• もっと見る
« 出版物 | Main | 2010年度シンポジウム»
プロフィール

SPF人口チームさんの画像
SPF人口チーム
プロフィール
ブログ
カテゴリアーカイブ
最新記事
月別アーカイブ
最新コメント
リンク集
https://blog.canpan.info/jinkou/index1_0.rdf
https://blog.canpan.info/jinkou/index2_0.xml
【コラム】日本語教室から見えてくるもの [2010年10月20日(Wed)]
【「人口変動の新潮流への対処」事業 事業委員 短信10】

Doi Yoshihiko
土井佳彦
--------------------------------------------------------------
1979年、広島市生まれ。(特活)多文化共生リソースセンター東海代表理事。大学で日本語教育を学んだ後、民間の教育機関で留学生、研修生を対象とした日本語教育に従事。また、地域の日本語ボランティア教室活動における定住外国人への日本語学習支援にも携わる。2008年4月に始動した、名古屋大学「とよた日本語学習支援システム構築」事業(豊田市委託)にシステム・コーディネーターとして参画。2009年10月より現職と兼務。
--------------------------------------------------------------

「人口変動の新潮流への対処」事業第3分科会調査員


−日本の移民政策の遅れは、日本語教育施策の遅れによる−
 以前、ある研究者から言われた一言が、今もわたしの胸に深く突き刺さっている。その場で反論できなかったのは、たしかにそうだという思いが自分の中に少なからずあったからだ。10年近く日本語教育に携わってきて、移民に対する日本語教育をどのようにすすめればよいのか、その答えを持ちえていない自分にいつも腹立たしさを感じている。それはまた、日本語学習環境が整備されれば、社会統合に大きく貢献できるという信念をもっているからこそでもある。

 社会統合をすすめるうえで、「ことばの壁」、「心の壁」、「制度の壁」の3つの課題があると言われる。わたしは、日本語教育は「ことばの壁」だけでなく、ほかの2つの壁を取り崩していくのにも非常に有効な施策であると、これまでの活動を通じて実感している。その例として、愛知県豊田市と山形県山形市で行われている取組みを紹介したい。

 豊田市では、日本人住民と外国人住民の相互理解及び地域社会への参加促進を目的に、平成20年度から産官学民の共働による日本語学習環境整備事業「とよた日本語学習支援システム」の構築に取組んでいる。ここでは、生活に必要な日本語を学びたいという外国人住民を、近隣住民または同僚である日本人住民が、日本語教育の専門家といっしょになってサポートしている。さらに、そうした取組みを企業や行政が資金面等でバックアップするという仕組みだ。
 日本語教室では、日本人住民と外国人住民がマンツーマンまたは少人数のグループになって、子どもの教育や買い物の仕方、職場でのトラブルや地域行事への参加など身近な話題をもとに、関連する日本語を学んだり、情報交換をしたりしている。


 山形市では、豊田市よりずっと以前から、来日間もない外国人住民を中心に、日常生活に必要な日本語や生活上のルール・マナーを教える「生活講座」が開かれている。ここでは“先輩外国人”として、長く日本で暮らす外国人住民が、日本人住民といっしょになってサポートにあたる。“先輩外国人”は自らの体験をもとに、日本人では気がつかないようなきめ細やかなアドバイスをし、さらに日本人住民が“先輩外国人”でも知らない地域の情報や方言を含む独特な日本語の表現などを教えている。


 この2つの日本語教室は、地域の実情も外国人住民の背景も異なるが、そこにかかわる人たちからは同じような声が聞かれる。数ヶ月前に日本人と結婚した中国人学習者は、この教室で日本と中国の配膳の仕方のちがい(箸を置く向き等)を知ったと言い、来日して数週間のトルコ人学習者は、先輩外国人からハラルフードを売っている店を教えてもらったと喜んでいた。「日本語だけでなく、生活に必要なことを親切に教えてくれる人がいてくれて本当に助かる。日本人と先輩外国人のおかげで、何もわからない自分が安心して暮らせている」と彼女らは言う。一方、日本人は「外国人住民と接するなかで、彼らの出身地の文化や言葉に興味をもつようになった」、「外国人に言われてみて、はじめてこの地域の課題に気がついた。彼らの意見をよく聞けば、もっとみんなが楽しく暮らせるようになると思う」と話してくれた。

 このように、住民が主体となって日本語や地域社会について学ぶ機会を、企業や行政が支える仕組みがある地域では、「ことばの壁」だけでなく、住民間の「心の壁」も取り除かれ、そこで気づいた「制度の壁」を見直す機会にもなっている。こうした機会がすべての住民に提供されれば、社会統合施策の一つとして、世界に発信できるモデルになり得るとわたしは信じている。

<参考>
◆とよた日本語学習支援システム
http://www.toyota-j.com
◆山形市国際交流協会「活動報告」
http://www.yifa.jp/sub5.html

