マインドフルネス心理療法は「メタ認知」の獲得も [2010年12月29日(Wed)]
マインドフルネス心理療法は「メタ認知」の獲得もマインドフルネス心理療法は、 うつ病、不安障害、依存症などに効果が確認されているが、注意欠陥・多動性障害の治療にも 効果があるかもしれない。メタ認知は、認知に関する知識であり、 マインドフルネス心理療法は、「メタ認知」の中でも、自己の思考に「気づき」 注意を大切なものに向けるトレーニングが含まれている。思考に気づかないとど こまでも思考して(注意の固執)、目的行動をそれたり、集団活動から遊 離してしまうが、そういう状況を改善できるかもしれない。マインドフルネス心 理療法は、呼吸法を用いて、複数の意識作用をモニタリングするトレーニングを するので、ワーキングメモリ(作業記憶)の向上、注意の固執を改善す るかもしれない。 注意欠陥・多動性障害に効果があるのかどうか、試した事例は見たことはないが 、関係する支援者の方は試してみる価値があるのではなかろうか。今、アメリカでは、種々の問題領域に、マインドフルネス瞑想を適用するこ とが行われているが、従来の認知行動療法に統合させていく可能性について、次 のように論じている人々がいる。 (参照文献の第12章の執筆者:G.Alan Marlartt ほか、11名のワシントン大学 依存行動研究センターの人々の論文) 次にみられる総括は、東洋の瞑想実践のマインドフルネスの種々の心の病気や 問題行動を改善させる心理的なメカニズムについて説明している。日本の種々の 問題の改善にも、貢献する可能性が高いことをよく説明してくれるように思う。 認知行動療法の進化・革命となる
メタ認知 「メタ認知は、Flabell(1979)によって一般的には、認知に関する知識、あるい は認知についての認知として理解されている。メタ認知による処理には、自分の 認知に関する知識を獲得することの他に、計画すること、モニターすること、評 価することなどの制御的過程も含まれる。」(367頁) 認知そのものの変容ではなくメタ認知の変容マインドフルネス心理療法は認知療法の先をいくものとされる。原初の認知療 法のように、「思考の内容の修正や変容」をもたらすものの、直接的にそれを治 療法の目的とする傾向よりも、メタ認知のレベルの変容を起こすことをねらい、 問題の改善を実現する。メタ認知の変化によって、問題や苦悩が改善して、思考 内容も変化することはある。あまり、認知の内容そのものの深い分析を行うより も、認知の仕方の全体からみていく手法である。だから、原初的な認知的技法、 行動的技法は重視せず、マインドフルネス技法を重視することになる。注意の分 配、自己の意識作用の気づき、無駄な思考抑制、不快事象を無評価で体験し受容 、執着からの解放、観察による思考・感情・症状悪化の因果関係自覚な どである。
「気づきとアクセプタンスを促進するための実践としてマインドフルネスを統 合することは、CBTの「C」である。CTの進化と捉えることができる。なぜならば 、マインドフルネスは(べック式の伝統的なCTのように)思考の内容の修正や変 容を目的とせず、メタ認知のレベルで機能するからである。人によっては、こう した動きを革命的な進化と捉え、「徹底的認知主義」の発現とさえ呼ぶかもしれ ない。」(390頁)(CBT=認知行動療法、CT=認知療法) 「徹底的行動主義の側から見れば、マインドフルネス瞑想は、思考や意図を「 こころの所作」や「思索者不在の思考」(Epstein,1996)と捉える見方と類似して いるかもしれない。仏教心理学は、エゴイスティ ックな価値判断(自己や自我を、行動的結果をコントロールするもの、あるいは 「原因」であると考える)は錯覚であるとみなすが、この点も、徹底的行動主義 と一致している。」(390頁) 心が機能しているかという「全体図」への自覚 「マインドフルネスの実践は、どのように心が機能しているかという「全体図 」への自覚を増大させる。また、思考や感情が生成されるとき、マインドフルネ スは、どのような注意の対象にも執着したり拘わったりすることなく、広い視野をもてるように気づきのカメラをずっと後方に配置す る。