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【コラム】日本語教室から見えてくるもの [2010年10月20日(Wed)]
【「人口変動の新潮流への対処」事業 事業委員 短信10】

Doi Yoshihiko
土井佳彦
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1979年、広島市生まれ。(特活)多文化共生リソースセンター東海代表理事。大学で日本語教育を学んだ後、民間の教育機関で留学生、研修生を対象とした日本語教育に従事。また、地域の日本語ボランティア教室活動における定住外国人への日本語学習支援にも携わる。2008年4月に始動した、名古屋大学「とよた日本語学習支援システム構築」事業(豊田市委託)にシステム・コーディネーターとして参画。2009年10月より現職と兼務。
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「人口変動の新潮流への対処」事業第3分科会調査員


−日本の移民政策の遅れは、日本語教育施策の遅れによる−
 以前、ある研究者から言われた一言が、今もわたしの胸に深く突き刺さっている。その場で反論できなかったのは、たしかにそうだという思いが自分の中に少なからずあったからだ。10年近く日本語教育に携わってきて、移民に対する日本語教育をどのようにすすめればよいのか、その答えを持ちえていない自分にいつも腹立たしさを感じている。それはまた、日本語学習環境が整備されれば、社会統合に大きく貢献できるという信念をもっているからこそでもある。

 社会統合をすすめるうえで、「ことばの壁」、「心の壁」、「制度の壁」の3つの課題があると言われる。わたしは、日本語教育は「ことばの壁」だけでなく、ほかの2つの壁を取り崩していくのにも非常に有効な施策であると、これまでの活動を通じて実感している。その例として、愛知県豊田市と山形県山形市で行われている取組みを紹介したい。

 豊田市では、日本人住民と外国人住民の相互理解及び地域社会への参加促進を目的に、平成20年度から産官学民の共働による日本語学習環境整備事業「とよた日本語学習支援システム」の構築に取組んでいる。ここでは、生活に必要な日本語を学びたいという外国人住民を、近隣住民または同僚である日本人住民が、日本語教育の専門家といっしょになってサポートしている。さらに、そうした取組みを企業や行政が資金面等でバックアップするという仕組みだ。
 日本語教室では、日本人住民と外国人住民がマンツーマンまたは少人数のグループになって、子どもの教育や買い物の仕方、職場でのトラブルや地域行事への参加など身近な話題をもとに、関連する日本語を学んだり、情報交換をしたりしている。


 山形市では、豊田市よりずっと以前から、来日間もない外国人住民を中心に、日常生活に必要な日本語や生活上のルール・マナーを教える「生活講座」が開かれている。ここでは“先輩外国人”として、長く日本で暮らす外国人住民が、日本人住民といっしょになってサポートにあたる。“先輩外国人”は自らの体験をもとに、日本人では気がつかないようなきめ細やかなアドバイスをし、さらに日本人住民が“先輩外国人”でも知らない地域の情報や方言を含む独特な日本語の表現などを教えている。


 この2つの日本語教室は、地域の実情も外国人住民の背景も異なるが、そこにかかわる人たちからは同じような声が聞かれる。数ヶ月前に日本人と結婚した中国人学習者は、この教室で日本と中国の配膳の仕方のちがい(箸を置く向き等)を知ったと言い、来日して数週間のトルコ人学習者は、先輩外国人からハラルフードを売っている店を教えてもらったと喜んでいた。「日本語だけでなく、生活に必要なことを親切に教えてくれる人がいてくれて本当に助かる。日本人と先輩外国人のおかげで、何もわからない自分が安心して暮らせている」と彼女らは言う。一方、日本人は「外国人住民と接するなかで、彼らの出身地の文化や言葉に興味をもつようになった」、「外国人に言われてみて、はじめてこの地域の課題に気がついた。彼らの意見をよく聞けば、もっとみんなが楽しく暮らせるようになると思う」と話してくれた。

 このように、住民が主体となって日本語や地域社会について学ぶ機会を、企業や行政が支える仕組みがある地域では、「ことばの壁」だけでなく、住民間の「心の壁」も取り除かれ、そこで気づいた「制度の壁」を見直す機会にもなっている。こうした機会がすべての住民に提供されれば、社会統合施策の一つとして、世界に発信できるモデルになり得るとわたしは信じている。

