【コラム】環境NGOによる移民女性を対象としたプロジェクト(後半) [2009年10月23日(Fri)]
(前半はこちら)
一石三鳥?!の効果あり プロジェクト責任者のHodan Osmanさんは語ります。 「この地区には、トルコ、アラブ、アフガニスタン、ソマリア出身の住民が多く住んでいます。文化や教育レベルのちがいから、電気の使い方や配線、化学薬品(漂白剤や殺虫剤など)の使い方などがわからず、間違った使用によって危険な目にあった女性たちがいました。 プロジェクト責任者のHodan Osmanさん。13年前にソマリアから移住し、大学で人道援助に関する専門知識を学んだ経験を持つ大変な努力家だ。 行動変容につながるプログラム 実際に、プログラムのテキストを見せていただきました。「環境を守りましょう!」という「お題目」的な内容を想像していたのですが、専門的、実践的な内容でびっくり。 まず座学編では、最初に「Environmental ambassadorの目的」として、water, waste, Electricity, Heating, Environmentally friendly household clearning agents という5つのテーマについて説明を受けます。こうした理論と実践を織り交ぜたプログラムが、週1回、2時間あり、5か月間、続きます。 実践編では、電球の変え方や電池の交換方法、化学薬品の使い方の講習などがあり、実際の器具を使い地域の施設を回りながら、「環境に優しい生活スタイル」をマスターしていきます。またゴミ処理場や風力発電所の見学もあり、多くの人がこの見学でバスや電車の乗り方を学ぶといいます。 プロジェクトの様子から 講座で提供される「教材」(リサイクルバッグ、電池チェッカー) 地域の中で循環するしくみが特徴 私自身も以前、中国系住民が多住する関西の団地で環境プロジェクトに関わり試行錯誤していた経験と照らし合わせながら、このプロジェクトの「しくみ」としての特徴について思いを巡らせました。 両プロジェクトの大きなちがいは、次の3点に集約できます。一点目はプロジェクトの精度の高さ、二点目は関わる人材の多様性や専門性、最後に移民自身がプロジェクトの担い手となっていることでしょう。 第一の着目点は、プロジェクトのアウトプットが十分に練られている点です。“トラブルを解決したい”、というインプットから設計されているのではなく、成果のイメージから設計されています。修了者がプロジェクト運営を支えるという人材のサイクルがうまく回り、彼女らがロールモデルとして新規の参加者を巻き込む宣伝役となっています。実際、口コミで家族や友人に広がっていく。ある時、受講者102人を追跡調査したところ、12人が1000人以上に講座を紹介した、という結果が出たそうです。 そしてこれらのプロジェクトを支えているのが、専門家やボランティアの人々の層の厚さです。講師はエネルギー関連の会社から派遣。他にも語学教育の専門家、地域の政治家、住宅業者、そして地元のボランティアが多数、関わっているとのこと。他にもはがきによる近況確認や、ハラルフードのオーガニックショップマップの作成など、アイデアあふれるプロジェクトも盛りだくさんです。 国レベルで見ると、デンマークは厳格な移民政策の印象が圧倒的に強いのですが、草の根レベルではこのような人材が連携して地域の活動を支えていることを知り、親近感を覚えました。 移民女性の心をくすぐるアプローチ 光熱費の削減やお掃除の「ワザの伝授」など、移民女性の次の一歩への意欲を、さりげなく刺激する、ツボを心得たアプローチ。それを支える専門性の高い人材によるプロジェクト運営力。行動変革を重視した多面的なプロジェクトで、その着想と人の巻き込み力(日本とは一桁ちがう予算規模も!)は、参考になりそうです。 今回の調査では、ヨーロッパ移民政策の研究者である新海英史さん(在デンマーク日本大使館専門調査員)に、調査先の選定からアポ取りの助言まで大変お世話になりました。そして、忙しい中、インタビューに快く応じてくださったHodan Osmanさん、MILJØPUNKT Amagerの皆様には、つたない英語にも関わらず、2時間も対応いただき、近隣の団地も案内していただきました。ここで改めて謝意を申し上げます。 (ダイバーシティ研究所 鈴木暁子) MILJØPUNKT Amager http://www.a21sundby.dk/redesign/default.asp Kvarterthuset http://www.kulturhus.kk.dk/kvarterhuset 【参考文献】『デンマークを知るための68章』村井誠人(編著)、明石書店、2009 |