビのニュースなどで特殊撮影の噴霧漂うさまを目撃させられただろう。コロナ騒ぎの現在では、物理談義をするより早く、扇風機を回して病原体を空気に乗せて追い払うことである。
 このところわが国でも、聞き慣れない英語の「ソーシャル・ディスタンス」(social distance)やその訳語とおぼしき「社会(的)距離」という妙な学術用語が大流行だ。飛沫感染を防ぐために、対人の物理的距離を1.5メートルとか2メートルとかの間隔を取る、という意味のようだ。しかし英語圏の新聞を見ると、動詞形を使う「ソーシャル・ディスタンシング」(social distancing) が多い。
 「ソーシャル・ディスタンス」という言葉は、アメリカ人が大好きな社会学の用語にもともとあって、コロナ対策の場合、それとは使い方が違うためらしい。各種の社会学用語事典を見ると、「社会的距離」は、個人と個人、個人と集団、あるいは集団と集団の間に見られる寛容性とか理解、親近性あるいは差別性の程度を表す。二者間の親近性・差別性は必ずしも対称的ではない。片思いや格差がしばしばある、とある。つまり従来の社会学では、「社会的距離」とは心理的文化的距離をいうのであって、相手に手は届きづらいが、容易に会話ができるというような空間的物理的距離を指すわけではない。
 たとえば、『方丈記』の鴨長明は京都下鴨神社河合社の禰宜(ねぎ)職を一族と争い、敗れて隠遁生活を送った歌人なのだが、禰宜になれば殿上人(てんじょうびと)だが、昇殿できない地下人(じげにん)のままだった。こうした身分格差もこの「社会的距離」の一例なのだろう。身分格差と物理的距離について、もう一つ思い出した。もう20年ほど前の目撃談である。日本科学協会理事の一員として、私は、中国に古本を送る事業の立ち上げのため、中国各地の大学や図書館を回って学長や館長と面談した時のことである。北京市立図書館長との会見で、豪華な大部屋に通された。その中央には幅5メートル、長さ15メートルもの大テーブルがあって、館長らは正面中央に、われわれはそれに近い側面の席に着いたのだが、身分の低い説明者の司書はなんと15メートル彼方の末席にぽつんと座って、大声で説明するのだった。身分差が物理的距離に比例する一例である。共産党国家にも皇帝時代の風習が遺っているのだろう。
 こんなことを綴っている内に、いわゆるパーソナル・スペースの問題について、昔読んだ本があったことに気づき、書庫から探し出した。『かくれた次元』という文化人類学者エドワード・ホールの本である。社会学者と違って、こちらの記述は明解である。
 鳥類や人間を含む哺乳類には、棲むなわばりがあって、仲間同士が一定の距離を保つ。なわばりは動物の体の延長であり、視覚や音声、嗅覚などの信号によって印づけられている。人間も同じで、さらに有形無形の文化的記号によっても印づけられている。その人間の周りつまりパーソナル・スペースには、四つの見えない距離層、すなわち「密接距離」「個体距離」「社会距離」「公共距離」(訳書では「公衆距離」だが)がある、というのだ。
 欧米人の場合だが、ハグしたり格闘したり手も繋げ、他者の存在がはっきり五感で捉えられる「密接距離」、手を伸ばしても触れないほどの距離から双方が手を伸ばしてやっと触れ、また遠ざけられもする範囲の「個体距離」(ここまでが双方から手足で仕掛けられる身体的支配と防御の限界)、相手の姿全体と目と口がはっきり見て取れ非個人的用件を処理する2―4メートルほど離れた「社会距離」(普通の声は届くが、失礼にならずに会話から逃避して自分の仕事もできる程度の社交的距離、パワハラはこの距離で見下ろすので威圧感が強い)、それからパーティなどの集会で注目人物の周りにできる4―7メートル以上の「公共距離」(多くは公式発言の声音になり、目の色、肌の色艶までは分からない。人気大統領ケネディの周りは半径10メートルの輪ができた)の四つである。
 つまり、文化人類学的には「社会(的)距離」の用法は正しいが、社会学的には誤用になる、という話である。
 まあ、こんなことをつれづれに思うのもコロナの所為でして‥‥。

