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こどもと本ジョイントネット21・山口


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中原中也を読む会「蓄音器で聴く中也ゆかりの音楽」Bモーツァルト「交響曲第39番」 [2020年07月29日(Wed)]
前回の続き

最後は、吉田秀和が「朝日新聞」に連載していたコラム「音楽展望」(2008年3月20日朝刊13面)「中也の目 時に悩み抜き苦しみ 祝いの夜は優しげに」という「中也の目」まつわるエッセイから、モーツァルト「交響曲第39番」です。
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吉田秀和は、成城高校時代に中也からフランス語を習っていました。

吉田が大学生だった1930年代前半頃、成城高校の教師 阿部六郎の家でバッハ「パッサカリアとフーガ」をストコフスキー編曲・指揮のレコードで聴いた時の中也の

怒りとも憎しみともつかない、あるいは両方のこもった、激しいものの燃えている目、まなざし

そして、

彼は、時々ぎらぎら光る強い目をした。

と、中也の「秋」の一節をあげています。


  
   
   V

草がちつともゆれなかつたのよ、
その上を蝶々がとんでゐたのよ。
浴衣ゆかたを着て、あの人縁側に立つてそれを見てるのよ。
あたしこつちからあの人の様子 見てたわよ。
あの人ジッと見てるのよ、黄色い蝶々を。
お豆腐屋の笛が方々で聞えてゐたわ、
あの電信柱が、夕空にクッキリしてて、
――僕、つてあの人あたしの方を振向くのよ、
昨日三十貫くらゐある石をコジ起しちやつた、つてのよ。
――まあどうして、どこで?つてあたし訊きいたのよ。
するとね、あの人あたしの目をジッとみるのよ、
怒つてるやうなのよ、まあ……あたし怖かつたわ。

死ぬまへつてへんなものねえ……



1933(昭和8)年12月3日、 中原中也(26歳)は、遠縁の上野孝子と結婚し、東京四谷の花園アパートに住み始めます。
吉田(20歳)は、中也が結婚したと聞き、花園アパートを訪ねます。結婚祝いをするという吉田に対し、中也は

じゃレコードを買ってくれ。でも新しいものは高いから中古でいい。一緒に神田に行って選ぼう

と選んだのが、

モーツァルトの三十九番変ホ長調の交響曲。確かワインガルトナー指揮のコロムビア盤だった。もちろんSPの十二インチ盤。
 
3枚組のセットを脇に、アパートに戻って手回しの小さい蓄音機で孝子を入れて三人で聴きました。

中原とても真面目な顔をして聞いていた。その目は優しかった。

中也は酔って機嫌が良い時はよく自作の詩とかヴェルレーヌの詩とかに自流のふしをつけながら朗読したものですが、この時も、朗読をしたそうです。ただ、吉田は、何の詩だった思い出せず、もしかしたら、「ベトちゃんかシュバちゃんか」ではなかったか、と。


  お道化うた

月の光のそのことを、
盲目少女めくらむすめに教へたは、
ベートー※(濁点付き片仮名ヱ)ンか、シューバート?
俺の記憶の錯覚が、
今夜とちれてゐるけれど、
ベトちやんだとは思ふけど、
シュバちやんではなかつたらうか?

霧の降つたる秋の夜に、
庭・石段に腰掛けて、
月の光を浴びながら、
二人、黙つてゐたけれど、
やがてピアノの部屋に入り、
泣かんばかりに弾き出した、
あれは、シュバちやんではなかつたらうか?

かすむ街の灯とほに見て、
ウヰンの市まちの郊外に、
星も降るよなその夜さ一と夜、
虫、草叢くさむらにすだく頃、
教師の息子の十三番目、
頸の短いあの男、
盲目少女めくらむすめの手をとるやうに、
ピアノの上に勢ひ込んだ、
汗の出さうなその額、
安物くさいその眼鏡、
丸い背中もいぢらしく
吐き出すやうに弾いたのは、
あれは、シュバちやんではなかつたらうか?

シュバちやんかベトちやんか、
そんなこと、いざ知らね、
今宵星降る東京の夜よる
ビールのコップを傾けて、
月の光を見てあれば、

ベトちやんもシュバちやんも、はやとほに死に、
はやとほに死んだことさへ、
誰知らうことわりもない……



フェリクス・ワインガルトナー(Felix Weingartner)(1863〜1942)指揮のモーツァルト「交響曲第39番」は、
@ロンドン交響楽団(ロンドン・シンフォニー・オーケストラ、London Symphony Orchestra) 1923年
Aロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団(ロイヤル・フィルハーモニー・オーケストラ、Royal Philharmonic Orchestra) 1928年4月12日
Bロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(ロンドン・フィルハーモニー・オーケストラ、London Philharmonic Orchestra) 1940年2月26日
のレコードがあるそうですが、Bは、1937年に亡くなった中也は聴くことはできません。

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今回、用意されたレコードは、Bのレコードで、中也が実際に聴いたレコードではありませんが、誰がハンドルを回したんだろう、やはり主人たる中也、いやいや若輩者の吉田・・・?想像が膨らみます。
曲調も、新婚間もない中也と孝子の幸せそうな生活が思い起させ、中也の優しい眼差しが浮かんできます。

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中也の時代の音が、長い時を経て、なお生き続けて、こうして聴くことができることに喜びを感じました揺れるハート

中原館長は来年度も、中原中也を読む会「蓄音器で聴く中也ゆかりの音楽」を実施する、と約束してくださいましたかわいい
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