2020年9月に開催された第51回大会(岩手Web大会)で優秀ペーパー賞を受賞された武井さんからの投稿が届きました!ガマズミ属3種の種子の休眠打破武井理臣
この度は第51回日本緑化工学会大会において、研究交流発表部門にて優秀ポスター賞を頂くことができ大変光栄です。指導教官である福永健司教授と橘隆一教授に厚く御礼申し上げます。また、web討議期間中にご質問頂きました皆様にも感謝申し上げます。この場をお借りし、私の研究の内容を紹介させて頂きます。
1.はじめに ガマズミ属の種子の多くは形態生理的休眠を持つ。形態生理的休眠を持つ植物では種子は胚が未熟な状態で散布され、まず形態休眠が打破されることで胚の成長と発根が生じ、続いて成長した胚の生理的休眠が打破されると子葉が地上に出現する。このため発芽に時間がかかり、ガマズミやカンボクなどは播種から発芽までに2年以上の時間を要する。ガマズミでは、暖温湿層処理を120日間行った後に冷温湿層処理を60~90日間行うことで通常よりも300〜330日ほど早く形態生理的休眠が打破できる4)。しかし、北アメリカに自生するガマズミ属では、暖温湿層処理の要求期間と有効な温度条件はガマズミ属内でも樹種ごとに異なることが報告されている2、3)。日本のガマズミ属の樹種においても,種ごとに生育する気候や環境が異なるため,休眠打破に必要な暖温湿層処理の温度や期間が異なることが予想され,解明できればガマズミ同様通常よりも短期間に発芽させることが可能になると考えられる。そこでカンボク、ミヤマガマズミ、ゴマギの種子に対し、ガマズミ同様の方法で休眠打破ができるか実験を行った。
2. 実験方法 70%エタノールで殺菌し、蓋に通気孔を開けたポリプロピレン製容器に小粒の軽石砂を40g詰め、種子を50粒播種した。暖温湿層処理は25、20、15℃恒温条件と25/15℃変温条件(12時間切替)の4条件設けた。暖温湿層処理は、発根率が50%を上回るまで行った。その後冷温湿層処理を0±2 ℃で90日間行った。ゴマギのみ暖温湿層処理で発根しなかったため、0±2 ℃と25℃で湿層処理を行う追試験を行った。実験開始から30日に1回、実験開始75日目から終了時までは15日に1回発根率と、測定毎5粒の種子について胚の断面観察を行った。カンボクのみ、15/5℃変温条件(12時間切替)で発芽試験を行った。
3.結果と考察 カンボクでは15/25℃変温条件の発根が一番早く、実験開始75日目で80%の種子が発根した。25℃恒温条件では発根開始が他の条件より50日ほど遅れた。発芽試験では25/15℃変温条件の発芽率が60%と1番高くなった。暖温湿層処理中に胚が成長し発根し始めたこと、冷温湿層処理後に子葉が展開したことから形態生理的休眠の8つのレベルの中でガマズミと同じDeep simple epicotylに属すると推測される。ミヤマガマズミでは25℃恒温以外の条件では、実験開始120日目には発根が始まった。暖温湿層処理中に胚が成長し発根し始めたことから、ガマズミと同様の方法で早期に発芽させられると示唆された。ゴマギは0℃での冷温湿層処理でのみ発根した。このことから、ゴマギの形態生理的休眠のレベルはDeep simple epicotylでは異なり、ガマズミのような休眠打破処理は不要と考えられる。
ガマズミ属は形態生理的休眠を持つ種が多いとされるが,休眠のレベルは種によって異なることが示唆された。今後,温度条件を追加し再度実験を行い,形態生理的休眠の8つのレベルのうち,どこに当てはまるのかを解明する必要がある。カンボクとミヤマガマズミに関しては,ガマズミと同様の方法で休眠打破ができると考えられる。今後,暖温湿層処理の期間を変えガマズミのように最短時間で休眠打破を行う方法についても解明する必要がある。
ペーパー賞を励みに、これからも研究に邁進したいと考えております。最後に、本研究に携わった皆様に改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。