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第30回中原中也賞受賞詩集 高村而葉『生きているものはいつも赤い』 @ 中原中也記念館 特別展示 & 中原中也を読む会 [2025年05月26日(Mon)]
4月25日(金)、中原中也記念館で開催された中原中也を読む会「第30回中原中也賞受賞詩集 高村而葉(たかむらじよう)『生きているものはいつも赤い』を読む」に参加しましたぴかぴか(新しい)

読書コーナーに展示してある「第30回中原中也賞 高村而葉氏『生きているものはいつも赤い』特別展示」(2025年4月16日(水)〜5月25日(日))を展示担当された中原豊館長の解説で見学しました。

展示は、パネル(略歴・詩「パプーシャの家」抜粋・選評抜粋など)や宇野紘城さんの装画および、高村さんから展示用に送られてきた書物・DVD・映画チラシ6点のみでしたが、詩を読み解くのに役立つものです。

『生きているものはいつも赤い』は、青い本で、ついタイトルを『・・・いつも青い』と言ってしまいそうですが、表題は詩「絞める手を疑うこと」の一節からとられました。

すべての生きているものが朝焼けに照らされて、本来、バラバラのものがいっしょにいる瞬間をイメージした

と、高村さんは言われました。

別館に移動し、詩「パプーシャの家」を皆で鑑賞しました。


受賞コメント

20年前、生きている詩人に会うという目的のために、ほとんど詩のことを知らないまま、詩(のようなもの)を書き始めました。

とあり、「生きている詩人」とは誰なんだろうと気になっていました。
その疑問は展示を観て解けました。


展示期間が25日で終わったので、展示されていたものを紹介します。

1チラシ 映画「急にたどりついてしまう」
(福間健二/監督・脚本 1995)

 映画「急にたどりついてしまう」で、詩人 福間健二を知ったそうです。



2詩集『行儀のわるいミス・ブラウン』
(福間健二/詩 雀社 1991)

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そうです。生きている詩人とは福間健二(1949.3.10〜 2023.4.26)。

生きている詩人に会いに行ったのは、春らしい日だったと記憶している。そして、初めて詩のようなものを書いたのは、その数日前の明け方だった。
(「第30回中原中也賞贈呈式・記念講演」配布パンフレット)

高村さんは、2008年から現代詩手帖の新人欄に毎号作品を投稿し、2009年に詩の登竜門といわれる第47回 現代詩手帖賞最優秀新人賞を受賞しました。

今起こっていることは今だけのことではない、という当然の事実に息苦しさと似た気持ちを抱きますが、この<今>が内を貫いてだだっぴろい所に放り出されるように書いていけたら、と思います。
(『現代詩手帖』2009年5月号)

その後2012年に詩集を作る話もあったようですが、頓挫し、

およそ、一五年のあいだに書いた詩を、数年かけて推敲し、行きつ戻りつしたものだ
(瀬尾育生「高村而葉詩集によせて」)

そして、2023年詩作のきっかけとなった詩人 福間健二が亡くなったことから、2005〜23年に手掛けた22篇から成る初詩集『生きているものはいつも赤い』ができました。

展示してあった本が手に入らなかったので、私は、『福間健二詩集』(現代詩文庫 156)(福間健二/著 思潮社 1999.3)を読みました。

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3アンソロジー詩集『ジャイアントフィールド・ジャイアントブック』
(山田亮太/編 ヴァーバル・アート・ユニットTolta (トルタ) 2009.12)

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山田亮太第一詩集『ジャイアントフィールド』(山田亮太/著者・編集 思潮社 2009.5)の第15回(2010年)中原中也賞最終選考落選を記念して、『ジャイアントフィールド』 から抜き出した言葉を使った詩、短歌、俳句を執筆者に1篇ずつ寄稿してもらい、1冊にまとめたアンソロジーで、執筆者は大学生から三角みづ紀、渡辺玄英 、瀬尾育生、谷川俊太郎まで60名です。
『ジャイアントフィールド』のなかの言葉をジャイアントに拡大した無重力アンソロジー詩集。
この執筆者の一人に高村さんが入っています。

同じく受賞コメントで、

言葉で説明できないことそのものを、言葉によって密閉して渡すことができる詩は、人間と人間をど こか深い部分で親密にする力があるはずです。
これからも、対話の可能性としての詩を書き続けていきます。




4DVD「カルメン故郷に帰る」
(木下恵介)1951年一般公開

この映画を題材とした同タイトルの詩「カルメン故郷に帰る」が詩集に収録されています。
映画は日本初の総天然色映画、高峰三枝子主演のコメディです。



5文庫本『フォークナー短編集』
(ウィリアム・フォークナー/著 龍口直太郎/訳 新潮社 1955.12)

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新潮文庫『フォークナー短編集』所収の短編小説「エミリーにバラを」(A Rose for Emily)を題材とした詩「エミリーは薔薇なんていらない」が収録されています。

私は『エミリーの薔薇』(W・フォークナー/著 龍口直太郎/訳 コスモポリタン社 1952.2)で読みました。

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フォークナーのこの作品の中にバラの花は全く出てこず、バラに関するものといったら「バラ色のあせた寝台の垂れ幕」「バラ色の電灯の笠」しか出てきません。
しかし、原題は「A Rose for Emily」です。

そのまま訳せば『エミリーへの薔薇』。龍口直太郎は「エミリーの薔薇」と訳したタイトルを「エミリーにバラを」と変えています。高橋正雄も「エミリーに薔薇を」としています。

『完全版 十字路が見える W 北斗に誓えば』(北方謙三/著 岩波書店 2023.3.24)「文学の香りというやつを求めてみたが」(週刊新潮 2022年2月3日号コラム 北方謙三「十字路が見える」第396回に掲載されたもの)に、
 
 どれぐらい前か、フォークナーの作品を再読していた。『エミリーに薔薇を』があった。(略)ただ、ずっと昔に私が読んだ時は、『エミリーの薔薇』というタイトルで、それ以後、『エミリーに薔薇を』とか『エミリーへの薔薇』などというタイトルが出てきたようだ。(略)
 最初に読んだのは、瀧口直太郎訳であった。(略)『エミリーの薔薇』は、かなりの超訳になるだろうと思うが、(略)
 タイトルとして、原題よりすぐれている、という言い方もできるかもしれない。
 南部の屋敷で暮らす、上流階級の女性の、不幸な一生の中で、唯一手にした薔薇。それが描出されているのだ。エミリーへ薔薇を贈るという意味合いだと、鮮烈さは消える。
 私は、日本で最初に訳したであろう、瀧口直太郎訳のタイトルに、この作品を象徴するような凄さがある、と感じる。(略)深い意図でそうされたのだろう、と思えてならない。


とあります。
私も、北方謙三さんに賛成!

しかしながら、フォークナーは1955年8月に来日し、長野市で「アメリカ文学セミナー」が開催されました。その際、なぜそのようなタイトルをつけたか、直接質問してみたことが、訳者 瀧口直太郎による新潮文庫の「解説」に書いてあります。

バラの花ぐらい贈ってやらないと、エミリーがあまりにもかわいそうではないか、という返事がかえってきた。(略)「ミス・エミリーにバラの花を捧げよう」というのが作者の意図なのであろう。拙訳を改めるにあたって、(略)「エミリーへのバラ」としている人もいるが、これではバラが主体になってしまうので、私は作者の意図をくんで、『エミリーにバラを』とした。(略)
  (一九六九年十月)


そこで、龍口直太郎も、あえて日本語の題名を変えた次第。



6詩集『パプーシャ その詩の世界』(ムヴィオラ刊)

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帯に

書き文字を持たない
ジプシーの一族に生まれながら、
言葉を愛した女性、パプーシャ。
魂揺さぶる数々の詩を初翻訳。

フィツォフスキのジプシー論文、
谷川俊太郎(詩人)による特別寄稿、
映画『パプーシャの黒い瞳』の物語採録も掲載。


とあります。
『パプーシャの黒い瞳』は、ポーランドのヨアンナ・コス=クラウゼ(Joanna Kos-Krauze)&クシシュトフ・クラウゼ夫妻が脚本・監督の歴史上初めてのジプシー女性詩人“パプーシャ”(ブロニスワヴァ・ヴァイス)を描いた映画です。

この本が手に入らなかったので、『立ったまま埋めてくれ―ジプシーの旅と暮らし』(イザベル・フォンセーカ/著 くぼたのぞみ/訳 青土社 1998.11)「パプーシャの口からこぼれた歌」を読みました。

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パプーシャとは「人形」という意味の愛称、本名はブロニスワヴァ・ヴァイス(1910〜1987)でロマ初女性詩人です。ロマは文字を持たず、集団で移動しながら生活していました。パプーシャは言葉に強い関心を寄せ、自らの意志で文字を学び、ロマが音楽にのせて歌っている詩を文字化しました。また自分自身でも詩を生み出すようになりました。詩人 イェジ・フィツォフスキにより出版され、パプーシャは一躍時の人となり、ポーランド社会主義共和国の同化政策に利用されることになりました。文字化されることで、ロマの世界のいわば秘密が人々に知れ渡るにつれ、パプーシャは、ジプシーのコミュニティー内で厳しく非難されるようになり、裏切り者として迫害され、つらい晩年を送りました。

