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こどもと本ジョイントネット21・山口


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詩人トーク「詩はどこへ向かうのか?――2020年に読む中原中也」 @ 第25回中原中也の会大会「2020年に読む中原中也」 [2020年09月14日(Mon)]
9月12日(土)、中原中也の会第25回大会「2020年に読む中原中也」にZoomウェビナーで視聴しましたぴかぴか(新しい)

吉田恵理さんによる「白秋をまねる中也」、中原豊さんによる「富士正晴の中原中也論――伊東静雄との交友を通じて」の研究発表の後、「詩はどこへ向かうのか?―2020年に読む中原中也」と題された詩人トークが、司会は蜂飼耳さん、パネリストはカニエ・ナハさん、杉本真維子さん、三角みづ紀さん、四元康祐さんで行われました。

開催の趣旨は、
 
このコロナ禍がもたらした社会の変化や距離感の変容の中、詩人たちはなにを思い、どんなことを考えているだろうか? 変わりゆく時代、言葉と向き合い、何を思うのか? 現在、日本語の詩を第一線で支える詩人たちをパネリストとして迎え、詩について、自由な議論が繰り広げられる場としたい。詩をめぐって、新たなグランドマップの手掛かりを探りたい。中原中也についても、それぞれの詩観に照らしたユニークな意見と見解を訊けるだろう。詩はどこへ向かうのか? 

ということでした。

まず、このコロナ禍の中、パネリストが何を考え、どう過ごしたか、などを話されました。
そして、詩人一人一人が、「2020年に読む中原中也」ということで、お薦めの中也の詩を紹介されました。

カニエ・ナハさんは、大林宣彦監督の遺作「海辺の映画館ーキネマの玉手箱」の冒頭で使われている「野卑時代」を選ばれました。
昨年の第24回中原中也の会大会で監督が中原中也の詩を場面に応じて用い、「純文学的映画」を目指す、と言われていましたが、カニエさんによると中也の詩が9編使われているそうです揺れるハート

 野卑時代

星は綺麗と、誰でも云ふが、
それは大概、ウソでせう
星を見る時、人はガツカリ
自分の卑少を、思ひ出すのだ

星を見る時、愉快な人は
今時減多に、ゐるものでなく
星を見る時、愉快な人は
今時、孤独であるかもしれぬ

それよ、混迷、卑怯に野卑に
人々多忙のせゐにてあれば
文明開化と人云ふけれど
野蛮開発と僕は呼びます

勿論、これも一つの過程
何が出てくるかはしれないが
星を見る時、しかめつらして
僕も此の頃、生きてるのです

    (一九三四・一一・二九)



杉本真維子さんは、既成のオノマトペ「さらさら」の新しい使い方に注目して、「一つのメルヘン」を選ばれました。

  一つのメルヘン

秋の夜は、はるかの彼方に、
小石ばかりの、河原があつて、
それに陽は、さらさらと
さらさらと射してゐるのでありました。

陽といつても、まるで珪石か何かのやうで、
非常な個体の粉末のやうで、
さればこそ、さらさらと
かすかな音を立ててもゐるのでした。

さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、
淡い、それでいてくつきりとした
影を落としてゐるのでした。

やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、
今迄流れてもゐなかつた川床に、水は
さらさらと、さらさらと流れてゐるのでありました……



三角みづ紀さんは、「四行詩」を選ばれました。
海外の詩祭などに積極的に参加し、移動をテコに書いていた三角さんは、コロナ禍で生活が一変したそうです。

  四行詩

おまへはもう静かな部屋に帰るがよい。 
煥発する都会の夜々の燈火を後に     
おまへはもう、郊外の道を辿るがよい。     
そして心の呟きを、ゆつくりと聴くがよい。



四元康祐さんは、「朝鮮女」を選ばれました。1994年ドイツに移住し、今年3月に34年ぶりに日本に帰国したばかりの四元さんにとって、日本での暮らしは、「世間」で暮らすこと。海外で暮らしていた「社会」とは全く違ったそうです。
この詩には世間が描かれている、と指摘されていました。同時代の中野重治「雨の降る品川駅」との違いも述べられていました。 

