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NO・2298『自縄自縛に陥ったイスラエルは崩壊の不安』 [2012年08月20日(Mon)]
 イスラエルのネタニヤフ首相は、強硬論者であるという認識が、世界的に広がってしまったのではないだろうか。そして彼を支えるバラク国防相も、同じように頑固な強硬論者と、認定されてしまったようだ。
二人はだいぶ長い間、イランの核開発について、最終的には核兵器を製造することを目的としている、と主張してきた。そして、イスラエルが唯一中東地域にあって、核兵器を保有する権利がある、というニュアンスの主張をしてきている(イスラエルは200発以上の核兵器を、保有していると見られているが、それを未だに認めてはいない。)。
問題はイスラエルが望む、イランの核開発阻止のための手段が、国際会議によっては達成されないことが、ほぼ確実になっていることだ。したがって、残る手段は力による阻止ということになり、それは軍事力の行使ということになるのだ。
しかし、それは極めて困難なことだ。とてもイスラエル一国では無理であろう。このため、これまでイスラエルはアメリカとの協力による、軍事攻撃を考えて来た。だがアメリカはそう簡単には、イスラエルの申し出を、受け入れてはくれない。
アメリカの要人がイスラエルを訪問する度に、イスラエル政府は自国の持つ情報と、それを元にした分析結果を伝え、いかにイランの核開発が、危険なものであるかを説明してきた。なかでも、今年11月に予定されている、アメリカの大統領選挙候補者に対しては、念入りな説明と説得を、試みてきている。
それでもアメリカはイスラエルの呼び掛けに、真正面からは応えようとはしていない。その結果、イスラエルは自国が主張してきた、イランの核兵器開発の危険を阻止するために、何としてもイラン攻撃をしなければならない状況に、自らを追い込んでしまった。
もし、イスラエルがイランの核開発に、何らの手段も講じないとすれば、それはこれまでのイスラエルの主張してきた主張『イランの核開発は核兵器の開発が目的だ。』がウソになってしまうのだ。
こうしたいきさつから、最近ではイスラエルのイラン攻撃が、アメリカの協力を抜きにして、単独でも実行されるのではないか、という懸念が拡大している。それは述べるまでもなく、イスラエル国民をヒステリー状態、パニック状態に陥れているのだ。
この事態を深く懸念するペレス大統領は、ネタニヤフ首相とバラク国防相に、何とかアメリカ抜きのイスラエル単独攻撃は、避けるべきだと説得している。もちろんペレス大統領ばかりではない。イスラエル国民の61パーセントは、イラン攻撃に反対しており、イラン攻撃に賛成しているのは、27パーセントに過ぎないのだ。
ネタニヤフ首相は自分が創り上げた『イランは核兵器を造る』という幻想によって、自分とイスラエル国民に、イスラエル崩壊の道を辿らせるのであろうか。もしそうだとすれば誠に残念であり、かつ愚かなことであろう。
アメリカやヨーロパの国々のなかには、イランが核兵器を所有したとしても、それを使用することは極めて困難だ、という判断をしているふしもある。そうなるとイランの核兵器保有は、中東地域の軍事バランス上、好都合だとすら考える人たちが、増えていくということでもあろう。
Posted by 佐々木 良昭 at 15:14 | この記事のURL
NO・2297『エジプト大統領の不安定な現在と将来』 [2012年08月19日(Sun)]
 アラブの春革命の成功を横取りした形で、国会議員の半数以上を獲得し、大統領の座を獲得したムスリム同胞団は、その後も意気軒昂のようだ。しかし、そうして勝ち取った大統領の座を、ムスリム同胞団員自身が、不安定なものにしつつあるようだ。
 エジプトを一歩も出たことの無い、あるいはエジプトは出たことがあるが、アラブや他のイスラム世界に限定した、外国訪問経験を持つムスリム同胞団員は、限られた経験と知識のなかでしか、発想がわかない。
 しかし、大統領に就任したモルシー氏は、アメリカでの生活も長く、アメリカ社会の一員として、生活してきた経験のある人物だ。それだけに彼の考え方は、他のムスリム同胞団員とは大分違う部分が、あるのではないかと思われる。
 そのモルシー大統領とムスリム同胞団員との、考えの違いがいま彼を苦しい立場に、追いやっているのではないか。アメリカ的合理主義と効率を学んで、自身のメンタリテイのなかに、すっかり取り込んだモルシー大統領にしてみれば、あまりにも非合理な考えの団員が多い、と感じているのではないか。
 そのためにモルシー大統領は、少し強引な進め方をし始めており、それがムスリム同胞団や世俗派の人たちの、反発を買い始めているようだ。エジプト社会では知識人たちから、モルシー的独裁とかスルタン的統治、と揶揄され始めているのだ。
 もう一つのモルシー大統領の抱える問題は、軍部との関係をどう良好な状態に、維持していくかということであろう。もちろん、彼はばっさり軍部を切り捨て、軍部には国防だけを担当させ、政治には一切口を出すな、と言いたいところであろう。
 しかし、エジプトの軍はそんな簡単な組織ではない。これまでナセルの革命以来、60年以上も続いた軍人出身の大統領による統治は、エジプトのあらゆる分野に、軍の権益を創り出していたのだ。
 従って、モルシー大統領が軍を無視するような動きに出れば、軍はエジプトの経済の75パーセントを掌握していることから、政府の言うことを聞かなくなり、モルシー大統領は何も出来なくなってしまうのだ。
 タンターウイ国防大臣とサーミー・アナン参謀総長を大統領顧問に就任させ、最高のナイル勲章を授与したことで、軍のトップ二人を取り込んだかに見えるが、二人はそうは思っていまい。