詩集にはこの「パプーシャ」を題材とした詩「パプーシャの家」が収録されています。



選評などが掲載された『ユリイカ』2025年4月号(青土社)や受賞詩集『生きているものはいつも赤い』(思潮社)は本棚の置かれ、いつでも手に取って読むことができます。

『ユリイカ』には、

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第30回中原中也賞発表
高村而葉『生きているものはいつも赤い』
受賞詩集より――「パプーシャの家」「山の目」「絞める手を疑うこと」「光の墓場に根を伸ばして」
選評=カニエ・ナハ、川上未映子、野崎有以、蜂飼耳、穂村弘


が掲載されています。


『生きているものはいつも赤い』
(高村而葉/詩 思潮社 2024.11.15)
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目次



パプーシャの家
静かに生きる人の姿勢で
新しいひとつの謎になる、わたしたち
遠くの顔をなぞる
彫り込まれた、本を開いている
エミリーには薔薇なんていらない



無重力のための習作
バサバサッと、心臓が鳴った
盗蜜する長い猛者
青白い電気が、美、美、美、と走った
この円陣は誰のためのものか
そのまま、ゆれつづける



山の目
絞める手を疑うこと
いい感じに開く
銭湯平野
やわらかくてわずかに苦い



消えいるものが満ちるところ
美しく描いてはいけない
跳ねる豆
カルメン故郷に帰る
光の墓場に根を伸ばして

ゆきてかへらぬ [2025年05月25日(Sun)]
4月19日(土)、山口情報芸術センター[YCAM]シネマで、映画「ゆきてかへらぬ」を鑑賞し、根岸吉太郎監督と中原豊中原中也記念館館長のトークを拝聴ぴかぴか(新しい)

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映画はネタバレになったらいけないので、あんまり書けませんが、中原中也の「ゆきてかへらぬ」などの詩、長谷川泰子『ゆきてかへらぬ』や小林秀雄の著書からの逸話が描かれ、言葉が随所に散りばめられ、「うんうん」ってうなずきながらずっと観ていました。もちろん、「こんなことはなかった筈」というフィクションの部分もありましたが、「それはそれでいいのだ」と思わせるだけの説得力もありました。

トークは、主演の広瀬すずが21歳の時依頼したこと、中也役の木戸大聖は目の輝きで決めたこと、中也の住んでいた町屋も小林の下宿もセットだということなど、など面白かった!

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40年前に書かれた田中陽造の脚本を今の時代に受け入れられにあうように改変し、泰子、中也、小林の3人の青春に絞って時系列に組み立て直したということです。

『ゆきてかへらぬ 田中陽造自選シナリオ集』
(田中陽造/著 国書刊行会 2025.2)

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中也は、山口中学を落第し、立命館中学に転学してから、東京に行くまでの間、8回転居を繰り返します。

1京都市上京区岡崎西福ノ川 沢田方
 1923(大正12)年4月に京大生が多く住む下宿に入居。立命館中学校広小路学舎に近い場所ではなく、岡崎善正寺の西辺り。
 現在地は「京都市左京区岡崎西福ノ川町」。

2京都市上京区聖護院西町九 藤本大有方
 同年9月に転居。熊野神社の近くで、京都大学医学部付属病院の駐車場の東大路通をはさんだ向い辺り。
 現在地は「京都市左京区聖護院西町10」。

3京都市北区小山上総町
 同じ月にさらに同志社の学生もいる下宿に転居。立命館中学校北大路学舎(北区小山西上総町)のすぐそば。
 現在地は「京都市北区上総町」。

4京都市丸太町中筋 菊ヤ方
 同年11月には転居。「菊ヤ」は旅館で、河原町丸太町の東辺り、学校からは遠い。
 現在地は「京都市上京区中町通丸太町下ル駒之町538-1」。

5京都市寺町油ノ小路下ル西入ル
 1924(大正13)年2月頃に転居。住所や転居時期は定かではなく、「『寺町』『油ノ小路』ともに南北の通り。『油ノ小路』は「押小路」の誤記か」との指摘があるそうです。寺町押小路であれば、京都市役所の北辺り。

6京都市北区大将軍西町椿寺南裏 谷本方
 同年4月に転居し、長谷川泰子との同棲が始まる。地蔵院椿寺の南辺り。マキノ等持院撮影所や日活大将軍撮影所等に比較的近い場所。
 現在地は「京都市北区大将軍川端町」。

7京都市上京区中筋通石薬師上ル 高田大道方
 同年10月、富永太郎の下宿(京都市上京区下鴨宮崎町中ノ町下鴨郵便局下ル 西野喜一郎方)の近くに転居し、以後頻繁に往来。河原町今出川の南西辺り。
 現在地は「京都市上京区中筋通石薬師上ル大宮町341−1」。

8京都市上京区中筋通石薬師上ル角 山本方
 1925(大正14)年2月に寺町今出川一条目下ル中筋角に転居。(7)の住居からさらに南西に行った辺り。この2階の窓は、中也が「スペイン式窓」と呼んで気に入っていました。
 現在地は「京都市上京区河原町今出川下ル西入ル大宮町337」。

映画セットの下宿は、中也が「スペイン式窓」と呼んで気に入っていた家ではありませんでしたが、映画冒頭の京都の街並みの瓦屋根の美しさ、特に雨に濡れた屋根瓦の美しさ、赤い傘が印象的でした。

会場は、知っている方がいっぱい!
中には先月ジョイネットで主催し山陽小野田市立中央図書館で開催した中原豊さん「谷川俊太郎さん、中也を読む」ですっかり中也ファンになり、中也の生家跡に建つ中原中也記念館を今回初めて訪れ、宇部の映画館で「ゆきてかへらぬ」を観て、でも、どうしてもトークも聴きたくて今日来たという宇部市在住の人もいて、私自身いい仕事をしたなあ、って自分を褒めました。




  タバコとマントの恋
    中原中也

タバコとマントが恋をした
その筈だ
タバコとマントは同類で
タバコが男でマントが女だ
或時二人が身投心中したが
マントは重いが風を含み
タバコは細いが軽かつたので
崖の上から海面に
到着するまでの時間が同じだつた
神様がそれをみて
全く相対界のノーマル事件だといつて
天国でビラマイタ
二人がそれをみて
お互の幸福であつたことを知つた時
恋は永久に破れてしまつた。


(『文学界 第五巻第一〇号』(1938(昭和13)年10月1日発行)


  《「地獄の季節」より》
    アルチュール・ランボウ
    小林秀雄訳

季節(とき)が流れる、城砦(おしろ)が見える。
無疵な魂(こころ)が何処にある。

俺の手掛けた幸福が
魔法を誰が逃れよう。

ゴオルの鶏(とり)が鳴くごとに、
幸福(あれ)にお禮を言ふことだ。

ああ、何事も希ふまい、
生(いのち)は幸福(あれ)を食ひ過ぎた、

身も魂も奪はれて、
意気地も何もけし飛んだ。

季節(とき)が流れる、城砦(おしろ)が見える。

幸福(あれ)が逃げるとなつたらば、
ああ、臨終(おさらば)の時が来る。

季節(とき)が流れる、城砦(おしろ)が見える。




※参考に『ランボオ詩集』収録の中也訳を載せておきます
  幸福
    アルチュール・ランボー
    中原中也訳

  季節(とき)が流れる、城寨(おしろ)が見える、
  無疵(むきず)な魂(もの)なぞ何処にあらう?

  季節(とき)が流れる、城寨(おしろ)が見える、

私の手がけた幸福の
秘法を誰が脱(のが)れ得よう。

ゴオルの鶏(とり)が鳴くたびに、
「幸福」こそは万歳だ。

もはや何にも希(ねが)ふまい、
私はそいつで一杯だ。

身も魂も恍惚(とろ)けては、
努力もへちまもあるものか。

  季節(とき)が流れる、城寨(おしろ)が見える。

私が何を言つてるのかつて?
言葉なんぞはふつ飛んぢまへだ!

  季節(とき)が流れる、城寨(おしろ)が見える!




