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微生物の世界から農業を科学する -「土壌づくりのサイエンス」の要約 - [2020年03月11日(Wed)]

小見出しは、次のとおりです。

  はじめに
  自然界の物質循環…植物と微生物との共生関係
  なぜ慣行農法が問題なのか
  有機農法・自然農法の課題は
  化学肥料と有機肥料の特徴は
  主な肥料成分とその役割
  土壌燻蒸により消毒の弊害
  微生物が土壌中で担う役割と働き
  微生物が活発に働く農地を目指して
  おわりに


はじめに
 農業を実践していない私には農業を語る資格はないのですが、敢えて「微生物の世界から農業を科学する」と題して農業について考えてみたいと思います。その直接の原因は、「土壌づくりのサイエンス」(久保幹著、誠文堂新光社、2017年。以下「土壌づくり」と表記します)を読んで、有機農法・自然農法の必然性をますます感じたからです。私見を交えながら「土壌づくり」の要約を試みようと思います。参考にしてみていただけたら幸いです。

自然界の物質循環…植物と微生物との共生関係
 自然界の物質循環とは、動植物の死骸などの有機物が、土の中の微生物によって無機物に分解され、植物の栄養となるという物質の流れのことです。つまり良好な物質循環によって、土の中の微生物の活性化と植物への栄養の供給が円滑に行われているのです。このことは皆さん周知のことだと思います。
 この物質循環を植物と微生物との関係でもう少し具体的に眺めてみたいと思います。「微生物ってなに?」(日本微生物生態学会教育研究部会編著 日科技連 2006年)では、次のように記述しています。

 植物と共生する微生物
 植物の根からは、糖、アミノ酸、さらにビタミン類などの栄養物が分泌されるため、それらを求めて多くの微生物が集まります。集まった微生物は、植物から栄養の提供を受ける見返りとて、土壌の中の窒素やりン酸などを植物に供給し、相互に利益を得る共生関係を築いています。マメ科植物の根に共生して「根粒」と呼ばれる構造物を形成する根粒細菌や、多くの陸生生物の根に侵入して、「菌根」と呼ばれる構造物を形成するカビの仲間の菌根菌はその代表です。
 根粒細菌は、植物根内で空気中の窒素ガスをアンモニアに変換して植物へ供給します。一方、植物は光合成で作った炭水化物を根粒細菌に与え、さらに根粒内を嫌気的に保って、根粒細菌の活動に最適な環境条件を提供しています。マメ科植物が窒素不足(貧栄養)の土壌でも生育できるのは、この根粒細菌のおかげです。(P134-P135)


 また同じ本の別の個所には、微生物が持つ能力について、次のように書かれています。

  微生物が持っている多様な機能は、単に食品や医薬品などの製造分野に利用されることによって、人間社会に役立てられているだけではありません。微生物は、肉眼で認識することができないほどに微小な生物でありながら、動物や植物にはないさまざまな代謝能力を持っています。また、通常の化学反応ではとてもむずかしいと考えられる化合物を合成したり分解したりする反応を、ごくふつうの条件の下で(わたしたちが経験しているごく当たり前の温度や圧力などの下で)行うことができます。(P156)

 さすが生物の起源である微生物です。このような優れた能力を持つ微生物に着目しない手はありません。ということでここでは、植物と微生物との共生関係や微生物の能力を前提にして考えていきます。つまり微生物の世界から農業を科学してみようということです。

なぜ慣行農法が問題なのか
 なぜ慣行(化学)農法が問題なのでしょう。慣行農法は、農業機械の開発により、大規模な農業を可能にし、労働力の効率化を進めてくれました。また農薬、化学肥料の開発や品種の改良により、単一品種の連作を実現し、むらのない収穫と高い収量を保証してくれました。その結果、慣行農法は、肥料成分の制御が容易であり、極めて再現性が高いことから農作業を比較的楽にしてくれ、食糧生産の著しい増加をもたらしてくれました。また農業を産業の一つとして捉えることをも可能としました。
 しかし、そこには大きな落とし穴があったのです。微生物の活性化や増殖を全く考慮しない慣行農法は、植物と微生物との共生関係の中で成立する自然の仕組みを破壊してしまったのです。過剰に投与される化学肥料は、土や水を汚染し生態系に大きなダメージを与えてしまったのです。また慣行農法に起因する病害虫の駆除のために使われる農薬は、自然界の有用生物をも減少させ、農薬に対抗できる耐性を持つ病害菌や害虫をも実現させたのです。さらに、残留農薬の問題や慣行農法による農産物はミネラル分などの含有する成分が少ないといった品質上の問題が、人間の健康に大きく関わっていることから、慣行農法の見直しが必要となったのです。
 下図は「イギリスの調査で、ニンジン、タマネギ、メロン、スイカにおけるマグネシウム含有量が、1929〜2002年でどう変化したかを示す。昔を100としたとき、2002年はそのうち何%まで減少したかが視覚的にわかる」図です【出典:「土壌づくりのサイエンス」P79】。見た目は全く同じでも内容成分に違いがあるのです。