<参考>
◆とよた日本語学習支援システム
http://www.toyota-j.com
◆山形市国際交流協会「活動報告」
http://www.yifa.jp/sub5.html

国際シンポジウム『アジア太平洋アクティブエイジング会議2010』が開催されます [2010年10月12日(Tue)]
『アジア太平洋アクティブエイジング会議2010』
いくつになっても元気ったい!ときめくまちをつくる法

 Active Aging Consortium Asia Pacific (ACAP)は、平成16年度に福岡で生まれた、日本、韓国、中国、米国、カナダ、インドネシア、マレーシア、シンガポール、モンゴルのメンバーからなる国際的な研究組織です。

 目的は、韓国・中国など、これから急速に高齢化を迎えるアジア太平洋諸国間で、高齢者がいつまでも元気で生き生きと暮らせる社会(生涯現役社会)を実現するための種々の方策を、「高齢化先進国」日本の経験を先行事例として学びながら、情報交換及び調査研究をすすめようというものです。研究者、介護福祉事業者・企業・民間団体・行政・市民等、多様なメンバーが参加していることが特色です。

 平成20年9月の第4回上海会議では、20以上の国と地域が参加し、WHOや各国政府の注目を集めるようになりました。当初の開催国が一巡したこと、及び今後のより一層の発展を期して、第5回目を発祥の地である福岡市で開催することとなりました。

 本シンポジウムは、笹川平和財団助成事業「アジア型エイジング対応支援」の一環として開催されます。

【日  程】 平成22年10月29日(金)−10月31日()


【主会場】 福岡大学キャンパス

【主  催】 福岡ACAP 2010実行委員会
       構成:NPO法人アジアン・エイジング・ビジネスセンター、他

【共  催】 福岡市、福岡大学、ハワイ大学保健学部、
       カピオラニ・コミュニティカレッジ(ハワイ)、高神大学(韓国)、
       日本老年社会学会、日本認知症ケア学会、他

【後  援】 福岡県、北九州市、笹川平和財団

【参加者数】 海外100名、国内200名 計300名 (市民公開プログラム参加者は除く。)

プログラム
 10月29日(金) 会場:ソラリア西鉄ホテル
    16:00 参加受付
    17:00 歓迎会  彩雲の間  
 10月30日(土) 会場:福岡大学キャンパス831教室
    9:00 参加受付 (8号館エントランスブース)
   10:00 開会、祝辞、歓迎アトラクション
   11:00 基調講演
   12:00 ランチタイム (第一食堂・第二食堂)
   13:00 シンポジウム1 「いくつになっても健やかなまち」
          13:00 シンポジウム3 「いくつになっても住みよいまち」
   14:45 シンポジウム2 「大学の地域貢献と健康都市づくりをめぐって」
           14:45 シンポジウム4 「いくつになっても安らかなまち」
   16:30 終了    
 10月31日) 会場:福岡大学キャンパス文系センター棟会議室
   9:00 ワークショップ @ 新しい百寿者研究
                A 高齢者とICT
                B 介護の支援
                C 地域のアクティブエイジング
                D 国境を越えての高齢者ケアのシェアリング
  11:30 閉会式
  12:00 終了

〜期間中、へリオスホールでポスターセッションを開催します。〜

参加申込】 参加費用:プログラムの内容によって参加費用が異なります。
申し込み締め切り 10月25日(月)
 氏名・住所・連絡先記入の上、メールかファックスで福岡ACAP事務局までお送りください。
(様式自由)
  メール : acap2010@aabc.jp
  ファックス : 092-517-5004      
   (応募者多数の場合は入場をお断りする場合があります。あらかじめご了承ください。)
【コラム】日本の漁業と外国人労働者の受け入れ [2010年10月01日(Fri)]
【「人口変動の新潮流への対処」事業 事業委員 短信9】
Jin Zhan
金 湛
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南九州短期大学国際教養学科准教授。中国北京市出身。龍谷大学大学院経済学研究科博士課程を修了後、文部科学省私立大学学術研究高度化推進事業「アフラシア平和開発研究センター」研究員を経て、2006年より現職。経済学・農村社会学の視点から見た農村開発に関心を持ち、近年は中国内モンゴル自治区の「生態移民」と地域開発、そして、日本の漁業について研究している。
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「人口変動の新潮流への対処」事業第1分科会委員


