ミズアオイ(2) @ 萩城外堀北の総門A
[2021年09月27日(Mon)]
【前回の続き】
ミズアオイは、「水葱(なぎ)」という古名があります。
水葱は、万葉集第16巻3829番に詠われています。
▼『万葉集』(国立国会図書館蔵)
▼『萬葉集』(京都大学附属図書館蔵)
長忌寸意吉麻呂歌八首
(略)
詠酢醤蒜鯛水ク歌
醤酢尓 蒜都伎合而 鯛願 吾尓勿所見 水ク乃煮物
【読み方】長忌寸意吉麻呂(ながのいみきおきまろ)が歌八首
酢、醤、蒜、鯛、水葱を詠める歌
醤(ひしほ)酢(す)に 蒜(ひる)搗(つ)き合(か)てて 鯛(たい)願ふ 我れにな見えそ 水葱(なぎ)の羹(あつもの)
【意味】醤(=醤油のようなもの)と酢に蒜(=ニンニクやノビルなどの葱類)を搗き(=杵などでつぶして)こんで鯛を食べたい私に見せてくれるな、水葱の羹(=吸い物)なんか。
このことから、ミズアオイが食用に供されていたことが分かります。また、当時、貴重だった醤や酢や高価だった鯛に対し、水葱の羹は身近な庶民的な食物であったことをうかがわせます。
『食べられる野生植物大辞典: 草本・木本・シダ』(橋本郁三 柏書房 2003.7)のP61にも、「芽や若葉を塩ゆでにして流水によくさらし、汁物、煮物、和え物に用いる」とあります。
他にも「植子水葱(うゑこなぎ)」「子水葱(こなぎ)」として詠われている3首があります。
コナギは、ミズアオイと同じく水田などの水辺に生育し、花の色も似ています。コナギは房状の穂の中に青紫の花が数個集まった状態で開花し、花は葉よりも低い位置に咲くのが特徴です。
それに対してミズアオイの花は、葉よりも少し高いところで咲きます。
万葉時代は両者は区別されていなかったという説もあります。
《第3巻407番》(大伴宿禰駿河麿)
大伴宿祢駿河麻呂娉同坂上家之二嬢歌一首
春霞 春日里之 殖子水葱 苗有跡云師 柄者指尓家牟
大伴宿禰駿河麻呂、同じ坂上家の二嬢を娉ふ歌一首
春霞 春日の里の 植ゑ子水葱 苗なりと言ひし 枝はさしにけむ
《第14巻3415番》(作者不詳)
可美都氣努 伊可保乃奴麻尓 宇恵古奈<宜> 可久古非牟等夜 多祢物得米家武
上毛野(かみつけの) 伊香保の沼に 植ゑ子水葱 かく恋ひむとや 種求めけむ
《第14巻3576番》(作者不詳)
奈波之呂乃 <古>奈宜我波奈乎 伎奴尓須里 奈流留麻尓末仁 安是可加奈思家
苗代の 子水葱が花を 衣に摺り 馴るるまにまに 何(あぜ)か愛(かな)しけ
栽培していたことや、求愛の歌に詠まれたり、青紫色の花は染物に利用されたり、人間に親しまれてきたことが分かります。
江戸時代の『本草図譜』第4冊 巻33 水草類1(国立国会図書館蔵)にも載っていました。
芽生えたばかりのミズアオイの葉は、笹のように細く尖った形をしているそうです。
針葉樹のナギの葉は、ミズアオイ科のコナギの古名「ナギ」と葉の形が似ているとして、「ナギ」と命名されました。
【次回に続く】
ミズアオイは、「水葱(なぎ)」という古名があります。
水葱は、万葉集第16巻3829番に詠われています。
▼『万葉集』(国立国会図書館蔵)
▼『萬葉集』(京都大学附属図書館蔵)
長忌寸意吉麻呂歌八首
(略)
詠酢醤蒜鯛水ク歌
醤酢尓 蒜都伎合而 鯛願 吾尓勿所見 水ク乃煮物
【読み方】長忌寸意吉麻呂(ながのいみきおきまろ)が歌八首
酢、醤、蒜、鯛、水葱を詠める歌
醤(ひしほ)酢(す)に 蒜(ひる)搗(つ)き合(か)てて 鯛(たい)願ふ 我れにな見えそ 水葱(なぎ)の羹(あつもの)
【意味】醤(=醤油のようなもの)と酢に蒜(=ニンニクやノビルなどの葱類)を搗き(=杵などでつぶして)こんで鯛を食べたい私に見せてくれるな、水葱の羹(=吸い物)なんか。
このことから、ミズアオイが食用に供されていたことが分かります。また、当時、貴重だった醤や酢や高価だった鯛に対し、水葱の羹は身近な庶民的な食物であったことをうかがわせます。
『食べられる野生植物大辞典: 草本・木本・シダ』(橋本郁三 柏書房 2003.7)のP61にも、「芽や若葉を塩ゆでにして流水によくさらし、汁物、煮物、和え物に用いる」とあります。
他にも「植子水葱(うゑこなぎ)」「子水葱(こなぎ)」として詠われている3首があります。
コナギは、ミズアオイと同じく水田などの水辺に生育し、花の色も似ています。コナギは房状の穂の中に青紫の花が数個集まった状態で開花し、花は葉よりも低い位置に咲くのが特徴です。
それに対してミズアオイの花は、葉よりも少し高いところで咲きます。
万葉時代は両者は区別されていなかったという説もあります。
《第3巻407番》(大伴宿禰駿河麿)
大伴宿祢駿河麻呂娉同坂上家之二嬢歌一首
春霞 春日里之 殖子水葱 苗有跡云師 柄者指尓家牟
大伴宿禰駿河麻呂、同じ坂上家の二嬢を娉ふ歌一首
春霞 春日の里の 植ゑ子水葱 苗なりと言ひし 枝はさしにけむ
《第14巻3415番》(作者不詳)
可美都氣努 伊可保乃奴麻尓 宇恵古奈<宜> 可久古非牟等夜 多祢物得米家武
上毛野(かみつけの) 伊香保の沼に 植ゑ子水葱 かく恋ひむとや 種求めけむ
《第14巻3576番》(作者不詳)
奈波之呂乃 <古>奈宜我波奈乎 伎奴尓須里 奈流留麻尓末仁 安是可加奈思家
苗代の 子水葱が花を 衣に摺り 馴るるまにまに 何(あぜ)か愛(かな)しけ
栽培していたことや、求愛の歌に詠まれたり、青紫色の花は染物に利用されたり、人間に親しまれてきたことが分かります。
江戸時代の『本草図譜』第4冊 巻33 水草類1(国立国会図書館蔵)にも載っていました。
芽生えたばかりのミズアオイの葉は、笹のように細く尖った形をしているそうです。
針葉樹のナギの葉は、ミズアオイ科のコナギの古名「ナギ」と葉の形が似ているとして、「ナギ」と命名されました。
【次回に続く】