うつ病の種々の局面 [2010年05月20日(Thu)]
マインドフルネス心理療法の本
うつ病や不安障害などを治すための新しい心理療法が開発されました。
それを紹介した本です。本で紹介した課題を実践すると治ります。
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<シリーズ>うつ病や不安障害がなぜ薬物療法だけでは治らないのか、自己洞察瞑想療法(SIMT)で治るのか
1、背景の神経生理学的基盤と自己洞察法の哲学
2、疾患や問題の各論
(3)うつ病の種々の局面
うつ病が薬物療法だけでは治らない人や、一度軽くなっても再発する人がいる。薬物療法だけではなくて、心
理療法の提供、相談による心理的支援、経済的支援などが必要である。
うつ病は、次のような症状、状況が複合しているので、長期化させないように、早期に手を打つとともに、長
期化している人には、薬物療法以外の支援が必要である。
薬物療法や相談支援は充実してきたが、他の支援がまだ不充分である。
うつ病は次のような局面があり、薬物療法はごく一部に関係している。
- (1)予期しない発作的な症状が繰り返し起こる。(急性発作の苦痛)
突然、鉛様麻痺感、起き上がれないという症状が起こる。
会話中に、感情的になる(怒る、不満をぶつける)。
大丈夫かと思って、友人と約束したが、当日、抑うつ症状、体調不良が起きて、でかけられない。
こうしたことから、対人関係の悪化をもたらす。
- (2)症状が起こるのではないかという心配の継続(予期不安、予期不満)。
日常的に、発作的な症状の脅威のことを考える。心理的に苦痛の思考を繰り返す。
- (3)発作的な症状がもつ意味についての心配(この病気を不可解と思う苦痛)。
どうして、こうなるのかよくわからずに、心配する。セロトニン神経の説明を受けても不可解であり、悩む思考
を繰り返す。
- (4)慢性的な種々の精神症状。
抑うつ症状、意欲がない、頭が回転しない、他者と会話ができないなど種々の精神症状が慢性的に持続する。これを苦痛に思
う思考を繰り返す。
- (5)慢性的な種々の身体症状。
上記の症状や以下の状況を毎日、思考するので、交感神経の亢進、ストレスホルモンの分泌などにより
自律神経系の失調のような症状が慢性的に起きる。
- (6)発作的な症状や慢性的な症状と関連した行動の大きな変化(それによる、ひきこもり)。
種々の症状が起きることの不安、苦痛から、社会的文化的な行動(職業、趣味、地域など)を回避する。以下の要因
からも、社会生活からの退避が加速される。
- (7)衝動的行動。
過食、アルコール・違法薬物の摂取、自傷行為、暴力などの行動を引き起こすこともある。その状況を後悔し自
己嫌悪してさらに否定的な思考を起す。それによって、症状が悪化する。
- (8)自己評価、自己人生評価の低下。
将来のこと(仕事、結婚、人生設計など)が不安に満ちたもの、悲観的なものであるという思考の繰り返しが起
きる。そのことから、自己評価、自己人生評価の低下がみられる。重症化すると、自殺したくなる。
- (9)職業生活の後退、回避(願い、価値実現の困難さ)。
以上のような、心理的身体的な状況から、自分が希望し、願う職業に従事できない、進路変更を余儀なくされる
。長期間にわたって心理的に苦悩する思考が起きる。
- (10)治療法や副作用に悩む(治療法の悩み)
日本では薬物療法しか受けることができない環境であるが、
うつ病本来の症状なのか薬の副作用による症状なのか判別しにくい状況になる人は、薬物療法を続けるべきか、
やめては悪化するかもしれないと悩む。薬物療法で治らない場合に他の治療法がなくて悩む。これも悪化させる
思考となり長引く理由である。
- (11)症状の悪化に影響している外的なストレス要因を軽減できない(外的、社会的な要因が軽減されない
)
長時間勤務、変則勤務、債務、個人事業、向かない仕事、仕事上の難しさ、セクハラ、パワハラ、いじめ、人間関係、介護する状況、家族に関する悩み後悔、など容易には変
えることができずに、心理的苦痛が持続する。苦悩の思考が症状を持続させ悪化させる。
職業に要請されるスキルと実際のスキルとのギャップがあって悩む場合にも、ストレスは持続する。
- (12)発病の要因、症状の悪化持続に影響している身体の病気や精神的な障害が治らない。(身体疾患が治らない)
がん、生活習慣病、痛み、心臓関係の病気など身体の病気や事故や脳血管系の病気による身体障害をもたらす後
遺症がある場合、それが治らないと心理的ストレスとなる。
また、他の精神疾患や精神的障害がありそれが治らないと、うつ症状を併発することがある。他の障害が治らないと、うつ症状も治りにくい。
苦悩の思考がうつの症状を持続させ悪化させる。良いところもあることを見ようといっても、この苦痛の対象はあまりに大きくて、認知を変えることがうまくいくとは限らない。
- (13)家族、親族に関する悩み。
急性の症状が現実に起きる、予期不安不満、慢性的な身体症状のために、家族とともに行動(行楽、旅行など)
しなくなる。家族のための世話(育児、食事、家事など)ができないとか、家族のための行事(子どものための
授業参観、教師との面談、家族のための支援行動など)に参加できない。
こうしたことから、家族や親族から不満の言葉を聞く場合には、悩む思考を起したり、家族の理解があっても、
