マインドフルネス心理療法は認知療法と哲学が違う [2011年01月11日(Tue)]
マインドフルネス心理療法は認知療法と哲学が違う第3世代の認知行動療法認知行動療法は長い歴史があるが、「マインドフルネス」は、第3世代の認知行動療法と言われる。第1世代が行動療法、第2世代が認知療法である。認知療法は、うつ病を完治させる(一時的な 短期間の改善ではなく)療法として、定評があった。しかし、それでも完治しないうつ病があることもわかってきて、新しい認知行動療法の研究開発が求められてきた。マインドフルネスを第3世代の認知行動療法と言い始めたのは、ヘイズである。 「マインドフルネス・トレーニングの応用はMBCTの中核をなしているが、Hayes(2002)により「第3世代」の認知行動療法と称された、弁証法的行動療法(DBT;Linehan,1993)やACT(Hayes,Strosahl,&Wilson,1999)などの他の介入においても、程度の差こそあれその特性が見受けられる。」(p81-82) 「実のところ、MBCTは、CBTの歴史の中で生じた介入方法の開発に関わる大きな波の一部にすぎない。しかしこの波は、従来の行動的、認知的モデルを背景に生み出された従来の癒しの方法を根底から覆す可能性を秘めている。第一世代、第二世代の行動療法と同様に、ACT、DBT、そしてMBCTはいずれも問題の構造を把握するために、実験心理学、行動理論、認知科学における実証的知見を参考にする。他方、第3世代の心理療法は、非言語的治療方略を好んで用いる点で、従来の心理療法と大きく異なるといえよう。臨床的介入の中では、解決に必要な要素として、概念的な思考や表象の価値を失わせる方向に、患者の問題に対する理解を再教育することが目標となる。このことは、同時に「文字」という形式による問題の理解も減少させる(Hayes et al.,1999)。 例えば、従来CBTでは、パニック患者において、彼/彼女の高鳴る鼓動に対する思考や評価を額面通りに受け取って、論駁を試みたり、証拠に基づき修正しようとしてきた。しかし、この新しい方法では、一瞬ごとに生じる感覚に注意を向け続けながら、そうした思考を、意識の中にあるものとして観察し承認するのである。 思考は、良いものでも悪いものでも、恐ろしいものでも、役に立つものでもない。 それらは心の中で生まれては消えてゆくささいな出来事にすぎない。 患者が挑戦するのは、思考とのこうした関係性を発達させることなのである。 ACTで用いられる認知的ディフュージョンや、DBTで用いられる「賢い心」訓練などは、いずれも患者が思考内容を脇に置いて、そのプロセスに注意を向けるための手段を提供しているのである。」(P90) マインドフルネスのなかでも行動活性化療法(BA)はうつ病を治す新しいマインドフルネス心理療法は、東洋哲学が背景にあると言われる。アメリカ の行動活性化療法(BA)もその一つであるが、認知療法とは哲学も手法もあいいれないとこ ろがあるという。「反すう」=思考、 「認知内容そのもの」には、一切助言せず、否定的な思考プロセスの改善を助言する 。これは「認知療法」の理論でも、認知的技法でもない。それでいて、うつ病が治る 。(ただし、治るには、BAのみである。)「うつ病患者は自己の問題に関する反すうに多くの時間を費やす。反すうは抑うつ を深刻化させ、エピソードを持続させる結果につながる( Nolen-Hoeksema, Morrow, & Fredrickson, 1993 )ため、BAの中でも当然治療標的となりうる。反すうの内容を 扱うということは認知的な技法であり、先に示したBAの臨床試験の中でもそういった 手続きは使用されていない。」(234頁) 「その代わり、臨床試験の中でセラピストたちは、反すうのプロセスを取り扱い、 クライエントとともに反すうの内容ではなく機能を特定し、そうした機能の改善を 標的とした作業を行った。 (→A) さらに、自分自身が体験していることに注意を向けることで反すうを妨害する、とい う方法の指導も行った。体験に注意を向けながら、クライエントは反すうによりどん な活動を回避しているのかを尋ねられる。それが見つかると、今度はその回避してい た活動に取り組むよう指導されるのである。クライエントが、反すうに気をとられて 活動に取り組み続けることができないと訴える様な場合にも、自分自身の経験に注目 するよう助言を与える。クライエントの体験を構成する視覚、嗅覚、味覚、触覚など に注意を向けるための援助を行うのである。」 (→B) (234頁) これは、うつ病の治療法であるが、自己洞察瞑想療法(SIMT)における不安障害も同 様の方針である。認知を変えることなく不安が起きてもあるがまま観察して、目的行 動に意識を向けていく方法であるから、認知的技法は用いられない。 認知(思考)の内容を変える努力は必要はない、というのがマインドフルネス心理 療法の原則であるから、指導を始めてから、うまくいかないからといって、今度は、 ある種の認知がおかしいから変えるようにいうと、指導が矛盾する。カウンセラーも 矛盾するし、クライアントもとまどうだろう。積極的な心理療法にも2種あるが、カ ウンセラーにもクライアントにも向き、不向きがあるので、うつ病、自殺防止の支援 のためには、2つ必要であるかもしれない。マインドフルネス心理療法も支援者が指 導のスキルを向上させるためには、自分でも日々、実践する必要があると言われる。 認知療法もマインドフルネス心理療法もスキルを向上させるには熟練していかねばな らない。認知療法とはかなり違うのだから、 マインドフルネス心理療法のセラピストは専門化する必要があるかもしれない。この ことはまだ実証されていない。2つとも日本では十分適用されていない。私も認知療 法は用いたくない。東洋哲学の背景のあるマインドフルネス心理療法のほうが自分に はあっている。自分より年配の、それまで成功してきた人生を送ってきた人に、たま たまうつ病になったからといって、「あなたの考えがゆがんでいる、変えましょう」 とはいいにくい気がしている。 積極的心理療法にも葛藤がある。
編著=S.C.ヘイズ、V.M.フォレット、M.M.リネハン 監修=春木豊 監訳=武藤崇、伊藤義徳、杉浦義典 ブレーン出版、 |