P79.jpg

 このようなことからも慣行農法を見直さなければならないことがわかります。このような内容成分を数値化する調査が適宜行われれば、有機農法・自然農法による農産物の優位性が目に見えるようになるのではと考えます。このような市民の健康に関わるようなことを調査するのが公的研究機関の使命だと思うのですが、いかがでしょう。

有機農法・自然農法の課題は
 次に、自然界の物質循環を前提とする有機農法・自然農法には、どのような課題があるのかを見ていきましょう。
 生態系へのダメージを最小限におさえ、持続可能な食料生産システムを実現できることから、有機農法・自然農法を目指す必要があると考えているのです。しかし、これらの農法には、様々な課題があります。投入した有機物の土壌中での分解に時間がかかることから、肥料の効果が出るまでに時間がかかり、農産物の生産性が低くなるのです。そのため、慣行農法と同じだけの収量を得にくいといった点があります。下図は、「慣行農法の収量を100とした時、果樹以外の有機農法では収量が60%程度下がるというデータ」です【出典:「土壌づくりのサイエンス」P55】。

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 そのため、より広い農地の面積が必要となり、その結果として、広範囲にわたる森林破壊と生物多様性の損失をもたらすことになり、逆に環境の衰退を招くといった考え方もあります。その上、有機農法や自然農法は、再現性という点で大きな課題を抱えています。

化学肥料と有機肥料の特徴は
 続いて、肥料について考えてみたいと思います。まず肥料の歴史を簡単に眺めてみましょう。人類は多くの食料を得ようと、植物残渣、湖沼にある水草、人間や動物の排泄物、またマメ科植物の緑肥などの有機肥料を使ってきました。この農法を大きく変えたのは、ドイツ人リービッヒ博士による、植物は窒素、リン、カリウムの無機物のみで生育するという1840年の発見です。その後、空気中の窒素と石油の水素を高温高圧下で化学合成することができるようになるなど、空気中の窒素や地下資源から有機肥料に代わる化学肥料かつくられるようになったのです。このため自然の摂理である植物と微生物との共生関係が崩れ、微生物に代わって人間が植物の栄養を人工的に供給するようになったのです。このことにより世界の農業は、有機農法から化学肥料を使う慣行(化学)農法へと大きく舵を切ったのです。
 次に、化学肥料と有機肥料の特徴について見てみましょう。化学肥料は水に溶けやすく植物成長に即効性があることから、食料生産量を大幅に向上させました。さらに施肥の手間を削減させ、農業生産の安定化や大規模化を促進し、肥料製造を含めた新しい産業を創出することもできました。その一方で、化学肥料は地下資源である鉱物や石油を使うため、エネルギー消費型の産物でもあります。さらに持続性がなく環境に流出しやすいため、頻繁な追肥が不可欠となります。頻繁な追肥を避けるため、一度に必要以上の施肥を行う傾向があることから、植物が使い切れなかった化学肥料が、河川や湖沼または海洋に流出し、環境を汚染することになります。化学肥料は土壌微生物の餌にはならないため、土壌微生物の数や種類が徐々に減少すると同時に、農地に棲息するミミズなどの生物にも悪影響を及ぼします。その結果、土が固くなり、土の「物理性」が低下することになります。この点が微生物の世界からは大問題なのです。
 一方、有機肥料の方はどうでしょう。有機肥料の特徴としては、大きな分子量の物質であり、植物は直接吸収できず、土の中の微生物による分解(低分子化)が必須です。そのため土壌中に微生物が多くいる必要があり、肥料としての効果を発揮するには時間がかかってしまいます。
 そのメリットとしては、有機肥料の中には、窒素、リン、カリウムの他にも、様々なミネラル分を含んでおり、微生物による分解の過程で、これらのミネラルが溶け出してきて植物の栄養素となります。じっくりと出てくる肥料の効果は、長続きし、有機物は水に溶けにくいため、農地中での保持力が高く環境流出が少ないといったことが挙げられます。その反面、デメリットとしては、次のようなことが挙げられます。肥料効果か現れるのに時間を要し、窒素、リン、カリウムなどの肥料成分が混合しているため、正確な肥料投人か難しい、そのため経験や勘で有機物を投入しているのか現状であるといった状況です。

