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支援者も自己洞察スキルの体験者であること [2012年04月11日(Wed)]

支援者の倫理/専門家の倫理(6)

第2節 支援者も自己洞察スキルの体験者であること

 第1節で、支援者は意識されにくい自己の偏見や自己満足などに自覚が必要であることを粟野 氏が指摘されたのを見たが、それが自己洞察の一部である。特に、マインドフルネス&アクセプ タンスの場合は、理論を学んだだけで十分な心理療法を提供できるのではなくて、 支援者自身が自己洞察の体験者である必要がある。自分でもかなり実践し体験することが、指導 者の倫理になるのだろう。それがないと、支援スキルが不足なのであり、スキル不足で支援する のは限界がある。そこに、支援者の倫理がかかわってくる。もし、マインドフルネス心理療法を 標榜するのであれば、体験者でないと倫理の問題が生じる。改善するスキルがあるかどうかの問 題となる。

<第1> 支援者も自己洞察体験が必要

 マインドフルネス&アクセプタンス(M&A)は、指導者が、他の心理療法のように「技法」を知 っているだけでは、充分に、効果を発揮しないようである。指導者自身が、日常生活で、マイン ドフルネスやアクセプタンスを実行する生活を送るのが必要であるようである。坐禅に似ている のである。静かに坐って行うM&Aと、対話中、仕事中の心得であるM&Aがある。だから、このM&Aを 熟練するセラピストは多くはないかもしれない。
 アメリカでは、アクセプタンス、マインドフルネスの自己洞察法をとりいれた行動療法が盛ん に研究されている。そこでは、クライエント(問題、病気をもっている人)に、自己洞察法のス キルを指導するのであるが、実は、それを教えるセラピスト(カウンセラー)自身が、それを実 践している人の方がすぐれて、よく、クライエントを改善に導くという認識が高まっている。
 カウンセラーが、自己洞察のスキルを持っていないと、むつかしい心の病気を治癒させること はできないということである。クライエントと対話していると、クライエントは、種々の反応を する。クライアントによっては、カウンセラーの言葉、応対、技法に、拒絶過敏性や、「激しい 理想化とこきおろし」のゆれうごく対人関係様式を示すこともあり、面接場面や、メールや電話 のやりとりでも、感情的になること、激しく怒ることが起きる場合もありうる。そういう場面で 、指導者が、感情的になったり、恐怖を感じたり、おちこんだり、しかねない。むつかしいクラ イエントを扱うと、支援者側が疲弊する。支援者(医師、心理士、看護師)がうつ病になること もあるだろう。
 支援者は、臨床の場面で、感情的な場面に遭遇すると不安になるかもしれない。「逆転移」の 問題がある。支援者は、自分の心を洞察して感情、身体反応などにふりまわされて、支援者自身 が、クライエントに対して、非機能的な言葉、態度をとらないようにしなければならない。また 、金銭的、恋愛的、自己保身、そのほか種々の欲求、衝動がある。これを洞察して自制しなけれ ばならない。
 また支援者も疲れる。様々な苦悩をかかえたクライアントとあい、応対する。 心の病気のM&Aの場合には、一人のクライエントとの支援関係は、1年から2年に及ぶ。その長期間に、支援者側にも、クライエント側にも、数々の出来事がある。生身の人間だから、 支援者にも、自分自身にさまざまなつらい出来事がある。家族の苦脳、職場の人間関係、経済問題など、アクセプタンスしなければならない出来事がある。それをかかえながら、クライエントにあうのである。 すんなりカウン セリングがすすむ場合だけではない。クライアントの色々な反応に、支援者がストレスを感じる 。葛藤がひどくなる場合もある。自信喪失も起きる。支援活動やクライアントを回避したくなる 。こうした時に必要になるのは支援者自身の心の洞察だろう。こここそ、クライアントがうつ病 になったり、問題行動を起こす場面に類似する。
 支援者の倫理、精神科医の倫理、および、看護師、心理士の燃え尽きの予防の大切さは、1、2年もの長い時間を同じクラ イアントと共にすることの多い支援者には特に強く求められる。ここに、支援者自身の 自己のマインドフルネス、アクセプタンスの実行が求められる。言うはやすく、行うのは難い。 少しづつでも、そのスキルを向上させるのは、支援者自身の日々の、つらいことのアクセプ タンス、目的行為へのマインドフルネスの実践であろう。
 心の病気が薬物療法や従来の心理療法で治らない人が多いのはアメリカでも事情は同じである 。その難治性の精神疾患や障害をも改善す新しい心理療法を研究、開発しているアメリカの心理 療法者たちは、支援者は、自己洞察のスキルを訓練した方が、すぐれた支援者になるだろうと予 測している。
     「我々の臨床研究のチームでは、我々のセラピーの概念化が、単なる1つの治療アプローチに 留まるのではなく、より普遍的に、生きることとは何かを問う哲学であるという強い主張を掲げ る。我々のスーパービジョンのミーティングでは、通常、これまでの訓練と経験の両方から、情 動とマインドフルネスの役割を検証する(Follete & Batten,2000)。したがって、セラピス トはマインドフルネスのスキルを鍛錬するのと同時に、情動に名前をつけたり、表現したり、引 き起こしたりする能力をレパートリーとしてもっていることが重要だと考える。」(1)

    文献で理解しようとするより自分で直接体験すること
     「研究者の中には、マインドフルネスを学習するには、直接にそれを体験することが一番の方 法だと主張する者もいる(Segal,Williams, & Teasdale,2002)。経験に基づく学習は教示よりも 効果的であるという研究の知見を踏まえると(Bennett-Levy et al,2001)、マインドフルネスを常 に実践しているセラピストの方が、クライエントがマインドフルネスを実現する際の障壁や恩恵 に優れた理解をもつと考えられる。すると、そういったセラピストの方が、より効果的な治療を 提供し、また優秀な指導者になると考えられよう。」(2)

     「著者らの経験においても、実際に、マインドフルネスの実践経験があってMBCTを用いること と、経験なしに用いることとの違いは歴然であった。よって、少なくとも、インストラクターに なろうとする人は、クライエントへの教育を始める前に日常生活においてマインドフルネスを用 いることが望ましい。」(3)( MBCT=マインドフルネス認知療法 )
 本当に、クライエントの利益を重視する、つまり、本当にクライエントの問題を改善させよう とするならば、支援者側も、自分自身に変革を必要としている。坐禅に似た深い自己探求である から、自分が実践せず文献だけで学んだ技法を用いると、クライエントの期待に応えられないと いう状況を打破するために、支援者が、新しいスキル、新しい技法を体験せよというのである。 文字だけで学習して自ら実践しないと、その知識(思考レベルであって行動レベルではない)の 枠内にとじこめてしまうことにもなり、クライアントの利益をそこなうことになるのだろう。
 だから、心の病気の領域のM&Aは、支援者自身がM&Aのスキルを伝達しながら、自分のM&Aを実践し続けていなければならないという双方向のM&Aの現場となる難しいM&Aである。

(注)
    (1)「マインドフルネス&アクセプタンスー認知行動療法の新次元ー」編著=S.C.ヘイズ、V.M.フ ォレット、M.M.リネハン、ブレーン出版、2005/9、294頁
    (2)同、295頁
    (3)2007年「マインドフルネス認知療法」シーガル等、北大路書房、越川房子監訳、50頁 MBCT=マインドフルネス認知療法
Posted by MF総研/大田 at 22:28 | マインドフルネス心理療法 | この記事のURL