2月20日(火)・21日(水)、山口県立美術館で行われた
第76回山口県美術展覧会審査会を傍聴しました
第76回山口県美術展覧会要項山口県美術展覧会審査会は、審査の全ての段階が一般に公開されていて、事前に申し込めば、誰でも傍聴することができ、審査員の視点や考え方を直に体感することができます。
公開審査にしている公募展は、全国でも珍らしいようです。
今年度の審査員は、彫刻家で京都市立芸術大学教授の
松井紫朗さん、姫路市立美術館館長の
不動美里さん、東京国立近代美術館主任学芸員で美術批評家の
成相肇さんです。松井紫朗さんは県美展の審査が2回めで審査委員長、不動さん・成相さんは初めての審査です。
審査は、作品のジャンルを分けず、
一次審査:入選候補作品を選定二次審査:入選作品を選定三次審査:入賞作品を選定の三段階で行われます。
作品は、AタイプとBタイプに分けて、2月16日(金)〜18日(日)に搬入受付されています。
Aタイプ:審査に際して、比較的容易に移動が可能な作品
絵画・写真など主に壁に掛けて展示する作品
Bタイプ:大きい、重い、割れやすい、など、審査中の移動が難しい作品
陶芸・彫刻・インスタレーション・大掛かりな組作品などBタイプのうちインスタレーション・大掛かりな組作品など作品設置のためのスペースが必要なものは、11月25日(土)〜12月3日(日)に事前協議され、美術館内に設置されています。
一次審査・二次審査は、
繰出審査:審査員が着席し、その前に作品を繰出して審査
据置審査:審査員が移動し、据置された作品を審査されます。
傍聴者は、繰出審査の時は、審査員席の後ろに設けられた傍聴席に座り、審査の様子を見ます。据置審査の時は、館内を審査員と共に移動して審査の様子を見ることができます。
20日(火)の午前中は入選候補作品を選ぶ
一次審査が行われました。
今年度の
出品作品は
266点です
3人の審査員が「
◯」と「
×」の札をそれぞれ持ち、1人でも「
◯」の札を上げれば、その作品は入選候補となります。
一次審査は出品作品全てを観ることができるまたとない機会です。
また、繰出審査の際は不動審査員の真後ろの席に座わることができたので、作品だけでなく審査員の表情や仕草までしっかり見ることができ、ラッキーでした。
出品作品266点、Aタイプ196点のうち181点・Bタイプ70点のうち69点の計
250点が
入選候補作品として残りました。
つまり、落選したのは、Aタイプ15点、Bタイプ1点のみでした。
全体的に例年以上にレベルの高い作品が多いような気がしました。
落選した作品はそれが納得できる作品も多く、むしろ、どうしてこの作品が残るんだろう、と思う作品もあり、こんなに残って大丈夫かな、と傍聴者ではありますが、心配なくらいでした。
予定時間を15分オーバーして、昼休憩となりました。
20日(火)の午後からは入選作品を選ぶ
二次審査が行われました。
第一次審査で入選候補作品となった250点について、2人の審査員が「
◯」の札を上げたものが、入選となります。「
◯」1つは選外です。
「
◯」「
×」というのを一見で決めるのは素人の私からするととても困難なことのように思えますが、「完成度」「技術の高さ」「メッセージ性」「作者の意識」など水準を満たしているかどうかは経験値でほぼ分かるのだそうです。その上で、審査には審査員個人の好みや思い入れも多いに入っていて、「稚拙だけど好きだなあ」と推された作品がいくつかありました。
審査員の方は、一見ですが、「これは、あそこに展示してあった方と同じ作者ですね。」と鋭く指摘されていました。
私自身も知った方の作品は、いつも観ているからなんとなく「◯ ◯さんの作品だ!」と分かりましたが、同じ人がいくつも出品されているのを見落としたものもありました。
250点も残っているので、審査はサクサクすすむようでいて、「
◯」が一つの場合は、「
◯」をあげた審査員が一つひとつの作品について「何故
◯なのか」を丁寧に述べられました。
その言葉で「
×」を「
◯」に変えられ、めでたく入選作品なったものが10数点ありました。その駆け引きがとても興味深かったです。
実は「
×」が3つの時でさえ、「誰かが
◯あげられると思ったんですが・・・」と言われることもあり、展示方法や次回作品のアドバイスをされた作品もありました。
公開審査ですから当然出品者が傍聴にたくさん来られていました。審査員の方は、どなたが出品者か分からずとも、傍聴されていることは承知の上でしょうし、自ずと一点一点の審査は真剣そのもので、「講評」にも愛
があふれています。