【参考文献】
ライプニッツ「ペスト対策の提言――エルンスト・アウグスト公爵のための覚書」:「ライプニッツ著作集」第二期3巻『技術・医学・社会システム』(酒井潔・佐々木能章監訳、工作舎、2018年)pp.207−219、所載。末尾に4頁にわたって訳者・長綱啓典氏の解説が含まれる。
エドワード・ホール著『かくれた次元』(日高敏驕E佐藤信行訳、みすず書房、1970年刊)の第10章「人間における距離」を参照。



Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 11:00 | 科学隣接領域研究会 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
(お知らせ)申請の募集と非営利組織を対象としたアンケートについて [2020年07月29日(Wed)]
本会の事業の助成元である日本財団より、
下記のとおり、申請とアンケートのご案内がございましたので、お知らせいたします。

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この度、日本財団では「2020年度 新型コロナウイルス感染症に伴う社会活動支援 年度内募集」と称し、社会価値の創造を通して既存の社会システム、仕組み、構造、制度を変えようと取り組む活動への支援や、コロナウイルスの影響を受け、継続が困難になった事業の対策のための緊急支援を目的とした助成プログラムの募集を開始致しました。

対象となる事業、法人格等、詳細につきましては下記をご覧いただければ幸いです。

2020年度 新型コロナウイルス感染症に伴う社会活動支援 年度内募集 申請ガイド
https://www.nippon-foundation.or.jp/grant_application/programs/corona2020-socialsupport

※申請締め切りは8月7日(金)です。
※助成の可否につきましては、所定の審査の上で決定致しますので、予めご了承くださいませ。
※募集についてのお問い合わせは、上記リンク先にあるお問い合わせフォームからお願いいたします。


また、日本財団では現在、 非営利組織の皆様を対象に、新型コロナウイルス感染症が皆様の事業実施にどのような影響を及ぼしているか、アンケート調査を行っています。
下記フォームからアンケート項目にご回答いただければ幸いです。

<非営利組織対象>新型コロナウイルスに伴う事業実施への影響調査
https://forms.gle/sXCV8pvAA7QdH7QV6

※アンケート締め切りは8月10日(月)です。
※アンケートでは法人格のみお伺いしています(法人名は不要です)。
※調査結果は、日本財団より公表することがあります。
※上記「2020年度 新型コロナウイルス感染症に伴う社会活動支援 年度内募集」に申請される場合、申請フォームにて同じアンケートをお願いしておりますので、こちらからの回答は不要となります。

ご協力を何卒よろしくお願い申し上げます。

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Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 10:29 | その他 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
〜新型コロナ感染症を考える〜 酒井邦嘉先生 [2020年07月28日(Tue)]
 
 科学隣接領域研究会では、研究会メンバーの先生方からの「新型コロナウイルス感染症」に関するご寄稿をご紹介いたします。
 第4回目は、酒井邦嘉先生(所属:東京大学大学院総合文化研究科 教授 専門:言語脳科学)からのご寄稿です。医学書院が発行している『BRAIN and NERVE』2020年07月号 (増大号)の「あとがき」に掲載されたコラムで、韓流ドラマの話題から韓国でのコロナ禍の教育や倫理について考えるきっかけをいただきました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「酒井邦嘉先生からのご寄稿」

