第13回「やまぐち朗読Cafe」〜朗読と蓄音器ジャズの夕べ〜 @ ジャズスポット ポルシェA
[2019年08月11日(Sun)]
【前回の続き】
GSさんによるジャズの名曲「Summertime」を自分で訳したという詞の朗読。
HAさんによる『サンデー山口』(2019.07.20)の「中原中也 詩の栞No.4 梅雨と弟 『少女の友』昭和12年8月号」の朗読。
梅雨と弟
毎日々々雨が降ります
去年の今頃梅の実を持つて遊んだ弟は
去年の秋に亡くなつて
今年の梅雨にはゐませんのです
お母さまが おつしやいました
また今年も梅酒をこさはうね
そしたらまた来年の夏も飲物があるからね
あたしはお答へしませんでした
弟のことを思ひ出してゐましたので
去年梅酒をこしらふ時には
あたしがお手伝ひしてゐますと
弟が来て梅を放つたり随分と邪魔をしました
あたしはにらんでやりましたが
あんなことをしなければよかつたと
今ではそれを悔んでをります……
【ひとことコラム】毎年梅酒を作って翌年に備える、日常とはそんな営みの繰り返しです。すでに日常に戻ったように見える母に対して、姉は昨年秋で時間が止まってしまった弟を思い続けます。少女雑誌に掲載された詩ですが、二人の弟と愛児に先立たれた中也の実体験が濃い影を落としています。 (中原中也記念館 中原豊)
次にアーサー・ビナード『釣り上げては』(思潮社 2000.7)より朗読。
2001年の第6回中原中也賞を受賞した詩集です。
IKさんによるアーサー・ビナードの写真詩集『さがしています』(アーサー・ビナード/作 岡倉禎志/写真 童心社 2012.7)(表紙写真:「鍵束」中村明夫/寄贈 広島平和記念資料館/所蔵)より2篇「がんばれ がんばれ みんなでがんばろう」「いってきます いってきます」の朗読。
Jアーサー・ビナードの詩集『ゴミの日』(アーサー・ビナード/詩 古川タク/絵 2008.8 理論社)より朗読。
KHさんによる『文芸山口』より自作の詩の朗読。
Hさんは『文芸山口』の同人だそうです。
L中原館長による大岡昇平『中原中也』(角川書店 1974.1)より「秋の悲歎」の朗読。
『大岡昇平全集 18』(第18巻 評論X(中原中也))(筑摩書房 1995.1)に収録されています。
秋の悲歎
私は透明な秋の薄暮の中に墜ちる。戦慄は去つた。道路のあらゆる直線が甦る。あれらのこんもりとした貪婪な樹々さへも闇を招いてはゐない。
私はたゞ微かに煙を挙げる私のパイプによつてのみ生きる。あの、ほつそりとした白陶土製のかの女の頸に、私は千の静かな接吻をも惜しみはしない。今はあの銅(あかゞね)色の空を蓋ふ公孫樹の葉の、光沢のない非道な存在をも赦さう。オールドローズのおかつぱさんは埃も立てずに土塀に沿つて行くのだが、もうそんな後姿も要りはしない。風よ、街上に光るあの白痰を掻き乱してくれるな。
私は炊煙の立ち騰る都会を夢みはしない――土瀝青(チヤン)色の疲れた空に炊煙の立ち騰る都会などを。今年はみんな松茸を食つたかしら、私は知らない。多分柿ぐらゐは食へたのだらうか、それも知らない。黒猫と共に坐る残虐が常に私の習ひであつた……
夕暮、私は立ち去つたかの女の残像と友である。天の方に立ち騰るかの女の胸の襞(ひだ)を、夢のやうに萎れたかの女の肩の襞を私は昔のやうにいとほしむ。だが、かの女の髪の中に插し入つた私の指は、昔私の心の支へであつた、あの全能の暗黒の粘状体に触れることがない。私たちは煙になつてしまつたのだらうか? 私はあまりに硬い、あまりに透明な秋の空気を憎まうか?
