自己洞察瞑想療法 [2012年02月15日(Wed)]
自己洞察瞑想療法(SIMT)=マインドフルネス心理療法の一種このホームページにアクセスが増えています。テレビで熊野先生がマインドフルネス心理療法を 紹介なさったからでしょう。 このブログもマインドフルネス心理療法を紹介するものですが、マインドフルネス心理療法には種 々あって、これは欧米で開発されたものではなくて、日本で開発されたマインドフルネス心理療法 です。 自己洞察瞑想療法といいます。その内容はこちらに要約しています。 具体的な手法、60くらいを、セッション1から10まで実践していくと、1年から2年で、うつ病や不安障害が改善します。2013年5月ころ出版される本 「うつ・不安障害を治すマインドフルネス ひとりでできる「自己洞察瞑想療法」 ですべて公開します。 はじめてごらんになるかたが多いでしょうから、自己洞察瞑想療法の起源をご説明いたします。 マインドフルネス心理療法によって他の人を救済支援なさろうとする方の育成講座のテキストから 抜き出します。 マインドフルネス心理療法は、種々の流派があって、欧米で開発されたものが多いです。マインドフルネスストレス低減法、アクセプタンス・コミットメント・セラピー、弁証法的行動療法、マインドフルネス認知療法などは、欧米で開発されたもので、翻訳書が多数出版されつつあります。 自己洞察瞑想療法(SIMT)は、これらとは違って日本で開発されたもので、その開始は 1993年です。研究と実際の臨床を重ねて、発展してきました。 禅の実践と哲学を応用した心理療法で、欧米のものと似ています。背景の理論が異なっていますが、開発された手法、課題は大変にています。認知を修正する技法を用いません。アクセプタンス、マインドフルネスの技法が用いられます。そこが、「マインドフルネス心理療法」という範疇に含まれるのです。 <育成講座のテキストから抜粋>今回少し加筆しました。 <第1> 自己洞察瞑想法(SIMT)の起源◆自己洞察瞑想療法の臨床開始は1993年アメリカでは、2000年前後から、マインドフルネスおよびアクセプタンスの技法を取り入れ た心理療法プログラムが多数発展している。アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)、 弁証法的行動療法、マインドフルネス認知療法、行動活性化療法などである。これらは、2005年9月 に翻訳出版された書籍(1)によって日本に紹介され始めた。 こういう流れとは別に、1993年から、坐禅の実践を宗教的目標(2)を達成することではなく、 精神疾患の治療に適用できると思った筆者が一般の人向けに、心の病気の予防、改善を主たる目的 としたグループ実習を開始した。これが自己洞察瞑想療法の始まりである(3)。グループ実習のほか に、個別面接により、うつ病などを改善するための呼吸法の実践指導をした。 指導の方向は、うつ病、不安障害などの精神疾患についての脳神経生理学の研究成果を参照しな がら、その患者にみられる心理的な柔軟性の欠如があることを見出し、呼吸法によって改善しよう とこころみてきた。当時は前頭前野、セロトニン神経などの研究はまだ参照せず、もっぱら、呼吸 法に、注意集中、思考抑制、不快事象の受け入れ、執着(一時的な楽をとる心理)の解放の目標技 法をおりこんだものであった。これは、禅の手法からヒントを得たものである。大乗仏教の実践で は、禅定と智慧を同時に実行すべきであると主張されている。智慧は、禅定を行なうガイドライン 、目標といってよい。目標なく形式的に坐禅のみを行なうのではなくて、智慧をおりこみながら坐 禅を実践するということである。これにヒントを得て、呼吸法の実行(呼吸に意識を集中するので 禅定に類似する)をする時に、「精神疾患を治す智慧」を織り込みながら実行するという心理療法 を開発して、臨床を行なってきた。たとえば、感覚をあるがまま観察して言語との連想の解消をは かる、自動思考を抑制するとか、感情が起きても、すぐ行動に移らず観察して受容し、機能的な行 動に意識を向けるなどであった。 <第2> 神経生理学的変調の改善2000年ころから、前頭前野やセロトニン神経に関わる精神疾患の神経生理学的研究の成果を参照 して、目標技法の再編成、形式技法の追加、修正を加えながら技法を洗練させて臨床を行なってき た。呼吸法に目標技法をおりこんだ技法が主な技法であったが、2002年ころから、それらに加えて 、脳神経生理学の知見にヒントを得て、生活技法、脳機能活性化技法、運動技法などの追加が行な われた。