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臨床の現場と研究者とは大きな隔たり [2018年12月25日(Tue)]

臨床の現場と研究者とは大きな隔たり

 うつ病などを「治す」マインドフルネス心理療法が容易に普及しないのは、もう一つあると思います。 日本には、マインドフルネス心理療法で、軽くなった患者の再発予防法を行う専門家はいても、臨床で、まだ治っていないうつ病を「治す」専門家がほとんどいませんが、なぜ、なのでしょうか。
 (私の知らない情報があるでしょうか。もし、マインドフルネス心理療法で「治す」支援をする専門家がおられましたら、お知らせください。治らなくて、つらい患者さんに教えてあげたく思いますので。遅れると自殺がありえる病気ですので。)

 ポリヴェーガル理論のポージェスは、こう言っています。このひとは、うつ病の臨床家ではなく、聴覚過敏やトラウマの領域ですが。

 「研究室にいる科学者と臨床現場にいる臨床家の間には大きな隔たりがあります。様々な疾患の研究モデルや神経系モデルがありますが、いずれも臨床現場では知られている重要な特徴を見過ごしていることが多くあります。研究と臨床の乖離は、臨床研究の領域にさえ広がっています。医学部では、研究者たちがほとんどの臨臨床研究を担っています。 こうした臨床研究者は、彼ら自身も資格を持った臨床家でもあるのですが、ほとんどの時間を研究に費やして、患者をみません。しかし、研究室で見られる臨床的特徴と、臨床現場で見られる臨床的特徴では違いがあります。」

 研究と臨床は全く違う作業です。臨床は患者さんと1年近く、交流します。伝えるスキル、コミュニケーションスキル、動機付けスキルなども必要です。患者さんとの間で起きる感情もコントロールできなければなりません。臨床は研究とは違うスキルも必要です。 文献研究は全く患者さんとあわなくてもできるかもしれません。マインドフルネスSIMTも10か月も学習し、自分も実践したのに、臨床に乗り出せないひとがいます。

 第2世代の認知療法は、日本でも臨床家がいますが、第3世代の認知行動療法、すなわち、マインドフルネス心理療法で、うつ病などが「治る」マインドフルネス心理療法の臨床家は日本にはほとんどいないでしょう。MBSRやMBCTではありません。うつ病、不安症などは、2か月程度で治るような病気ではありません。
 薬物療法でさえも治らなかった患者さんです。経験から治るまでに、10か月から1年半はかかります。MBSR,MBCTでないマインドフルネス心理療法の臨床家はほんどいないはずです。研究者はおられるでしょうが、臨床にはなかなか踏み出せないでしょう。研究者も人間、治した経験がないので、いろいろな不安を覚えるでしょう。現実に臨床したことがない治療法の適用ですから、1年もできないと思うでしょう。
 また、MBSR,MBCTは、うつ病などを治せるという理論もありません。見る、聞くなど感覚の無評価の観察がなぜうつ病の病理を改善するかその手法との関連がうまく説明できないでしょう。うつ病は、感覚レベルの問題ではないのでしょう。ただし、治ることがわかっている他の心理療法(たとえば、森田療法とか、第2世代の認知療法とか)にマインドフルネス心理療法を併用する方法で臨床に乗り出しているひとがおられるかもしれません。
 (しかし、第2世代の認知行動療法とマインドフルネスは、理論と方法が違います。)

https://blog.canpan.info/jitou/archive/4050
☆科学者たちはこの分野を研究したくない
 =領域が広いので、日本のマインドフルネスの推進者もうつ病を「治す」ことに関心を持たないかもしれない

 この前の記事のポージェスの言葉とあわせて、他のことで忙しい専門家は、時間の制約から「治す」マインドフルネス心理療法の臨床に乗り出すことが難しいのだろうと思われます。

 うつ病などをマインドフルネスで治す専門家になるためには、 (1)そのひとが「これを人生価値」として選択すること、(2)研究ではなくて、患者さんと直接にあう「臨床を人生価値」としたいということが必要です。人生価値として選択してくださる人がいるかどうかにかかっています。
 そして、(3)うつ病、PTSDなどを治すほどの深いマインドフルネス心理療法は、文字の研究だけでは、習得できないのです。最低1年トレーニングを受け、その後も、行動中に常に実践していなければ身につきません。 こういう深い実践が好きでないとできないのです。

 みなうすうすわかっているのですが、このままでは、うつ病、不安症などを「治す」マインドフルネス心理療法が日本では、どんどん遅れます。若い人の自殺が減少していません。産後うつ病もあります。こういうつらい方々を治す心理療法が普及することを希望します。

 なお、ポージェスは、無評価の観察のマインドフルネスは、用いるのに限界があることを指摘しています。私の懸念と類似します。
https://blog.canpan.info/jitou/archive/4054
★欧米型マインドフルネスの限界をいうポージェス/ポリヴェーガル理論
https://blog.canpan.info/jitou/archive/4013
【誤解だらけの瞑想、坐禅、マインドフルネス】

Posted by MF総研/大田 at 19:56 | さまざまなマインドフルネス | この記事のURL