繁みの中に坐らう。枝々の鋭角の黒みから生れ出る、かの「虚無」の性相(フイジオグノミー)をさへ点検しないで済む怖ろしい怠惰が、今私には許されてある。今は降り行くべき時だ――金属や蜘蛛の巣や瞳孔の栄える、あらゆる悲惨の市(いち)にまで。私には舵は要らない。街燈に薄光るあの枯芝生の斜面に身を委せよう。それといつも変らぬ角度を保つ、錫箔のやうな池の水面を愛しよう……私は私自身を救助しよう。
今回の「やまぐち朗読Cafe」は、「アーサー・ビナード vs 中原中也と富永太郎」という回でした。
14人が17篇を朗読しましたが、そのうち、アーサー・ビナード5篇、中也&富永太郎6編でした
何を朗読してもいいという自由な会なので、今回のようなことは珍しいことです。
次回のお知らせ
第14回「やまぐち朗読Cafe」〜朗読と蓄音器ジャズの夕べ〜は、10月16日(水)20:00〜です。
今日11日13:30〜より山口市小郡ふれあいセンターで開催の「アーサー・ビナードとともに平和を考える朗読会」では中原中也記念館の福田百合子名誉館長や中原豊館長も朗読されるそうです。
楽しみですね
定員の100名に達したかもしれませんが、ご興味のある方は
090-6451-8203(山口の朗読屋さん 林さん)
の方へお問い合わせを。
GSさんによるジャズの名曲「Summertime」を自分で訳したという詞の朗読。
HAさんによる『サンデー山口』(2019.07.20)の「中原中也 詩の栞No.4 梅雨と弟 『少女の友』昭和12年8月号」の朗読。
梅雨と弟
毎日々々雨が降ります
去年の今頃梅の実を持つて遊んだ弟は
去年の秋に亡くなつて
今年の梅雨にはゐませんのです
お母さまが おつしやいました
また今年も梅酒をこさはうね
そしたらまた来年の夏も飲物があるからね
あたしはお答へしませんでした
弟のことを思ひ出してゐましたので
去年梅酒をこしらふ時には
あたしがお手伝ひしてゐますと
弟が来て梅を放つたり随分と邪魔をしました
あたしはにらんでやりましたが
あんなことをしなければよかつたと
今ではそれを悔んでをります……
【ひとことコラム】毎年梅酒を作って翌年に備える、日常とはそんな営みの繰り返しです。すでに日常に戻ったように見える母に対して、姉は昨年秋で時間が止まってしまった弟を思い続けます。少女雑誌に掲載された詩ですが、二人の弟と愛児に先立たれた中也の実体験が濃い影を落としています。 (中原中也記念館 中原豊)
次にアーサー・ビナード『釣り上げては』(思潮社 2000.7)より朗読。
2001年の第6回中原中也賞を受賞した詩集です。
IKさんによるアーサー・ビナードの写真詩集『さがしています』(アーサー・ビナード/作 岡倉禎志/写真 童心社 2012.7)(表紙写真:「鍵束」中村明夫/寄贈 広島平和記念資料館/所蔵)より2篇「がんばれ がんばれ みんなでがんばろう」「いってきます いってきます」の朗読。
Jアーサー・ビナードの詩集『ゴミの日』(アーサー・ビナード/詩 古川タク/絵 2008.8 理論社)より朗読。
KHさんによる『文芸山口』より自作の詩の朗読。
Hさんは『文芸山口』の同人だそうです。
L中原館長による大岡昇平『中原中也』(角川書店 1974.1)より「秋の悲歎」の朗読。
『大岡昇平全集 18』(第18巻 評論X(中原中也))(筑摩書房 1995.1)に収録されています。
秋の悲歎
私は透明な秋の薄暮の中に墜ちる。戦慄は去つた。道路のあらゆる直線が甦る。あれらのこんもりとした貪婪な樹々さへも闇を招いてはゐない。
私はたゞ微かに煙を挙げる私のパイプによつてのみ生きる。あの、ほつそりとした白陶土製のかの女の頸に、私は千の静かな接吻をも惜しみはしない。今はあの銅(あかゞね)色の空を蓋ふ公孫樹の葉の、光沢のない非道な存在をも赦さう。オールドローズのおかつぱさんは埃も立てずに土塀に沿つて行くのだが、もうそんな後姿も要りはしない。風よ、街上に光るあの白痰を掻き乱してくれるな。
私は炊煙の立ち騰る都会を夢みはしない――土瀝青(チヤン)色の疲れた空に炊煙の立ち騰る都会などを。今年はみんな松茸を食つたかしら、私は知らない。多分柿ぐらゐは食へたのだらうか、それも知らない。黒猫と共に坐る残虐が常に私の習ひであつた……
夕暮、私は立ち去つたかの女の残像と友である。天の方に立ち騰るかの女の胸の襞(ひだ)を、夢のやうに萎れたかの女の肩の襞を私は昔のやうにいとほしむ。だが、かの女の髪の中に插し入つた私の指は、昔私の心の支へであつた、あの全能の暗黒の粘状体に触れることがない。私たちは煙になつてしまつたのだらうか? 私はあまりに硬い、あまりに透明な秋の空気を憎まうか?
繁みの中に坐らう。枝々の鋭角の黒みから生れ出る、かの「虚無」の性相(フイジオグノミー)をさへ点検しないで済む怖ろしい怠惰が、今私には許されてある。今は降り行くべき時だ――金属や蜘蛛の巣や瞳孔の栄える、あらゆる悲惨の市(いち)にまで。私には舵は要らない。街燈に薄光るあの枯芝生の斜面に身を委せよう。それといつも変らぬ角度を保つ、錫箔のやうな池の水面を愛しよう……私は私自身を救助しよう。
今回の「やまぐち朗読Cafe」は、「アーサー・ビナード vs 中原中也と富永太郎」という回でした。
14人が17篇を朗読しましたが、そのうち、アーサー・ビナード5篇、中也&富永太郎6編でした
何を朗読してもいいという自由な会なので、今回のようなことは珍しいことです。
次回のお知らせ
第14回「やまぐち朗読Cafe」〜朗読と蓄音器ジャズの夕べ〜は、10月16日(水)20:00〜です。
今日11日13:30〜より山口市小郡ふれあいセンターで開催の「アーサー・ビナードとともに平和を考える朗読会」では中原中也記念館の福田百合子名誉館長や中原豊館長も朗読されるそうです。
楽しみですね
定員の100名に達したかもしれませんが、ご興味のある方は
090-6451-8203(山口の朗読屋さん 林さん)
の方へお問い合わせを。
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