その間、2000年に、ジョン・カバット・ジンに発するマインドフルネス・ストレス低減プログラ ム(MBSR)の存在を知ったが、まだ、アメリカのマインドフルネス心理療法の発展(精神疾患の治療 )については日本に広く紹介されていなかった。自己洞察瞑想療法は、すでに精神疾患の臨床に使 っていたが、MBSRは、痛みの緩和が主であって、自己洞察瞑想療法は、もっと広い領域に適用して いたから、MBSRは自己洞察瞑想療法にはほとんど影響を与えなかった。ただ、呼吸法実行中におけ るマインドフルネスのありかたをいかに言葉で指導するかについて多くの示唆を得た。 横臥して行なうボディスキャン技法は新鮮であったが、横臥していない時に刺激を受けて感情的に なることが多い精神疾患のクライアントに用いるのは限界を感じて、ほとんどすすめてこなかった 。しかし、横臥することが多い、がん患者、介護状態の人には積極的に用いることが期待される技 法である。今後、新しい領域で、考慮されるべき技法である。 禅の実践や西田哲学を深く参照しているが、あくまでも、自己洞察瞑想療法は医療(治療と予防)であるから、単なる禅、単なる哲学にならないように、精神疾患や社会問題における神経生理学的な研究との整合性を検証しながら、理論と技法を構成している。心理的、哲学的な現実の世界と神経生理学的な世界とが独立自存しているのではなく、相互に影響しあって不一不二であることを表す概念として「神経生理学的フュージョン(NPF)」を導入した。 両者の関係の記述の作業は今後も続けられて、理論的説明や技法は改変されていくだろう。 <第3> 自己洞察瞑想療法の文書化自己洞察瞑想療法の文書化は2003年に始まる。うつ病を改善し、自殺を防止するために、自己 洞察瞑想療法を提供できるセラピストの育成の必要性を感じて、自己洞察瞑想療法のセラピストの 養成講座のためにテキストを作成した。2004年から、講座を開始して、その後、講座は繰り返 し行なわれて、テキストに改訂を加えてきた。当初は、仏教や禅の用語も多く用いて、その哲学を心理療法化したものであるとして、現在の心の病気の人でも理解できるように記述した。後には、宗教に中立を求められる公共の場での普及活動を考慮して、仏教用語、禅の用語を用いないようにあらためられた。2006年春に上述のアメリカのマインドフルネス心理療法の翻訳書が前年に出版されたのを知った 時に、自己洞察瞑想療法と類似した心理療法がアメリカでは、マインドフルネス&アクセプタンス の心理療法(以下、マインドフルネス心理療法という)として広く発展していることを知って驚愕 した。2つの心理療法の類似性を自覚し、アメリカのそれを参考にして、自己洞察瞑想療法を心理 療法として再構成をして、2007年に、ほぼ現在の形に落ち着いた。自己洞察瞑想療法の応用範囲が 、種々の領域に発展する気配を感じたので、多数の要請に応えやすいように、2007年から2008年に かけてテキストをテーマ別にモジュール化した多数の小冊子のテキストに編集しなおした。 基本的には禅の実践や禅の哲学が背景になっているが、禅の研究領域においては、思想的な研究 が重視されていて、精神疾患への応用に参照できるように論理的に記述した研究を発見することができなかった。そこで、 西田哲学を参照した。西田幾多郎は、禅を実習した人で、自己について深く洞察して哲学書を著し た。自己の作用、自己について論理的に記述していて、精神疾患の治療、予防の理論と実践の指針を得るための多くのヒントを西田哲学に見出した。西田哲学が 自己洞察瞑想療法(SIMT)の理論と実践方法に大きな影響を及ぼしている。 このように、自己洞察瞑想療法は、西田哲学、日本の禅、大乗仏教、精神疾患の研究、脳神経生 理学などの成果をおりこんで、日本で開発された心理療法である。 アメリカのマインドフルネス心理療法と自己洞察瞑想療法は類似するが、それは、両方とも、仏 教や禅の手法が中核に用いられているからである。ただ、禅定と「目標技法」の一部に相当する技 法は類似するが、他の補助技法と精神疾患の生起と治癒の理論がかなり異なっており、いくつもの 多様なマインドフルネス心理療法が開発されている。日本でも、ある領域、ある疾患、ある問題に 特化したマインドフルネス心理療法プログラムが開発されていくだろうと期待する。 <第4> 自己洞察瞑想療法(SIMT)という名称の由来このように、欧米のマインドフルネス心理療法とは違う理論と背景を持つ (しかし、表面のマインドフルネス、アクセプタンスの技法は類似する)ので、別の名称で呼ぶことにした。こちらに続く |
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