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非定型うつ病を治す(3) [2009年10月26日(Mon)]

非定型うつ病をマインドフルネス心理療法で治す(3)
 非定型うつ病の<過眠症状>はなぜ起きるのか

 =それを理解して症状が改善するような対策を実行すべき

 通常のうつ病のように、気分の落ち込みなど(大うつ病や気分変調性障害のように) があるが、ほかに、次の特徴があるのが、「非定型うつ病」である。
    (A)「気分反応性」(すなわち、現実のまたは可能性のある楽しい出来事に反応して気分 が明るくなる)
    (B)次の特徴のうち2つ(またはそれ以上)
      (1)著明な体重増加または食欲の増加
      (2)過眠
      (3)鉛様の麻痺(すなわち、手や足の重い、鉛のような感覚)
      (4)長期間にわたる、対人関係の拒絶に敏感であるという様式で、著しい社会的または 職業的障害をひきおこしている
 このうち、非定型うつ病の人が社会的生活(仕事、主婦業など)をこなせなくなるこ とは次の症状だろう。
 対人関係で激しく反応することによって
  • (1)激しく感情的になる(怒る、嘆く、落ち込む)。そして体調不良。
  • (2)強い睡眠へのスイッチがはいる
  • (3)鉛様麻痺感へのスイッチがはいる
これら3つは、対人関係をきっかけとして起きることが多いから、対人関係の反応パタ ーンを修正することが肝要である。
 こうした、3つのきびしい症状のうち、(1)は、扁桃体の亢進、交感神経の興奮、ス トレスホルモンの分泌による反応である。 この激しい興奮が強い眠気と鉛様麻痺感を引き起こす。
 昼間でも睡くてたまらない過眠の仕組みはどうなっているのだろうか。まだ解明され ていないが、過眠についての他の病気の場合、次のような報告がある。
  • 慢性疲労症候群
     慢性疲労症候群にも過眠の症状があり、研究者によれば、動物の疲労モデルの研究に よって、精神疲労(中枢性疲労)が、強い眠気を起こすことがあるという。

     「脳に過剰な神経興奮がもたらされると、興奮にあずかったニューロンにおいてカル シウムイオン流入が引き金となって細胞膜からアラキドン酸が遊離し、さらにCOX2の発 現が誘導されること、そしてCOX2はアラキドン酸からプロスタグランディンを産生して 徐波睡眠を引き起こすことがわかった。なお、COX2抑制剤の投与は、 サーカディアンリズムによる睡眠位相の変化には影響を与えなかったことから、中枢神 経の過剰興奮は、後に産生されるプロスタグランディンはサーカディアンリズムとは別 の徐波睡眠誘導系を担っており、覚醒時の中枢神経の活動の程度によって、その後の睡 眠深度を調節しているものと考えられる。」(1)
     「脳は過剰な興奮の後、COX2発現誘導とそれによるプロスタグランディン産生によっ てその機能を一時低下させ、深い睡眠へと移行することがわかった。このとき、われわ れは意欲や集中力の低下とともに強い眠気に襲われるものと考えられる。 徐波睡眠に代表される深い睡眠の十分な摂取は疲労回復にきわめて重要であることはわ れわれの日常の経験からも疑いようがない。」(2)

  • ナルコレプシー
     いわゆる居眠り病としてしられているナルコレプシーに発作的に眠りにはいる症状が ある。

     「ナルコレプシーは、オレキシンを分泌する神経細胞の変性や機能障害によって覚醒 機構が障害され、そのためにやたらに眠くなるということがわかりました。」
     「一方でオレキシンは、食欲中枢、摂食中枢と関係があることが知られています。通 常、強い眠気をもよおす患者さんは、やたらと食べるタイプが多いものです。過眠であ り、同時に過食であるパターンです。このように食欲中枢と覚醒中枢の関係、摂食障害 と過眠の関係が模索されていますが、現在は研究の途上にあります。」(3)
 病気としての強い眠気を引き起こす脳神経のメカニズムはまだ解明されてはいないが 研究がすすんでいる。「精神の脳科学」(東京大学出版会)には、睡眠と覚醒のスイッ チについての研究が紹介されている。 非定型うつ病の場合も、このスイッチの変調が感情の亢進によって起きるのだろうが、 まだ解明されていない。うつ病は特に研究者が少ないようである 。ただ、他の病気の異常な眠気の仕組みが解明されれば、 非定型うつ病の眠気も解明されるかもしれない。薬も同じものが効くかもしれない。た だし、薬が開発されるまでには、まだ何年もかかるだろう。

非定型うつ病の治し方

 まだ、異常な眠気の仕組みが解明されていないが、非定型うつ病を改善するために、 心理療法的介入方法が考えられる。
 健常な人と非定型うつ病の人の反応パターン(刺激→反応→結果) の違いがある。
  • 非定型うつ病でない人は、同じような対人関係(何かを言われる)であっても、そ の程度の言葉、状況に、激しく感情的にならない
  • 非定型うつ病でない人は、激しい感情を起こしても、異常な眠気は起こらない 。すなわち、非定型うつ病には、次の連鎖がある。

    ◆対人関係→激しい感情→強い眠気の神経回路にスイッチが入る→強い眠気のために眠 る→仕事ができない→社会生活が支障→慢性的に悩む→過敏性が持続→対人関係に過敏

  • 非定型うつ病でない人は、激しい感情を起こしても、鉛様麻痺感は起こら ない。すなわち、非定型うつ病には、次の連鎖がある。

    ◆ 対人関係→激しい感情→鉛様麻痺感の神経回路にスイッチが入る→鉛様麻痺感のために 起き上がれない→仕事ができない→社会生活が支障→慢性的に悩む→過敏性が持続→対 人関係に過敏
 非定型うつ病は、この連鎖を解消しないと治りにくいことが容易に推測できる。だか ら、何も対策をとらないでいると、この連鎖による症状(異常な眠気、鉛様麻痺感)が 改善する保障がない。
 自己洞察瞑想療法(SIMT)では、上記の連鎖があると仮説して、その連鎖を解消する ことを方針として心理療法的介入を行う。SIMTでは、精神疾患や問題行動の背景に神経 生理学的脆弱性の有無を(いつも最新の研究を参照して)検討して、症状に、神経生理 学的基盤が影響していると推測されるフュージョン(連鎖、連合)がある場合には、きっかけ、思考、感情、行動などの連鎖 を仮説して、解消のための種々の心理的介入を試みる(神経生理学的フュージョン(連 合)。その介入法は、連合解消の技法が中心であるが、他のすべての技法が関係する。
 こうして、SIMTでは、傾聴のみでもなく、受容(アクセプタンス)のみの方針をとらないで、 症状の軽減をめざす。非定型うつ病の中核の症状から起きる社会生活の支障は本人に受け入れがたく、生活のための行動(コミットメント)が難しく、治る可能性のある<病気>として扱い、改善のための治療行動を助言する。

 この記事では、強い眠気の神経生理学的研究を参照したが、次の記事で、鉛様麻痺感 の起きる仕組みについての脳神経の研究動向を参照する。

(続く)

    (注)
  • (1)「中枢性疲労の動物モデルと睡眠誘導メカニズム」片岡洋祐(大阪市立大学) (「最新・疲労の科学」医葉薬出版(医学のあゆみ、2009/2/7)608頁。)
  • (2)同上、608頁。
  • (3)「睡眠障害ガイドブック」太田龍朗、弘文堂、53頁。

非定型うつ病
パニック障害、うつ病は、マインドフルネス心理療法で治しましょう。
Posted by MF総研/大田 at 06:17 | うつ病 | この記事のURL