  朝の歌
    中原中也

天井に 朱(あか)きいろいで
  戸の隙を 洩れ入る光、
鄙(ひな)びたる 軍楽の憶(おも)ひ
  手にてなす なにごともなし。

小鳥らの うたはきこえず
  空は今日 はなだ色らし、
倦(う)んじてし 人のこころを
  諫(いさ)めする なにものもなし。

樹脂(じゆし)の香に 朝は悩まし
  うしなひし さまざまのゆめ、
森竝[もりなみ]は 風に鳴るかな

ひろごりて たひらかの空、
  土手づたひ きえてゆくかな
うつくしき さまざまの夢。




  一つのメルヘン
    中原中也

秋の夜は、はるかの彼方(かなた)に、
小石ばかりの、河原があつて、
それに陽は、さらさらと
さらさらと射してゐるのでありました。

陽といつても、まるで硅石(けいせき)か何かのやうで、
非常な個体の粉末のやうで、
さればこそ、さらさらと
かすかな音を立ててもゐるのでした。

さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、
淡い、それでゐてくつきりとした
影を落としてゐるのでした。

やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、
今迄流れてもゐなかつた川床に、水は
さらさらと、さらさらと流れてゐるのでありました……




  ゆきてかへらぬ
        ――京都――
    中原中也

 僕は此の世の果てにゐた。陽は温暖に降り洒(そそ)ぎ、風は花々揺(ゆす)つてゐた。

 木橋の、埃りは終日、沈黙し、ポストは終日赫々(あかあか)と、風車を付けた乳母車(うばぐるま)、いつも街上[がいじょう]に停(とま)つてゐた。

 棲む人達は子供等は、街上に見えず、僕に一人の縁者(みより)なく、風信機(かざみ)の上の空の色、時々見るのが仕事であつた。

 さりとて退屈してもゐず、空気の中には蜜があり、物体ではないその蜜は、常住食すに適してゐた。

 煙草くらゐは喫つてもみたが、それとて匂ひを好んだばかり。おまけに僕としたことが、戸外でしか吹かさなかつた。

 さてわが親しき所有品(もちもの)は、タオル一本。枕は持つてゐたとはいへ、布団(ふとん)ときたらば影だになく、歯刷子(はぶらし)くらゐは持つてもゐたが、たつた一冊ある本は、中に何も書いてはなく、時々手にとりその目方、たのしむだけのものだつた。

 女たちは、げに慕はしいのではあつたが、一度とて、会ひに行かうと思はなかつた。夢みるだけで沢山だつた。

 名状しがたい何物かゞ、たえず僕をば促進し、目的もない僕ながら、希望は胸に高鳴つてゐた。

           *             *
                  *

 林の中には、世にも不思議な公園があつて、不気味な程にもにこやかな、女や子供、男達散歩してゐて、僕に分らぬ言語を話し、僕に分らぬ感情を、表情してゐた。

 さてその空には銀色に、蜘蛛(くも)の巣が光り輝いてゐた。




   中原中也の思ひ出
     小林秀雄

鎌倉比企ケ谷(ひきがやつ)妙本寺境内に、海棠(かいどう)の名木があつた。
こちらに来て、その花盛りを見て以来、私は毎年のお花見を欠かした事がなかつたが、先年枯死した。枯れたと聞いても、無残な切株を見に行くまで、何んだか信じられなかつた。それほど前の年の満開は例年になく見事なものであつた。名木の名に恥ぢぬ堂々とした複雑な枝ぶりの、網の目の様に細かく分れて行く梢(こずえ)の末々まで、極度の注意力を以つて、とでも言ひ度(た)げに、綴細な花を附けられるだけ附けてゐた。私はF君と家内と三人で弁当を開き、酒を呑み、今年は花が小ぶりの様だが、実によく附いたものだと話し合つた。(略)
中原と一緒に、花を眺めた時の情景が、鮮やかに思び出された。中原が鎌倉に移り住んだのは、死ぬ年の冬であつた。前年、子供をなくし、発狂状態に陥つた事を、私は知人から聞いてゐたが、どんな具合に恢復し、どんな事情で鎌倉に来るやうになつたか知らなかつた。久しく殆ど絶交状態にあつた彼は、突然現れたのである。

晩春の暮方、二人は石に腰掛け、海棠の散るのを黙つて見てゐた。花びらは死んだ様な空気の中を、まつ直ぐに間断なく、落ちてゐた。樹蔭の地面は薄桃色にべつとりと染まつてゐた。
あれは散るのぢやない、散らしてゐるのだ、一とひら一とひらと散らすのに、吃度(きっと)順序も速度も決めてゐるに違ひない、何んといふ注意と努力、私はそんな事を何故だかしきりに考へてゐた。驚くべき美術、危険な誘惑だ、俺達にはもう駄目だが、若い男や女は、どんな飛んでもない考へか、愚行を挑発されるだらう。花びらの運動は果しなく、見入つてゐると切りがなく、私は、急に厭な気持ちになつて来た。我慢が出来なくなつて来た。
その時、黙つて見てゐた中原が、突然「もういゝよ、帰らうよ」と言つた。私はハッとして立上り、動揺する心の中で忙し気に言葉を求めた。
「お前は、相変らずの千里眼だよ」と私は吐き出す様に応じた。
彼は、いつもする道化た様な笑ひをしてみせた。二人は、八幡宮の茶店でビールを飲んだ。夕闇の中で柳が煙つてゐた。彼は、ビールを一と口飲んでは、「あゝ、ボーヨー、ボーヨー」と喚(わめ)いた。
「ボーヨ一つて何んだ」
「前途茫洋さ、あゝ、ボーヨー、ボ−ヨー」と彼は眼を据ゑ、悲し気な節を付けた。
(略)




  
    中原中也

ホラホラ、これが僕の骨だ、
生きてゐた時の苦労にみちた
あのけがらはしい肉を破つて、
しらじらと雨に洗はれ、
ヌックと出た、骨の尖(さき)。

それは光沢もない、
ただいたづらにしらじらと、
雨を吸収する、
風に吹かれる、
幾分空を反映する。

生きてゐた時に、
これが食堂の雑踏の中に、
坐つてゐたこともある、
みつばのおしたしを食つたこともある、
と思へばなんとも可笑(をか)しい。

ホラホラ、これが僕の骨――
見てゐるのは僕? 可笑しなことだ。
霊魂はあとに残つて、
また骨の処にやつて来て、
見てゐるのかしら?

故郷(ふるさと)の小川のへりに、
半ばは枯れた草に立つて、
見てゐるのは、――僕?
恰度(ちやうど)立札ほどの高さに、
骨はしらじらととんがつてゐる。




  死んだ中原
   小林秀雄

君の詩は自分の死に顔が
わかつて了(しま)つた男の詩のやうであつた
ホラ、ホラ、これが僕の骨
と歌つたことさへあつたつけ

僕の見た君の骨は
鉄板の上で赤くなり、ボウボウと音をたててゐた
君が見たといふ君の骨は
立札ほどの高さに白々と、とんがつてゐたさうな

ほのか乍ら確かに君の屍臭を嗅いではみたが
言ふに言われぬ君の額の冷たさに触つてはみたが
たうたう最後の灰の塊りを竹箸の先で積もつてはみたが
この僕に一体何が納得出来ただろう

夕空に赤茶けた雲が流れ去り
見窄(みすぼ)らしい谷間ひに夜気が迫り
ポンポン蒸気が行く様な
君の焼ける音が丘の方から降りて来て
僕は止むなく隠坊の娘やむく犬どもの
生きてゐるのを確かめるやうな様子であつた

あゝ、死んだ中原
僕にどんなお別れの言葉がいえようか
君に取り返しのつかぬ事をして了つたあの日から
僕は君を慰める一切の言葉をうつちやつた

あゝ、死んだ中原
例へばあの赤茶けた雲に乗って行け
何んの不思議な事があるものか
僕達が見て来たあの悪夢に比べれば
さようなら旧市庁舎プロジェクト「ハシワタス」 [2025年05月18日(Sun)]
5月23日(金)〜6月1日(日)、山口市旧庁舎で、さようなら旧市庁舎プロジェクト「ハシワタス」が開催されますぴかぴか(新しい)

5月23日(金)の中原中也中也を読む会は、「さようなら旧市庁舎プロジェクト」の中原中也関連展示等見学です。

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本プロジェクトは2025年5月に山口市庁舎が新市庁舎に移転するにあたり、現市庁舎が解体されるまでの数週間、市民による有効活用ができるのではないかという発想のもとに企画されたプロジェクトです。

建物自体は山口大学教育学部の学舎として建設され使用されていましたが、大学の移転に伴い山口市が市庁舎として受け継いだものです。

現在、一般の市民にとってこの建物は市役所として馴染み深いですが、かつてこの建物で学んだ方々からは、その当時の学舎を懐かしむ声も多く聞かれます。

このような建物を一時的ではありますが、現代アートの美術展やアーカイブ展示、ワークショップなどの様々なイベントを行うことで、この建物を契機として過去を振り返り、現在を確認し、未来につなげてゆく市民参加による文化・芸術のイベントになることを目的としています。

令和に入り、日本の各地では高度経済成長期に建設された市庁舎がその耐久年数を終え、新しい市庁舎が建設されている市町も多くあります。

山口市近隣の多くの市も新しい市庁舎を建てていますが、旧来の建物を愛でる文化的なイベントはあまり為されていません。

スクラップ&ビルドが日本の都市の新陳代謝には不可欠ですが、そのスピード感を一旦止めてヒューマンスケールで愛でてみること、立ち佇まったり振り返ってみることは当該の市民にとってまたとない文化的な経験となって、未来のまちづくりを真剣に考えてゆくきっかけにもなるのではないでしょうか。

テーマとなっている「ハシヲワタス」はそのような意味を込めており、一時的なイベントや展覧会だけに留まらず次代の新庁舎を起点とした周辺のまちづくりに生かしてゆきたいと考えています。