【コラム】日本の漁業と外国人労働者の受け入れ [2010年10月01日(Fri)]
【「人口変動の新潮流への対処」事業 事業委員 短信9】
Jin Zhan
金 湛
--------------------------------------------------------------
南九州短期大学国際教養学科准教授。中国北京市出身。龍谷大学大学院経済学研究科博士課程を修了後、文部科学省私立大学学術研究高度化推進事業「アフラシア平和開発研究センター」研究員を経て、2006年より現職。経済学・農村社会学の視点から見た農村開発に関心を持ち、近年は中国内モンゴル自治区の「生態移民」と地域開発、そして、日本の漁業について研究している。
--------------------------------------------------------------

「人口変動の新潮流への対処」事業第1分科会委員


 日本では、厳しい労働環境にある多くの産業で労働力不足が問題となっている。中でも漁業現場は最も深刻な状況にある。特に1990年代以後、石油類の価格の高騰に伴うコストの上昇と輸入品の増加または魚食離れを原因とする市場販売価格の低下、気象変化や乱獲による漁獲量の減少等により、漁業経営における収益の減少が激しい。このため、新規労働者には、安定した収入が得られる固定給制の代わりに不安定な歩合制を適用することが多くなり、彼らは、所得、退職金、年金などの保障のないまま重労働に従事することになる。結果として、2003年には264,554人であった全漁業種類の海上作業従事者総数は2008年の217,107人と、わずか5年で約18%激減した。また、60歳以上の漁業就業者は全体の46.8%を占め、高齢化の進行が著しい。このような状況を打破するため、一部の職種では、労働力不足を解消するため外国人労働者を受け入れるようになった。現在、実質的に外国人なくしては操業不可能な状況となっている。

 入国管理法では外国人単純労働者の就労を認めないため、現在、外国人労働者の日本漁船への乗船には、海外基地方式、マルシップ方式、研修・技能実習制度の3つが使われている。また、日本近海で操業する通常の漁業に外国人を活用するためには、この漁船漁業技能研修・技能実習制度を利用するしかない。

 外国人研修・技能実習生と言えば、「低賃金で奴隷労働を強いられる」外国人労働者を連想する者が多いが、現状は必ずしもそうではない。日本で言う「低賃金」は途上国ではかなりの「高賃金」であり、その格差に関して、外国人労働者の間では特に不満の声はあがっていない。むしろ、期間の延長や再度の来日を希望する者の方が多い。つまり、仮に現行の研修・技能実習生制度でも、雇用側が関連法令に定められた範囲で活動すれば、外国人労働者の経済利益が保障される。また、外国人の受け入れにより、日本の漁業経営を守る効果と日本人若手労働者の離職防止効果が得られる。

 問題は日本政府の国内産業に対する姿勢である。漁業の生産・経営規模はすでに他の産業にない縮小を見せており、かつてない危機に瀕している。政府として、国内における漁業経営の消滅を黙認するのであれば漁業経営者、労働者の生計及び国民の食卓の安全保障を顧慮する上で政策を実行するべきであり、国内の漁業を保護するのであれば、日本の漁業の在り方及び今後の発展方向を政策設定のレベルで議論し、その結果に応じて外国人労働者の受け入れを検討すべきであろう。この考え方は漁業だけではなく、ほとんどの第1次産業と一部の第2次産業にも通用する。

 「単純労働者を受け入れない」入国管理法の下では、多くの企業は労働力確保のため「発展途上国の人材育成協力」という名目で研修生制度を利用するしかない。しかし、現実的に、日本で使われる多くの技術は日本の社会的(文化的背景、価値観など)、経済的基盤(関連技術、資金力など)を前提とするものであり、これらの技術を海外で普及するところか適用することですら不可能である。建て前と本音の二層構造を是正し、産業現場のニーズに応じて、「労働者の受け入れ」を制度として成立した方が受け入れ側も送り出す側もそれぞれの権利と義務を明白に理解でき、利用しやすい。また、産業の特徴に応じて「労働者の受け入れ」期間を柔軟に設定すれば、受け入れ側にとって限界費用の逓減など経済性が高まることも予測できる。

 無論、外国人労働者の受け入れは決して容易なものではない。日本の農山漁村は古い慣習を持つゆえに閉鎖的である。同じ日本人同士の受け入れも困難なことで、文化背景、信仰上の違いを持つ外国人労働者はなおさらのことである。地元の産業と人々の生活を守りたい一方、外国人労働者の受け入れには精神的負担と不安を抱える。このような矛盾をどう解消するかは一漁村の問題ではなく、日本全国の問題になりつつある。
【コラム】人口減少社会の在り方を模索 [2010年07月30日(Fri)]
【「人口変動の新潮流への対処」事業 事業委員 短信8】
Matsushita Namiko
松下 奈美子
--------------------------------------------------------------
一橋大学大学院社会学研究科後期博士課程在籍中。2003年慶應義塾大学法学部政治学科卒業、2005年慶應義塾大学大学院法学研究科修了。2007年一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。大学、大学院では国際政治学の視点から主にベトナムやフィリピンの外交政策や、労働力移動について研究。現在はアジア地域における国際労働力移動を中心に、IT技術者や留学生など高度外国人人材の受け入れ政策について研究を行っている。
--------------------------------------------------------------

