『父さんがかえる日まで』 @ アーサー・ビナードが下竪小路にやってくる!A
[2020年08月06日(Thu)]
【前回の続き】
第一部は、絵本『父さんがかえる日まで』(モーリス・センダック/作 アーサー・ビナード/訳 偕成社 2019.11)についてのお話です。
研究会の方が、4人で分担して読み聞かせ。
その後、アーサーのお話。
“Where the Wild Things Are”(1963)(『いるいる おばけが すんでいる』(ウェザヒル翻訳委員会/訳 三島由紀夫他/監修委員 ウエザヒル出版 1966.5)、『かいじゅうたちのいるところ』(神宮輝夫/訳 冨山房 1975))、
“In the Night Kitchen”(1970)(『まよなかのだいどころ』(神宮輝夫/訳 冨山房 1982))
の二作と並んで、“Outside Over There” (1981)は、「センダック三部作」と呼ばれる代表作です。
『まどのそとの そのまたむこう』として脇明子さんの訳で1983年4月に福音館から出版されています。
一言でいえば、「ゴブリンにさらわれた妹を取り戻すアイダの冒険物語」ですが、表紙の少女と赤ん坊の可愛いというよりは、ちょっと不気味な顔。ページをめくると、どんな場所なのか分からない風景、不穏な空の色、虚ろな目をした母親、顔が黒く塗られ表情の読み取れないゴブリン……。脇さんの文章は簡潔で、リズムはあるのですが、他の2作品のようには、この本の持つ不思議な雰囲気をすんなりと受け入れることができず、私のお薦め本のリストに入っていませんでした。
アーサーは新しい訳で、脇さんの訳では伝わりにくかった作品の持つ深い意味を読者に伝えようと試みます。
1967年生まれのアーサーは、アメリカで “Outside Over There” が刊行された当時、中学生でした。
センダックが好きだったので、繰り返し何度も読んだそうですが、本に込められた意味についてはその時はあまり意識していなかった、と言います。
高校生になって、父が死に、病気がちの母を助けて、5歳だった妹 Emily の面倒をみなくてはならなくなりました。
エリック・カールの ”Walter the Baker” などの絵本を読んでやりました。
奇しくもこの作品を後にアーサーは、『プレッツェルのはじまり』(エリック・カール/著 アーサー・ビナード/訳 偕成社 2013.2)として翻訳することになります。
そして、絵本の一生続く面白さに気づきました。
もちろん “Outside Over There” も読みました。
ただ、高校生のアーサーには、やはり子守りが面倒な時もあり、テレビに子守りをさせた時もあったそうです。
子どもと向き合わないでテレビに子守りをさせることをアメリカでは、「エレクトリック・ベビーシッター(elctric baby‐sitter)」というとか。
80年代、テレビばかり見て、本気に向き合っていない、そんな時代にセンダックはこの物語を書きました。
アーサーは、英語本を読んでくださいました
「いってらっしゃい。」
父さんは 海をわたる ふなのりです。
母さんは じっと とおくを 見つめながら 父さんの かえりを まちます。
いもうとは まだ
はいはいする あかんぼうなので、
アイダが 子守りを しなければなりません。
ないてばかりいる あかんぼうでも、
きれいな メロディを きけば
しずかに なります。
アイダは とくいの うずまきホルンを
ふいてあげました。
ちょっと よそ見を しながら・・・・・・
と、そのときです。
だぶだぶふくの ゴブリンが
まどから しのびこんできて、
あかんぼうを さらっていきました。
かわりに おいたのは
氷で できた そっくりさん。
アイダは ちっとも 気が つきません。
氷が溶け、妹がゴブリンにさらわれたことに気がついたアイダ。
アイダは怒り、母さんのレインコートを着て、ホルンをポケットに入れ、妹を取り返しに向かおうとするのですが、
アイダは まどから そとにでるとき、うしろむきに でたのです。
ちゃんと まえを むいて でないと、だれでも・・・・・・
ふわふわの うわのそらを さまようことに なってしまうのです。
ふわふわの うわのそらのアイダは、ゴブリンのかくれが上を飛んでいても気がつきません。
そんな時、父さんの声が聞こえてきました。
「アイダよ、うわのそらのアイダよ
よそ見しないで くるりと むきを かえれば
ゴブリンたちが 見つかるぞ
とくいの ホルンを やつらに ふいてごらん!」
父さんの言ったとおりにして、ゴブリンのかくれがにもぐりこみました。
あかんぼうに化けたゴブリンは妹そっくりです。
