(21)うつ病の治療法の現在と問題 [2021年09月12日(Sun)]
【連続記事】なぜうつ病になるのか なぜ自殺が起きるのか
(21)うつ病の治療法の現在と問題うつ病は、有病率がおよそ7%であり、青年期(18−29歳)が多く、高年期(60代以上)の3倍である。また、適応障害は、5−20%である(DSM-5)。こういう病気が治らないと、自殺が起こりえる。うつ病や適応障害になったら、適切な治療を受けたい。どんな治療法があるか、以前にもまとめたことがあるが、現時点で判明している治療法をまとめてみたい。うつ病が治るような治療法があれば、自殺しないですむ。現在、利用できる治療法を整理しておく。自殺予防対策は、社会的福祉的産業的な方面からうつ病にならないようにする上流の予防対策が重要であるが、上流の支援対策にはずれて発病してしまって治りにくいうつ病を治す医療の支援は、下流の対策である。これも重要である。 https://blog.canpan.info/jitou/archive/1991 ★自殺防止・上流の予防の対策と下流のうつ病などを治す対策 A) 薬物療法うつ病の治療法として、薬物療法がある。これで、治る患者もいる。ただし、完治割合が高くない。薬物療法で軽くなっても再発したり、長期間完治しない患者がいる。ほかの病気ならば、病気とともに生き抜いていくのであろう。しかし、うつ病は治らないと危ないのだ。「死にたくなる」、自殺するという深刻な症状がある。 うつ病の完治割合についての研究報告は次のようである。 「抗うつ薬は一部の症状にしか効かないし、二割弱はまったく効果が出ない患者がいる。これはセロトニン不足が一部にしかかかわっていないことを示している。」(野村総一郎、2008,p236) 「うつ病に対する抗うつ薬の有効率はたかだか40 〜 60%くらいのことであり、これではとても抗うつ薬を「特効薬」などと呼ぶことはできない。」(野村総一郎,2016、p126) 「抗うつ薬の有効率は60〜70パーセントにとどまっています。 寛解率となると、さらに低く、30パーセント程度とも言われています。つまり効果が十分ではあり ません。」(加藤、2014,p170) 「精神疾患の原因解明研究は非常に難しく、順調に進んでいるとは言え ません。こういったことから、新薬開発はほとんど進んでいないのです。 」(同p172) 「現在発売されている抗うつ薬は、どれも似た作用機序のものなので、全く別の切り口から鮮やかにうつを治してくれる新薬は、いまのところ存在しません。」(同p252) ★再発も多い 「うつ病は再発率、遷延化率ともに高く、一般的に2〜3年以内に約半数が再発するとも言われている。また、アメリカ精神医学会の報告によると、2回目の再発は約60%、3回目の再発は約70%であるとされ、再発の回数が増えると再発率も高まるという。」(松下満彦、徳永雄一郎,2016、p203) B)その他、精神療法以外の治療法a)電気けいれん療法「電気けいれん療法は、頭部に数秒間の電気刺激を行うことにより、全般性のけいれん発作を誘発し、これによる神経生物学的効果を得ようとする治療法である。」(川島啓嗣、2016、p249) b)反復経頭蓋磁気刺激(rTMS) 「rTMS本体に接続したコイルに100〜200μ secの電流を瞬間的に流すと、Faradyの法則にしたがって、コイル周囲に磁場が形成され、コイルの電流とは逆方向に誘導電流(渦電流)が生じ、この渦電流が、おもに介在ニューロンの軸索を刺激する。・・・ うつ病の治療標的部位である背外側前頭前野でも、高頻度刺激により脳血流が増加し、低頻度刺激では脳血流が減少する。・・・ 高頻度、もしくは、低頻度の刺激を繰り返し行うことで、皮質の興奮性や神経ネットワークを修飾することができる。」(鬼頭伸輔、2016、p255〜256) 「薬物療法に反応しないうつ病患者が組み入れられ、およそ6週間のrTMSにより、15〜20%が寛解するとされる。また、・・・rTMSと薬物療法が併用されている患者では、その寛解率は30〜40%である。」(鬼頭伸輔、2016、p258) C)精神療法うつ病には、非定型うつ病も含むが、精神療法も有効である。 