主な肥料成分とその役割
 次に、主な肥料成分とその役割について簡単に眺めてみましょう。植物の成長には、必要とする栄養成分を与えなければならなりません。酸素、炭素、そして水素が絶えず必要です。酸素は空気中から供給され、炭素も空気中から二酸化炭素(CO2)の形で取り込まれ、水素は、雨が降り土の中の水(H2O)から吸収されます。
 農産物の成長にとって.肥料は欠かすことができません。窒素、リン酸、カリウムは肥料の3要素とも呼ばれ、最も重要であることは、皆さんご承知のとおりです。この3要素は多量要素とも呼ばれます。植物が成長していくためには、タンパク質や糖質(炭水化物)をつくっていかなければならなりません。そのためには、たくさん必要な多量要素、ある程度必要な中量要素、そしてほんの少し必要な微量要素が必要です。
 それでは多量要素について、確認の意味でその役割をながめてみましょう。窒素(N)は、作物のタンパク質や葉緑素などをつくるために必要な成分で、植物の細胞の分裂、増殖を促し、主に葉や茎を大きくし、葉の色を濃くします。リン酸(P)は、植物の細胞を構成する成分で、細胞分裂が盛んな茎や根の先端に多く含まれ、根や茎の成長を促進し、開花や結実に役立ちます。カリウム(K)は、植物の生理作用を円滑に行い、成長促進を図っており、根や茎を強くし、病気や寒さなどに対する抵抗力をつける作用もあります。
 中量要素と呼ばれる成分は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、硫黄(S)があり、微量要素には、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ホウ素(B)、亜鉛(Zn)、モリブデン(MO)、銅(Cu)、塩素(Cl)があります。これらの肥料成分の必要量は、作物によって違いがあるので、それぞれの栽培マニュアルを参照する必要があるようです。
 ところで植物の成長には不可欠な窒素の供給過多には注意が必要なようです(中村進卓さんがよくおっしゃっています)。“過ぎたるは猶及ばざるがごとし”のようです。硝酸態窒素はホウレン草などの葉を青々とさせ、いかにも栄養豊富で美味しそうに見えます。しかし実は逆で、苦くえぐみがあり味を落としているのだそうです。その上硝酸態窒素は、発がん性など人間に危害を及ぼすとも言われています。このようなことから、田布施町の「協同組合田布施地域交流館」の直売所では、野菜内の硝酸値が世界で一番厳しいと言われるEU基準よりも更に低い、1,500ppm以下をブランド品として認定し、「たぶせ健康野菜」として販売されています。

土壌燻蒸により消毒の弊害
 農薬による土壌への影響をながめるために、土壌燻蒸により消毒の弊害について触れておきたいと思います。
 土壌燻蒸の使用目的は、土壌中に生息する微生物による土壌伝染病の発生に伴い、その原因となる微生物を根絶するための消毒です。その弊害は、微生物の世界から言えば、土壌に大変な危害を与えてしまうのです。有害な微生物ばかりではなく、作物に加害することのない無言な微生物ばかりか、そのままでは植物は吸収できない分子の大きな有機肥料を、植物が吸収できる分子の小さな無機物にまで分解してくれる有益な微生物まで殺してしまいます。さらに土壌燻蒸をやめても微生物叢はなかなか戻らない上、使えば使うほど燻蒸剤は効きにくくなるので、安定した農業生産を維持するために燻蒸剤の濃度を高めなければならなくなり、土壌はますます疲弊してしまうのです。
 「土壌づくり」の著者久保幹教授による土壌燻蒸剤としてよく使われるクロロビクリン剤とDD剤による影響の実験結果は、微生物にとって惨憺たるものです。クロロビクリン剤による影響は、大腸菌、納豆菌とも推奨濃度だとまったくいなくなってしまっています。一方DD剤による影響は、大腸菌、納豆菌ともに根絶とまではいかないまでも、いずれも激減しているといったものになっています。