アイダがホルンを吹くと、ゴブリン達は踊りだしました。
アイダが思いっきり賑やかにホルンを吹くと、ゴブリンは激しく踊りだし、
ゴブリンはとけて、川になって流れて行きました。
ひとりだけとけないでいるのが妹です。
妹をしっかり抱きしめ、見つめ合いながら家に帰ります。
やっとお母さんに会え、お父さんからの手紙がきていました。
「しっかり たのんだよ、父さんが かえる日 まで」
もちろん アイダは しっかり やっています。
「ゴブリンとは何か?」という質問を、参加者一人ひとりにアーサーは投げかけます。
アーサーは、センダックからの当時では「新しすぎる」メッセージに気づきます。
妹がさらわれてしまう前半には、母さんやアイダ、かたわらにいる犬までもが、みんなそれぞれ別のところを見ています。
赤んぼうの方を向かないで窓の外を見ながら、うずまきホルンを吹いているアイダ。
赤んぼうをあやすために吹いているはずなのに。
アイダは赤んぼうと向き合っていないから、氷が溶けて初めて、妹がさらわれたことに気づきます。
物語を通してセンダックは、「互いに向き合わない」ということを問い、警鐘を鳴らしていたのでは?と考えるようになりました。
そして、絵本に込められた奥の意味が、1980年代に出版された当時よりも、現代の方がより分かりやすくなっているのでは思うようになったそうです。
生身の人間同士が直接向き合わず、スマートフォンなどを通してコミュニケーションをとるようになった現代と、重なるところがあるのでは、とアーサーは言います。
(実はアーサーは携帯電話を持っていないそうです!
ブログに載せること快諾してくださっているけど、きっと読んでいないんでしょうね。)
「現代人は、一見つながっているように見えて、実は向き合っていないのではないか。夫婦でも親子でも、形の上では関係が成立しているが、本気で相手を思って心を込めて見つめ合うということを今、していないのではないか。」とアーサーは言います。
読者が、精緻に描き込まれた絵による幾重にも重なっている物語の世界に、奥へ奥へと入って行くことができるようにと、新しい訳文を生み出したそうです。
帯にはこうあります。
人と人がむきあわない今の時代に、センダックから届いた美しい手紙
あなたは、大切な人と
見つめあって歩いていけますか?
【次回に続く】
第一部は、絵本『父さんがかえる日まで』(モーリス・センダック/作 アーサー・ビナード/訳 偕成社 2019.11)についてのお話です。
研究会の方が、4人で分担して読み聞かせ。
その後、アーサーのお話。
“Where the Wild Things Are”(1963)(『いるいる おばけが すんでいる』(ウェザヒル翻訳委員会/訳 三島由紀夫他/監修委員 ウエザヒル出版 1966.5)、『かいじゅうたちのいるところ』(神宮輝夫/訳 冨山房 1975))、
“In the Night Kitchen”(1970)(『まよなかのだいどころ』(神宮輝夫/訳 冨山房 1982))
の二作と並んで、“Outside Over There” (1981)は、「センダック三部作」と呼ばれる代表作です。
『まどのそとの そのまたむこう』として脇明子さんの訳で1983年4月に福音館から出版されています。
一言でいえば、「ゴブリンにさらわれた妹を取り戻すアイダの冒険物語」ですが、表紙の少女と赤ん坊の可愛いというよりは、ちょっと不気味な顔。ページをめくると、どんな場所なのか分からない風景、不穏な空の色、虚ろな目をした母親、顔が黒く塗られ表情の読み取れないゴブリン……。脇さんの文章は簡潔で、リズムはあるのですが、他の2作品のようには、この本の持つ不思議な雰囲気をすんなりと受け入れることができず、私のお薦め本のリストに入っていませんでした。
アーサーは新しい訳で、脇さんの訳では伝わりにくかった作品の持つ深い意味を読者に伝えようと試みます。
1967年生まれのアーサーは、アメリカで “Outside Over There” が刊行された当時、中学生でした。
センダックが好きだったので、繰り返し何度も読んだそうですが、本に込められた意味についてはその時はあまり意識していなかった、と言います。
高校生になって、父が死に、病気がちの母を助けて、5歳だった妹 Emily の面倒をみなくてはならなくなりました。
エリック・カールの ”Walter the Baker” などの絵本を読んでやりました。
奇しくもこの作品を後にアーサーは、『プレッツェルのはじまり』(エリック・カール/著 アーサー・ビナード/訳 偕成社 2013.2)として翻訳することになります。