るんるん日時るんるん 2025年5月23日(金)〜6月1日(日)12:00〜18:00 (最終日17:00まで)
るんるん場所るんるん 旧山口市庁舎

主たるイベントの企画概要

現代アートの展覧会

山口ゆかりのアーティストの展覧会
山口大学教育学部美術教育教室の関係者による小品展示
秋吉台国際芸術村:アーティスト・アーカイブの展示(モニターで上映)
山口情報芸術センター[YCAM]:「Afternote」の展示・上映
山口現代芸術研究所(YICA)会員・元会員による展示
ギャラリーシマダの関連アーティストの作品展示
ギャラリーナカノの関連アーティストの作品展示
三本松画廊の関連アーティストの作品展示
Do a Front によるプレゼンテーション
故、田中米吉氏の作品展示

動態保存としてのアーカイブ
…過去から・今ここ・そして未来へ…


山口大学のアーカイブ
墨蹟資料(映像データ)の展示・上映
山口大学図書館、及び山口大学同窓会所有の写真等資料の展示
山口大学教育学部同窓会事務局及び会員提供の写真等資料の展示
山口大学製作映画「学園」の上映

山口市、山口市役所のアーカイブ
サンデー山口、街なか大学・NPO法人山口まちづくりセンター、等の資料の展示・上映
新本庁舎新築工事のドローン撮影動画の上映

中原中也記念館のアーカイブ
中原中也の師範学校附属小学校時代の資料(パネルや写真)の展示

アーカイブ・ラボ/メッセージコーナー
みんなでつくるアーカイブ/…これまで…から…これから…へ…
文章やドローイング、絵画等で、思い出や今後の夢などを自由に表現できる空間

その他のイベント等

カフェ・プロジェクト:アート・カフェ/オーガニック
おむすびワークショップ、なごみカフェ(山口大学教育学部附属特別支援学校)等

エジンバラ~山口2025
パトリック・ゲディスの部屋、エジンバラ〜山口(1995、2004)のアーカイブ等

合唱・コンサート
秋吉台国際芸術村、山口大学同窓会、山口芸術短期大学同窓会による合唱・演奏等

山口アートゼミナール・プレゼンテーション
高校生制作のアニメーションの上映+作品展示

クコノッコ
子どもたちの工作ワークショップ+作品展示

草月流いけばな 山蛍
竹と花で創作、展示


るんるん実行委員会参加団体るんるん
山口大学、山口県立大学、山口情報芸術センター、中原中也記念館、秋吉台国際芸術村、山口現代芸術研究所(YICA)、山口大学同窓会、山口大学教育学部同窓会、街なか大学実行委員会、Do a Front、山口市有機農業推進協議会

るんるん協力団体るんるん
山口県立美術館、山口芸術短期大学同窓会、NPO法人山口まちづくりセンター、サンデー山口、山口アートゼミナール、ギャラリーナカノ、三本松画廊、クリエイティブ・スペース赤れんが、草月流いけばな 山蛍



中原中也中也を読む会
るんるん日時るんるん 5月23日(金)
るんるん集合時間るんるん 13:30集合
るんるん集合場所るんるん 山口市役所 旧本庁舎 玄関前
るんるん内容るんるん
「さようなら旧市庁舎プロジェクト」の中原中也関連展示等見学
るんるん参加費るんるん 無料
るんるん事前予約不要
第30回中原中也賞受賞詩集 高村而葉『生きているものはいつも赤い』を読む @ 中原中也を読む会 [2025年04月23日(Wed)]
4月25日(金)、中原中也記念館で、中原中也を読む会「第30回中原中也賞受賞詩集 高村而葉(たかむらじよう)『生きているものはいつも赤い』を読む」が開催されますぴかぴか(新しい)

『生きているものはいつも赤い』
(高村而葉/詩 思潮社 2024.11.15)
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るんるん日時るんるん 2025年4月25日(金)13:30〜15:00
るんるん場所るんるん 中原中也記念館

るんるん内容るんるん 第30回中原中也賞受賞詩集 高村而葉『生きているものはいつも赤い』を読む

るんるん参加費るんるん 無料
るんるん申込るんるん 不要
 ※初めて参加希望の方のみ、事前に電話(083-932-6430)にて申込


かわいい中原中也を読む会かわいい
中原中也を読む会は、詩を読み深めたり、詩に曲をつけたものを聴いたり、 記念館の展示を学芸担当職員の解説とともに観たりしながら、 中也の詩の世界を楽しく味わおう、という会です。 詩にちょっと興味はあるけど なんか難しそう… という方に是非オススメです。
毎月1回、第4金曜日 13:30〜15:00



第30回中原中也賞 高村而葉氏『生きているものはいつも赤い』特別展示

るんるん期間るんるん 2025年4月16日(水)〜5月25日(日)
るんるん場所るんるん 中原中也記念館 読書コーナー
るんるん主な展示資料るんるん 受賞詩集、挿画、関連書籍など
第30回中原中也賞 贈呈式・記念講演 [2025年04月22日(Tue)]
4月29日(火・祝日)、湯田温泉ユウベルホテル松政で、第30回中原中也賞 贈呈式・記念講演が開催されますぴかぴか(新しい)

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▲『市報やまぐち』No.455 2025年4月15日号
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日本の近代詩史に偉大な貢献をなし、今なお多くの人々に愛されている山口市出身の詩人中原中也。その業績を永く顕彰することを目的に、新鮮な感覚を備えた優れた現代詩の詩集を表彰する中原中也賞の贈呈式と記念講演を行います。

第30回「中原中也賞」では、2023年12月1日から2024年11月30日までに刊行された現代詩の詩集247点が寄せられました。
2025年2月15日、最終選考作品として選ばれた6作品(高嶋樹壱『一千暦の帰り道』(七月堂)、高塚しい 『六月の幻想』(鏡燈社)、高村而葉『生きているものはいつも赤い』(思潮社)、のもとしゅうへい『通知センター』(思潮社)、南椌椌『ソノヒトカヘラズ』(七月堂)、湯村りす『ZOO』(私家版))を対象に、山口市の湯田温泉ユウベルホテル松政で選考会(選考委員:カニエ・ナハ(詩人)、川上未映子(作家・詩人)、野崎有以(詩人)、蜂飼耳(詩人)、穂村弘(歌人))が開催され、選考の結果、高村而葉さんの『生きているものはいつも赤い』(思潮社)に決定しました。
贈呈式は4月29日(火・祝)に行われ、受賞者には、正賞として中也と親交のあった彫刻家高田博厚(1900〜87)制作の中原中也ブロンズ像と、副賞として100万円が贈呈されます。

るんるん時 間るんるん 15:30〜17:50 (開場15:00)
るんるん会 場るんるん 湯田温泉ユウベルホテル松政 2階 芙蓉の間

るんるんプログラムるんるん

贈呈式
 るんるん時間 15:30〜16:10
 るんるん受賞者 高村而葉
 るんるん受賞詩集 『生きているものはいつも赤い』

記念講演
 るんるん時間 16:50〜17:50
 るんるん講師 北川透(詩人・文芸批評家)
 るんるん演題 毒のごとく清きものー中原中也の詩と手紙


るんるん申 込るんるん 事前申込不要
るんるん入場料るんるん 無料
るんるん手話通訳 ・ 要約筆記 るんるん 4月18日(金)までに、電話、FAX、E メールのいずれかで市文化交流課に申込
るんるん駐車場るんるん  なし
 ※公共交通の利用
 ※自家用車の場合は、周辺の有料駐車場を利用
るんるん問 合るんるん 山口市交流創造部文化交流課
 電話 083-934-2717
 fax to 083-934-2670
 mail to bunka@city.yamaguchi.lg.jp



『生きているものはいつも赤い』
(高村而葉/詩 思潮社 2024.11.15)
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眠れ蜜 @ YCAMシネマ 中原中也記念館連携上映 [2025年04月21日(Mon)]
4月28日(月)〜5月6日(火)、山口情報芸術センターで、詩人・佐々木幹郎 シナリオ、長谷川泰子 出演 「眠れ蜜」が中原中也記念館連携上映されますぴかぴか(新しい)

4月28日(月)、佐々木幹郎トークイベントが開催されますぴかぴか(新しい)


詩人・佐々木幹郎がシナリオを担当。監督は「ねじ式映画 私は女優?」の岩佐寿弥。「若」「熟」「老」、3つの世代に属する3人の“女優”がそれぞれ「自分自身」という役柄で演じるオムニバス映画。
中原中也、小林秀雄らとの恋を遍歴した「老」の世代の主役・長谷川泰子の存在感が際立つ一作。
女の一生はドラマであり、そのドラマこそが実人生であることを描く。


るんるん上映日程るんるん
2025年4月28日(月)13:05〜14:45
4月29日(火)13:05〜14:45
5月1日(木)13:00〜14:40
5月3日(土)15:10〜16:50
5月4日(日)15:10〜16:50
5月5日(月)15:10〜16:50
5月6日(火)15:10〜16:50