「人口変動の新潮流への対処」事業第1分科会委員


 先進諸国の人口減少が話題になって久しいが、とりわけ日本では2005年以降に少子高齢化の問題が表面化したように思う。それは、当初2006年に初めて日本は人口減少社会を迎えると予測されていたが、実際には1年早い2005年から日本の人口は自然減に転じたからである。国立社会保障・人口問題研究所が2006年に発表した推計では、2050年に日本の人口は9500万人程度になるとされている。人口が減少することそれ自体が問題ではない。

 日本が抱える深刻な問題は、人口構造が非常にいびつな形になることである。日本はすでに世界一の長寿国であるが、高齢者を支えるだけの働き手が生まれないことにある。世代間扶養による社会保障という考えは、多数の働き手の存在を大前提とする。総務省統計局の発表によると、2008年末の日本の人口は外国人も含めて1億2769万人(日本人だけでは1億2594万人)となっている。このうち、15歳から65歳未満の労働人口は8230万人で、65歳以上の老齢人口は2821万人なので、約4人の働き手が1人の老人を支えていることになるが、これが2055年になると、労働人口が4595万人になり、老齢人口が3646万人となり、約4人で3人の老人を支えることになり、単純に働き手の負担は3倍に増加する。さらに悲観的にならざるを得ないのが、子供の数の減少である。15歳未満の人口数は1717万人から751万人にまで、大幅に減少すると予測されている。
 
 日本政府の現状の少子化対策のための一連の施策はすでに生まれた子供に対しての施策でしかないように見受けられる。今後も現在と同じような経済規模、水準を維持したいのであれば、より積極的な多産奨励政策が必要となるだろう。

 少子化対策とは別に、労働人口にかかる扶養負担を減らすことが可能な政策が外国人受け入れ政策であると考えている。すでに日本政府が20年近く掲げているもののほとんど効果が上がっていない、専門的技術的分野の外国人の受け入れを積極的に推し進め、生産性の高い外国人労働者数が増加することで受け入れに生じるコスト以上のメリットが生じるはずである。

 日本企業の採用状況も大きく変わりつつある。ある大手電機メーカーでは、2011年度新卒採用の1390人の枠のうち、8割にあたる1100人を外国人留学生から採用し、日本人は290人にするという方針を発表した。大手衣料品メーカーも外国人と日本人の採用比率を半々にすることを表明するなど、これまで外国人に対して非常に閉鎖的と言われてきた日本企業も次々と積極的に外国人労働者を活用しようとしている。こうした動きが従来の政策先行型の高度外国人人材受け入れの議論を超えていくことを願う。
【コラム】「タイを愛する」人々 [2010年07月02日(Fri)]
【「人口変動の新潮流への対処」事業 事業委員 短信7】
Asato Wako
安里 和晃
--------------------------------------------------------------
京都大学文学研究科特定准教授。沖縄県出身。龍谷大学大学院経済学研究科博士後期課程を修了後、学術振興会特別研究員、株式会社リクルート・ワークス研究所客員研究員、笹川平和財団特別研究員を経て、2008年より現職。東南アジア、東アジアを中心とする看護・介護・家事労働、あるいは農業をめぐる人の国際移動に関する研究に従事している。近年は少子高齢化や福祉レジームとの関連で移民研究を行っている。
--------------------------------------------------------------
「人口変動の新潮流への対処」事業第2分科会主査


 私の好きな料理に千年豚というのがある。これはタイ語でmoo phan piiと呼ばれるチャーシューに高菜の漬物を炒めたようなものである。豚肉を煮て焼いて凍らせて炒めるという複雑な調理工程があるようだ。この料理が食べられるのは、私の知る限りタイではメーホーソンのごく限られたミャンマー国境近くの村々である。その1つ、「タイを愛する」という名前の集落がミャンマーから数キロ離れた山奥にある。村の中心には池があり、人々は池を囲むように住み、まわりは山で囲まれお茶が栽培されている。雨季になると茶畑が霧で覆われ、幻想的な風景を作り出す。お茶を栽培する「タイを愛する」人々。それはタイ人ではなく数十年前に中国から移り住んできた旧国民党の人々である。国民党は中国から移り、台湾で政権を維持してきたが、国民党支持者すべてが台湾に大陸から渡ってきたのではない。多くはミャンマーやラオス、タイなど中国の外に移り住んでいる。

 ミャンマーに住んでいる者もいるようだが、ミャンマーは彼らにとって住み心地の良いものではないらしく、ミャンマーからタイへ入るなど移り住み、最終的に台湾まで移動した者も少なくない。私が今回たまたま出会ったのは、タチレックというタイ系のタイヤイ族の多く住むミャンマーの町で生まれた華人である。両親は中国で生まれたが国民党とともに中国を脱出。彼は生まれたタチレックからタイを通過して台湾に落ち着いた。今から30年前の話である。彼は生活を安定させるため、観光ビザで日本に入国し、超過滞在をしてお金を稼ぎ、その後入国管理局に出頭して台湾に帰国した。こうした経験から彼は中国語、ミャンマー語、日本語を自由に操る。台湾の人と話をしていると、実は生まれがミャンマーやタイであるという人も少なからずいる。