微生物が土壌中で担う役割と働き
 さて、ここで微生物が土壌中で担う役割について確認しておきます。
 有機物を分解し、それによって植物への栄養を供給します。また生物的窒素固定の役割を担い、ミミズなどの土壌動物と協働して土壌物理性の改善を図り、植物成長促進物質の供給も行います。さらに病害虫からの保護も行っているのです。さらに微生物について詳しく眺めてみましょう。微生物には、主に細菌類、糸状菌、藻類等があります。
 細菌類は、土壌微生物の中で、最も小さく、種類が多いのです。細菌類は、炭素、窒素、リンの循環に大きな役割を果たしており、農産物の成長に大きな役割を果たしている窒素の循環においては、動物の排泄物や遺骸などを様々な土壌動物や微生物が有機態窒素へと分解し、さらにそれをアンモニア化細菌、硝酸化細薗などが連携して、作物が吸収できる無機態の窒素へと分解しているのだそうです。マメ科の植物の根に共生する根粒菌は、空気中の窒素ガスから土の中にアンモニアの形で窒素を固定しています。水田の冠水期においては、硝酸還元菌や脱窒菌などの働きよって、イネが肥料成分を吸収しやすい状態をつくっています。リンの循環においても、落葉や動物の遺骸、排泄物などが様々な微生物によって分解されリン酸となるのだそうです。このリン酸は土の中でアルミニウムや鉄などと結合してしまい、植物に吸収されにくい難溶性リン酸になってしまう場合があり、細菌の中には、この難溶性リン酸を植物が吸収しやすい可給態リン酸へ溶解するリン酸溶解菌も存在しているのだそうです。
 糸状菌(カビ)は一般的に木材などの有機物を分解するものが多くあります。キノコや植物と共生して、難溶性のリン酸を作物が吸収しやすい可給態のリン酸に変えてくれる菌根菌(AM菌)も存在します。糸状菌の中には、フザリウ厶などのように、植物の組織を破壊してしまう植物病原菌もいるので注意か必要だそうです。
 藻類はいわゆる藻ですが、主に水田の冠水期に大量に増殖するのだそうです。藻類は光合成を活発に行って、空気中の窒素ガスを土壌に固定し、窒素肥料を供給しており、死滅した後は、有機物として他の微生物の餌となるのだそうです。
下図は、土壌中の物質循環を示したもので、「左側は化学農法における土壌中のイメージ、右側は有機農法の土壌中のイメージだが、微生物が少なければどれだけ有機物が多くても、植物の栄養にはならない」と解説されています。

P129.jpg

微生物が活発に働く農地を目指して
 古来より農業は、農業者の経験と勘を通じて、有機資材、有機肥料を用いて行われてきました。ところが、1840年のリービッヒ博士による画期的な発見と、それに続く空気中の窒素や石油、鉱石といった資源を使って、微生物に代わり人間が人工的に植物へ栄養を与えることができるようになりました。このようにして、20世紀初頭、化学肥料の工業的基盤が整い、世界の農業は有機農法から化学農法に大きく変わっていったのだそうです。しかし既に見てきましたように、化学農法には大きな弊害があり、環境意識の高まりから、有機農法・自然農法が見直されるようになってきているのです。
 自然の摂理である物質循環に基づいた農産物を栽培するための土を、微生物の世界から言えば、「微生物か気持ち良く生息・増殖し、そして元気に動き働く土」となります。微生物が活発に働く土の「炭素量」と「窒素量」を指標として、それらの量と比を整えていく。土の中の微生物に良質な餌を与えるというイメージになります。その時、重要なことは、バランスの取れた良質な堆肥や有機資材を使うことだそうです。
 なお連作障害については、そもそも土壌中の微生物叢の偏りが原因で生じているとし、様々な養分を含む有機物で微生物の多様性を上げることが、良い農産物を栽培するための土づくりになり、連作障害対策にもなるのだそうです。
 農業と自然環境の共生、そして持続可能な農業を実現するためにも、物質循環を活用した農業システムが必要です。この「物質循環型農業」が食料問題を解決し、自然資源や生物多様性を維持することにつながっていき、人の健康と幸福に寄与する自然の流れに立脚した農業といえるのではないかと思います。

おわりに
 「土壌づくり」の著者久保幹教授は、経験や勘に頼らない方法として自ら開発されたSOFIX(土壌肥沃度指標)による土壌の診断を推奨されておられます。自らが代表理事を務められる「一般社団法人SOFIX農業推進機構」のホームページによると診断・改善方策の提案で91,300円(会員価格)となっています。少し高いですが、微生物の役割を前提とした有機農法・自然農法を行うには、有用なようにも思えます。このような診断・提案を県農業試験場や県農業大学校などで無料実施してもらえる時代の到来を望みたいところです。
 また、ここでの引用文献である「土壌づくり」と「微生物ってなに?」は、いずれも山口市立図書館にあります。お時間の取れる方は、ご一読をお願いします。
タグ:東孝次

Posted by 東 at 11:27 | 研究員からの報告 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

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