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人生の価値を発見していきる(4) [2014年02月03日(Mon)]

人生の価値を発見していきる(4)

=抑うつ症状として同じように見えるが、問題の出所が違う

 マインドフルネス心理療法は、ヴィクトール・E・フランクルのロゴセラピーと、哲学や援助 法が類似します。マインドフルネス心理療法は、フランクルのいう言葉を呼吸法=自己洞 察を織り込んだ瞑想法によって達成しようとしているといえます。マインドフルネス心理療法 の一種、自己洞察瞑想療法(SIMT)は「価値」をめざした意志作用の活性化という意味をも ています。フランクルのロゴセラピーは、西田哲学でいう叡智的自己までを見渡した人間哲 学に基礎をおいています。つらいことがあっても受け入れて、自分の価値をみつけて生き ていきます。

抑うつ症状は原因が違うものがある

 抑うつ症状は、メランコリー型うつ病、非定型うつ病、過食症にもあり、パーソナリティ障害 にも、依存症にもあり、不安障害からも起きる。一様に薬を投与しても治らないものがある。 フランクルによれば、原因が違うものがある。彼は、患者の「価値」から区分する。

 「メランコリー患者---つまり精神病患者---の抑うつ症状ないし絶望的な自殺傾向的気 分なのか、
それとも神経症患者の(思春期神経症に見られる「厭世観」のような)抑うつ症状ないしそ れに似た気分なのか、それとも最後に、
まったく健康な人間が問いかけている問いなのか、---
これらの可能性のいずれの場合においても、単なる心理学(病理学)主義的な立場から明 らかになるのは同一の事態、つまり抑うつ症状にすぎないのです。」 (『意味への意志』 春秋社、p56)

 1は、精神病の場合、
    精神科医として対応する、薬物療法、有機体的-身体的なもの
2は、神経症の場合、
    精神療法家として行動する、 精神療法を行う、患者と話をする、心的障害、気分失調の心的基礎を解明しようとつとめ、
3は、「まったく健康な人間」(p56)が、抑うつ症状があるとして相談してきた場合である。
 その場合には、「人間としてそれに答えねばならない」(p60)
 「彼は、人間としてあらゆる問いの中で最も人間的な問いである現存在の意味への問い を私に問いかけている」(p59)
 「この場合、抑うつは絶望的観念の原因ではなく、むしろその結果なのです。」(p59)
 こういうケースは、ロゴセラピーで扱う。
 「ロゴセラピーは、薬物を使って身体現象に影響を与えたり(精神病理学)、情動の転換 によって患者の情動力学に影響を与えたり(精神療法)するものではありません。ロゴセラピ ーはむしろ、精神的武器によって患者の内部に生じている精神的闘いに影響を与えようと するものなのです。」(p59-60)  このように、医師の前に、違う原因に基づく患者が現れる。 「抑うつ症状があります」というだろう。
 1には、薬を処方し、2には従来の心理療法を提供する。
 3は、抑うつがあるために、絶望しているのではなく、価値を発見できなかったから、抑う つになったのである。このような患者に必要なのは、薬ではなく価値である。ロゴセラピーを 行う。
 マインドフルネス心理療法(SIMT)でも、セッション4で人生の価値・願いを扱う。

医師、心理士のすべきこと

 援助者(医師、カウンセラーなど)のすべきことは何か。フランクルは、こういう。
 「患者が自分自身の世界観や人生観を持つようになる所まで連れて行くのが医師の使命 ではないでしょうか。」(p60)
「患者が、自分自身の責任に基づいて人生の新たな精神的方向を見つけ直すところまで 導くのが医師の使命ではないか」(p60)
 「患者を自己責任へと教育することです。」(p60)
 患者が、自分の生きる意味、人生の価値を発見できる援助をすることである。
 「ロゴセラピーがぎりぎり関与することが許される自己責任への教育という地点こそ、治療 の最終目標として十分なものであるだけでなく、まさに治療を支える要でもあるからです。 なぜなら、人間、とくに神経症を患っている人間に必要なものは、まさに自分自身の責任を できるだけ意識することにほかならないからです。それゆえ、あらゆる精神療法、とりわけロ ゴセラピーは、人間の責任性、人間の自由ということをあくまでも強調するのです。」(p60- 61)

 SIMTが基礎にしている西田哲学を参照して説明すると次のようになる。
 人間という存在は、世界で生まれ世界の中で生きて世界を形成していく存在、創造的世 界の創造的要素である。自分は、歴史的現実の社会の中にいる。その中で、自分ができ る価値を見つ けて自由意志で行為していく。現実の歴史的世界は無数の人が自由に行 動するので、予測でき ない「動揺的世界」である。つらいことが現れる。つらい現実があっ ても受け入れて、自分ができる他者、社会のためにできると選択したこと(価値)を実現して いくのである。

原因の違う抑うつ

 抑うつ症状だけでは、原因がわからない。「価値」という視点から分類すると4つほどにな る。
  • 1)価値を持っていたのに、遂行できない事情がおきると苦悩する。身体の病気や事故 などによる身体障害、何かの事情で、価値を遂行できなくなり苦悩してうつ病になる。
  • 2)価値を持っていても、 価値と行為した結果のギャップが大きいと苦悩する。 職を得ていてうつ病になる人はこのタイプが多い。仕事そのものに原因がある場合と個人 の反応パターンに主とした原因がある場合がある。
  • 3)多くの価値があるのに、一つの価値が失われた場合に、それについて苦悩する。他 の価値があることを確認して生きていくことができる。
  • 4)どうしても価値を発見できないと思う人は苦悩する。
 この4つは、苦悩の結果の抑うつ症状が似ていても、原因が違う、深さが違う。原因が違 えば、 治療法が違ってくる。深さが違えば、薬物療法、心理療法、精神療法が違ってくる だろう。
 意志的自己のマインドフルネス心理療法でも、抑うつ症状が改善することが多い。価値 の洞察をとりこんでいる。 抑うつ症状がなくなった時点で、価値の確認、価値の発見にとり くむことになる。

Posted by MF総研/大田 at 21:13 | 今ここに生きる | この記事のURL