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慢性の痛み 〜 「身体の痛み」と「うつ病」の場合の脳領域が一部共通 [2021年11月18日(Thu)]
【目次】痛み・痛みの緩和

慢性の痛み 〜 「身体の痛み」と「うつ病」の場合の脳領域が一部共通

 慢性の痛みは慢性のうつ病と併存することが多い。どちらも、慢性ストレスから起きる場合が多い。

 それでは、うつ病になると脳内のどの領域に変調がおきているのか。うつ病の研究によれば、次の通りである。

 「前頭前野、前帯状皮質、島のいずれにおいても健常者に比べてうつ病患者ではおよそ30%高い炎症反応がみられた。さらに、前帯状皮質の炎症反応の大きさは、大うつ病性障害の重症度と正の相関がみられた。・・・ また・・・大うつ病性障害の場合、とくに前帯状皮質の炎症反応の上昇がみられただけでなく、自殺念慮をもった(自殺しようと思った)患者において、島と前帯状皮質の炎症反応が有意に増加していた。」(乾、同88)。

 うつ病においては、前頭前野は外側部、眼窩前頭皮質の機能低下が指摘されている。

 痛みには「腹側被蓋野に軸索を送る分界条床核神経細胞が抑制されると、脳内報酬系で中心的な役割を担うドパミン神経が持続的に抑制される」とあったが、うつ病では、ドーパミン神経、つまり報酬系の機能低下により、快感、喜びの喪失があることはよく知られている。
 腹側被蓋野からのドーパミン神経系は扁桃体、側坐核、帯状回に投射している。
 島皮質の炎症による機能低下も、痛みとうつ病とで、共通である。

 このように、両者のかかわる脳領域が共通している部分が多いので、前頭前野、島皮質、側坐核などのドーパミン系などの機能が回復するような心理療法が効果的であることが推測できる。
 欧米のマインドフルネスのMBSRは、もともと、痛みの緩和のために開発された。それは、対人場面でない瞑想時に、無評価で観察するもので、8週間の実践が基本である。これでも、痛みが軽くなることは確認されている。

 一方、マインドフルネスSIMTでは、8週間では治らない、うつ病、パニック症などに併存する「慢性の痛み」が6−18カ月かけて治癒する事例がある。MBSRも6−12か月続けると、慢性の痛みは軽くなるかもしれないが、重症うつ病や慢性うつ病には、MBSRは無理である。治療効果がなくて、MBCT[は「再発予防」の効果はある。だから、難治性の慢性疼痛も1年近く実践してもらう動機づけがないであろう。
 マインドフルネスSIMTが、慢性の痛みのうちでも、8週間ではなくて、6−12カ月もかかる難治性の疼痛を治癒に導くのは、痛みが関係する脳部位に深く関係するからであろう。SIMTは、無評価で観察だけではないことが関係すると思われる。報酬のこと(価値実現)、感情を起こす本音の観察などがうつ病を改善するのは、うつ病が対人場面での感情、価値にかかわる反応が関係するので、当然である。こうした、重症、慢性のうつ病、パニック症を完治させるトレーニングが、痛みに関係する同じ部位を回復させるのだろう。SIMTを臨床試験で用いて、脳画像を測定して検証していただきたい。慢性の痛みをかかえるひとは、2千万人ともいう。試験してみる価値がある。

(続く)

【参照文献】
乾敏郎(2021)『感情とはそもそも何なのか』ミネルヴァ書房.
仙波恵美子(2010)「ストレスにより痛みが増強する脳メカニズム」
日本緩和医療薬学雑誌、3号

栗原里美、石村郁夫(2016)「慢性疼痛研究の動向と今後の展望
〜心理社会的側面に焦点を当てて〜」
東京成徳大学臨床7心理学研究、16号

高橋大樹etc.(2019/9/17)北海道大学 プレスリリース「慢性痛が気分を落ち込ませるメカニズムを解明」

大田健次郎(2013)『うつ・不安障害を治すマインドフルネス』佼成出版社
【新しい記事の目次】痛み・痛みの緩和
https://blog.canpan.info/jitou/archive/4867


【別の記事の目次】痛み・痛みの緩和
http://mindfulness.jp/kunou/fl-itami/ix-itami.htm

Posted by MF総研/大田 at 18:23 | 痛み | この記事のURL