 Moo phan piiは「タイを愛する」集落に住む華人にとって故郷の味である。彼らは台湾まで移動することはなかったが、辺鄙なところにありながらも、台湾の国民党政府はかつて様々な支援を行ってきた。代表的なのはお茶の栽培と中国語教育である。彼らが栽培するお茶は台湾の高山茶のような風味がある。民進党政権に代わり、支援は途絶えたが今でもお茶は貴重な現金作物である。夜になると子どもたちは中国語を学ぶため、教室に通う。使われている教科書は台湾からのものだという。この集落の子どもたちは1日に2回学校に通うという勤勉さでバイリンガル教育を受けていることになる。もう国民党と共産党との内戦は繰り返されないであろう。だから彼らは台湾にも中国にも一生行く機会はないかもしれない。それでも「タイを愛する」人々はお茶を栽培し、moo phan piiを料理し、中国語を学ぶ。
【コラム】7月11日に、世界の人口を考える [2010年06月08日(Tue)]
【「人口変動の新潮流への対処」事業 事業委員 短信6】
Ikegami Kiyoko
池上 清子    国連人口基金 東京事務所長
--------------------------------------------------------------
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)定住促進担当、国連本部人事局行政官、家族計画国際協力財団(JOICFP)、国際家族計画連盟(IPPF)ロンドン資金調達担当官などを経て、2002年9月より現職。2008年、大阪大学大学院人間科学研究科博士号取得。NGO間のネットワーク構築、開発途上国での女性の健康、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ、人口と開発、HIV/エイズなど諸問題に取り組む。外務省ODA評価有識者会議委員、内閣官房長官諮問機関アフガニスタンの女性支援に関する懇談会メンバーを務める。著書に「有森裕子と読む 人口問題ガイドブック」(2004年 国際開発ジャーナル社)、「シニアのための国際協力入門」(共著、2004年 明石書店)など。
--------------------------------------------------------------
 50億人目の赤ちゃんは、1987年7月11日、ユーゴスラビアで生まれたマテイ・ガスパルくん。国連人口基金(UNFPA)が認定し、当時のデクエヤル国連事務総長は「マテイくんと同じ世代の人々が平和に暮らせるように」と祝福の言葉を贈りました。これを機に国連は、7月11日を国連の記念日の一つである「世界人口デー」として制定しました。60億人目の赤ちゃんは、12年後の1999年10月12日に、ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボの病院で産声を上げたアドナン・メビックくんです。アナン前事務総長に抱かれたアドナンくんの写真が、新聞でも大きく報道されました。10年余を経た今年の世界人口は69億、そして70億人になるのは2011年と予想されています。2050年の推計人口をみると、現在の先進国と呼ばれる国のなかでは、米国だけがトップ10に入ることになります。

 日本にいると、少子高齢化、人口減少社会という言葉しか耳に入りませんが、実は世界でみると、人口は毎年約7900万人づつ増加しています。これは、ドイツよりもやや少ない人口数です。つまり、毎年ドイツと同じような規模の国が一つ、地球上にできていると同じような状況なのです。しかも、その95%が開発途上国で増えています。このように、人口を数の面からとらえて、マクロ経済の変数と考える人口の“マクロの視点”は、国や地域の開発を進める上でも、さらに市場の動向を分析する上でも、重要なデータとなります。一方で、国連を含めて国際社会は、開発を進めて貧富の格差を無くし、世界人口69億人の一人ひとりが、自分らしく生きられるような社会を目指しています。生活の質を改善するという観点からとらえる人口の“ミクロの視点”は、人権の基本理念でもあります。

 この“ミクロの視点”は、2000年に国際社会が協働して貧困削減などに取り組む枠組みとしてまとめられた「ミレニアム開発目標」にも受け継がれています。8つの目標を2015年という期限内に達成することを目指していますが、その中で目標5「妊産婦の健康の改善」は、20年前からほとんど改善されておらず、目標達成への進捗が最も遅れています。

