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【コラム】マンスフィールド財団の会議 [2010年03月05日(Fri)]
【「人口変動の新潮流への対処」事業 事業委員 短信1】
Ogawa Takeo
小川全夫
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九州大学・山口大学名誉教授。特定非営利活動法人アジアン・エイジング・ビジネスセンター理事。アジア太平洋アクティブ・エイジング・コンソーシアム創始者。社会老年学から調査研究して、地域高齢化やアジア高齢化に対する政策提言を行っている。著書に「地域の高齢化と福祉:高齢者のコミュニティ状況」(恒星社厚生閣)、「生涯現役社会づくりプログラム開発:日米東アジアの比較と協力」(九州大学東アジアセンター・オン・エイジング)など。
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 駐日大使でもあったマンスフィールド氏が、モンタナ大学に財団をおいて、図書館を寄付したり、アジアとアメリカの関係に視野を置いたシンポジウムを開催している。

 今回の会議は、「メシュジラ(メトセラ)の挑戦:日本とアジアの高齢化」と題して行われた。メシュジラ(メトセラ)とは、創世記に出てくる969歳まで生きたといわれる人物である。

 全体の会議の構成は、決して「高齢化=高齢者介護」というような狭い枠組みではなくて、「高齢化=国際関係の変化」という広い枠組みであった。各国の人口構成が少子高齢化すると、労働力確保が難しく社会負担が大きくなるという論議は多く行われている。しかしそれが兵力の確保にも大きな影響が出てくる。若い世代の性比が不均衡になって結婚できない男性が増えて攻撃的で犯罪性を帯びた行動を取る傾向が現れる。高齢者や子供の介護をめぐる介護の国際連鎖的移動が生じる。こういう論議はあまり日本では聞いたことがなかったが、人口学や地政学や女性学の立場から真面目に取り組んでいる研究者がいることを改めて知った。

 アメリカは高齢化しても、なお移民と若い世代の高い出生率によってこれからも人口学的にはほかの地域ほど少子高齢化の影響を受けることはないし、アフリカのような多産多死の人口構造になることもない。世界的な金融危機を乗り越えれば、なお経済的にも結構高い位置を持続できるという自信を持っている。

 彼らの目から見れば、急速に経済成長を遂げている中国も、一人っ子政策の下で少子高齢化が経済成長以上に早く進んでいるので、国防の面では兵員確保も難しくなるとみている。

 ロシアは、一時はアメリカのライバルとしての位置づけが弱まったが、近年はまたライバルとしての位置が高まっている。しかしロシアの人口構造はむしろ平均寿命が短くなるという状態があり、人口減少も生じて、経済発展や国防に必要な人員の不足が懸念されるとみている。

 EUは、核になる諸国では少子高齢化が進んでいるが、まだ人口構成の若い加盟国を増やしながら、それを相殺する戦略をとっているとアメリカはみる。しかしEUに加盟した新しい国は、加盟後急速に少子高齢化していく傾向があるとみている。
そしてアメリカにとっては盟友のひとつであった日本は、少子高齢化の極を走っている。それは人口構成の問題にとどまらず人口減少の段階にまで達しており、国防上の盟友としての位置づけも見直さなければならないとみているようである。経済発展の上でも労働力確保は難しいだろうし、社会保障負担は大きくなる一方だろう。国防上の兵員確保なども難しくなるとみている。

 しかしアジアの多くの国は、まだまだ人口が多く、人口転換が進んでいないところが多く、国際的には人口供給源である。しかしベトナムやインドネシアでは「二人っ子政策」などが進められ、これから人口転換が起こる。こうした変化が経済発展に貢献するかもしれないが、国防上の課題や国内的な社会保障問題を浮き彫りにするかもしれない。

 われわれのセッションは高齢化と国際関係を論じるセッションではなかったので、直接これにくみする論議はなかった。しかしこのような論議の中で笹川平和財団から派遣されたわれわれの提起がどのように受け止められたかわからぬが、安里さんの国境を越えた介護労働の動きは、これまで経済発展を遂げながら少子高齢化に対して移民政策を取らないできた日本に、新しい動きが出てきたことを象徴することとして受け止められただろう。また私の提起は、日本が少子高齢化の最先端で、政府のとれる政策が、財の再配分の見直し、労働生産性の向上、移民の導入、新しい東アジア共同の構築しかないということであるが、いずれも新しい挑戦であることは伝わってほしいとあらためて思った次第である。

(筆者、登壇者の肩書は2010年3月現在のものです。)
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