2019年・第50回記念大会(九州産業大学)でポスター賞を受賞された西野文貴さんからの投稿が届きました!異なる培地と温度条件下におけるオシダ科3種の胞子の発芽と前葉体の成長西野文貴
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この度は第50回日本緑化工学会大会において,技術報告部門にて優秀ポスター賞を頂くことができ大変光栄です。まず,指導教官である福永健司教授と橘隆一准教授に厚く御礼申し上げます。発表当日,私の発表を聞いて下さり、ご質問やご意見を下さった方々にも感謝申し上げます。今回の受賞で自分の研究に自信がつきましたが,決して驕ることなく粉骨砕身し時代を変えていきたいと殊に思います。この場をお借りし,私の研究の内容を紹介させて頂きます。
1. はじめに シダ植物は日本に約700種類生育しているが,都市緑化に使用される種類は,ベニシダ,オニヤブソテツなど多くても10種程度である。現在,シダ植物は株分けで増やしているが,効率が悪いため大量生産に向かない。また,株分けの難しい種もあり,自生地からの採取による個体数の減少なども懸念される。胞子は適度の水・光・温度さえあれば発芽して成長するが,種によって発芽に適した条件は異なる。
そこで本研究では,胞子からの栽培技術の確立を目指し,異なる培地濃度と温度条件下において胞子の発芽と前葉体の成長過程を観察した(図1)。対象種は都市緑化に使用される緑化植物として有望なオシダとイヌガンソク,利用が多いベニシダのオシダ科3種とした(表1)。
2. 実験方法 胞子はNaClO水溶液(100ppm)に5分間浸漬させ殺菌し,蒸留水にて洗浄した。培地はムラシゲ・スグーグ培地(以下MS培地)を使用した。寒天培地は滅菌ディスポシャーレ(PS製直径56mm)に15mlずつ分注し,その培地上にマイクロピペットを用いて5地点等間隔に播種した。培養中の光量は両実験とも3,300lux(明期16時間・暗期8時間)とした。定期的に胞子を実体顕微鏡で撮影し,画像解析ソフトimage Jで発芽数を測定した。前葉体の成長は播種後90日目の画像データから面積を算出した(図2)。
MS培地用混合塩類1ℓ用を蒸留水1ℓに溶かした濃度を1 MSとし,これに蒸留水を加えることで濃度を1/2 MS,1/4 MS,0 MS(蒸留水のみ)となるよう調整した培地を用意し,計4通りの濃度を設けた。各条件の繰り返しは5回,恒温25℃とした。培地の濃度は1/2 MSとした。温度条件は恒温10,15,20,25,30℃の5通りとし,各条件の繰り返しは5回とした。
3. 結果と考察 イヌガンソクの発芽率は0 MSと1/4 MSで高い発芽率を示した(図3)。濃度が高くなると発芽率が低下し,0 MSでは41.9%と1 MSでは18.2%と約2倍の差があった(図4)。前葉体の成長は3種とも0 MSでは面積が小さく、仮根の伸長が目立った。
発芽開始日は3種ともに20℃以下で遅くなり,10℃で最も遅くなった。ベニシダとオシダは全条件間で最終発芽率に差がないことから,胞子の発芽はある積算温度に達すると開始するが,種によって積算温度は異なると考えられる。イヌガンソクは15℃を超えると最終発芽率が低くなることから,一定の温度を超えると発芽が阻害されると考えられる。また,3種とも10℃では前葉体が確認できなかった。
今後は緑化植物として利用が拡大されると考えられるが,それに対する今の生産状況は大きな問題を抱えている。上述したようにシダ植物の主な増やし方としては自生地にて親株を採取し,株分けという地下茎を分割することで個体を増やす方法が行われている。しかし、この方法では一度に大量生産ができないことや自生地の個体数が減少する可能性が考えられる。また,ウラジロやコシダなど移植を行っても栽培が難しい種類,コタニワタリやイノデ,イワヒバなど株分け自体が難しい種類もあり,株分けだけでは対応できない種類も多い。自生地の環境が変化する中では,貴重種などの保全対策としても胞子栽培は有効であると考えられる。例えば,道路工事や開発で発生する植物の移植工事においてはシダ植物が移植困難植物として挙げられることも報告されている。これらの問題は胞子からの栽培方法を確立することで解決すると考えられる。
今回の受賞で安堵し胡坐をかくのではなく,これからも日々研究に精進したいと思います。研究では常識にとらわれずに他の分野も貪欲に勉強したいと思います。自然科学という魅力ある学問に出会えた事に改めて喜びを感じます。研究紹介をさせて頂きありがとうございました。研究に携わった皆様に改めて感謝申し上げます。