  朝鮮女

朝鮮女(をんな)の服の紐
秋の風にや縒(よ)れたらん
街道を往くをりをりは
子供の手をば無理に引き
額顰(しか)めし汝(な)が面(おも)
肌赤銅の乾物(ひもの)にて
なにを思へるその顔ぞ
――まことやわれもうらぶれし
こころに呆(ほう)け見ゐたりけむ
われを打見ていぶかりて
子供うながし去りゆけり……
軽く立ちたる埃(ほこり)かも
何をかわれに思へとや
軽く立ちたる埃かも
何をかわれに思へとや……
・・・・・・・・・・・


 
蜂飼耳さんは、否定的表現で始まる「北の海」を選ばれました。

  北の海

海にゐるのは、
あれは人魚ではないのです。
海にゐるのは、
あれは、浪ばかり。

曇つた北海の空の下、
浪はところどころ歯をむいて、
空を呪のろつてゐるのです。
いつはてるとも知れない呪。

海にゐるのは、
あれは人魚ではないのです。
海にゐるのは、
あれは、浪ばかり。



蜂飼さんは、選ばれたほとんどの詩が、詩集『在りし日の歌』にあることことに注目されていました。
在りし日の歌.jpg


パネリストの新作の作品ですかわいい

『三日間の石』(杉本真維子/著 菊池信義/装幀 響文社 2020.7)
初の散文集です。
装幀家の菊池信義によるとても凝った本です。ドイツ装です。
三日間の石.jpg


『どこにでもあるケーキ』(三角みづ紀/詩 塩川いづみ/装画 鈴木千佳子/装丁 ナナロク社 2020.8)
13才に託した詩集です。装幀もとても可愛らしいです。 
どこにでもあるケーキ (2).jpg

本文:120頁/詩33編+口絵2点+あとがき
造本: 文庫よりひとまわり大きい上製本です。小口と天地に赤インクを塗る、三方小口塗装です。表紙絵は塩川いづみさん。タイトルは細い金の箔。カバーの代わりにグラシン紙という半透明の紙を巻いています。
詩集『よいひかり』(小社)に続く、三角みづ紀の第8詩集は、詩人の記憶を重ねた13歳を描く33篇の書き下ろしです。
誰もが感じてきた変わっていく心と身体と家族との関係性、教室の疎外感や世界の美しさを、失った記憶が蘇るように描きだします。
タイトルの『どこにでもあるケーキ』をはじめ、一見すると否定的な言葉に、どこかそうありたいとも願う繊細な感情が見事に詩となっています。
すべて一人の目線で描かれるため、主人公のいる短い物語としても読め、しばらく詩から離れていたなという方にも、親しみやすい一冊です。
ナナロク社HP


『ホモサピエンス詩集 四元康祐翻訳集現代詩篇』(四元康祐/訳 澪標 2020.3)
南はブラジル、アルゼンチンから、北はアイルランド、リトアニアまで22ヶ国32人の詩人の詩のアンソロジーです。
ホモサピエンス詩集.jpg


『地球にステイ! 多国籍アンソロジー詩集』(四元康祐/編 クオン 2020.9)
パンデミックの中で詩人たちが見たものとは? 約20カ国、56人の詩人によるコロナ禍をめぐるアンソロジー詩集です。
地球にステイ!.jpg


『大岡信 『折々のうた』選 詩と歌謡 』(岩波新書)(蜂飼耳/編集 岩波書店 2020.4)
大岡信の『折々のうた』を「俳句」「短歌」「詩と歌謡」に再編集した全五巻のうちの一冊です。蜂飼さんは「詩と歌謡」の編集と解説を担当されました。
折々のうた.jpg

紙の本、物としての本についても言及されました。
『三日間の石』や『どこにでもあるケーキ』はぜひ、手に取って触れて、そして、読んでみたいです。


かわいい登壇者プロフィールかわいい
カニエ・ナハ(かにえ なは)
1980年、神奈川県生まれ。詩人。2010年「ユリイカの新人」としてデビュー。詩集に『用意された食卓』(私家版、後に青土社から刊行。第4回エルスール財団新人賞、第21回中原中也賞)、『馬引く男』(私家版)、『なりたての寡婦』(私家版)などがある。2017年、NHK制作ドラマ「朗読屋」に出演し、中原中也の詩を朗読する。2019年度より、東京藝術大学大学院映像研究科主催RAM Associationのフェローメンバーとして詩や本作りのワークショップを行っている。