 最近観た『ブラックドッグ』という韓流ドラマ(全16話)が素晴らしかった。教師をめざす主人公が、私立高校で臨時採用となって後、念願の正規採用となるまでの成長を丁寧に描いたものだ。その国語科教師は、志厚いメンターや理解ある同僚に恵まれるも、臨時採用教師への差別、ライバルや派閥との確執、保護者からのクレームに悩み、迷い、そして生徒に寄り添う教師像を見出していく。このドラマのタイトルは,「ブラックドッグ症候群」を踏まえながら、正規採用と同じ仕事をこなす「臨時採用」なのに顕在化してしまう理不尽な偏見や疎外を浮き彫りにする。「生徒を見捨てるような教師は、教師の資格なんてない」、「教師が他人の目を意識するようになったら、終わりよ」といった、ベテラン教師の厳しくも温かな言葉が心に残った。

 このドラマの背景には、ますます過熱する韓国の教育事情がある。決して出題ミスが許されない日本の大学入試の様子が、そのまま韓国の高校3年生の中間試験と重なるのだから驚きだ。生徒たちは成績別にランク付けされ、内申書のいかんによって推薦入試枠を決められ、さらに入試制度の改革に翻弄される。そうした歪んだ教育の構図が、ドラマで克明に描かれつつも風刺され、疑問視されている。中でも学校と学習塾の関係(腐れ縁?)や、受験対策授業の過熱ぶりなどは日本にも共通した問題であり、極端な学歴偏重社会の中で、予備校化する高校の存在意義が問われているのだ。

 新型コロナウイルスの蔓延にともなう休校措置によって、在宅学習が世界的な課題となった。このドラマで描かれるEBC(教育放送局)は、実在するEBS(韓国教育放送公社)を恐らくモデルにしており、テキストや映像教材の充実ぶりがうかがわれる。学年ごとの各教科のカリキュラムに合わせた授業が、人気講師陣によって既に収録されていたため、韓国では在宅学習に大いに役立ったそうだ。日本の大学でも、収録済みのビデオによる講義が導入されている。それでも、教師と学生の双方向のやりとりを重視したオンライン講義は欠かせないのではないか。新たな疑問によって説明を改めるということの積み重ねなしに、学問の進歩はないのだから。

 さて、今月号の特集は「神経倫理ハンドブック」である。先ほどのベテラン教師の言葉で、「教師」を「医師」に、「生徒」を「患者」に置き換えて符合するところに、真の倫理がありそうだ。医療従事者には等しく、「患者を救う」というプロフェッショナルとしての仕事があり、そこに決して差別や偏見があってはならない。COVID-19 を経て、このことがいっそうはっきりしたように思える。

※このコラムは、BRAIN and NERVE, 72巻7号p.828, 2020年
http://www.igaku-shoin.co.jp/journalDetail.do?journal=38967)に掲載されたものです。
※無断転載、複写等はご遠慮ください。
Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 09:30 | 科学隣接領域研究会 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
先輩研究者のご紹介(横山 エミさん) [2020年07月27日(Mon)]
 こんにちは。科学振興チームの豊田です。
 本日は、2019年度に「特別支援学校における理療教育の史的分析 明治期からの点字図書を対象とした文献調査から」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、筑波大学附属視覚特別支援学校(以下、附属盲)所属の横山 エミさんから、助成時の研究について、コメントを頂きました。附属盲資料室の所蔵資料についての研究は、2018年度に共同研究者の飯塚 希世さんが、「明治〜戦前期の点字図書の調査及び書誌的分析」という課題で、助成を受けられております。