るんるん場所るんるん 山口情報芸術センター 2階 スタジオC
  〒753-0075 山口市中園町7-7
  電話 083-901-2222

るんるん作品るんるん
1976年/日本/100分
監督:岩佐壽彌
脚本:佐々木幹郎
出演:長谷川泰子、吉行和子、根岸衣絹江、石橋蓮司、岸部シロー、和田周

るんるんチケットるんるん 館内2階・スタジオC受付にて購入
 一般1,300円 any会員・特別割引・25歳以下800円
 ※特別割引:65歳以上と障がい者および同行の介助者


かわいい佐々木幹郎トークイベント
 るんるん日時 4月28日(月)14:50〜15:50


かわいい佐々木幹郎かわいい
詩人。1947年奈良に生まれ大阪で育つ。ミシガン州立オークランド大学客員研究員、東京藝術大学大学院音楽研究科音楽文芸非常勤講師を歴任。
第1回(1996年)から第28回(2023年)まで中原中也賞(山口市と中原中也賞運営委員会が主催)選考委員を務める。
詩集に『蜂蜜採り』(書肆山田)【高見順賞】、『明日』(思潮社)【萩原朔太郎賞】、『鏡の上を走りながら』(思潮社)【大岡信賞】など。
評論集に『中原中也』(筑摩書房)【サントリー学芸賞】、『アジア海道紀行』(みすず書房)【読売文学賞】、『東北を聴く―民謡の原点を訪ねて』(岩波新書)、『中原中也―沈黙の音楽』(岩波新書)など。
『新編中原中也全集』全6巻(角川書店)責任編集委員。



『ゆきてかへらぬ 中原中也との愛』
(長谷川泰子/述 村上護/編 講談社 1974)
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『中原中也との愛 ゆきてかへらぬ』
(角川ソフィア文庫)
(長谷川泰子/述 村上護/編 KADOKAWA 2006.3)
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中原中也生誕祭2025 空の下の朗読会 @ 中原中也記念館 [2025年04月20日(Sun)]
4月29日(火・祝)は、中原中也の118回目の誕生日です。
中原中也記念館で、中原中也生誕祭「空の下の朗読会」が開催されますぴかぴか(新しい)

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今年は中原中也の118回目の生誕日となります。
1907年山口市湯田温泉に生まれ、30年の短い生涯を詩にささげた中原中也。
中也の生誕日である4月29日に、中也の生まれた場所で、詩の朗読を好んだ中也にならい、自由参加の朗読会をおこないます。観覧のみも大歓迎!
あわせて、ゲストによるミニライブもお楽しみください。


るんるん日時るんるん 2025年4月29日(火・祝)
るんるん会場るんるん 中原中也記念館前庭   
 山口市湯田温泉1丁目11−21
 ※雨天時:湯田温泉ユウベルホテル松政

るんるんプログラムるんるん

[第1部]  朗読会 
中原中也の生誕地で朗読をしてみませんか?中也の詩、自作の詩など問いません。
ご参加&ご観覧お待ちしています。
朗読を希望される方は、事前に予約を受付けます。


 るんるん時間 12:30〜13:40
 るんるん朗読者募集
  ※1組3分以内
   先着20組
   中原中也記念館WEBサイトまたは電話(083-932-6430)にて
  ※20組満席となりました。
   希望の場合は、当日時間があれば、参加可能


[第2部] ミニライブ 中井 智彦 
歌手・俳優の中井智彦によるミニライブを開催。力強くのびやかな歌声を、ぜひご堪能ください

 るんるん時間  14:00〜15:00
 るんるん出演 中井智彦、長濱司(ピアノ)


るんるん入場料るんるん 無料
 ※4月29日は中原中也記念館(9:00〜18:00)の入館も無料
るんるん主催るんるん 山口市、公益財団法人山口市文化財団法人 中原中也記念館
るんるん後援るんるん 山口市教育委員会


かわいい中井智彦(なかい・ともひこ)かわいい
歌手・俳優・表現者。神奈川県出身。東京藝術大学卒業。2007年『レ・ミゼラブル』で初舞台。2010年から5年間、劇団四季に所属。『美女と野獣』と『オペラ座の怪人』はそれぞれ約500ステージをつとめる。艶のあるバリトンを持ち味にミュージカルや歌手活動をはじめ、最近はラジオ番組のパーソナリティなど活躍の場を広げている。劇団四季在団中に図書館で偶然手にした『中原中也全集』に深く感銘を受け、中也の感じた藝術を形にしようと舞台の創作を開始。16′年に企画構成・作曲・演出を自ら手がける独り舞台『詩人・中原中也の世界』を、22年に『ワタシノコト』を発表。以降もブラッシュアップを重ねながら公演創作を続けている。



X(twitter)企画 #中也web朗読会2025
記念館前庭で開催している「空の下の朗読会」と同時に「web上の朗読会」を開催!中原中也の詩や自作の詩を朗読して、X(twitter)へ投稿してください。皆さんのご参加をお待ちしています。

るんるん日時るんるん 4月29日(火・祝)9:00〜17:00

・中原中也もしくは自作の詩の朗読を動画に撮って、ポストしてください。
・ハッシュタグ「#中也web朗読会2025」をつける
・朗読する詩の著作権を守り、公序良俗に反する映像を用いないことにご注意ください。
ゆきてかへらぬ @ YCAMシネマ 中原中也記念館連携上映 [2025年04月17日(Thu)]
4月19日(土)〜5月6日(火)、山口情報芸術センターで、 「ゆきてかへらぬ」が中原中也記念館連携上映されますぴかぴか(新しい)

4月19日(土)、「根岸吉太郎+中原豊トークイベント」が開催されますぴかぴか(新しい)

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▲『市報やまぐち』No.455 2025(令和7)年4月15日号

るんるん日時るんるん
 2025年年4月19日(土)10:30〜12:38
  4月20日(日)10:30〜12:38
  4月23日(水)10:30〜12:38
  4月25日(金)10:30〜12:38
  4月26日(土)16:40〜18:48
  4月27日(日)16:40〜18:48
  4月28日(月)10:30〜12:38
  4月29日(火)10:30〜12:38
  5月1日(木)10:30〜12:38
  5月2日(金)10:30〜12:38
  5月3日(土)12:35〜14:43
  5月4日(日)12:35〜14:43
  5月5日(月)12:35〜14:43
  5月6日(火)12:35〜14:43
るんるん場所るんるん 山口情報芸術センター 2階 スタジオC
  〒753-0075 山口市中園町7-7
  電話 083-901-2222

るんるん作品るんるん
 2025年/日本/128分/配給:キノフィルムズ
 監督 根岸吉太郎
 脚本 田中陽造
 音楽 岩代太郎
 主題歌 キタニタツヤ「ユーモア」
 出演 
  広瀬すず:長谷川泰子
  木戸大聖:中原中也
  岡田将生:小林秀雄
  田中俊介:富永太郎
  トータス松本:鷹野叔(モデルは永井叔(よし))
  瀧内公美:長谷川イシ(泰子の母)
  草刈民代:スター女優
  カトウシンスケ:辰野教授(辰野隆(ゆたか)東京大学フランス文学主任教授。小林秀雄の恩師)
  藤間爽子:中原孝子
  柄本佑:勤め人

るんるんチケットるんるん 当日券のみ。館内2階・スタジオC受付にて購入
 一般1,400円 25歳以下1,200円 65歳以上1,200円 障がい者(介助者1名)1,000円


かわいい根岸吉太郎+中原豊トークイベント
 るんるん日時 4月19日(土)12:45〜13:25
 るんるん場所 2階 スタジオC
 るんるん登壇者 根岸吉太郎(監督)、中原豊(中原中也記念館館長)


かわいいアフターアワーカフェ
 るんるん日時 4月19日(土)13:25〜14:25
 るんるん場所 2階 ギャラリー
 るんるん対象作品 「ゆきてかへらぬ」
 るんるん参加費 無料




かわいい根岸吉太郎(ねぎし・きちたろう)かわいい
監督。
1950年生まれ、東京都出身。早稲田大学第一文学部演劇学科修了後、日活に入社。1978年『オリオンの殺意より、情事の方程式』で初監督を務める。81年『遠雷』でブルーリボン賞監督賞、芸術祭選奨新人賞を受賞する。2009年の映画『ヴィヨンの妻〜桜桃とタンポポ〜』は、モントリオール世界映画祭最優秀監督賞に輝くなど、国内外で高い評価を得た。ほか主な監督作品に『狂った果実』『探偵物語』『ひとひらの雪』『ウホッホ探検隊』『永遠の1/2』『絆−きずな−』『透光の樹』『雪に願うこと』『サイドカーに犬』など。最新映画は新進女優と詩人・中原中也、文芸評論家の小林秀雄、実在の男女3人の関係を軸に描いた『ゆきてかへらぬ』。

かわいい中原豊(なかはら・ゆたか)かわいい
1958年、下関市生まれ。山口大学文理学部(現人文学部)卒業後、九州大学大学院修士課程修了。長崎大学教育学部助教授などを経て2003年4月から記念館副館長、2009年4月より現職。共著書に『中原中也を読む』(笠間書院)など。