 今も世界では、1分に1人、年間53万6千人のお母さんが、妊娠や出産が原因で亡くなっています。その99%は開発途上国に集中していますが、そのほとんどが避けられる死亡だと言われています。この妊産婦死亡の原因は、貧困や若年妊娠など、経済的・社会的な背景によるものが多いのですが、特に「3つの遅れ」が原因といわれます。一つ目の遅れは、治療を受けることを判断するまでの遅れ。二つ目は、産科ケアが受けられる病院や診療所を見つけ、そこにたどり着くまでの遅れ。そして三つ目は、帝王切開などの緊急産科ケアを、適切かつ十分に受けられるまでの遅れです。妊産婦死亡に効く特効薬や予防ワクチンはありません。この救えるはずの命を守るためには、医療面からの支援だけではなく、保健教育を含めて社会慣習を変えていく必要もあるのです。妊娠は病気ではありませんが、全妊産婦の15%はリスクがあることをふまえて、全ての妊産婦が産前健診を受けるような行動変容が求められると同時に、必要なケアが受けられるような環境を整えることも必要です。男児志向が強い文化圏では、男の子が生まれるまで妊娠・出産を繰り返す傾向が多く見られます。出産間隔を十分空けることで母体を保護することにより、安全な妊娠・出産ができるようになれば、“歩留まり”を考えて産んでいる「もう一人分の人口増加」はなくなるでしょう。

 一人ひとりの、意思決定の積み重ねが、その国の人口数を決め、そして世界の人口を構成することにつながります。だからこそ、それぞれが自分らしく意思決定することが重要になるのです。もし世界のどこかに、政策や文化的な価値観によって、自分らしい選択ができない場所があるなら、それは見過ごしてはいけない事実だと思います。今年の「世界人口デー」を前に、改めてそんな思いを強く持ちました。

【コラム】「人口変動の新潮流への対処」事業紹介 [2010年05月31日(Mon)]
【「人口変動の新潮流への対処」事業 事業委員 短信5】
Ishi Hiroyuki
石 弘之
--------------------------------------------------------------
1940年東京都生まれ。東京大学卒業。環境学専攻。世界の約130ヶ国を現地調査する行動的研究者。朝日新聞編集委員、国連環境計画上級顧問、東京大学大学院教授、ザンビア特命全権大使、北海道大学大学院教授、東京農業大学教授を歴任。
--------------------------------------------------------------
写真は中国人研修生・技能実習生を受け入れている水産加工場を視察中
「人口変動の新潮流への対処」事業 事業委員会座長


 私が生まれた70年前には日本の人口は7200万人、一世帯あたりの人員は5人を超えていた。それが、1億2700万人になった現在、2.4人にまで減った。小学校のときには、同級生の兄弟姉妹は4〜5人が普通だったのに、今ではひとりっ子がクラスの半数以上を占める。子どもの数は29年連続して減少をつづけ、総人口に占める子ども(15歳未満)の割合は13.3%で依然として世界最少である。

 現在の人口増加率が将来もつづくと仮定すると、2144年、つまり134年後には人口がゼロになる。かりに今後の増加を最大限見込んでも、3584年には誰もいなくなる。むろん、こんな事態にはならないだろうが、今後の人口回復の見通しがまったく立たないいま、今後とも下がりつづけることは覚悟しなければならないだろう。

 子どもつくろうにも、日本の将来には希望がなさすぎる。子ども数は将来への国や社会への信頼、所得向上や生活の安定への期待を反映したものだ。子どもを持たなくなった若い世代の責任を問う前に、彼らが安心して産める環境をつくらなかった私たち世代の責任を問うべきであろう。
 私は、環境や人口の問題を半世紀近くも追ってきた。それでも、日本や世界の人口動態がこれほど激変するとは予想していなかった。人口は国家の根幹にかかわる問題だ。1990年代になってバブル経済が崩壊し、同時に人口が上げ止まって減少に向かっていったことでも分かる。ついには、日本の一人あたりのGDPは世界の19位と先進国グループの下層社会にまで落ち込みつつある。

 私たちの人口研究グループは、この現実を分析しつつどこに突破口があるかを探っている。私は短期的には優秀な外国人労働者を導入するしかないと考えている。現実に、同じような労働力減少を抱える韓国、台湾、シンガポールなどは、そうした政策の大きく舵を切った。日本は労働組合や職種組織などのしがらみもあって、外国から労働者を受け入れる政策はどれも中途半端なままである。
 単純職種の外国人労働者の受け入れは拒否しながら、現実は他の名目で製造業、農業、水産加工などの現場で多くの外国人労働者が働いている。その労働条件のなかには、国際社会から指弾を浴びかねない搾取的なものもある。

 日本経済は10年以内に崩壊するのではないか、と危惧する声が欧米をはじめ海外では、強まっている。日本がじり貧から抜けだし、子どもを安心して産める社会に復帰するには、まず、活力があり能力も高い外国人労働者を受け入れる必要がある。彼らは、消費者でもあり納税者でもある。また、国内で女性の活用を目指すなら、育児や介護や家事などを補完する外国人労働者も必要である。国際社会から孤立しがちな日本の社会に他文化を取り込むことによって、経済活性化の新たな展望も開けてくるだろう。
【コラム】外国人労働者受入れのインパクト評価のための笹川プロジェクト [2010年05月17日(Mon)]
【「人口変動の新潮流への対処」事業 事業委員 短信4】
Junichi Goto
後藤純一
--------------------------------------------------------------
慶應義塾大学総合政策学部教授・神戸大学名誉教授。1951年山口県生まれ。’75年労働省(現在の厚生労働省)入省。Yale大学、世界銀行、MIT、米州開発銀行、神戸大学等を経て、09年4月より現職。経済学博士(Yale大学)。専門は国際経済学・労働経済学。著書「国際労働経済学」「外国人労働の経済学」、「外国人労働者と日本経済」、「Labor in International Trade」等。
--------------------------------------------------------------
「人口変動の新潮流への対処」事業第1分科会主査


