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認知行動療法はまだ日本には定着していません [2009年10月12日(Mon)]

心理療法・2種を使い分ける(10)
 =認知行動療法はまだ日本には定着していません

 心理療法やカウンセリングには、大きく分けて2つあります。精神分析療法(傾聴が主 )と認知行動療法(積極的助言)です。患者(クライアント)の方が両方の特徴を理解し て、それぞれ自分の問題、希望に向いた方を受ければいいでしょう。
 私は、重症のうつ病、パニック障害などをできるだけ短期間に改善したいという目標で 活動しているために、病気レベルのカウンセリングには認知行動療法が必要であるという 立場です。
 欧米では、うつ病には認知行動療法が有効であることはよく知られていますが、 日本で、心理療法、カウンセリングというと、傾聴型、来談者中心のカウンセリングのみ が有名ですが、年配の心理士、カウンセラーは認知行動療法をよく知らない心理士が多い わけです。 2004年、神戸で開催された世界認知行動療法学会で参加を呼びかけられて知った方も いる程度でしょう。この時の、紹介の記事に、次のように記載されています。
    世界認知行動療法学会(WCBCT)
    (丹野研究室(東京大学総合文化研究科)のスタッフにより作成)
    2004年7月20日(火)〜24日(土) に、神戸国際会議場において開催された。
    次のとおり記載されている。

    「A認知行動療法はまだ日本には定着していませんので、今回来日する臨床家の 顔ぶれがどれだけすごい人たちであるか、ピンとこない方もいらっしゃったのではないか と思います。そこで、来日する臨床家のプロフィルや業績の内容を紹介しようと思いまし た。臨床家の写真もできるだけ集めて、親しみを持っていただけるようにしました。」
 まだまだ、日本では、認知行動療法でさえ駆使できる心理士は少ないでしょう。まだ、 傾聴重視の本や支援者が多いようです。
 傾聴か認知行動療法かという議論と似たテーマを雑誌「こころの科学」113号(日本 評論社)が「カウンセリングと心理療法〜その微妙な関係」特集しています。この中に、 15年ほど前、認知行動療法を使える医師、心理士はほとんどゼロだったことが 報告されています。つまり、認知行動療法はまだ新しい心理療法であり、日本では知らな い心理士も多いわけです。
     「筆者らは、わが国の心理療法の現状を把握するために、今から12年ほど前に、神経 症性障害とその周辺の疾患の心理療法やカウンセリングを実施している精神科医と心理士 を対象に、アンケート調査を行なったことがある。」(P34)西村良二、浦島創(福岡大 学)精神科医67人、心理士45人のアンケート調査。
     「どのような技法を駆使しているのかをみたのが表7である。主に使用している技法に ついては、精神科医では簡易精神療法が49.3%で第1位であり、次が精神分析的精神療法 の20.9%となっている。それに比べて、心理士では非指示的カウンセリングが31.1%と第 1位で、精神分析的精神療法の20.0%で第2位、簡易精神療法が11.1%で第3位であった 。」(P35)同上。
 表7によると、認知療法、行動療法は次のとおり極めて少ない。
技法医師・主な技法医師・副技法 心理士・主な技法心理士・副技法
認知療法 0% 14.9% 2.2% 13.3%
行動療法 1.5% 40.3% 2.2% 26.7%
 年配の心理士の方が学んだころは、認知行動療法はなかったから、この10年以内に、勉強した人でないと知らないわけです。
 2004年にも「認知行動療法はまだ日本には定着していません」と紹介されていました。 全国にまだそれほど認知行動療法を駆使する医師、心理士は少ないのです。欧米では、さ らに、その先を行くマインドフルネス心理療法が15年前から盛んに研究されているのに 、日本では、2005年9月に、「マインドフルネス&アクセプタンスー認知行動療法の新次 元」(ブレーン出版)で翻訳出版されて、驚いた状況です。認知行動療法でさえこれから ですから、マインドフルネス心理療法が全国に普及するのは、10年後でしょうか。認知 行動療法でさえも治らない難治性のうつ病、パニック障害もマインドフルネス心理療法で 治る人がいるとアメリカでは報告されています。日本でも、非定型うつ病、パニック障害 の改善例があります。
 認知行動療法やマインドフルネス心理療法は種々の領域に応用されています。うつ病には、パーソナリティ障害には、それぞれどのように適用していくのかを研究しなければなりません。経験によって洗練されていきます。
 認知行動療法やマインドフルネス心理療法は、うつ病、不安障害(PTSD、パニック障害 など)にかなり有効であるというのですから、自殺対策には重要な役割を果たすはずです 。うつ病が治らないと、自殺するおそれがあるからです。イギリスでは国をあげて、認知 行動療法の採用に踏み切ったわけです。 日本では、この運きはまだです。

(続く)
精神分析療法(傾聴型)と認知行動療法(積極的課題提供型)
Posted by MF総研/大田 at 19:12 | 自殺防止対策 | この記事のURL