ゆきてかへらぬ  −−京都−−  
   中原中也

 僕は此の世の果てにゐた。陽は温暖に降り洒〔そそ〕ぎ、風は花々揺つてゐた。

 木橋の、埃〔ほこ〕りは終日、沈黙し、ポストは終日赫々〔あかあか〕と、風車を付けた乳母車、いつも街上に停つてゐた。

 棲〔す〕む人達は子供等は、街上に見えず、僕に一人の縁者〔みより〕なく、風信機〔かざみ〕の上の空の色、時々見るのが仕事であつた。

 さりとて退屈してもゐず、空気の中には蜜があり、物体ではないその蜜は、常住食すに適してゐた。

 煙草くらゐは喫つてもみたが、それとて匂ひを好んだばかり。おまけに僕としたことが、戸外でしか吹かさなかつた。

 さてわが親しき所有品〔もちもの〕は、タオル一本。枕は持つてゐたとはいへ、布団ときたらば影だになく、歯刷子〔はぶらし〕くらゐは持つてもゐたが、たつた一冊ある本は、中に何にも書いてはなく、時々手にとりその目方、たのしむだけのものだつた。

 女たちは、げに慕はしいのではあつたが、一度とて、会ひに行かうと思はなかつた。夢みるだけで沢山だつた。

 名状しがたい何物かゞ、たえず僕をば促進し、目的もない僕ながら、希望は胸に高鳴つてゐた。

   *    *    *

 林の中には、世にも不思議な公園があつて、無気味な程にもにこやかな、女や子供、男達散歩してゐて、僕に分らぬ言語を話し、僕に分らぬ感情を、表情してゐた。
 さてその空には銀色に、蜘蛛〔くも〕の巣が光り輝いてゐた。



『ゆきてかへらぬ 田中陽造自選シナリオ集』
(田中陽造/著 国書刊行会 2025.2)
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『ゆきてかへらぬ 中原中也との愛』
(長谷川泰子/述 村上護/編 講談社 1974)
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『中原中也との愛 ゆきてかへらぬ』
(角川ソフィア文庫)
(長谷川泰子/述 村上護/編 KADOKAWA 2006.3)
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『中原中也全詩集』
(角川ソフィア文庫)
(KADOKAWA 2007.10)
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「一つのメルヘン」をイメージした「鉱物テラリウム」を作りました @ 山口県立山口博物館 [2025年03月14日(Fri)]
3月8日(土)、山口県立山口博物館教育普及講座 地学教室「鉱物テラリウムをつくろう」に参加しましたぴかぴか(新しい)

前半は担当の赤崎英里さんによる鉱物の結晶構造・劈開・比重・硬度や化学組成などのお話でした。

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それが、分かりやすくて面白い! 資料も、高校生の頃、こんなふうに自分でノートを取れていたら、地学は絶対5だっただろうなあ、と思うほど要点が実に的確にまとめられていましたおやゆびサイン

方解石と石英がクエン酸に溶けるかどうか化学的性質を調べる実験もしました。

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後半は鉱物テラリウム作り・・・
テラリウムとは「テラ(terra)=大地」と「リウム(arium)=場所」を合わせた言葉です。

各自持ち寄った瓶の中に、水晶、正長石、方解石、蛍石の4種類の鉱石から1つメインを選び、白雲母や砂、人工のコケ、木片チップ、紙などで飾り付けをしました。

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ツレは、山口の風景がテーマだとか言って、水晶をチョイスし、賑やかに飾っていました。
それが受けたのか、翌9日の読売新聞の山口県版にデカデカと載っていました!

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私は、中原中也の詩「一つのメルヘン」をイメージして、蛍石と白雲母と白砂だけでシンプルに仕上げました。詩に「硅石」って出てくるから、水晶をメインにした方がよかったかなあ・・・。

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家に帰って、ジグドールの中ちゃんと一緒にカメラ

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  一つのメルヘン

秋の夜は、はるかの彼方(かなた)に、
小石ばかりの、河原があつて、
それに陽は、さらさらと
さらさらと射してゐるのでありました。

陽といつても、まるで硅石(けいせき)か何かのやうで、
非常な個体の粉末のやうで、
さればこそ、さらさらと
かすかな音を立ててもゐるのでした。

さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、
淡い、それでゐてくつきりとした
影を落としてゐるのでした。

やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、
今迄流れてもゐなかつた川床に、水は
さらさらと、さらさらと流れてゐるのでありました…
「或る男の肖像」 @ 中原中也を読む会「原田和明のオートマタと中原中也」展見学(2) [2025年03月13日(Thu)]
前回の続き

一通り「原田和明のオートマタと中原中也」展を見学した後、別館2Fに移動し、皆で、「或る男の肖像」を読みましたぴかぴか(新しい)

中也の第二詩集『在りし日の歌』に収録されているのにもかかわらず、私自身あまり注目していなかった詩です。
何回も何回も、かみしめるように読んでみても、よく分からなかった詩です。

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  或る男の肖像

   1

洋行帰りのその洒落者(しやれもの)は、
(とし)をとつても髪に緑の油をつけてた。

夜毎喫茶店にあらはれて、
其処(そこ)の主人と話してゐる様(さま)はあはれげであつた。

死んだと聞いてはいつそうあはれであつた。

   2

      ――幻滅は鋼(はがね)のいろ。

髪毛の艶(つや)と、ラムプの金との夕まぐれ
庭に向つて、開け放たれた戸口から、
彼は戸外に出て行つた。

剃りたての、頚条(うなじ)も手頸(てくび)
どこもかしこもそはそはと、
寒かつた。

開け放たれた戸口から
悔恨は、風と一緒に容赦なく
吹込んでゐた。

読書も、しむみりした恋も、
あたたかいお茶も黄昏(たそがれ)の空とともに
風とともにもう其処にはなかつた。

   3

彼女は
壁の中へ這入(はひ)つてしまつた。
それで彼は独り、
部屋で卓子(テーブル)を拭いてゐた。


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原田さんは、この詩の第三節

彼女は
壁の中へ這入つてしまつた。
それで彼は独り、
部屋で卓子を拭いてゐた。


の部分をオートマタにされていて、物憂げな男がテーブルをいつまでもいつまでも拭き続けています。
彼女が帰って来てもいいように彼女の座る椅子も用意されています。

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「或る男の肖像」は、もともとは、1937(昭和12)年の『四季』三月号に発表された「或る夜の幻想」の第四節から六節として掲載されていたものです。

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  或る夜の幻想

    1 彼女の部屋

彼女には
美しい洋服箪笥があつた
その箪笥は
かはたれどきの色をしてゐた

彼女には
書物や
(そ)の他色々のものもあつた
が、どれもその箪笥に比べては美しくもなかつたので
彼女の部屋には箪笥だけがあつた

  それで洋服箪笥の中は
  本でいつぱいだつた

     2 村の時計

村の大きな時計は、
ひねもす働いてゐた

その字板のペンキは、
もう艶が消えてゐた

近寄つて見ると、
小さなひびが沢山にあるのだつた

それで夕陽が当つてさへか、
おとなしい色をしてゐた

時を打つ前には、
ぜいぜいと鳴つた

字板が鳴るのか中の機械が鳴るのか、
僕にも、誰にも分からなかつた

    3 彼 女

野原の一隅には杉林があつた。
なかの一本がわけても聳(そび)えてゐた。

或る日彼女はそれにのぼつた。
下りて来るのは大変なことだつた。

それでも彼女は、媚態(びたい)を棄てなかつた。
一つ一つの挙動は、まことみごとなうねりで
  夢の中で、彼女の臍(おへそ)は、
  背中にあつた。

    4 或る男の肖像

洋行帰りのその洒落者は、
齢をとつても髪にはポマードをつけてゐた。

夜毎喫茶店にあらはれて、
其処の主人と話してゐる様はあはれげであつた。

死んだと聞いては、
いつさうあはれであつた。

  5 無題
       ――幻滅は鋼のいろ。

髪毛の艶と、ラムプの金との夕まぐれ、
庭に向って、開け放たれた戸口から、
彼は戸外に出て行つた。

剃りたての、頸条も手頸も、
どこもかしこもそはそはと、
寒かつた。

開け放たれた戸口から
悔恨は、風と一緒に容赦なく
吹込んでゐた。

読書も、しむみりした恋も、
暖かい、お茶も黄昏の空とともに
風とともにもう其処にはなかつた。

    6 壁

彼女は
壁の中に這入つてしまつた
それで彼は独り、
部屋で卓子を拭いてゐた。
       (一九三三・一〇・一〇)


末尾にあるように、1933年10月10日に書かれました。ただ、初めに書かれた年であって、発表された1937(昭和12)年までの3年半の間、校正された可能性はあるということです。
1937(昭和12)年(というのは中也が亡くなった年です)は、長男文也が1936(昭和11)年11月になくなったこともあり詩が書けなくなった時期なんだそうです。

そして、「或る夜の幻想」全六節のうち第二詩集『在りし日の歌』には、第二節の「村の時計屋」と、第四、五、六節が「或る男の肖像」として収録されました。つまり、元の詩の男の物語だけが『在りし日の歌』に収録され、女の物語が省略されたということになります。