<横山さんより>
 今回、笹川科学研究助成を受けて、附属盲資料室に所蔵されている点字図書の内、特に理療(按摩、鍼、灸)に関するものについて調査しました。

理療の点字本 .jpg
【写真1 資料室理療教育関係点訳図書(部分)】

 ところで、このブログを読んでくださっている皆さま、マッサージや鍼灸治療を受けたことはありますか?マッサージ師や鍼灸師の資格は、国家試験に合格して取得します。多くの視覚特別支援学校(以下、盲学校)には、職業教育課程として理療科が設けられ、国家資格取得を目指しています。そして多くの卒業生が、自分で鍼灸院を開業したり、病院や企業などに勤めています。国際的には視覚障害者が特定の専門的な技術を持って働くことは珍しく、現在、特にアジア諸国へ日本の盲学校教員が支援に訪れています。私もベトナムとインドの盲学校に、あん摩の指導をするために数度行った経験があります。
 視覚障害者への理療教育の歴史は古く、1600年代までさかのぼります。盲人の鍼按家であった杉山和一(1610-1694)が、江戸に開設した杉山流鍼治導引稽古所に始まるといわれています。明治時代に入って、1880(明治13)年に開校した楽善会訓盲院(現 附属盲)では、翌1881(明治14)年11月には、按摩、鍼治の教育を始めています。
 鍼灸は医療の近代化に反するという理由で1874(明治7)年の医制によって廃止になり、盲学校でも鍼治の教育を見合わせ按摩術のみになりました。しかし、西洋医学に基づいた鍼治も行うという方針で、1887(明治20)年に再び鍼治の教育が始まりました。そして、現在まで続いています。

杉山和一の座像.jpg
【写真2 杉山和一肖像(江戸期 杉山流鍼治学校所旧蔵)(複製転載不許可)】

 このように長い歴史を持つ理療教育ですが、盲学校が始まった明治時代には、どのような教育がなされたのだろうか、生徒たちはどのような本を読んでいたのだろうか、などが私の関心事でした。そこで、現在附属盲の資料室に保管されている明治時代からの理療教育に関する点字図書を対象にして、点字図書が墨字(目で見て読むいわゆる活字)の図書をもとにしている場合その原本は何か、あるいは点字オリジナルで刊行されたものかを調査し、何を重視し、何を教育に取り入れようとしたか、何を文字で残そうとしたのか、当時の理療教育の内容を探ろうと考えました。
 日本の点字は1890(明治23)年におおよその形ができましたが、1890年代前半からさっそく点訳が始まっています。その時代の理療関係の点字図書には、西洋医学の先端を行く解剖書や西洋から導入されて間もないマッサージの書、西洋医学に学んだ鍼治術の図書が多くありました。解剖学では、例えば今田束(つかぬ)(1850−1889)による『実用解剖学』、墨字原本は、戦前には医学生に最も多く使用され、初版1887(明治20)年以降何度も増刷、改版されている図書ですが、1894(明治27)年に点訳しています。また、日本にマッサージが導入されるきっかけとなったA. Reibmayr(1848-1918)の『按摩新論』(原題 Die Massage und ihre Verwerthung in den verschiedenen Disciplinen der praktischen Medicin)を1897(明治30)年に点訳しています(日本語訳墨字刊行は1895(明治28))。同時に、鍼治の古典である杉山三部書(杉山和一の三著作『療治之大概集』 『撰鍼三要集』『医学節用集』)なども点訳されていました。
 これらの点字図書は、それぞれのページの上部に紙押さえの穴があることから、点字盤を用いて一枚一枚、一字一字、手で点字を打って書かれたと推察されます。各書に記録された製作年から、いずれの図書もかなりの短期間で点訳されたようです。あわせて、それぞれに製作者の名前が書かれていますが、その多くに卒業生の佐藤國蔵(1892(明治25)年3月按摩、1893(明治26)年3月鍼 卒)、田中生三(しょうぞう)(1897(明治30)年3月尋常科・鍼 卒)の名前がありました。佐藤國蔵(1867-1909)は山形の医師の家に生まれ、失明する前は医学を学んでいました。点字楽譜の表記法確立に尽力した人物として知られています。
 また、点訳書の他にも、東京盲唖学校の奥村三策(1864-1912)、京都盲唖院の谷口富次郎(1867-1955)といった視覚に障害を持つ鍼治教育の担当教員が、西洋医学に裏付けられた鍼灸・按摩術の研究を行い、点字で刊行した図書もありました。これらの図書には、後に墨字に訳されて刊行されたものもあります。
 調査を通じて、当時の先端の医学を取り入れながら、同時に鍼灸の古典も学んでいたこと、点字制定から日を置かず積極的に点訳を行っていたことがわかり、視覚障害当事者をはじめとする先人たちの視覚障害職業教育に対する篤い思いを感じました。また理療に関する歴史的な認識を深め広めることができました。
 最後になりますが、ご協力下さいました皆さま、そして研究の機会を与えて下さいました笹川科学研究助成に感謝申し上げます。