 わが国の出生率・出生数は、戦後ほぼ一貫して減少を続け、2008年には出生率1.37、出生数109万人と人口維持水準を大きく下回っている。出生率(数)の持続的減少は、わが国人口の減少および高齢化をもたらし、深刻な労働不足を引き起こす。日本人労働者が不足するのなら外国人労働者を受け入れるべきだという議論が盛んであるが、外国人労働者問題が顕在化した1980年代後半から20年の歳月が経過しているにもかかわらず、依然として客観的根拠に基づいた議論は少なく、受け入れの是非についてのコンセンサスには程遠い状況にある。

 そこで、笹川平和財団では、厳密な経済モデルに基づいて外国人労働者受入れのインパクトを計測し、客観的かつ建設的議論に資するためのプロジェクトが進行中である。従来、外国人労働者受け入れに関する経済学者の見方は、労働力が余っている国から、足りない国へと労働者が移動するのであるから、双方にとってプラスになるとするバラ色議論が主流であった。しかし、近年、受入国における社会資本に対するフリーライダーの問題など現実的な要素を取り入れた場合にはプラスになるかマイナスになるかは一概に言えないとする議論が台頭してきた。また、外国人労働者受け入れのコスト・ベネフィットは受け入れの規模に依存するという主張もあらわれてきた。
 笹川モデルはこうした新しい学説を取り入れた一般均衡論的経済モデルに基づくシミュレーション分析を行うものである。プロジェクトは来春完成を目指し目下作業中であるが、その暫定的結果をみると、少人数の外国人労働者を受け入れた場合には経済的・社会的コストがベネフィットを上回るため、マイナス(ないしごくわずかのプラス)の効果となるが、500万人、1000万人といった大規模な受け入れをした場合には、アメリカなどのように一大集団として受け入れられるためベネフィットが大きくなり、日本経済社会は大きな恩恵を受けることになるようである。これを図示するとU字型グラフになり、わかりやすく言えば、すきま風的な受け入れは好ましくないがハリケーン的受入れはプラスになる。

 これまで、外国人労働者受入れ問題に関しては、客観的議論に基づくコンセンサスがないためか、インドネシアやフィリピンからの看護師候補者・介護福祉士候補者受入れについても数百人という極めて小規模な受け入れにとどまっている。わが国の看護師(准看護師を含む)の数は現在就業している人だけでも120万人、介護福祉士の人数は約64万人である。こうしたなかで海外から数百人のオーダーで受け入れても焼け石に水ということは明らかである。明確な方針もないまま少人数を受け入れるのではなく、受け入れのコスト・ベネフィットについての冷静な議論を行って方向性についてのコンセンサスを形成することが急務の課題である。もし外国人労働者を受け入れないのなら確固たる信念をもって代替策(モノ・カネの移動の促進、女性の職場進出支援など)を実施し、受け入れるのであれば人手不足解消に資するよう大規模に行うことが重要であろう。
【コラム】地域特性に配慮した社会統合モデル [2010年04月30日(Fri)]
【「人口変動の新潮流への対処」事業 事業委員 短信3】
Tamura Taro
田村太郎
--------------------------------------------------------------
高校卒業後、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、南米などを旅する。在日フィリピン人向けレンタルビデオ店で勤務することで、日本で暮らす外国人の課題を知る。阪神大震災直後に外国人被災者へ情報を提供する「外国人地震情報センター」の設立に参加。1997年4月から2004年3月まで(特活)多文化共生センター代表として同センターの成長に居合わせた。2004年4月からIIHOE研究主幹、2007年1月ダイバーシティ研究所を設立、代表に就任。
--------------------------------------------------------------
「人口変動の新潮流への対処」事業第3分科会主査


 第3分科会では多文化共生をテーマに、地域特性に配慮した社会統合モデルの提言をまとめています。日本で暮らす外国人は年々増え続けてきました。旧植民地出身の人々やその子孫、アジアから1980年代に来日した労働者や配偶者、1990年以降に急増した日系南米人、そして近年、各地の製造業や農業などに従事している研修・技能実習生など、その構成は日に多様です。また地域によって国籍や在留携帯が大きく異なるのも、日本の外国人住民の特徴です。日系ブラジル人が外国人住民のほとんどを締める地域もあれば、中国からの配偶者が地域全体に散住している地域もあります。

 そこで当分科会では、外国人住民の人口に占める割合や担い手のちがいなどに留意し、4つの地域ごとに社会統合モデルの仮説を立てることを目標に研究を進めています。4つとは都市で外国人人口が多く構成も多様な「中心市街地型」、都市で外国人住民が散在している「都市近郊型」、地方で特定の外国人が集住している「外国人多住型」、地方で外国人住民が散在している「地方型」です。これら4つのモデルの該当する地域を訪問し、2008年度は施策や取り組みとその担い手に関する調査を、2009年度は外国人住民のニーズに関する調査をそれぞれ行いました。

