2023年9月に開催された第54回大会(2023年・新潟)の現地見学会(9月22日開催「新潟県の海岸から感じるグリーンインフラ」)に参加なさった植野晴子さんからの報告投稿が届きました!
(注:写真は大会運営委員会から提供されたものを掲載しています)
現地見学会「新潟県の海岸から感じるグリーンインフラ」報告・感想植野晴子(北海道大学)
現地見学会では、「新潟県の海岸から感じるグリーンインフラ」という趣旨で、柏崎市松波海岸と新潟市青山海岸を視察しました。新潟県は冬季の季節風による飛砂が激しく、200年以上前からクロマツを主体とした海岸林造成が行われてきた地域です。見学会前日のシンポジウムでは、「新潟県の海岸から学ぶグリーンインフラ」という趣旨で、新潟県の海岸の土地利用の変遷や実態、海岸林の維持管理の課題について、紹介および議論が行われました。そのため現地見学会は、このシンポジウムを踏まえて、現場を確かめられる贅沢な機会となっていました。
柏崎市松波河岸では、主に、松波海岸林の変遷や現状、砂丘の在来種植栽の取り組みについて説明を頂きました。松波海岸林は、昭和29年に飛砂防備保安林へ指定後、本格的に海岸林造成・整備が実施されてきた、林帯幅70 m~180 mの海岸林です。近年は、松くい虫被害によるクロマツの生育不良や枯死、ニセアカシアの繁茂が問題になっており、対策として抵抗性クロマツの植栽や、天地返しによるニセアカシアの除根などが実施されています。
また、前砂丘では平成28年から令和1年に、在来種による緑化を目指して、有機質資材の含まれたマットの埋設が実施されました。これは、従来の砂草を植栽する植生導入工に代わるもので、砂浜面を20 p程度掘削し、マットを設置し、現地の砂で埋め戻します。そうすることで、砂地の保水力向上や有機質を中心とした基盤材に含まれる養分が供給され、海浜表土に含まれる埋土種子の発芽を促します。現地調査により、マット施工後2年程度は、一年草、二年草主体の群落が構成され、施工後3年程度で在来種(海浜植物)が優占する群落に遷移する傾向が確認されています。見学会では、実際にその様子を観察することができました。
新潟市青山海岸では、まず、前砂丘を見学しました。この海岸はかつて砂丘が決壊しましたが、その後、離岸堤やテトラポッドの設置、堆砂垣工の実施により、砂の供給が増え、砂丘が維持されています。また、堆砂垣工の際に植栽されたオオハマガヤの繁茂がみられました。
つぎに、砂丘の背後に広がる青山海岸林内を散策しました。青山海岸林は、約300 mの林帯幅で、海側から陸側にむかって、50年生、70年生、90年生のクロマツが発達しています。松葉かきの終了とともに土壌が発達し、タブノキやシロダモなどの広葉樹の侵入・定着がみられています。また、この海岸林は、近隣の自然林からの種子散布だけでなく、近隣の庭や公園に生育する緑化植物の種子散布も確認されており、新たな森林生態系が成立しています。現在は、地域のボランティアによって、雑木の伐採などの維持管理が定期的に行われており、地域住民が散歩など日常的に利用する空間にもなっています。
今回の見学会を通して、クロマツ海岸林は、マツ枯れ被害や植生遷移により、造成当時と異なる生態系が成立していることを確かめることができました。今後は、地域の海岸林の実態やニーズに合わせた維持管理目標の設定が重要になると考えられます。例えば、シンポジウムでは、海岸林が渡り鳥の飛来地として機能している事例が紹介されていました。海岸林計画時には想定されていない機能が発揮されることも踏まえ、樹種選定が必要であると考えられます。また、地域住民と現状を共有し、目標設定に取り組むことで、多様な機能が発揮されるだけでなく、地域で維持されていくグリーンインフラの形成につながると考えられます。