*写真はいずれも筑波大学附属視覚特別支援学校資料室蔵

<以上>

 視覚障害者がマッサージや鍼灸治療の技術を学び、伝え、発展させるためには、点字が重要な役割を果たしていたのだと感じました。江戸時代から始まった理療教育が、更に発展するよう、今後も研究を続け頑張っていただきたいと思います。

 日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 09:35 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
先輩研究者のご紹介(栗田 和紀さん) [2020年07月06日(Mon)]
 こんにちは。科学振興チームの豊田です。
 本日は、2019年度に「台湾の爬虫類相解明に向けたアオスジトカゲの分類学的再検討」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、京都大学大学院農学研究科所属の栗田 和紀さんから、助成時の研究について、コメントを頂きました。

<栗田さんより>
 「台湾のトカゲが気になるな...」「“アオスジトカゲ”っているけど、あれ、本当にそうなのかな...」「どこに何がいるかが分かれば、トカゲの進化がより詳しく見えてくるだろうな」「いや、中国とか琉球にいる種類とも比べたら、“そこにいる理由”まで分かるかもしれないぞ」・・・と、こんな思いで笹川科学研究助成に応募させていただきました。

 本助成の支持を得て調べてみると、台湾には“アオスジトカゲ”と同じなかま(トカゲ属)として、まだ名前のない別の種類のトカゲがいることが分かりました。研究成果は現在、データを補足してまとめの段階に入っております。

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図1.台湾にいるトカゲ属の一種(横顔)。トカゲの顔はたくさんの鱗で覆われている。こうした特徴をとらえることが種類を識別するためには重要になる。

 あっという間の研究期間。改めて強く感じたことがありました。それは「多くの人の支えがあって研究ができる」ということです。

推薦者としてこの研究を全面的に後押ししていただいた先生
研究内容についてのアドバイスや相談にのっていただいた先生
台湾のトカゲについて一緒に調べていただいた現地の先生
研究試料を提供していただいた後輩さん
実験を手伝っていただいた後輩さん
実験器具についてサンプル品を提供していただいた業者さん
必要な文献を遠隔地から手配していただいた図書館の司書さん
予定納期より早く仕上げていただいたポスター印刷会社の方々
研究内容について率直なご意見を聞かせていただいた所属研究室の皆さん
発表ポスターを前にしてご指摘や情報、励ましなどをいただいた学会員の皆さん
所蔵標本を調べるために現地で温かく迎えてくれた英国自然史博物館の担当者さん
研究経費が円滑に使用できるようにサポートしていただいた研究室の秘書さん
助成金の使い方について迅速そして丁寧にご対応していただいた日本科学協会の皆さん

 すぐに思い浮かぶだけでも本当に多くの方の支えがあったと思います。この他にも僕が気づいていないだけで、有形無形のご援助を受けていたはずです。

 こうしたことは今回が初めてではないのでしょう。大学院のときからの研究生活でも「支え」はあったのです。でも、その時は目の前の課題をこなすのに夢中で、周りに目を向ける余裕まではあまりありませんでした。

 若手研究者思いの笹川科学研究助成のおかげで科学研究に対する視野がまた少し広くなったと思います。特別流行りのテーマでもなく、純粋に自分が知りたいと思うことを後押ししてもらえたことは自信になりました。だた、それだけではなく、「科学とはなにか」「研究するとはどういうことか」と広く考える機会をもてました。この度のご支援をいただき、本当に感謝しております。

