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NHK/誤診、診断違いで長期化<患者さんの内向性も問題> [2009年10月01日(Thu)]

誤診、診断違いで長期化<患者さんの内向性も問題>
 =NHK「うつ病治療 常識が変わる」

=第1章 ”不適切”な投薬  =症状を悪化させる多剤併用

 NHK取材班による「うつ病治療 常識が変わる」(宝島社)から、日本のうつ病治 療の現状をみます。

見立て違いで合わない薬を処方

 うつ病が長期化する理由の一つが10分診療で詳しくきかないで診断するから誤診し て、合わない薬を処方することも起きている。うつ病が「複雑化」しているせいだ。非 定型うつ病、双極性障害、気分変調性障害など違う薬でないと効かないし、薬がききに くいタイプであれば、薬の効果がないのに、副作用だけが起きることもある。

NHK取材班の言葉(本より、要約と引用)

<14年後に判明した本当の病名・双極性障害U型>

 20代後半に発病したAさん。うつ病と診断され、抗うつ薬を服用したが、復帰してま もなく再発し、休職と再発を幾度も繰り替した。
 08年12月、Aさんは市販の薬を300錠を服用して自死を図った。なんとか一命を 取り留める。驚いた妻良子さんはインターネットで「メディカルケア虎ノ門」を見つけ た。 Aさんは休職して、ここに通院することにした。

 「ここでは、職場復帰を想定し、患者を5人ほどのグループに分けた模擬会議が開か れる。」(P51)
 「会議の模様をスタッフが慎重に観察して、それぞれの参加者たちが抱える問題点を 探り出し、それを患者自身に自覚してもらえるよう、サポートしていくというものであ る。」(P52)

 「Aさんが通い始めて3カ月後。これまでの診断に疑問符がつく兆候が、この模擬会議 で現われた。Aさんは、誰よりも積極的に発言し、それも滔々と自説を語ったというので ある。ところが会議の翌週になると、体調を崩し、クリニックを休んでしまう。これが 、しばらく繰り返された。」(P52)

 報告を受けた五十嵐さんは」、これまでの診断が間違っていたと 判断した。
 改められた病名は、「双極性障害U型」。うつ状態と軽い躁状態を繰り返す、いわゆ る「躁うつ病」の一種である。

 Aさんは薬を変えたら劇的に改善した。

<患者さん側にも問題が>

 これは、見立て違いであるが、こういうことが起きるには患者さん側にも少しの問題 があると取材班は言う。

1)重要な症状を伝えない

 患者さんは、うつ状態の時に受診して、気分が悪いことしか言わなくて、気分が高揚 する時もあることを言わないことが多いのが医者の誤診を招く原因の一つである。

 「ではなぜ、医師は双極性障害U型を典型的なうつ病と見誤ってしまうのだろうか?  実はここに、この病気の難しさがある。
 通常、患者は気分が落ち込んだ「うつ」のときに診察を受けるので、医師は気分が高 揚している「躁」の状態を見ることはない。その結果、典型的なうつ病と見分けがつき にくいという。 」(P55)  

2)うつ病患者の内向性が、次なる問題を招く

 「およそ半年間、Aさんを取材して、ひとつ気がついたことがあった。14年というあ まりにも長い歳月、それも30代から40代という、まさに働き盛りの時期を、正しく 診断されなかったことで奪われたはずなのに、Aさんからは、医師への憤りの言葉が一切 なかった。医師に責任があるかどうかは別にして、「自分の時間を返せ」の一言くらい 、言ってもいいだろうと思うのだが、気持ちを飲み込んでいるのか、その心の内はわか らなかった。
 しかし、こうしたうつ病患者の内向性が、次なる問題を招く遠因となっているのだっ た。」(P59)

(詳細は、本をご覧ください。)

(ここから大田のコメントです)