さらに、瞑想の実践を重ねるうちに 、思考や意図(心の所作)、あるいは感情や感覚(身体の所作)は、様々な要素 により決定されており、また文脈的な因果関係があることを深く理解するように なる。」(390頁) マインドフルネスの実践従来から心理学に「メタ認知」の心理学があったが、マインドフルネス心理療法は、従来のメタ認知とは、異なる部分も多い。場所的自己における、今ここでの意識現象のすべての メタ認知、さらに、それをモニタリングしていく実践法が新しい。過去や現在の出来事や未来の不安などについて、自我に囚われることなく、 思考や感情がうつりゆくのを観察することを訓練する。無評価で体験し、思考や 感情に気づいている。自分が主人公となるような想像の思考に陥るのではなく 、呼吸や身体的感覚に注意を向ける訓練をする。意識を今この瞬間におく。 不快な思考や感覚が生じても、目的を想起して、逃避したり回避したりするので はなく、注意を十分にその体験に向け、建設的な行動を選択する。これは、メタ 認知やワーキングメモリ(作業記憶)が関係する。
「徹底的認知論の立場と徹底的行動論の立場の間でたびたび議論の的となるの が、マインドフルネス自体の役割や機能である。仏教 心理学の観点からいえば(Marlatt,2002)、マインドフルネスとは、 瞑想実践者が、過去や現在の出来事、将来の計画 について、自我に依拠した帰属に囚われることなく、内的な思考や感情のうつろ いを観察することを可能にする、無評価的気づきの状態である。自分が主人公と なるお得意のストーリーに陥る替わりに、呼吸と存在し続ける身体的感覚に注意 を向けることで、我々の気づきを今この瞬間につなぎ止めるのである。不快な思 考や感覚が生じた場合は、その瞬間に起こっていることから、逃避したり回避し たりするのではなく、注意を十分にその体験に向ける。このことは、先にも述べ たとおり、エクスポージャーによる治療や系統的脱感作といった近年のCBTの技法 と一致するものである。」(391頁) マインドフルネスのリラクセーション効果も認知・行動を変容させる 「さらに、瞑想実践に伴うリラクセーションの 促進は、クライエントに、ストレスや不安の代替反応として、どのようにして「 リラックス反応」を誘発できるかを教える。CBTのストレス・マネージメント・プ ログラムと類似している。また、リラクセーションは、制御のためにさらなる努 力をしたり、体験を変えようと意志の力(通常は回避や逃避という戦略)を行使 するのではなく、問題と思われる思考や感情をどのように受け入れ、「解き放つ 」かをクライエントに教える練習として必要な要素といえる。」(391頁) 思考、感情、非機能的な行動の悪循環を「一呼吸おく」うつ病、不安障害、摂食障害、依存症などの人は、思考、感情、非機能的行動 のつらい循環を繰り返すが、マインドフルネス心理療法のトレーニングによって 、これらの因果関係を観察できる。不快事象が起きても、あるがまま観察するう ちに、効果ある行動を選択するようになる。
「他方、徹底的認知理論の観点から見ると、マインドフルネスは、あらゆる時 間や場所で心と身体がどのように振る舞うかについての自覚を増大させる「上手 い方法」を提供しているといえる。「自動操縦」という条件づけられた制御機能 に操られ、思考から感情へ、また思考へと猪突猛進するのではなく、習慣的な行 動とそれらに関する思考の関連性を観察できるようになることを、マインドフル ネス・トレーニングは援助する(Segal et al.,2002)。瞑 想を重ねるごとに、習慣的な刺激ー反応間のギャップや距離を観察する機会は増 加していく。そして、それにつれて「活動のペース」が落ちていく。そう なることで、瞑想実践者は普段の習慣的なやり方で反応する前に、「一呼吸おく 」機会が増えるのである(Branch,2003)。このように「一呼吸おくこと」で、習慣 的なやり方で反応する前に、呼吸や現在経験している身体感覚に注意を集中する といった、別の反応を生じさせるための選択の場ができる。マインドフルネスは 、習慣的、反応的な応答パターンと比較して、先を見越した気づきと、反応選択に おいてより自由な感覚をもたらしてくれるであろう。」(391頁)
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