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がんとうつ病、精神腫瘍医 [2009年06月30日(Tue)]

がんとうつ病、精神腫瘍医

 本日(6月30日)NHKテレビで精神腫瘍医の活躍を紹介した。がん患者はがんと告知された時、数 年(あるいは数か月)の闘病の間に、うつ病や適応障害になる人が多い。患者も家族も死の不安をかかえる。そう いう患者、家族の心のケアをする専門医がいる。がんと心の関連を研究する学問を「サイコオンコロジ ー」精神腫瘍学という。
 がんと心のケアについては、私も早くから注目していて、ホームページに記事がある。  がんと心のケアは私の活動の出発であり、おそらく最後だと思う。最後は私自身ががんになり死ぬ時 点まで続くだろう。
 出発は、17、8年前、私の父が末期がんで死んだ。がんが発見された時は、余命6カ月といわれた 。私がまだ、おおやけにうつ病のカウンセリングをする前であった。父は私の最初のクライエントにな った。私は父にマインドフルネス心理療法(当時は、そういう言葉は日本になかった)の心得を教えた 。最期は父はおだやかに旅立った。ただし、私の力ではなくて、父自身の力だっただろうが。
 がんになったらどう生きるか。この問題はマインドフルネス心理療法でも重点の領域だ。マインドフ ルネス心理療法はうつ病者の「自殺念慮」と向き合う。「生きたいのに死にたい」というおそろしい誘 惑の心。がん患者は「生きたいのに死が迫っている」とおびえる。やがて、うつ病になり「死にたい」 と変化する人がいる。死を恐怖していたのに矛盾するのがうつ病である。うつをのりこえたとしても、痛みや死の不安と直面する。
 一般のうつ病は、治ることを目標とする。だが、がん患者のうつ予防、うつ治療は、うつは回復をめざしても、末期がんは治ることを期待できないことが多い。医者が余命何カ月と言われた末期がんについては回復が望めないことが多いだろう。厳しい。おのずと、一般のうつ病とは異なる。マインドフルネス心理療法でも違う。難しい。だが、行わなければならない。
 がん患者のためのマインドフルネス心理療法は、サイコオンコロジーにも貢献するだろう。過去もなく未来 もないという徹底的現在主義の哲学がマインドフルネス心理療法の基盤である。がん患者にも現在しかない。生きている時、死はな い。未来の死を思わず、現在に徹する。マインドフルネス心理療法はマインドフルネスとアクセプタンス(受容)を強調するが、死はアクセプタンスしない方針でいくだろう。否認や抑圧とは異なる。存在するものをないとすることが否認や抑圧であるが、現在一元主義の哲学では、未来は存在しない。存在しないことを深くうなづくことができるならば、 存在しないものを否認できない。理屈では救済されない。現在に徹する実践によって実感される。がんと共に生きることになる。 現在に徹する時に生しかない。死は未来である。未来はない。まだない未来を、今持ってきて、今の生を捨てることは惜しい。症状はアクセプタンスするが、今ない死をアクセプタンスする必要はない。油断して、今に徹することができず思考して不安感情が起きたらアクセプタンスする。 真剣に今に生きることにマインドフルネス(全力集中)に徹することになるだろう。 さらに、もう一つの方略がある。西田哲学では、自己の根源は、自己と世界がわかれていないという。単なる自己はないということである。自己が無ければ、その自己が死ぬことはない。 私はこういう方向で生き、逝くだろう。
 若い人には未来が来る。よい治療法も開発されるかもしれないと期待もできる。だが、高齢者、がん患者は将来をあてにできない。今深刻である。  私も高齢になり身体のトラブルを感じる。がんとうつ病、高齢者の介護うつという死が迫る領域のカウンセリングに特化していきたい。
Posted by MF総研/大田 at 10:12 | がん・ターミナルケア | この記事のURL