医師側の改善

 短い診察時間の中で少しでも見立て違い、誤診を防ぐために、(誠実、良心的)医師 に工夫してもらうことがある。待ち時間にチェックシートを記入してもらっておくこと だ。そのチェックシートには、うつ病の症状の典型的症状のほか、双極性障害、非定型 うつ病の特徴も列挙しておく。医者がそれを見ながら会話すれば、少しは誤診を防止で きる。
 ただし、精神科、心療内科にくる患者は、うつ病系だけではなく、種々の他の疾患( 統合失調症、不安障害、依存症、睡眠障害、過敏性腸症候群などの心身症)もあるので 、うつ病系、不安障害系、心身症系などを区別できることと、さらにうつ病系を典型的 なうつ病、非定型うつ病、双極性障害の正確な診断ができるようなチェックシートで ある必要がある。国の自死予防対策によって、内科医にもうつ病の発見、初期治療を始める こととなったが、そこでももっと誤診が起きることが予測されるから、チェックシート を作って記入してもらい、非定型うつ病、双極性障害の疑いがある患者は内科医は投薬 を開始せず、精神科医を紹介したほうがいい。
 チェックシートを主治医の診察前に記入しておく。看護師、ボランティア(*)のガ イドがあったほうがいい。
(*)病院にボランティアのあるところがある。チェックシートの記入のガイダンスを ボランティアにお願いするのも一つの方法である。
 ただし、すぐ薬物療法を開始するのがいいのかどうか、治癒率の低さ、副作用を考え ると、どうしても、新しい仕組み(たとえば、イギリスのような)が必要であると思う 。

患者側の内向的傾向も改善対策を遅らせる

 患者さんは、うつ状態の時に受診して、気分が悪いことしか言わなくて、気分が高揚 する時もあることを言わないことが多いのが医者の誤診を招く原因の一つであるとされ ていることから、患者と家族も努力が求められる。うつ病、非定型うつ病、双極性障害 についての勉強をするのだ。医師まかせにせず、 患者側も勉強して患者が症状の違いによって診断が誤っている可能性に気づくのだ。他 の病気(たとえば、がん)については患者さんが相当詳しい知識を勉強していることが ある。うつ病も患者会、家族会などに参加して勉強すればいい。うつ病系は長期間の退 学、退職においこまれ、自死もありうる深刻な病気である。家族ぐるみもっと勉強して いいはずだ。予防法があるのだから。ところで、深刻な問題がある。子ども時代から影 響する。
 「うつ病患者の内向性が、次なる問題を招く」。うつ病の患者は自己主張しない傾向 がある。子ども時代から、病前からもそういう傾向がある。いわゆる「モンスター・ぺ アレント」とは対極のおとなしい大人、おとなしい子どものように見える。
 ところで、薬物療法を始めて治らないので、薬をやめて、運動や坐禅などで治したと いう少数の体験談を書物やネットで見ることができる。そういう人は「内向性」ではな く、医者だけに依存しない傾向があったのだろう。病気の前の傾向が薬物療法のみを長期 間甘んじる態度をとるように見える。こういうことは精緻に分析すれば、義務教育段階 からの予防対策につながるだろうか。
 多くのうつ病患者および家族が、医師の治療法についての不満を積極的に訴えない傾 向がある。家族にもそういう傾向がある。そこが、うつ病、うつ病による自死の減少を とめられない原因の一つであるようだ。「不適切な医療」に批判もせず改善を求める運 動に結集することもなく沈黙する患者と家族。その結果、無視、傍観され見捨てられて きたように見える。子どもも大人も家族にさえも助けてと言わずに自死していく人もい る。今なお、「なってからのうつ病」の治療の側面には抜本的な原因分析も改善対策も 遅れている。上流の経済社会的要因のみに自死予防対策が今すすめられようとしてい る。
 このNHKの指摘は次の問題にも関係があるので、そちらの目次にも入れておく。
(続く)
NHK「うつ病治療 常識が変わる」 まだある「うつ病、自殺対策関連の問題」
 以上がNHK取材班の本の内容ですが、この本で指摘されていない難しさを考えます。
Posted by MF総研/大田 at 10:57 | 自死防止 | この記事のURL