 2010年度はこれらの調査結果をもとに構築した4つの地域特性に配慮した社会統合モデルの仮説について、背景の異なる関係者に集まって頂き、有用性や問題点を指摘していただく「ステークホルダーダイアログ」を開催します。またダイアログで得られた意見を参照してモデルを精査し、地域で活用できる社会統合モデルを発表する予定です。今後はモデルを活用する地域への継続的なサポートや、日本以外の地域におけるモデルの汎用性について研究を重ね、これから人の移動がますます活発となるアジアにおける導入や、すでに社会統合に取り組んでいる欧州の取り組みとの比較研究などに活用したいと考えています。

 日本ではこれまで、出入国管理についての政策はありましたが、来日から定住までの家庭に必要となる社会統合政策についての政策がほとんどありませんでした。日本語教育や医療や教育における通訳についての法律や制度もありません。2006年に総務省は自治体が取り組むべき多文化共生の取り組みについて体系的にとりまとめた「多文化共生推進プラン」を発表しました。全国的に取り組むべきテーマは同じでも、地域ごとに異なる特徴に配慮した具体的で丁寧な社会統合のモデルプランが必要であり、当分科会での研究が地域での多文化共生の取り組みに活用されることを願っています。


※第3分科会:2008年度調査報告
‘Social Integration and Multicultural Community Building Policies in Japanese Communities’ (Web公開は英語版のみ)
日本語で読まれたい方は下記のページをご参考に事務局へお問い合わせください。
https://blog.canpan.info/jinkou/archive/26
【コラム】九州大学アジア総合政策センターの国際会議 [2010年03月10日(Wed)]
【「人口変動の新潮流への対処」事業 事業委員 短信2】
Ogawa Takeo
小川全夫
--------------------------------------------------------------
九州大学・山口大学名誉教授。特定非営利活動法人アジアン・エイジング・ビジネスセンター理事。アジア太平洋アクティブ・エイジング・コンソーシアム創始者。社会老年学から調査研究して、地域高齢化やアジア高齢化に対する政策提言を行っている。著書に「地域の高齢化と福祉:高齢者のコミュニティ状況」(恒星社厚生閣)、「生涯現役社会づくりプログラム開発:日米東アジアの比較と協力」(九州大学東アジアセンター・オン・エイジング)など。
--------------------------------------------------------------


 2010年2月27日に福岡市で開催された「東南アジアから日本へのケアワーカー移動をめぐる国際会議:政策担当者と研究者の対話」は、九州大学アジア総合政策センターの大野俊教授たちの研究グループの成果発表を兼ねていた。現在この研究グループは、インドネシア大学との間で共同研究を進めている。フィリピンからはジェニファー・ジャルディン=マナリリ海外雇用庁長官、インドネシアからはハポサン・サラギ大統領府海外労働者派遣・保護庁局長が参加、日本側からは厚生労働省職業安定局経済連携協定受入対策室、外務省アジア大洋州局南部アジア部南東アジア第二課の関係者が参加した。

 経済連携協定に基づいて、インドネシアやフィリピンから来日した看護師・介護福祉士候補者の理由動機や目的動機は、両国で違いがあることが報告された。インドネシアからの候補者は、比較的経済的に困ってはおらず、職業上のキャリア・アップをめざしている人が多く、年齢が若く未婚者が多いのに比べて、フィリピンからの候補者は、比較的経済的に困っていて、家族への仕送りを第一の動機にあげる人が多く、年齢幅も広く既婚者が多かった。

 またインドネシアの研究者からは、候補者たちは、現在かなりの職業上のストレスを感じながら頑張っていることが報告された。

 国家試験問題が日本語で出題されることに対して、英訳で出題してもよいのではないかという論議がある。これに対して、産業医科大学川口貞親教授が、過去の問題を英訳して模擬試験を行った結果、必ずしも全員が合格点に達することはなかったという報告があった。

 とくに注目を浴びたのはインドネシア大学バクティアル・アラム教授の「摩擦から創造へ」という認識であった。来日しているインドネシア人看護師・介護福祉士候補者が、本来の看護や介護の役割を果たせないもどかしさと、経済的な期待外れや日常生活での孤立など多くのストレスを感じることはあろうが、それが次の創造へと向かう動きでもあることを指摘したのである。看護師としての経験を認めてもらえず、看護助手のような仕事をさせられているある候補者は、むしろ高齢者と接することに看護や介護の原点を見出したという。また時間厳守という日本人労働者の働き方に当初は疑問をもっていたが、いつしか時間を守るようになったという。こうした努力を傾けている外国人看護師・介護福祉士候補者や、かれらを雇用して今後の国際化に備えようとしている施設や病院にとって、国が明確な将来構想を示さないと、候補者の自己研さんと雇用主の経営ガバナンスの苦労は報われない恐れがある。