何故1枚の絵(写真)ではなく組作品にしたのか、何故インスタレーションにしたのか、など鋭く追求されていました。
1人が何点か出品している場合は、なるべく1点でもすくい上げようとされていました。1票ずつに割れている時は、話し合いで1点を残されたり、反対に、1点のみに絞られたことも多くありました。
「うまく描いた(創った)その先に、そこからこぼれ落ちるもののある」作品や、全てを呈示しているのではなく「観る人に問いかける、ひっかかる」作品を選ばれているようです。
独自性、鑑賞者を惹きつける力なども、審査の大きな要素のようです。
審査員は審査の途中で何度もタイトルを確認されていて、作品に込められたものをタイトルから得ようとされているようでした。タイトルの付け方も、すごく大切な要素だということが今回もよく分かりました。
Aタイプ94点・Bタイプ36点の計
130点が
入選作品となりました。
一次審査、二次審査をまとめると、
Aタイプ 出品196点 ⇒ 一次審査 181点 ⇒ 二次審査 94点
Bタイプ 出品70点 ⇒ 一次審査 69点 ⇒ 二次審査 36点
です。
すごく技術的に優れていて自分でも好きで「何でこれが選外なんだろう?」と思う作品も何点かありました。
終わったのは予定時間を過ぎ、5時半になっていました。
2日目の21日(水)は、いよいよ入賞作品を選定する
三次審査です。
美術館に入ると選外の作品は撤去され、入選以上の作品のみ130点が据置されていました。
@まず入賞作品を選びます。
審査員は黄・青・赤の色違いの紙を15枚ずつ持ち、会場を回りながら作品の前に色紙を置いていきます。色紙が1枚でも置かれた作品は入賞作品ということになります。
傍聴者は、自由に館内を回ることができます。
38点が
入賞作品、佳作以上となりました。
大賞1点、優秀賞5点というのは決まっているので、ここで佳作の作品数が32点というのが確定しました。過去に遡って、佳作32点は多いように思います。
A入賞以外のAタイプの作品は裏返され、審査員が各々6枚ずつ色紙を持ち、会場を回りながら作品の前に色紙を置いていき作品を絞っていきます。
傍聴者は、自由に館内を回ることができます。
B色紙の置かれた作品のみ一つの部屋に集められ、Bタイプのなかで動かせない作品は写真が置かれました。審査員は各々3枚ずつ色紙を持ち、作品の前に色紙を置いていきました。
傍聴者は2階へのスロープからその様子を見ます。
8点残りました。
C審査員が各々2枚ずつ色紙を持ち、作品の前に色紙を置いていきました。
大賞+優秀賞候補作品
6点が決まりました。
札の置かれなかった作品
32点が
佳作と確定しました。
D残った6点から大賞1点と優秀賞5点を決めるのですが、協議により決めることになりました。
それぞれの作品について、どこが「推し」なのか、審査員が篤く語られました。
A105・・・写真 ※組作品 ★成相審査員推し
A141・・・絵画(洋画) ★成相審査員一推し
B12 ・・・工芸(陶芸)※組作品 ★不動審査員推し
B43 ・・・工芸(陶芸)※壺 ★松井審査員推し
B44 ・・・彫刻(木彫)※組作品 ★松井審査員一推し
B45 ・・・彫刻(ペーパークラフト)★不動審査員一推し
白熱した協議の末、大賞候補にA141とB45が残りました。
さらに協議を重ね、A141が大賞に選ばれました
大 賞 1点
優秀賞 5点
佳 作 32点
入 選 92点
11時半過ぎに審査が終わり、傍聴者による審査員への質疑応答等の時間になりました。
終了時間が迫っていたので、審査員の方から「出品者の方はいませんか?」と声かけされて、最後までIさんと大賞を争ったOさんが、作品についての思いなど述べられました。
審査の過程に立ち会うことができ、とても貴重な時間でした。
松井紫朗(まつい・しろう)
彫刻家、京都市立芸術大学教授。1960年奈良県生まれ。1986年、京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程修了。1983年の初個展以来、木・金属・石などを用いた独自の造形で、「アート・ナウʼ 85」展(兵庫県立近代美術館 1985)に選出されるなど、「関西ニューウェーブ」を担う一人として注目を集める。1990年代からは、シリコンラバーやテント素材を用いた作品や、ナイロン素材の巨大なバルーンを空間に展開させる作品などを発表。JAXA(宇宙航空研究開発機構)との共同研究では、国際宇宙ステーションでの庭作り「宇宙庭」(2009〜2010)や、軌道上の宇宙空間の採取「Message in a Bottle」(2011〜2013)を実施する。2014年からは地上ミッションとして「手に取る宇宙」を各地で開催。文化庁優秀賞(1999)、宇部市制施行80周年・野外彫刻40周年記念賞(第19回現代日本彫刻展 2001)などの受賞歴がある。山口県美展の審査は2回目。
