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NHK/イギリスでは国家の費用でまず認知行動療法を受ける [2009年09月28日(Mon)]

イギリスでは国家の費用でまず認知行動療法を受ける
 =NHK「うつ病治療 常識が変わる」

=第4章 心理療法の壁
 医療にj心のケアが定着しない理由

 NHK取材班による「うつ病治療 常識が変わる」(宝島社)から、日本のうつ病治 療の現状をみます。

心理療法重視に転換したイギリス

 日本では、国費によるうつ病の治療が薬物療法に偏向している事情を理解するために 、先にイギリスのうつ病治療体制をみておきます。 薬物療法で完治しない患者が8割(効果なし3割、再発5割)だというのに、日本の対策が薬偏重であることを理解し ておくのがいいと思います。

NHK取材班の言葉(本より、要約と引用)

<イギリスでは国家の費用でまず認知行動療法を受ける>

 「イギリスでは、うつ病の治療は、保健機関・NICE( The National Institute for the Health and Clinical Excellence )が定めたガイドラインに沿って、以下のような 手順で行われることになっている。費用はすべて無料である。

@かかりつけ医では問診を行い、うつ病が疑われた患者は、うつ症状の程度を診断され る。
A軽度のうつ病と診断された場合は、各地域にある国営の「心理療法センター」に紹介 され、抗うつ薬ではなく、認知行動療法をはじめとした心理療法が施される。
B中程度から重度のうつ病と診断された場合には、SSRIが処方される。しかし、処方に あたっては、副作用などの危険性を強く警告し、必要最小限度の量を処方することが定 められている。」(P144)


<カウンセリングは、最大16回、医者とは独立した国家資格>

 「カウンセリングは、最大16回。患者と心理療法士の1対1で行われる。沖縄のよ うに集団で話し合うより、こちらの方が、認知行動療法としては一般的なスタイルだと いう。
 なお、イギリスの心理療法士は、日本と違って国家資格取得者であり、認知行動療法 は医療行為として認められている。そのため、医師が立ち会ったり、指示することはな い。」(P145)

 「イギリス政府は、認知行動療法を治療の軸とすることを決め、去年9月から、心理 療法士を3年間で3600人育成する国家プロジェクトをスタートさせた。(P153)

(ここから大田のコメントです)
 自殺はうつ病になって起きることが多い。自殺率が高いのに、いかに日本のうつ病治 療政策が遅れているかがこれでわかる。日本の患者、家族も同様の予算措置を要求して もいい。
 認知行動療法だけで治せるのだから、医者の指導を受けないのも合理的である。また 、傾聴型のカウンセリングのように無制限、無期限ではなく、最大16回である。国家 予算を使うのでれあば制限があるのは当然であろう。ただ、寂しいだけの人(うつ病ではないのにうつ病のふりをしてカウンセラーと話したいとか、治った後も無制限に来るとか)が無制限にカウンセリングを受けては財政が破綻する。

期限目標

 うつ病はある程度で維持すればいいという病気ではない。治療で治り、社会活動に支障がないようにする必要がある。目標はできるだけ短い期間であるべきである。 薬物療法も心理療法もできれば1か月で完治させたいが、うつ病はそんなに簡単な病気ではない。その人の長い人生期間で用いられてきた考え方、反応パターンが関係している。それを変えるのは容易ではない。心理療法を提供するとわかるが「生き直し」のような経過をたどって治っていく。反応パターンが変わり、症状が軽くなり、意欲がもどり、自己評価が向上するまでに1,2年はかかる。なお、マインドフルネス心理療法では、パニック障害も同じくらいである。やはり、人生の中で身についた反応パターン、不安過敏、回避傾向があり、治るまでに、1,2年かかる。
 最大16回というのは、うつ病治療の戦略としては、妥当である。隔週1回,毎月2回受ければ8か月である。認知行動療法では、これくらいでうつ病を維持悪化させる認知の傾向を変えることができて寛解して、自分でもう少し続ければ完治を期待できる。
 当研究所では、毎月2回の受診でセッション10まで受けると5カ月である。毎月1回なら、10か月である。 これで、心理的柔軟性の向上のスキルの基本を習得して寛解にいたる。あとは月1回程度の受診(さらに数回)を続けていると、この段階で完治に至るのが普通である。だから最大20回程度で完治する。最初から1年から1年半である。
 課題もある。セッション10まで通院できない重症の人がいる。入院、往診の仕組みができれば治る割合を高めることができるかもしれない。
 いずれにしても、うつ病のカウンセリングは、期限目標のない傾聴型のカウンセリングは妥当ではない。何年かかるかわからない、3年、5年かかるかわからないというのは患者にとって困る。その間、治らない、復帰できないのだから。薬物療法が中心で、カウンセリングはそれを補佐するという補助的位置に甘んじるならば。だが、認知行動療法(マインドフルネス心理療法も)は、薬物療法なしで単独でうつ病を治すことができる。副作用のある人、薬の効果のない人にも治療できる。
 患者さんの苦痛を早期に軽くするために、6か月から2年で完治させたい。それにしても、このように長くかかり、社会活動から遠ざかる病気、死亡(自殺)の割合の高い病気は少ないのではないか。再発まで含めると5割くらいは薬物療法で完治していない、うつ病は深刻な難治性の病気である。国をあげて種々の治療プログラムを開始すべきである。経済社会問題ばかりではなく、うつ病(不安障害、アルコール依存症なども)の治療にも新しい視点による対策が必要である。認知行動療法を中核とした心理療法の研究、心理療法者の育成を開始すべきである。
 現在のカウンセリングレベルの国家資格化では、このうつ病、自殺対策の領域でははなはだ不充分である。現在のカウンセラー、心理士は、うつ病治療のスキルが不足している。認知行動療法でうつ病、不安障害などを治すことができるスキルがない。うつ病は、人生経験もものをいう。人材を広い領域から募って、うつ病の認知行動療法者を育成して、国家資格を与えて、単独で治療できるイギリス方式の実行を求めたい。患者も家族もその方向で団結して国に陳情してはいかがだろうか。理解ある知事のいる県ならば、県でもできる。市でもできる。市民、県民の声次第だろう。
  (続く)
NHK「うつ病治療 常識が変わる」
Posted by MF総研/大田 at 18:56 | 自殺防止対策 | この記事のURL