 第4部のパネル・ディスカッションでは、超高齢社会におけるケア移民の受け入れと人材育成をテーマに論議しあった。ここでは、今の政府間経済連携協定を超えて、将来的な介護人材を育成するには、大学間、施設間、関係団体間の連携を深めることが重要な課題であることが明らかにされた。


(筆者、登壇者の肩書は2010年3月現在のものです。)
【コラム】マンスフィールド財団の会議 [2010年03月05日(Fri)]
【「人口変動の新潮流への対処」事業 事業委員 短信1】
Ogawa Takeo
小川全夫
--------------------------------------------------------------
九州大学・山口大学名誉教授。特定非営利活動法人アジアン・エイジング・ビジネスセンター理事。アジア太平洋アクティブ・エイジング・コンソーシアム創始者。社会老年学から調査研究して、地域高齢化やアジア高齢化に対する政策提言を行っている。著書に「地域の高齢化と福祉:高齢者のコミュニティ状況」(恒星社厚生閣)、「生涯現役社会づくりプログラム開発:日米東アジアの比較と協力」(九州大学東アジアセンター・オン・エイジング)など。
--------------------------------------------------------------


 駐日大使でもあったマンスフィールド氏が、モンタナ大学に財団をおいて、図書館を寄付したり、アジアとアメリカの関係に視野を置いたシンポジウムを開催している。

 今回の会議は、「メシュジラ(メトセラ)の挑戦:日本とアジアの高齢化」と題して行われた。メシュジラ(メトセラ)とは、創世記に出てくる969歳まで生きたといわれる人物である。

 全体の会議の構成は、決して「高齢化=高齢者介護」というような狭い枠組みではなくて、「高齢化=国際関係の変化」という広い枠組みであった。各国の人口構成が少子高齢化すると、労働力確保が難しく社会負担が大きくなるという論議は多く行われている。しかしそれが兵力の確保にも大きな影響が出てくる。若い世代の性比が不均衡になって結婚できない男性が増えて攻撃的で犯罪性を帯びた行動を取る傾向が現れる。高齢者や子供の介護をめぐる介護の国際連鎖的移動が生じる。こういう論議はあまり日本では聞いたことがなかったが、人口学や地政学や女性学の立場から真面目に取り組んでいる研究者がいることを改めて知った。

 アメリカは高齢化しても、なお移民と若い世代の高い出生率によってこれからも人口学的にはほかの地域ほど少子高齢化の影響を受けることはないし、アフリカのような多産多死の人口構造になることもない。世界的な金融危機を乗り越えれば、なお経済的にも結構高い位置を持続できるという自信を持っている。

 彼らの目から見れば、急速に経済成長を遂げている中国も、一人っ子政策の下で少子高齢化が経済成長以上に早く進んでいるので、国防の面では兵員確保も難しくなるとみている。

 ロシアは、一時はアメリカのライバルとしての位置づけが弱まったが、近年はまたライバルとしての位置が高まっている。しかしロシアの人口構造はむしろ平均寿命が短くなるという状態があり、人口減少も生じて、経済発展や国防に必要な人員の不足が懸念されるとみている。

 EUは、核になる諸国では少子高齢化が進んでいるが、まだ人口構成の若い加盟国を増やしながら、それを相殺する戦略をとっているとアメリカはみる。しかしEUに加盟した新しい国は、加盟後急速に少子高齢化していく傾向があるとみている。
そしてアメリカにとっては盟友のひとつであった日本は、少子高齢化の極を走っている。それは人口構成の問題にとどまらず人口減少の段階にまで達しており、国防上の盟友としての位置づけも見直さなければならないとみているようである。経済発展の上でも労働力確保は難しいだろうし、社会保障負担は大きくなる一方だろう。国防上の兵員確保なども難しくなるとみている。

 しかしアジアの多くの国は、まだまだ人口が多く、人口転換が進んでいないところが多く、国際的には人口供給源である。しかしベトナムやインドネシアでは「二人っ子政策」などが進められ、これから人口転換が起こる。こうした変化が経済発展に貢献するかもしれないが、国防上の課題や国内的な社会保障問題を浮き彫りにするかもしれない。

 われわれのセッションは高齢化と国際関係を論じるセッションではなかったので、直接これにくみする論議はなかった。しかしこのような論議の中で笹川平和財団から派遣されたわれわれの提起がどのように受け止められたかわからぬが、安里さんの国境を越えた介護労働の動きは、これまで経済発展を遂げながら少子高齢化に対して移民政策を取らないできた日本に、新しい動きが出てきたことを象徴することとして受け止められただろう。また私の提起は、日本が少子高齢化の最先端で、政府のとれる政策が、財の再配分の見直し、労働生産性の向上、移民の導入、新しい東アジア共同の構築しかないということであるが、いずれも新しい挑戦であることは伝わってほしいとあらためて思った次第である。

(筆者、登壇者の肩書は2010年3月現在のものです。)