杉本真維子(すぎもと まいこ)
1973年、長野県生まれ。詩人。2002年、第40回現代詩手帖賞。詩集に『点火期』(思潮社)、『袖口の動物』(思潮社、第58回H氏賞・第13回信毎選賞)、『裾花』(思潮社、第45回高見順賞)などがある。共著に『詩のリレー』(ふらんす堂)、詩画集に『E』(絵/樋口佳絵、桜華書林)がある。栃木県宇都宮市の宇都宮アート&スポーツ専門学校文芸創作科で、現代詩研究の講師を務めている。2020年6月、響文社から初の散文集『三日間の石』を刊行。

三角みづ紀(みすみ みづき)
1981年、鹿児島県生まれ。詩人。2004年、第42回現代詩手帖賞。詩集に『オウバアキル』(思潮社、第10回中原中也賞)、『カナシヤル』(思潮社、第35回南日本文学賞、第18回歴程新鋭賞)、『隣人のいない部屋』(思潮社、第22回萩原朔太郎賞)、『現代詩文庫 三角みづ紀詩集』(思潮社)、『舵を弾く』(ナナロク社)、『よいひかり』(ナナロク社)など。朗読活動、美術館での展示なども行っている。2020年8月、ナナロク社から第8詩集『どこにでもあるケーキ』を刊行。

四元康祐(よつもと やすひろ)
1959年、大阪府生まれ。詩人。詩集に『笑うバグ』(思潮社)、『世界中年会議』(思潮社、第3回山本健吉文学賞、第5回駿河梅花文学賞)、『噤みの午後』(思潮社、第11回萩原朔太郎賞)、『現代詩文庫 四元康祐詩集』(思潮社)、『言語ジャック』(思潮社)、『日本語の虜囚』(思潮社、第4回鮎川信夫賞)、『小説』(思潮社)、『単調にぼたぼたと、がさつで粗暴に』(思潮社)などがある。詩論や小説も執筆。2020年3月、澪標から『ホモサピエンス詩集――四元康祐翻訳集現代詩篇』を刊行。今春、ドイツから帰国。

蜂飼耳(はちかい みみ)
1974年、神奈川県生まれ。詩人、立教大学文学部教授。詩集に『いまにもうるおっていく陣地』(紫陽社、第5回中原中也賞)、『食うものは食われる夜』(思潮社、第56回芸術選奨新人賞)、『顔をあらう水』(思潮社、第7回鮎川信夫賞)、『現代詩文庫 蜂飼耳詩集』などがある。文集に『孔雀の羽の目がみてる』(白水社)、『空席日誌』(毎日新聞社)、『おいしそうな草』(岩波書店)など。書評集に『朝毎読』(青土社)、古典の現代語訳に、鴨長明『方丈記』(光文社古典新訳文庫)など。


中野重治の「雨の降る品川驛」を書いておきます。
初出は、1929(昭和4)年の雑誌『改造』2月号です。
版によって違うようですが、戦後初めて出された『中野重治詩集』(小山書店 1947)によりました。

  雨の降る品川驛

辛よ さやうなら
金よ さやうなら
君らは雨の降る品川驛から乗車する

李よ さやうなら
も一人の李よ さやうなら
君らは君らの父母の國にかへる

君らの國の河はさむい冬に凍る
君らの叛逆する心はわかれの一瞬に凍る

海は夕ぐれのなかに海鳴りの聲をたかめる
鳩は雨にぬれて車庫の屋根からまひおりる

君らは雨にぬれて君らを逐ふ日本天皇をおもひ出す
君らは雨にぬれて 髯 眼鏡 猫背の彼をおもひ出す

ふりしぶく雨のなかに緑のシグナルはあがる
ふりしぶく雨のなかに君らの瞳はとがる

雨は敷石にそゝぎ暗い海面におちかゝる
雨は君らのあつい頬にきえる

君らのくろい影は改札口によぎる
君らの白いモスソは歩廊の闇にひるがへる

シグナルは色をかへる
君らは乗りこむ

君らは出發する
君らは去る

さやうなら 辛
さやうなら 金
さやうなら 李
さやうなら 女の李

行つてあのかたい 厚い なめらかな氷をたゝきわれ
ながく堰かれてゐた水をしてほとばしらしめよ
日本プロレタリアートの後だて前だて
さやうなら
報復の歡喜に泣きわらふ日まで

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コメント
中原中也が二人を結び付ける恋愛小説「こんやここでのひとさかり」を出版しました。ご購読いただければ、幸いに存じます。
Posted by:高遠信次  at 2020年12月15日(Tue) 14:42