詩の中の「彼女」は長谷川泰子に違いありません。
「或る夜の幻想」を読めば、「或る男の肖像」でいきなり出てきた「彼女」との関係もよく分かり、

彼女は
壁の中に這入つてしまつた


というくだりも、よく理解できます。

それで彼は独り、
部屋で卓子を拭いてゐた。


テーブルを拭いて、去って行った「彼女」が帰って来るのをいつまでも待つ「彼」の心情もよく理解できます。
「彼」=中也の「孤独」を感じ、私的には、このオートマタが一番気に入っています。
「彼女」の物語を省いたことで、「彼」の孤独が際立つような気がします。


=皆の疑問=
1.「或る夜の幻想」の「ポマード」を「或る男の肖像」では「緑の油」としているが何故なんでしょう?
2.「剃りたての、頸条も手頸も、」とありますが、手頸を剃るって、普通のことだったのでしょうか?
「山羊の歌」「生い立ちの歌」 @ 中原中也を読む会「原田和明のオートマタと中原中也」展見学(1) [2025年03月12日(Wed)]
2月28日(金)、中原中也を読む会「企画展U(後期)「原田和明のオートマタと中原中也」見学」に参加しましたぴかぴか(新しい)

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会場には中也の詩を題材とした新作10点を中心に12点のオートマタが並でいます。

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展覧会を担当された池田誠さんの解説を聴きながら鑑賞していきました。

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オートマタ作家 原田和明さんに展覧会のお話を持っていったのが、2023年。
記念館としては、中也の詩をテーマにした新作1点を作っていただき、それ以外は、原田さんの今までの展示することを考えていたそうですが、原田さんは、会場全体を中也の詩をテーマにした作品を並べたい、と考えられたそうです。

中也のどの詩を選ぶか、どの部分をどんな仕掛けのオートマタにするか、とても大変な作業だっただろうこと、ご推察できます。

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最初にできたのが、「山羊の歌」

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中也が鉄琴で「やぎさんゆうびん」を演奏します。
中也には「山羊の歌」という詩はありませんが、第一詩集が『山羊の歌』(文圃堂 1934)という名前です。
一方「やぎさんゆうびん」は周南市(徳山)出身のまど・みちおの作詞(作曲は團伊玖磨)です。
実は、まど・みちおは1909(明治42)年、中也は1907(明治40)年の生まれで、それほど年は違いがないのです。
同じ世代の山口県人コラボを思いついた原田さんに拍手。
なお、鉄琴はドイツから取り寄せたそうで本格的なものです。

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それから、山口県立山口博物館の特別展「大解剖!からくりワールド」(2024年7月26日(金)〜8月25日(日))があったため製作は中断し、

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2025年1月までの4ヶ月間で、2ヶ月で2作品作るという驚異的なペースで、現在中原中也記念館の2F展示会場に並べられている10作品はできましたわーい(嬉しい顔)

最後にできたのが「生い立ちの歌」

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  生い立ちの歌
 
  T

    幼年時
私の上に降る雪は
真綿(まわた)のやうでありました

    少年時
私の上に降る雪は
(みぞれ)のやうでありました

    十七―十九
私の上に降る雪は
(あられ)のやうに散りました

    二十―二十二
私の上に降る雪は
(ひよう)であるかと思はれた

    二十三
私の上に降る雪は
ひどい吹雪とみえました

    二十四
私の上に降る雪は
いとしめやかになりました……

  U

私の上に降る雪は
花びらのやうに降つてきます
(たきぎ)の燃える音もして
凍るみ空の黝(くろ)む頃

私の上に降る雪は
いとなよびかになつかしく
手を差伸べて降りました

私の上に降る雪は
熱い額に落ちもくる
涙のやうでありました

私の上に降る雪に
いとねんごろに感謝して、神様に
長生したいと祈りました

私の上に降る雪は
いと貞潔でありました


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今冬は何度かカイズカイブキに雪が積もり、オートマタと同じ世界がそのまま広がっているようでした。

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▲2025年2月8日撮影


【次回に続く】
中也のジグドールを作りました [2025年03月01日(Sat)]
2月22日(土)、中原中也記念館 企画展U(後期)「原田和明のオートマタと中原中也」関連イベント「ワークショップ「中也のジグドールを作ろう」」に参加しましたぴかぴか(新しい)

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ジグドール(Jig Doll)(または、リンバージャック Limberjacks)とは 、 木かブリキでできたおもちゃの人形で、 人形の足下の板を振動させると、それに連動して手足が動くようになっていて、踊っているようにも、歩いているようにも見えます。

会場に展示されている「ピチべの哲学」、月でチャールストンを踊るお姫様の仕組みと同じです。

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オートマタ作家 原田和明さんとめぐみさんと一緒に中也のジグドール作るという夢のような企画・・・応募者多数のところ、厳正な抽選の結果、どうにか滑り込むことができました。
な、なんと、京都からの参加者もいて・・・恐るべし、原田さん人気!

材料は全て原田さんがカットされパーツを準備されていたので、参加者は彩色して組み立てるという、一見とても簡単そうなワークショップです。
でも、やり出すと私は肌色と黒色を塗るだけで精一杯。皆さんはそれぞれ工夫され、自分と同じ洋服を着せたり、お洒落なシャツを着せたりと唯一無二の中也ジグドールを作られていました。

最後に、めぐみさんの演奏に合わせて、9体の中也ジグドールを踊らせて大盛り上がりのうちに終わりました。

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原田さん、めぐみさん、池田さんをはじめとした中也館の方々、参加者の皆様、ありがとうございました。

制作中は全く余裕がなく写真を撮るどころでなかったので、後日(2月27日)、中ちゃんと一緒に中原中也記念館を巡ってカメラ

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  ピチべの哲学

チヨンザイチヨンザイピーフービー
俺は愁[かな]しいのだよ。
―――あの月の中にはな、
色蒼ざめたお姫様がいて………
それがチャールストンを踊ってゐるのだ。
けれどもそれは見えないので、
それで月は、あのやうに静かなのさ。

チヨンザイチヨンザイピーフービー
チャールストンといふのはとてもあのお姫様が踊るやふな踊りではないけれども、
そこがまた月の世界の神秘であつて、
却々[なかなか]六ヶ敷[むつかし]いところさ。

チヨンザイチヨンザイピーフービー
だがまたとつくと見てゐるうちには、
それがさうだと分つても来るさ。
迅[はや]いといへば迅い、緩(おそ)いといへば緩(おそ)いテムポで、
ああしてお姫様が踊つてゐられるからこそ、
月はあやしくも美しいのである。
真珠のやうに美しいのである。

チヨンザイチヨンザイピーフービー
ゆるやかなものがゆるやかだと思ふのは間違つてゐるぞォ。
さて俺は落付かう、なんてな、
さういふのが間違つてゐるぞォ。
イライラしてゐる時にはイライラ、
のんびりしてゐる時にはのんびり、
あのお月様の中のお姫様のやうに、
なんにも考へずに絶えずもう踊つてゐれあ
それがハタから見れあ美しいのさ。

チヨンザイチヨンザイピーフービー
真珠のやうに美しいのさ。
中也のジグドールを作ろう @ 中原中也記念館 2024年度企画展U(後期)「原田和明のオートマタと中原中也」 [2025年01月29日(Wed)]
2月22日(土)、中原中也記念館 2024年度企画展U(後期)「原田和明のオートマタと中原中也」で、ワークショップ「中也のジグドールを作ろう」が開催されますぴかぴか(新しい)
4月12日(土)、食事会「中原中也を味わう」が開催されますぴかぴか(新しい)

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ワークショップ「中也のジグドールを作ろう」

ヨーロッパに古くからあるおもちゃの人形・ジグドール。
中也の姿をしたジグドールを、原田さんと一緒に作ります。


るんるん日 時るんるん 2025年2月22日(土) 1・10:00〜12:00 2・14:00〜16:00
るんるん会 場るんるん 中原中也記念館
るんるん講 師るんるん 原田和明
るんるん募集人数るんるん 各回8名(応募者多数の場合は抽選)
るんるん参加費るんるん 3,000円(当日現金支払)
るんるん申込期間るんるん 1月29日(水)〜2月7日(金)
るんるん申込先るんるん https://chuyakan.jp/news/2024kikaku2-2/ の申込フォーム



食事会「中原中也を味わう」

原田さんが中也から作品を生み出したように、中也が料理になったらどうなるでしょうか。
展示見学の後、中也の人物像や詩から発想された特別メニューを、原田さんとともに味わいます。


るんるん日 時るんるん 2025年4月12日(土)17:15〜
るんるん食事会場るんるん 和食屋ごろん(湯田温泉1丁目)
るんるん募集人数るんるん 15名(先着順)
るんるん参加費るんるん 3,000円(飲み物代別)+ 展示観覧のための入館料
るんるん申込開始るんるん 1月29日(水)〜
るんるん申込先るんるん https://chuyakan.jp/news/2024kikaku2-2/ の申込フォーム



プロムナード・トーク(展示解説)

学芸担当職員が展示を深く掘り下げ、わかりやすく解説します。

るんるん日 時るんるん 2025年2月9日(日)、3月9日(日) いずれも14:00〜(約30分)
るんるん場 所るんるん 中原中也記念館
 ※事前申込不要  
 ※要入館料



