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支援者の倫理/専門家の倫理(3) [2012年03月28日(Wed)]

支援者の倫理/専門家の倫理(3)

第1節 支援者の資質

支援者が学ぶべきこと

「あわの診療所」の所長、精神科医の粟野菊雄氏が「症例から学ぶ大切なこと」として4つ、あ げられた。

<第2> 治療者自身の問題に敏感であること

 粟野医師の4つ目の言葉を(a)(b)(c)の、三つにわける。
    「(4)治療者自身の問題に敏感であること
     最後に、大切なことは、”治療者は、自分を支える道具や、(a)自 己満足を得るための道具として(b)患者を利用してはならない”ということです。
     治療者自身の不安感の手当てをするために、また”(c)相談を持ちかけられる程、重要な自 分であること”を終わらせてしまわないために、”患者の自立の邪魔”を無意識のうちにしてし まう傾向も、”治療者”にはちょっとあるのではないかと思います。ちょうど子供の自立の 際に不安になる母親のようなものかもしれません。」(1)
(a)自己満足を得るための道具
 マインドフルネス心理療法は、仏教の心の探求に類似するので、仏教の教えも参照してみる。 「自己満足を得るための道具」については、大乗仏教も注意していると思われる。文献の研究 者は、研究に喜びを感じるはずである。だが、苦悩する人に直接会う(臨床である)仏教者 はそうではない。文献研究、学問そのものの喜びには留まっていない。実際の臨床の現場で助言 してみて、援助に本当に成功した時に喜ぶ。そして、いくつかの個別の喜びに留まってい られない。広く深い問題に苦悩するクライアントが次々に現れるからである。こういう点では、 心理療法と仏教の救済実践(どこにも留まらないという慈悲については後に触れる)と似ている であろう。自分の修行の結果得たものが、他者の救済に貢献することを強調しているであろう。 他者を救済できずして、自分だけの安心、救いという自利、自己満足に留まることを批判される 。社会貢献にならないからである。

(b)自己満足を得るために人を利用する
 カウンセラー(他の領域の専門家すべて)は、クライアントを自分の喜びのために利用しては ならない。自分の収入、名誉、地位の獲得を優先して、クライアントを利用してはならない。治 せるかどうか明確でない理論で、人をひきつけておいて、来る人の数の多さを喜んではいけない 。病理レベルの心理療法は期限目標を持って 治して自立してもらうことを方針とするだろう。仏教においても、我利・我執を捨てよ、名聞利 養を捨てよ、と厳しく自己満足をとることを批判した僧侶がいる。
 実際の臨床をしない研究者は、研究段階の成果の喜びをとるのでよいだろう。宗教者は、教理 の訓話や苦悩を解決するのではないレベルの宗教実践の指導で信者や後輩から尊敬され(苦悩す る人々を救済せずとも)、種々の行事などで生活して満足していいいのかもしれない。だが、心 の病気の人の前に立つ支援者は、それではいけないというのであろう。

(c)重要な自分でありつづける、自立の邪魔を無意識でする
 誠実な支援者、指導者は、自分の弟子やクライアントが、自分の苦悩を解決して、依存心を捨 てて、自立して、どこかほかの場所にいって、そこの場所で、社会で活躍できるようになること を願うだろう。元来、仏教 も、そういう自立させることを願いとする点で、病理レベルのカウンセラーの目標に類似するで あろう。繰り返し言うが、うつ病などは治癒に導かないで留めていると、社会復帰が遅れて、生 命の危険(自殺)がある。
 人は、育てた人が自立していくことを心底喜ぶだろうか。学閥、派閥を好み、群れる傾向がな いか。群れのトップであり続けたい。弟子や学生、社会人たちの中に自分を尊敬する人が多くな ることを望んでいないか。カウンセラーの場合、そういう心は、クライアントの自立を妨げるの で、自覚していなければならないと粟野氏はいうのであろう。 心の病気のクライアントとは、期限つきで支援して治癒に導き、自立させるべきである。支援者 が自分をクライアントに重要な人物であると依存心を起こさせて長期間、自立を邪魔してはなら ない。

(注)(1)粟野菊雄「精神医学の基礎知識」、32頁。
 自己洞察瞑想法/療法(SIMT:Self Insight Meditation Tecnology/Therapy)は、自己の心の闇を 「本音」といい、自覚するようにトレーニングする。人には、差配欲や依存欲がある。専門家には、差配欲が起きやすい。それが、他者の自 立を妨げる。こういうことにならないように、マインドフルネスの専門家は、クライエントに「早期に自立させようとして、きびしく激励することがある。依存心に気づいて、しっかりとトレーニングするようにという。嫌われることもあるがやむをえない。それくらいは、社会現場でのストレスなどとはくらべようもなく軽いものである。社会は厳しい。そこで生きていくために、親、配偶者、カウンセラー、先生から自立していかねばならない。
連続記事「マインドフルネス支援者の倫理/専門家の倫理」目次
Posted by MF総研/大田 at 21:49 | マインドフルネス心理療法 | この記事のURL