 日本では、厳しい労働環境にある多くの産業で労働力不足が問題となっている。中でも漁業現場は最も深刻な状況にある。特に1990年代以後、石油類の価格の高騰に伴うコストの上昇と輸入品の増加または魚食離れを原因とする市場販売価格の低下、気象変化や乱獲による漁獲量の減少等により、漁業経営における収益の減少が激しい。このため、新規労働者には、安定した収入が得られる固定給制の代わりに不安定な歩合制を適用することが多くなり、彼らは、所得、退職金、年金などの保障のないまま重労働に従事することになる。結果として、2003年には264,554人であった全漁業種類の海上作業従事者総数は2008年の217,107人と、わずか5年で約18%激減した。また、60歳以上の漁業就業者は全体の46.8%を占め、高齢化の進行が著しい。このような状況を打破するため、一部の職種では、労働力不足を解消するため外国人労働者を受け入れるようになった。現在、実質的に外国人なくしては操業不可能な状況となっている。

 入国管理法では外国人単純労働者の就労を認めないため、現在、外国人労働者の日本漁船への乗船には、海外基地方式、マルシップ方式、研修・技能実習制度の3つが使われている。また、日本近海で操業する通常の漁業に外国人を活用するためには、この漁船漁業技能研修・技能実習制度を利用するしかない。

 外国人研修・技能実習生と言えば、「低賃金で奴隷労働を強いられる」外国人労働者を連想する者が多いが、現状は必ずしもそうではない。日本で言う「低賃金」は途上国ではかなりの「高賃金」であり、その格差に関して、外国人労働者の間では特に不満の声はあがっていない。むしろ、期間の延長や再度の来日を希望する者の方が多い。つまり、仮に現行の研修・技能実習生制度でも、雇用側が関連法令に定められた範囲で活動すれば、外国人労働者の経済利益が保障される。また、外国人の受け入れにより、日本の漁業経営を守る効果と日本人若手労働者の離職防止効果が得られる。

 問題は日本政府の国内産業に対する姿勢である。漁業の生産・経営規模はすでに他の産業にない縮小を見せており、かつてない危機に瀕している。政府として、国内における漁業経営の消滅を黙認するのであれば漁業経営者、労働者の生計及び国民の食卓の安全保障を顧慮する上で政策を実行するべきであり、国内の漁業を保護するのであれば、日本の漁業の在り方及び今後の発展方向を政策設定のレベルで議論し、その結果に応じて外国人労働者の受け入れを検討すべきであろう。この考え方は漁業だけではなく、ほとんどの第1次産業と一部の第2次産業にも通用する。

 「単純労働者を受け入れない」入国管理法の下では、多くの企業は労働力確保のため「発展途上国の人材育成協力」という名目で研修生制度を利用するしかない。しかし、現実的に、日本で使われる多くの技術は日本の社会的(文化的背景、価値観など)、経済的基盤(関連技術、資金力など)を前提とするものであり、これらの技術を海外で普及するところか適用することですら不可能である。建て前と本音の二層構造を是正し、産業現場のニーズに応じて、「労働者の受け入れ」を制度として成立した方が受け入れ側も送り出す側もそれぞれの権利と義務を明白に理解でき、利用しやすい。また、産業の特徴に応じて「労働者の受け入れ」期間を柔軟に設定すれば、受け入れ側にとって限界費用の逓減など経済性が高まることも予測できる。

 無論、外国人労働者の受け入れは決して容易なものではない。日本の農山漁村は古い慣習を持つゆえに閉鎖的である。同じ日本人同士の受け入れも困難なことで、文化背景、信仰上の違いを持つ外国人労働者はなおさらのことである。地元の産業と人々の生活を守りたい一方、外国人労働者の受け入れには精神的負担と不安を抱える。このような矛盾をどう解消するかは一漁村の問題ではなく、日本全国の問題になりつつある。