日本には、傾聴型のカウンセリング、来談者中心療法などが優勢だが、「うつ病」の改善効果は確認されていないだろう。うつ病は脳神経生理学的な変調が起こって、これらの療法は、その変調を改善するほどの仕組みがないのだ。「来談者中心療法は、日常生活の悩みの解決に有効ですし、精神分析は当初は主に当時神 経症とよばれていた人たち(現在では不安障害などに相当する)を対象に行われていました。 しかし、これらの治療法は、うつ病に対する有効性は証明されていません。 カウンセリングで問題を解決できるのは、自己回復力の範囲にある心の悩みであり、自己回復 力を超えて脳の変調を来たしているうつ病の治療には有効ではないのです。」(加藤忠史、2014,p212) 「最も効果が実証されているのは、認知行動療法と対人関係療法です。」(p213) ただし、重症、中等症のうつ病には難しいようだ。 「中等症以上のうつ病に認知療法を行うことは難しいと思いますが、軽症うつ病には効果があります。」(p218) 「対人関係療法のうつ病に対する有効性はしっかりした研究により証明されており、軽症うつ病に対しては特に有用といえるでしょう。」(p221) ところが、慢性のうつ病には、CBASPによれば、慢性うつ病患者には従来の認知行動療法(CBT)や対人関係量は効果が弱いという報告がある。(マカロウ、p64) 「特定領域に焦点をあてた伝統的な技法(対人関係に対する対人関係療法、認知行動的な問題に対する認知療法)は、慢性うつ病にはあまり効果がない」(マカロウ、p64) CBASPとは、「認知行動分析システム精神療法」といい、慢性うつ病の治療法として効果があるとされる。しかし、日本では、これを受けられるところは少ないようである。 受けられるところを検索しても出てこない。 マインドフルネスSIMTで支援してみて、最低1年はかかる慢性うつ病であるから、CBASPで治療するのも、相当の時間とエネルギーを必要とするので、これで支援する臨床の専門家になるのは、日本では難しいのだろうか。 そこで、マインドフルネス心理療法も研究開発が進行中このように、重症、中等症、軽症、メランコリー型・非定型、慢性などのうつ病に応じて、多くの治療法があるので、利用できる治療を受けて治っていただきたい。うつの状態であるのに、病気であることを知らずに、自殺していくひともいるかもしれない。普段から、家庭や学校、職場で、うつ病およびその治療法を学習する機会をもっていただきたい。いろいろな治療を受けて、それでも、治らないひとがいるので、新しい治療法として、マインドフルネス心理療法も種々の流派があって研究開発されてきたのだ。上記のどれも効果がなくても、マインドフルネス心理療法で治るかもしれないということも知っていていただきたい。 (薬物療法でも、従来の認知行動療法でも対人関係療法でも治りにくい患者が長期間苦しんでいる。慢性うつ病は難病である。難病の治療法の研究開発は重要である。新しいものを必要とするひとびとがいる。大切な人の生命がかかっている。新しいものを排除しないでもらいたい。) 【文献】 加藤忠史(2014)『うつ病治療の基礎知識』筑摩書房. 野村総一郎(2008)『うつ病の真実』日本評論社. 野村総一郎(2016)「うつ病の治療開始前や初期治療段階で薬への反応を予測できるか?」(『精神科臨床サービス』第16巻1号、星和書店、2016年2月 川島啓嗣、2016、『精神科臨床サービス』第16巻2号、星和書店、2016年5月 鬼頭伸輔、2016、『精神科臨床サービス』第16巻2号、星和書店、2016年5月 松下満彦、徳永雄一郎(2016)「復職・就労支援のポイント」(『精神科臨床サービス』第16巻2号、星和書店、2016年5月 ジェームズP・マカロウ(2005)「慢性うつ病の精神療法〜CBASPの理論と技法」監訳者:古川壽亮、大野裕、岡本泰昌、鈴木伸一、医学書院。 CBASPとは、Congnitive-Behavioral Analysis System of Psychotherapy 【連続記事目次】なぜうつ病になるのか なぜ自殺が起きるのか https://blog.canpan.info/jitou/archive/4786 |