家族に迷惑をかけてすまないと悩む思考を起す。家族から不満の言葉を強く言われたり、家族の理解がないと特
に苦しむ。家族間の緊張、不和、家族のうつ病、離婚などに至ることもある。これは、症状を悪化させる。
これは、非定型うつ病であっても、メランコリー型うつ病のような慢性的な症状が併発する大きな要因である。
家族に理解があって、ある年月療養できても、治らないと、親の不就労、親の病気(精神疾患、身体疾患)、親の離職もありえるし、親が老いる時がきてはささえきれなくなる。
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(14)過去のトラウマにより対人関係の回避
ある個人との対話や行動が発作のきっかけであったり、あおうとすると、身体症状、身体反応を悪化させる場 合、その人にあうことを回避する(トラウマ)。
過去の出来事から現在の発作的な症状が起きる。
同一人物へのトラウマであったり、類似の人物を回避する場合もある。これに関連して非定型うつ病が悪化することもある。家族と不和になったり、部屋にとじ こもることになる。離婚もありえる。
- (15)収入の減少による経済的な問題からの心理的苦痛。
本人も家族も就労困難となり経済的に困窮して、それが心理的ストレスとなり、症状を悪化させる。家族の進路、就労にも影響して
さらに心理的苦悩が強まる。
- (16)孤立、孤独。
家族、地域、患者会、行政などによる経済的、心理的な支援が少なく孤立して孤独を深めて苦痛を強める。家族
と、同居していても、家族の理解、支援、会話がなくて、家族の中で孤立し孤独を苦しむこともある。理解ある家族でも家族ぐるみ孤立もある。
なぜ治りにくいのか
うつ病は早期に気づいて薬物療法を受けると治る人もいるのだが、当初から、上記の種々の局面があった人や
、薬では効果があらわれにくい心理的ストレスが強い場合には、長期化する。
長期化した場合には、上記のような種々の局面が現われて、もはや、薬物療法だけでは軽くならない。
効果のある心理療法であっても、1,2年かかる。だから、うつ病には予兆(悩む思考が多い、睡眠障害、胃腸の変調など)
があるから、重症にならないうちに、早期に対策をとるべきである。
なぜ、自己洞察瞑想療法(SIMT)で治るのか
上記のうつ病の局面のうち、相談や傾聴で解決できる悩み、困ったこと、きいてもらいたいこと、知りたかっ
た情報を得ることで解決するものがある。職業訓練、技能訓練などで解決する場合には、そういう支援が必要である。法的な支援、経済的な支援で解決する場合もある。
しかし、そういうことではなくて、そういうことが充たされても、治らないうつ病も多い。家族に愛されていて、経済的な問題がなくて、純粋に病理だけが残ることがある。
認知行動療法やマインドフルネス心理療法(これも認知行動療法の一種であるが)でいくつかの局面を改善で
きるものがある。
上記のうち、(1)〜(5)が中核の症状であるが、薬物療法で治らない人でも、心理療法で軽くなる人がいる。心理
療法の課題の繰り返しの実行が、脳神経生理学的な変化をもたらすためであると推測される。
自己洞察瞑想療法(SIMT)の場合には、中核の症状を改善するような「意志作用」を繰り返し起すことが、背外
側前頭前野、帯状回認知領域、副交感神経などを活性化させ、交感神経、扁桃体、内側前頭前野、帯状回情動領域、HPA系(
視床下部ー下垂体ー副腎皮質)の興奮をしずめるためであると推測される。他の認知行動療法も、認知を変える
ことで同様の神経生理学的変化をもたらすのだろう。
他の局面は、中核の症状が軽くなれば、おのずと解決されるものが多い。
(12)は、がん闘病、リハビリテーション、介護の現場に起きるが、うつ病になりうつ病を悪化させやすい。強
い心理的ストレスが長期間続くので、うつ病の薬物療法だけではうつ病の悪化、自殺防止は困難であろう。昨今
の自殺原因で「健康問題」が多いが、身体疾患からのうつ病、それによる自殺が多いと思われる。病院、自宅療
養、介護、リハビリテーションの現場で、心理療法の提供が望まれる。
(13)は、家族がいっしょに、認知行動療法の治療プログラムに参加することによって改善される。家族が参加
するほうが家族の対処法にも影響し、治療プログラムからの脱落が少なくて治癒割合が高いようである。家族間
孤独(15)も同様である。
今、提供している自己洞察瞑想療法のグループ・セッションでも治らない人もいる。個別カウンセリングをずっと継続するとか、入院合宿方式では治るかもしれない。グループ・セッション方式でも、うつ病、非定型うつ病、パニック障害、対人恐怖症、心的外傷後ストレス障害、家族の緊張、がん闘病、ターミナルケア、東洋的スピリチャルケア、パーソナリティ障害、虐待する心、虐待の被害者の支援、薬物依存、介護現場、リハビリ現場、非行犯罪更生、犯罪被害者支援など、障害や問題が違えば、治療技法を改良すべきところもある。まだ、研究しなければならないことは多い。多くの人によって新しい領域への応用を研究していただきたい。
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Posted by
MF総研/大田
at 11:38
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新しい心理療法
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