不動美里(ふどう・みさと)
姫路市立美術館館長。1961年京都府生まれ。大阪大学文学部美学科(美術史専攻)卒業。1985年度スペイン政府給費生としてマドリード・コンプルテンセ大学にて絵画、彫刻デッサンを学ぶ。岐阜県現代陶芸美術館学芸員、金沢21世紀美術館学芸課長を経て、2022年より現職。主な企画展に、2003年「ロシア・アヴァンギャルドの陶芸:モダン・デザインの実験」、2005年Alternative Paradise〜もうひとつの楽園」、2009年「愛についての100の物語」、2010年「Alternative Humanities〜新しい精神のかたち:ヤン・ファーブル×船越桂」、2021年「日本の心象 刀剣、風韻、そして海景」など。共著に『芸術環境を育てるために』(松井利夫・上村博/編 京都造形芸術大学 東北芸術工科大学 出版局 藝術学舎 2020)がある。山口県美展の審査は初めて。
成相肇(なりあい・はじめ)
東京国立近代美術館主任学芸員。美術批評家。1979年島根県生まれ、一橋大学大学院言語社会研究科修了。美術と雑種的な複製文化を混交させる企画を手がけながら、府中市美術館、東京ステーションギャラリー学芸員を経て2021年より現職。主な企画展に2011年「石子順造的世界 美術発・漫画経由・キッチュ行」(第24回倫雅美術奨励賞)、2014年「ディスカバー、ディスカバー・ジャパン 「遠く」へ行きたい」、2017年「パロディ、二重の声 日本の1970年代前後左右」、2022年「大竹伸朗展」など。著書に『芸術のわるさ コピー、パロディ、キッチュ、悪』(かたばみ書房 2023)がある。山口県美展の審査は初めて。
=参考=
第75回(2022年度) 展覧会:11月24日(木)〜12月11日(日)
出品246点 ⇒ 102点 ⇒ 大賞1点、優秀賞5点、佳作26点、入選70点
大賞 吉村大星「ザルの惑星」 色鉛筆(4枚組)
第74回(2021年度) 展覧会:2021年12月3日(金)〜19日(日)
出品396点 ⇒ 60点 ⇒ 大賞1点、優秀賞5点、佳作17点、入選37点
大賞 大村洋二朗「Hello Japan」 多面化写真彫刻
第73回(2019年度) 展覧会:2020年2月13日(木)〜3月1日(日)
出品364点 ⇒ 90点 ⇒ 大賞1点、優秀賞5点、佳作26点、入選58点
大賞 津川奈菜「Loop Town」 ドローイング
第72回(2018年度) 展覧会:2019年2月14日(木) 〜3月3日(日)
出品297点 ⇒ 114点 ⇒ 大賞1点、優秀賞5点、佳作26点、入選82点
大賞 ロベルト・ピビリ「椹野川沿いのイノシシの行進」 インスタレーション
第71回(2017年度) 展覧会:9月16日(土)〜10月1日(日)
出品396点 ⇒ 61点 ⇒ 大賞1点、優秀賞5点、佳作16点、入選39点
大賞 山根秀信「食卓の上の廃墟2017」 インスタレーション
第70回(2016年度) 展覧会:9月23日〜10月10日
出品402点 ⇒ 143点 ⇒ 大賞1点、優秀賞5点、佳作31点、入選106点
大賞 保手濱拓「memento(グンバイナズナ)」
第69回(2015年度) 展覧会:9月26日〜10月12日
出品362点 ⇒ 128点 ⇒ 大賞1点、優秀賞5点、佳作25点、入選97点
大賞 深田佳心「ボクラノユクエ」
第68回(2014年度) 展覧会:10月2日〜10月19日
出品359点 ⇒ 113点 ⇒ 大賞1点、優秀賞5点、佳作27点、入選80点
大賞 小田善郎「顔遊び1」 アクリル画(5枚組)
第67回(2013年度) 展覧会:2014年3月13日(木)〜3月30日(日)
出品469点 ⇒ 80点 ⇒ 大賞1点、優秀賞5点、佳作21点、入選53点
大賞 山本新治・TAO「おれたちの仕事(春と修羅)A」
※
出品作品には作者が分かるものがいくつもありましたが、ブログをアップする時点で、まだ審査結果が公表されていないので、敢えて、出品番号のみ記しました。
また、27日までには、出品者に審査結果が通知されました。※
2月28日、山口県より「「第76回山口県美術展覧会」の開会式及び表彰式について 」が報道発表されました。
※
2月27日、非公開ではありますが、山口市美術展覧会の審査会がありました。