図2.jpg
図2.英国自然史博物館で調べた標本。こうした研究試料を採集し、標本として残し、そして何十、何百年と渡って管理している方々の支えもあって研究を行うことができている。

<以上>

 本助成制度が、研究活動について様々なことを考えるきっかけとなったとのこと、非常に嬉しく思います。人からの支えは、研究以外でも非常に重要なことだと思います。今後も研究を続け、人を支えられるような研究者となれますよう、私たちも陰ながら応援させていただきたいと思います。

 日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 10:12 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
先輩研究者のご紹介(久保田 達矢さん) [2020年06月29日(Mon)]
 こんにちは。科学振興チームの豊田です。
 本日は、2019年度に「沖合海底圧力計アレイ解析に基づく微小海洋変動シグナルの検出」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、防災科学技術研究所所属の久保田 達矢さんから、助成時の研究についてコメントを頂きました。

<久保田さんより>
 近年、津波の早期検知を目的とした沖合津波観測網が整備されつつあります。これらの観測網は、比較的狭い空間範囲に多くの津波観測点が展開されている点に特徴があります。本研究課題では、このような沖合津波観測網の記録から微小な津波を見つけ、津波とその起源となる地震の性質の理解を試みました。

 本研究では、これまで津波を引き起こしているとはあまり考えられていなかったマグニチュード(M)6程度の規模の地震に着目しました。岩手県三陸沖において発生したM6.0の地震について、東北日本の沖合に展開された「日本海溝海底地震津波観測網(S-net)」の記録を調査しました。震源の周囲の観測点の単一の波形からでは、海洋変動ノイズの影響により津波が記録できているかどうか不明瞭でしたが、複数の観測の波形を並べてみると、各観測点の間を約0.1km/sの速度で伝播する津波 (振幅1cm未満) が確認できました。また、この津波成分を解析してこの地震の性質を詳細に調べたところ、通常の地震とは異なる性質を持つ「スロー地震」と呼ばれる活動とは棲み分けて分布していることがわかりました。この地震の発生様式の空間的な違いは、プレート境界面上での摩擦などの物理的な性質の空間的な違いを反映していると私は考えています。
 本結果は、多数の観測点からなる津波アレイ記録を活用することで、従来の観測網では観測することすら不可能だった小さい津波や、それを引き起こす地震の情報を詳細に得ることが可能になることを示しています。M6程度の地震の発生頻度は巨大災害を引き起こすM9クラスの地震よりもはるかに多いことを考えると、M6クラスの地震による津波を多数精査することで、プレート境界における物理特性や巨大地震発生のメカニズムの解明、沖合での津波の伝播過程の理解につながると期待できます。

Kubota_etal_2020_GeophysResLett.jpg

 助成金への応募、研究計画の作成にあたっては、自分の研究の課題を見直すよい機会になりました。助成期間は1年だけでしたが、この研究は現在の自身の研究において重要な基礎となっています。現在応募を予定している皆さんにおいては、1年間自由に使える研究費が得られるだけでなく、ご自身の研究の現状と今後の方向性を考えるうえで有意義な機会になると思います。ぜひ、応募を検討されてみてはいかがでしょうか。最後に、笹川科学研究助成は様々な分野の幅広い研究を支える素晴らしい助成制度です。そのご支援を頂き感謝しています。ありがとうございました。
<以上>

 日本は海に囲まれた島国であるため、津波に関する研究は重要な課題です。津波が起きた際の対策だけではなく、なぜ津波が発生するのかというメカニズムの研究を行うことで、事前に避難等の対応ができるようになることを期待したいと思います。1年間という短い期間の助成制度ではありますが、研究費の面だけでなく、いろいろと考えるきっかけとなり、有効に活用していただけたとのこと、嬉しく思います。

 日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

Posted by 公益財団法人 日本科学協会 at 11:11 | 笹川科学研究助成 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
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