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<目次>心理療法・2種を使い分ける(1) [2009年08月30日(Sun)]
精神分析療法(傾聴型)と認知行動療法(積極的課題提供型)= 目次

うつ病は自殺のリスクの高い病気です。カウンセリング、心理療法の質、治癒割合は 患者さんの命にかかわる問題です。NHK取材班が指摘したように、うつ病の治療法について患者さんに伝わっていない情報があります。 カウンセリング、心理療法の限界、長所短所も患者さんによく説明してから、選択していただくのがよいと思います。患者さんの命がかかっています。認知行動療法のほかにも、うつ病に効果のある心理療法もあるかもしれません。PTSDも、EMDRが効果的だといわれています。
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心理療法・2種を使い分ける(1)
 =大きな区分(1)

 違法薬物依存が話題になっているから、これについて書いてきましたが、現 代社会では、種々の心の病気があります。
 うつ病、非定型うつ病、不安障害、摂食障害、自傷行為、 暴力(DV)、違法薬物依存、アルコール依存、非行犯罪特に家族殺人、など が増加して苦しむ人が多くなっています。これらには、自己評価の低下がみら れます。だから、薬物療法や傾聴のみのカウンセリングでは治りにくいのです 。しばしば、認知行動療法、マインドフルネス心理療法が効果があるとご紹介 してきました。心理療法、カウンセリングの2種の違いを 「自己評価の心理学」(クリストフ・アンドレ&フランソワ・ルロール、紀伊 国屋書店)が紹介しているので、簡単に見ておきます。

 (違法薬物依存からちょっと寄り道します。)

薬物療法と心理療法

 自己評価が低いというのは、「自分を愛する」「自分に満足している」「自分を受け入れている」ということがない。
     「はたして自己評価に効く薬はあるのだろうか? 直観的に言えば、おそら くないと思われる。自己評価というのは心理的な現象の積み重ねであって、そ の意味からすれば薬によって改善されるものではないからだ。しあわせの薬が ないように、自己評価の薬もない。まずはそう考えていただきたい。」341頁
 うつ病になると、希死念慮、自殺念慮が起きる。死の渕に立ったのである。根源的な自己存在のあやうさを見てしまった。薬で症状が軽くなっても、自己存在のあやうさを見た経験は忘れない。後遺症のごとく、自己評価の低下が続く。「自分を愛する」「自分に満足している」「自分を受け入れている」ということが根底でゆらいだままである。薬では解消しないことが多い。 このことは、うつ病の精神科医、カウンセラーでさえも理解していないかもしれない。
 特に、非定型うつ病には、拒絶過敏性という特徴がある。 DV(暴力)を伴うことがある境界性パーソナリティ障害も、見捨てられ不安がある。 これらは、自己評価 の問題であり薬では改善しにくい。現在の日本で、うつ病やパートナー間の暴力が治らない人が多い のはこのためであろう。非定型うつ病なら表面の症状が軽くなって復帰しても、自己評価が低い ままだから、対人関係で重い症状がすぐ再燃する。違法薬物依存が軽くなって も何かの刺激ですぐ再燃するのと似たような特徴を見せる。

 心理療法の重要性が理解されよう。ただ、カウンセリング、心理療法には、 2つの流れがある。自分の問題が改善するかどうかにかかわるから、知ってお くのがいい。
     「心理療法の方式は大きく言って2つに分けられる。精神分析療法に属する ものと、認知行動療法に属するものである。

     精神分析療法のほうは一般に広く知られていて、心理療法というと こちらのほうを思い浮かべる人が多いかもしれない。そのやり方はーーセラピ ストに導かれて患者は自分の過去を話す。いっぽうセラピストのほうはあまり 話をせず、実際的な助言も行わない。そういったタイプの療法である。

     いっぽう、認知行動療法のほうは比較的歴史が浅い。こちらのほう は、セラピストが積極的に治療に関わり、意見を言ったり助言を行なったりす る。また、新しい生き方を学ぶためにどんなふうな治療を行なえばよいのか、 患者と相談して決めたりもする。そういったタイプの療法である。
     表11・10はこの二つの違いを簡単にまとめたものである。」342頁
    (次の記事で)
 これでわかるように、日本に多いカウンセリングは、傾聴型のカウンセリン グで精神分析療法のほうである。相談に多いのもこれである。だから、日本で は、うつ病、不安障害、ひきこもり、自殺が減少しない理由もここにあるだろ う。心療内科クリニックや精神科病院にいるカウンセラーも傾聴型かもしれな い。ほかの種々の心の悩み相談に、傾聴型のカウンセリングが効果をあげてき たのは事実であるが、こと、うつ病、不安障害に基づく自殺問題となると、傾 聴型のカウンセリングでは効果がうすい。病気を治す目標を持たず、治す技法 を用いないから。
 現代の日本には、かたよりがあって、傾聴型のカウンセリングばかりがすす められた。相談機関もこれが多い。これからも、傾聴型のカウンセリングに有 効な問題が多いだろうからその流れも必要であるが、今後は、認知行動療法も 極めて重要である。非定型うつ病、パニック障害、心的外傷後ストレス障害、 対人恐怖症、アルコール依存症、違法薬物依存、パーソナリティ障害、家庭内 暴力(DV)、自死防止には、どうしても認知行動療法が必要である。
 認知行動療法は新しいので、年配のカウンセラーや大学の心理学の先生は習得していないかもしれない。傾聴のみを強調されるのはそちらである。うつ病、不安障害、依存症、摂食障害、パーソナリティ障害などには効果が保障されない(次回の記事)。精神科医がカウンセリングを信じないといわれるが、認知行動療法をご存知ないためである。アメリカでは、薬物療法と対等、ときには、薬物療法よりもすぐれていると臨床試験で確認されている。医者も新しい流れを勉強していただきたい。認知行動療法を併用してほしい。マインドフルネス心理療法も認知行動療法の一種である。
 苦しい人は、電話相談などできいてもらって、うつ病らしい、対人恐怖症、パニック障害らしいなどとわかったら(相談しても、自己評価が変わらない場合) 、認知行動療法のカウンセラーの治療を受ければいい。症状がひどい間 は、薬物療法の併用もいい。軽くなったら、認知行動療法を受けるほうがいい。自己評価を改善して、再発防止、自殺防止のために。

 公務員や教師にも、うつ病で休職する人が多いのであるが、薬物療法のみを行っている可能性がある。休職中の職員に、認知行動療法の導入をはかるべきだ。
Posted by MF総研/大田 at 07:35 | 新しい心理療法 | この記事のURL