そして、絵本の一生続く面白さに気づきました。
もちろん “Outside Over There” も読みました。
ただ、高校生のアーサーには、やはり子守りが面倒な時もあり、テレビに子守りをさせた時もあったそうです。
子どもと向き合わないでテレビに子守りをさせることをアメリカでは、「エレクトリック・ベビーシッター(elctric baby‐sitter)」というとか。
80年代、テレビばかり見て、本気に向き合っていない、そんな時代にセンダックはこの物語を書きました。
アーサーは、英語本を読んでくださいました
「いってらっしゃい。」
父さんは 海をわたる ふなのりです。
母さんは じっと とおくを 見つめながら 父さんの かえりを まちます。
いもうとは まだ
はいはいする あかんぼうなので、
アイダが 子守りを しなければなりません。
ないてばかりいる あかんぼうでも、
きれいな メロディを きけば
しずかに なります。
アイダは とくいの うずまきホルンを
ふいてあげました。
ちょっと よそ見を しながら・・・・・・
と、そのときです。
だぶだぶふくの ゴブリンが
まどから しのびこんできて、
あかんぼうを さらっていきました。
かわりに おいたのは
氷で できた そっくりさん。
アイダは ちっとも 気が つきません。
氷が溶け、妹がゴブリンにさらわれたことに気がついたアイダ。
アイダは怒り、母さんのレインコートを着て、ホルンをポケットに入れ、妹を取り返しに向かおうとするのですが、
アイダは まどから そとにでるとき、うしろむきに でたのです。
ちゃんと まえを むいて でないと、だれでも・・・・・・
ふわふわの うわのそらを さまようことに なってしまうのです。
ふわふわの うわのそらのアイダは、ゴブリンのかくれが上を飛んでいても気がつきません。
そんな時、父さんの声が聞こえてきました。
「アイダよ、うわのそらのアイダよ
よそ見しないで くるりと むきを かえれば
ゴブリンたちが 見つかるぞ
とくいの ホルンを やつらに ふいてごらん!」
父さんの言ったとおりにして、ゴブリンのかくれがにもぐりこみました。
あかんぼうに化けたゴブリンは妹そっくりです。
アイダがホルンを吹くと、ゴブリン達は踊りだしました。
アイダが思いっきり賑やかにホルンを吹くと、ゴブリンは激しく踊りだし、
ゴブリンはとけて、川になって流れて行きました。
ひとりだけとけないでいるのが妹です。
妹をしっかり抱きしめ、見つめ合いながら家に帰ります。
やっとお母さんに会え、お父さんからの手紙がきていました。
「しっかり たのんだよ、父さんが かえる日 まで」
もちろん アイダは しっかり やっています。
「ゴブリンとは何か?」という質問を、参加者一人ひとりにアーサーは投げかけます。
アーサーは、センダックからの当時では「新しすぎる」メッセージに気づきます。
妹がさらわれてしまう前半には、母さんやアイダ、かたわらにいる犬までもが、みんなそれぞれ別のところを見ています。
赤んぼうの方を向かないで窓の外を見ながら、うずまきホルンを吹いているアイダ。
赤んぼうをあやすために吹いているはずなのに。
アイダは赤んぼうと向き合っていないから、氷が溶けて初めて、妹がさらわれたことに気づきます。
物語を通してセンダックは、「互いに向き合わない」ということを問い、警鐘を鳴らしていたのでは?と考えるようになりました。
そして、絵本に込められた奥の意味が、1980年代に出版された当時よりも、現代の方がより分かりやすくなっているのでは思うようになったそうです。
生身の人間同士が直接向き合わず、スマートフォンなどを通してコミュニケーションをとるようになった現代と、重なるところがあるのでは、とアーサーは言います。
(実はアーサーは携帯電話を持っていないそうです!
ブログに載せること快諾してくださっているけど、きっと読んでいないんでしょうね。)
「現代人は、一見つながっているように見えて、実は向き合っていないのではないか。夫婦でも親子でも、形の上では関係が成立しているが、本気で相手を思って心を込めて見つめ合うということを今、していないのではないか。」とアーサーは言います。
読者が、精緻に描き込まれた絵による幾重にも重なっている物語の世界に、奥へ奥へと入って行くことができるようにと、新しい訳文を生み出したそうです。
帯にはこうあります。
人と人がむきあわない今の時代に、センダックから届いた美しい手紙
あなたは、大切な人と
見つめあって歩いていけますか?
【次回に続く】
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