家族の愛の特別なありかた(3) [2026年03月10日(Tue)]
ヴィクトール・フランクル
〜それでも人生には意味がある
第6回 人生の中の出逢い
〜 家族の愛の特別なありかた(3)
3月22日、フランクルのテレビ放送の第6回は「人生の中の出逢い」です。
この回のテーマは、夫婦の「愛」です。
前の記事で見たように、フランクルは、夫婦の「愛」は、相手の死後も続くといいます。
https://blog.canpan.info/jitou/archive/5839
★愛は死後も続く
ここで見たように、次の言葉があります。
「愛は単なる感情状態より以上のものである。愛は志向的行為なのである。愛が志向するのは他者 の相在である。この相在――この他者の本質――は、(すべての相在と同じく)究極的に現存在から 独立している。つまり、それは「存在」 (exisistentia)には依存しない「本質」(essentia)であり、 そのかぎり存在を超越しているのである。こうしてのみ、愛が愛される人間の死をも越えて持続する ということが理解されうるのであり、ここから初めて、愛が死よりも、すなわち愛される人間の存在 の無化よりも、「強い」ということが理解されるのである。」(注5,p228)
◆「愛の理念」
「愛される人間の現存在はなるほど死によって無化されるとしても、その相在は死によっても無くなることはない。その人の無比の本質は、すべての真に本質的なものと同じく、時間を超えたものであり、そのかぎり過ぎさることのないものである。このような人間の「理念」――まさに愛する人間が直観するような「理念」――は超時間的な領域に属している。」(p229)
フランクルが「愛」の特殊さを述べたことを、この記事に引用しました。フランクルも「愛」の志向するのは、愛する人の「存在」であるといっています。「現存在」の「相在=本質」です(注8)。愛したのは、創造行為でも体験行為でもありません。そいういう「当為価値」でなくて、「存在価値」です。その相在=本質は、現存在が亡くなったからといって、消えるわけではありません。
フランクルは、 「愛」は「体験価値」の特別のあり方としましたが、この言葉のように、「精神次元」の愛ならば、「存在価値」の意味もあると言っています。
「身体」次元の愛ならば、若い頃と違って、老いてくれば「現存在」、すなわち、容貌が変化して「愛」がなくなるはずです。しかし、「精神次元」の愛ならば、年老いても愛はなくなりません。このことも、フランクルの言葉の事実を裏付けているでしょう。
また、夫婦には、子どもが生まれることがありますが、親は子を愛します。この場合も、親は子どもの創造行為、体験を愛するわけではないでしょう。親は子どもの現存在もですが、そもそも相在=本質を愛しているのです。
家族は、眼前にいなくても、単身赴任して遠くに住む家族を愛しています。
このように、愛した家族は、特別の存在ですから、愛する人を亡くすことは、遺族にとって、非常に厳しい危機的事態です。遺族の一部が、うつ病になるのもこの故です。そのような人は、薬物療法では治りにくいでしょう。自殺も起きるでしょう。
◆愛するひとを亡くした遺族のうつ病を治し、自殺を防止
日本でも、高齢者の自殺が多いのですが、愛する配偶者を亡くした人も危ないですから、うつ病、自殺防止対策の精神療法的支援の方法を開発しなければなりません。
うつ病になった人の脳内の価値実現の行為をする領域(眼窩前頭皮質、背外側前頭前野、前部帯状回など)に炎症が生じているはずですから、一度的支援ではなく、治るまで継続的な精神療法を提供しなければなりません。
上記のような、愛したひとの相在=本質はなくならないこと、そして、自身の創造価値、体験価値を再び確認して、それに生きていくように見守ることになります。そのことが、その人の「価値実現」の脳の回路を動かすように作用して、症状が改善していくでしょう。
以上のように、フランクルは、夫婦の「愛」をすばらしい「価値」というのですが、一方、結婚しなくてももっと強い「価値」があるともフランクルは言っています。これも重要な指摘です。
(注8)現存在と相在
「存在論の用語で、現存在(Dasein)が一般に「有ること」(「がある」)を示すのに対して、相在(so-sein)は一定の性質およびそれをもつ存在(「である」)を指す。ここから両者は、フランクルがここで述べているような「存在」(exisistentia)と「本質」(essentia)という意味に用いられることもある。」(フランクル『人間とは何か』p373)
【注】
(注1)NHKこころの時代 テキスト 『ヴィクトール・フランクル 〜それでも人生には意味がある』勝田芽生、NHK出版
(注2)大田健次郎(2013)『うつ・不安障害を治すマインドフルネス』佼成出版社
SIMT:Self Insight Meditation Therapy(SIMT)、自己洞察瞑想療法
(注3)大田健次郎『「死」と向き合うためのマインドフルネス実践』佼成出版社
(注4)NHK E テレビ「100 分 de 名著」、『ヤスパース哲学入門』戸谷洋志
(注5)フランクル『人間とは何か』山田邦男監訳、春秋社
(注6)山口尚『幸福と人生の意味の哲学』トランスビュー
(注10)フランクル『識られざる神』佐野利勝・木村敏訳、みすず書房
(注11)竹内綱史「ニーチェ哲学における良心という問題」(『宗教哲学研究(第20号)』北樹出版
(注12)後期に属する西田哲学の論文が「実践哲学序論」、および、「ポイエシスとプラクシス」にまとめられている。 →
https://blog.canpan.info/jitou/archive/3582
https://blog.canpan.info/jitou/archive/3329
★後期西田哲学の実践論
(注13)フランクル『意味への意志』 山田邦男監訳、春秋社
https://blog.canpan.info/jitou/archive/5750
【目次】ヴィクトール・フランクルと後期西田哲学の実践論
〜それでも人生には意味がある
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Posted by
MF総研/大田
at 21:26
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マインドフルネス心理療法
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