中原中也を読む会 企画展U(後期)「原田和明のオートマタと中原中也」見学

展示を学芸担当職員の解説とともに鑑賞し、 中也の詩の世界を楽しく味います 

 るんるん日 時るんるん 2025年2月28日(金)13:30〜15:00
 るんるん場 所るんるん 中原中也記念館
 るんるん参加費るんるん 無料
 ※初めて中原中也を読む会に参加希望者は、事前に電話(083-932-6430)にて申込
原田和明のオートマタと中原中也 @ 中原中也記念館 2024年度企画展U(後期) [2025年01月01日(Wed)]
1月29日(水)〜4月13日(日)、中原中也記念館で、2024年度企画展U(後期)「原田和明のオートマタと中原中也」が開催されますぴかぴか(新しい)

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 山口市在住のオートマタ(自動機械)作家・原田和明。原田はこれまでも、酒瓶を持った中也がコミカルな動きを見せる「或る中也」や、中也の詩情を月まで届けるゲーム「ゆあーん ゆよーん 月旅行」など、中也の人物像や詩から発想した作品を制作してきました。

 本展では、中也をモチーフとした新作を始め、多様な原田の作品を展示し、観る人を楽しませる独創的な作品世界を紹介します。


るんるん日時るんるん 2025年1月29日(水)〜4月13日(日)9:00〜17:00(入館は16:30まで)
  休館日:月曜日(祝祭日の場合は翌日)、毎月最終火曜日
るんるん場所るんるん 中原中也記念館 2F
るんるん入館料るんるん ※2月18日は開館記念日で無料 
 一般330円(275円) 大学生・高等専門学校の学生220円(165円)
  ※( )は20名以上の団体(要事前申込)
 18歳以下、高等学校・中等教育学校・特別支援学校に在学する生徒 無料
 70歳以上 全額減免(無料) ※年齢のわかる身分証明書等を提示
 障害者手帳等(身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・戦傷病者手帳)の交付者、及びその介添人1名 全額減免(無料) ※手帳を提示
 生活保護受給者証の交付者 全額減免(無料) ※証書を提示
 「狐の足あと」足湯利者者 100円割引 ※足湯利用のレシートの提示


原田さんのインスタグラム(https://www.instagram.com/kazu_automata/)には、中原中也詩集『山羊の歌』「六月の雨」「幻影」「生い立ちの歌」をモチーフにした新作品について投稿がされています揺れるハート

今まで原田さんが発表された中原中也に関係する作品からピックアップしてみました。
以下の作品が展示されるかは分かりません。

『或る中也 | Drunken Poet』
山口市湯田出身の中原中也をモチーフにした作品で、酒瓶を振り回しながら、何やら訳の分からないことを言っているところです。
瓶のラベルには「山羊の酒」とあり、中也の第一詩集『山羊の歌』を彷彿とさせます。

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(2021年8月 山口市菜香亭にて)


『ゆあーん ゆよーん月旅行』
中原中也の詩情を月まで届けるゲームです。

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(2021年8月 C・S赤れんがにて)


『大内人形ラブラブアタック』
「雪舟」「中也」「サビエル」ではなく山口の伝統工芸品の「大内人形」のところをに玉を入れるコリントゲームです。

C5A93729-BBEC-4282-A5E0-09304646E9CD.jpeg 大内人形ラブラブアタックA 原田和明.PNG 大内人形ラブラブアタック 原田和明.PNG
(2021年8月 C・S赤れんがにて撮影)





 六月の雨

またひとしきり 午前の雨が
菖蒲(しやうぶ)のいろの みどりいろ
眼(まなこ)うるめる 面長き女(ひと)
たちあらはれて 消えてゆく

たちあらはれて 消えゆけば
うれひに沈み しとしとと
畠(はたけ)の上に 落ちてゐる
はてしもしれず 落ちてゐる

  お太鼓(たいこ)叩いて 笛吹いて
  あどけない子が 日曜日
  畳の上で 遊びます

  お太鼓叩いて 笛吹いて
  遊んでゐれば 雨が降る
  櫺子(れんじ)の外に 雨が降る




 幻影

私の頭の中には、いつの頃からか、
薄命さうなピエロがひとり棲んでゐて、
それは、紗(しや)の服かなんかを着込んで、
そして、月光を浴びてゐるのでした。

ともすると、弱々しげな手付けをして、
しきりと 手真似をするのでしたが、
その意味が、つひぞ通じたためしはなく、
あはれげな 思ひをさせるばつかりでした。

手真似につれては、唇(くち)も動かしてゐるのでしたが、
古い影絵でも見てゐるやう ―
音はちつともしないのですし、
何を云つてるのかは、分りませんでした。

しろじろと身に月光を浴び、
あやしくもあかるい霧の中で、
かすかな姿態をゆるやかに動かしながら、
眼付ばかりはどこまでも、やさしさうなのでした。




 生ひ立ちの歌

  

   幼年時
私の上に降る雪は
真綿のやうでありました

   少年時
私の上に降る雪は
霙のやうでありました

   十七〜十九
私の上に降る雪は
霰のやうに散りました

   二十〜二十二
私の上に降る雪は
雹であるかと思われた

   二十三
私の上に降る雪は
ひどい吹雪と見えました

   二十四
私の上に降る雪は
いとしめやかになりました……


   II

私の上に降る雪は
花びらのやうに降つてきます
薪の燃える音もして
凍るみ空の黝む頃

私の上に降る雪は
いとなびよかになつかしく
手を差し伸べて降りました

私の上に降る雪は
暑い額に落ちくもる
涙のやうでありました

私の上に降る雪に
いとねんごろに感謝して 神様に
長生きしたいと祈りました

私の上に降る雪は
いと貞節でありました
屋外展示「30歳の詩」(後期)を読む @ 中原中也記念館 中原中也を読む会 [2024年11月22日(Fri)]
今日11月22日(金)、中原中也記念館で、中原中也を読む会「屋外展示「30歳の詩」(後期)を読む」が開催されますぴかぴか(新しい)  

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詩を読み深めたり、詩に曲をつけたものを聴いたり、 記念館の展示を学芸担当職員の解説とともに観たりしながら、 中也の詩の世界を楽しく味わおう、という会です。 詩にちょっと興味はあるけど なんか難しそう… という方に是非オススメです。 初めて参加ご希望の方は、事前にお電話(083-932-6430)にてお申し込みください。

るんるん日 時るんるん 2024年11月22日(金)13:30〜15:00  
るんるん場 所るんるん 中原中也記念館
るんるん参加費るんるん 無料
るんるん主 催るんるん 中原中也記念館   電話 083-932-6430


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 雨の朝

((麦湯は麦を、よく焦がした方がいいよ。))
((毎日々々、よく降りますですねえ。))
((インキはインキを、使つたらあと、栓(せん)をしとかなけあいけない。))
((ハイ、皆さん大きい声で、一々(いんいち)が一(いち)……))
        上草履(うわぞうり)は冷え、
        バケツは雀の声を追想し、
        雨は沛然(はいぜん)と降つてゐる。
((ハイ、皆さん御一緒に、一二(いんに)が二(に)……))
        校庭は煙雨(けぶ)つてゐる。
        ――どうして学校といふものはこんなに静かなんだらう?
        ――家(うち)ではお饅(まん)ぢうが蒸(ふ)かせただらうか?
        ああ、今頃もう、家ではお饅ぢうが蒸かせただらうか?



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 子守唄よ

母親はひと晩ぢう、子守唄をうたふ
母親はひと晩ぢう、子守唄をうたふ
然しその声は、どうなるのだらう?
たしかにその声は、海越えてゆくだらう?
暗い海を、船もゐる夜の海を
そして、その声を聴届けるのは誰だらう?
それは誰か、ゐるにはゐると思ふけれど
しかしその声は、途中で消えはしないだらうか?
たとへ浪は荒くはなくともたとへ風はひどくはなくとも
その声は、途中で消えはしないだらうか?

母親はひと晩ぢう、子守唄をうたふ
母親はひと晩ぢう、子守唄をうたふ
淋しい人の世の中に、それを聴くのは誰だらう?
淋しい人の世の中に、それを聴くのは誰だらう?



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 秋の夜に、湯に浸り

秋の夜に、独りで湯に這入[はい]ることは、
淋しいぢやないか。

秋の夜に、人と湯に這入ることも亦[また]、
淋しいぢやないか。

話の駒が合つたりすれば、
その時は楽しくもあらう

然しそれといふも、何か大事なことを
わきへ置いといてのことのやうには思はれないか?

――秋の夜に湯に這入るには……
独りですべきか、人とすべきか?

所詮[しょせん]は何も、
決ることではあるまいぞ。

さればいつそ、潜(もぐ)つて死にやれ!
それとも汝、熱中事を持て!

   ※     ※
      ※

 四行詩

おまえはもう静かな部屋に帰るがよい。
煥発[かんぱつ]する都会の夜々の燈火を後(あと)に、
おまへはもう、郊外の道を辿(たど)るがよい。
そして心の呟[つぶや]きを、ゆつくりと聴くがよい。
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