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【コラム】日本の漁業と外国人労働者の受け入れ [2010年10月01日(Fri)]
【「人口変動の新潮流への対処」事業 事業委員 短信9】
Jin Zhan
金 湛
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南九州短期大学国際教養学科准教授。中国北京市出身。龍谷大学大学院経済学研究科博士課程を修了後、文部科学省私立大学学術研究高度化推進事業「アフラシア平和開発研究センター」研究員を経て、2006年より現職。経済学・農村社会学の視点から見た農村開発に関心を持ち、近年は中国内モンゴル自治区の「生態移民」と地域開発、そして、日本の漁業について研究している。
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「人口変動の新潮流への対処」事業第1分科会委員


 日本では、厳しい労働環境にある多くの産業で労働力不足が問題となっている。中でも漁業現場は最も深刻な状況にある。特に1990年代以後、石油類の価格の高騰に伴うコストの上昇と輸入品の増加または魚食離れを原因とする市場販売価格の低下、気象変化や乱獲による漁獲量の減少等により、漁業経営における収益の減少が激しい。このため、新規労働者には、安定した収入が得られる固定給制の代わりに不安定な歩合制を適用することが多くなり、彼らは、所得、退職金、年金などの保障のないまま重労働に従事することになる。結果として、2003年には264,554人であった全漁業種類の海上作業従事者総数は2008年の217,107人と、わずか5年で約18%激減した。また、60歳以上の漁業就業者は全体の46.8%を占め、高齢化の進行が著しい。このような状況を打破するため、一部の職種では、労働力不足を解消するため外国人労働者を受け入れるようになった。現在、実質的に外国人なくしては操業不可能な状況となっている。

 入国管理法では外国人単純労働者の就労を認めないため、現在、外国人労働者の日本漁船への乗船には、海外基地方式、マルシップ方式、研修・技能実習制度の3つが使われている。また、日本近海で操業する通常の漁業に外国人を活用するためには、この漁船漁業技能研修・技能実習制度を利用するしかない。

 外国人研修・技能実習生と言えば、「低賃金で奴隷労働を強いられる」外国人労働者を連想する者が多いが、現状は必ずしもそうではない。日本で言う「低賃金」は途上国ではかなりの「高賃金」であり、その格差に関して、外国人労働者の間では特に不満の声はあがっていない。むしろ、期間の延長や再度の来日を希望する者の方が多い。つまり、仮に現行の研修・技能実習生制度でも、雇用側が関連法令に定められた範囲で活動すれば、外国人労働者の経済利益が保障される。また、外国人の受け入れにより、日本の漁業経営を守る効果と日本人若手労働者の離職防止効果が得られる。

 問題は日本政府の国内産業に対する姿勢である。漁業の生産・経営規模はすでに他の産業にない縮小を見せており、かつてない危機に瀕している。政府として、国内における漁業経営の消滅を黙認するのであれば漁業経営者、労働者の生計及び国民の食卓の安全保障を顧慮する上で政策を実行するべきであり、国内の漁業を保護するのであれば、日本の漁業の在り方及び今後の発展方向を政策設定のレベルで議論し、その結果に応じて外国人労働者の受け入れを検討すべきであろう。この考え方は漁業だけではなく、ほとんどの第1次産業と一部の第2次産業にも通用する。

 「単純労働者を受け入れない」入国管理法の下では、多くの企業は労働力確保のため「発展途上国の人材育成協力」という名目で研修生制度を利用するしかない。しかし、現実的に、日本で使われる多くの技術は日本の社会的(文化的背景、価値観など)、経済的基盤(関連技術、資金力など)を前提とするものであり、これらの技術を海外で普及するところか適用することですら不可能である。建て前と本音の二層構造を是正し、産業現場のニーズに応じて、「労働者の受け入れ」を制度として成立した方が受け入れ側も送り出す側もそれぞれの権利と義務を明白に理解でき、利用しやすい。また、産業の特徴に応じて「労働者の受け入れ」期間を柔軟に設定すれば、受け入れ側にとって限界費用の逓減など経済性が高まることも予測できる。

 無論、外国人労働者の受け入れは決して容易なものではない。日本の農山漁村は古い慣習を持つゆえに閉鎖的である。同じ日本人同士の受け入れも困難なことで、文化背景、信仰上の違いを持つ外国人労働者はなおさらのことである。地元の産業と人々の生活を守りたい一方、外国人労働者の受け入れには精神的負担と不安を抱える。このような矛盾をどう解消するかは一漁村の問題ではなく、日本全国の問題になりつつある。
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