2023年9月に開催された第54回大会(2023年・新潟)で優秀ポスター賞(論文部門)を受賞された鍜冶元雅史さんからの投稿が届きました!凍結融解履歴が植生工の侵食防止効果に与える影響を定量的に評価するための研究手法の検討鍜冶元雅史(北見工業大学)
連名:中村 大1)・渡部 樹1)・川口貴之1)・川尻俊三2)・宗岡寿美3)
1) 北見工業大学 2) 九州工業大学 3) 帯広畜産大学
この度は第54回日本緑化工学会大会の論文部門にて、優秀ポスター賞を頂戴し大変光栄です。これもひとえに、指導教員である中村大教授の親身なご指導と研究メンバーの協力があったからこそです。
今から本研究について簡単ではありますが紹介していこうと思います。
1. はじめに 北海道ではのり面保護工を選定する際に,自然環境に配慮して,植生工が優先的に採用されている。植生工はのり面に植物を繁茂させることで,のり面を雨水による侵食から保護する工法である。しかしながら,積雪寒冷地ではのり面表層が寒気に曝されるため,凍結融解によって植生工の侵食防止効果が低減してしまう懸念があるが,これについて詳細に検討した事例は極めて少ない。
そこで本研究では,凍結融解履歴が植生工の侵食防止効果に与える影響を評価するための研究手法について検討した。
2. 実験条件と方法 本研究では,土を締固めて作製した土供試体に,ケンタッキーブルーグラスを播種して生育させた供試体(以下,植生供試体)を用いた。この植生供試体に対して,未凍結状態と凍結融解を与えた状態とで侵食試験を実施している。
図-1は本研究で用いた侵食試験装置の模式図である。図の傾斜台に供試体を容器ごと設置し,その上にタンク付の水路を据え付ける。タンクの下方は供試体表面が幅150 mm,長さ430 mmの範囲で露出するように開放している。傾斜台は1:1.5 の勾配(約34o)とした。流水はタンクに貯留した水を越水させることで発生させており,流量は毎分2Lとした。なお,流水が供試体表面で拡散しないように,幅50 mmに拡縮している。
以上の方法で土供試体は30秒間,植生供試体は600秒間流水を与えた後に,SfM写真測量用の写真撮影を行う。これを1回の侵食試験とし,1つの供試体に対して複数回繰り返し行うことで侵食痕の経時変化を観察した。また,侵食試験中にはSfM写真測量に加えて,流出土砂量,浸透水量,体積含水率θの計測を行った。
図-2は本研究で作製した凍結融解装置である。凍結融解過程はこの装置を,常に+3℃で制御した恒温室に設置して行った。地盤が寒気で地表面から一次元的に凍結融解するのを再現するため,供試体表面にステンレス製の冷却板を設置した。冷却板は供試体表面を覆うように3つ配置しており,全てチューブで連結されている。また,冷却板は低温恒温水槽に接続されており,冷媒を循環させることで温度制御することができる。冷却板の上面には地表面との密着性を高め,融解時の沈下をスムーズにすることを目的として,1 kgの重錘を載せた。容器底部の排水経路にはビュレットを接続し,地下水を模擬した水分供給を行っている。

3.試験結果及び考察 図-3は凍結融解履歴を与えた植生供試体の侵食試験後の様子とそのコンター図である。凍結融解履歴を与えた植生供試体では,表層部分に空洞が形成されている。
図-4は(a)土供試体および(b)植生供試体における積算流出土砂量,体積含水率,浸透水量の経時変化である。
積算流出土砂量に着目すると,未凍結状態の土供試体では試験開始直後から土砂の流出が始まり,11回目終了時(330 s経過)には流出量は概ね600gに達している。これに対し,未凍結状態の植生供試体では10回目終了時(6000 s経過)においても土砂の流出は極わずかであった。以上の結果から,植生には侵食量を低減し,侵食開始時間を大幅に遅延させる侵食防止効果があることが確認できた。しかしながら,凍結融解履歴を与えた植生供試体では,試験開始直後から土砂が流出し始めていることがわかる。

4. まとめ 本研究では,凍結融解履歴が植生工の侵食防止効果に与える影響を評価するための研究手法について検討した。試験の結果から,本研究で用いた研究手法で,凍結融解履歴による植生供試体の侵食抵抗の低下を定量的に評価できることが確認できた。また,凍結融解履歴が植生工の侵食防止効果に与える影響のうち,最も基礎的な知見が得られたと考えられる。
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この表彰は私個人の力ではなく、これまで自分を指導して育ててくださった先生や、自分を支えてくれた同僚・後輩の皆様のお陰であると痛感しております。本当にありがとうございます。
これからも決して驕ることなく研究を精進していこうと思います。最後になりますが、この場で研究を紹介させていただきありがとうございます。