 たとえ二人がそう思ったとしても、若手将校はそうは思っていないのだ。軍から大統領を出すのは、これまで続いてきたことであり、今回もそうなるべきだ、という考えがあるのだ。そのことは、軍がクーデターを起こす可能性が、常にあるということだ。
モルシー大統領がその座に留まり続けようとすれば、今後軍との関係を強化し、ムスリム同胞団との関係を疎にしていくことが、予想されるのではないか。しかし、それは彼がムスリム同胞団員か、あるいは他のイスラム原理主義者によって、暗殺されることを予想させるものだ。
Posted by 佐々木 良昭 at 22:42 | この記事のURL
NO・2296『混沌が続くアラブの春革命諸国』 [2012年08月18日(Sat)]
 チュニジアに始まりエジプト、リビアと続いたアラブの春革命は何をこれらの国々にもたらしたのであろうか。そして、それに続くイエメンやシリア、バハレーンはどうなっていくのであろうか。
 一言で言えることは、チュニジアもエジプトもリビアも、革命達成とは言うが、その後何の進展もないということだ。各国でほぼ明らかになったのは、イスラム系組織が地下活動で、抵抗運動を継続してきていただけあって、結束力や組織力で他の組織に勝っており、革命達成後は政治の中心舞台に、乗り出してきたことだ。
 しかし、これらのイスラム組織も、統治の経験は無く、国家が抱えている問題が何なのかということを、正確に把握していないようだ。規模から行けば、チュニジアやリビアは、アラブの革命の目標であった、民主化達成が最も容易な国のはずなのだが、現実は全く逆であり、なんら民主的なものは芽生えさえ、してきていないのだ。
 インテリの数では、アラブで一番のはずのエジプトでも、民主化が逆行することはあっても、前進する状況には無いようだ。マスコミ界への政府の圧力で、新聞の発禁や人気テレビ・キャスターの番組降格などが、次々と表面化してきている。
 他方、暴力を振るう自由だけは、実現したのであろうか。チュニジアではイスラム原理主義者たちが世、俗派の国民に対し暴力を振るって、自分たちの考えを押し付けようとしているし、男女差別も露にしている。
 リビアでは部族単位のミリシアが市中を闊歩し、些細なことから銃撃戦が起こってもいる。そうした雰囲気はリビア国内にある、外国施設に対する襲撃事件として、時折マスコミをにぎわしている。
 赤十字のスタッフが襲われたり、国際刑事裁判所の弁護士が誘拐されたり、外国の大使館や領事館が襲撃のターゲットとなっているのだ。
 エジプトのシナイ半島で起こった、警官16人を殺害するという事件も、考えようによっては、アラブの春が生み出した、結果かもしれない。エジプトではそればかりか、ムスリム同胞団のメンバーや、サラフィストのメンバーによる、世俗派の言論人や議員、一般人に対する嫌がらせや、暴力事件が頻発してもいるのだ。
 こうした雰囲気のなかで大衆は、各々が自分の安全を守る策を講じている。評論家が評論活動を控えたり、テレビ・キャスターが番組から降板するのは、その現れであろう
 つまり、いままでのところアラブの春革命は、庶民に対して何等メリットを、もたらしていないということだ。アラブの春革命が大衆にもたらしたのは、混乱とインフレと、失業と犯罪であろうか。革命の前にそれを、誰が望んでいたのだろうか。
Posted by 佐々木 良昭 at 20:50 | この記事のURL
NO・2295『エジプトで始まったか・英雄待望心理』 [2012年08月17日(Fri)]
 拙著『革命と独裁のアラブ』(ダイヤモンド出版)で書いたのだが、アラブの大衆は独裁者が好きなようだ。独裁者は自分が独裁者であることを、十分に理解しており、少しでも偉大で英明な、国王や大統領と思われたい。
したがって、独裁者が統治する国家では、大衆がパンに飢えることはほとんどなく、もしそうなったときには、確実に独裁者は打倒されるのだ。したがって、大衆は怠けてもパンを与えてくれる独裁者の方が、民主的だが『パンを自分で働いて手に入れろ。』という大統領よりも好むのだ。
エジプトではムバーラク大統領が、独裁者であったことに異論はなかろう。しかし、彼はせっせとアラブ湾岸諸国や欧米を回り、国民に最低限の食料を与える、努力をしてきていた。
その大統領が打倒されたいま、エジプトでは民主的な選挙で選出された大統領が誕生した。モルシー大統領がその人なのだが、彼は果たして国民に満遍なく、パンを食わせてくれるのだろうか。
どうもそうはいっていないようだ。そのため国民の不満が、日に日に高まっており、モルシー大統領は落ち着かない日々を、過ごしているようだ。そうなると頼れるのは、結局軍隊ということになる。モルシー大統領はタンターウイ国防大臣の首を切ったのは良かったが、その後、手厚く対応している。加えて、最近では『軍人の生活向上を図るべきだ。』とも言いだしている。
大衆の側はどうであろうか。8月24日に呼びかけられた大衆デモに対し、イスラムの権威であるアズハル大学の、ファトワ委員会(宗教的裁定を下す委員会)のメンバーである、シェイク・ハーシム・イスラーム師は『デモ参加者は殺していい。』という極めて乱暴な意見を発表にしている。つまり『モルシー大統領に黙って付いて行け。」ということだ。
マスコミ界でも似たような動きがある。アルアフバール紙への寄稿をした、著名なユーセフ・カイード氏の原稿が、没にされたのだ。この原稿はモルシー大統領批判の、内容だったということだ。
アルアフバール紙の編集長ムハンマド・バンナー氏は『原稿掲載を禁じたのではない。あくまでもスタッフ・ライターの原稿を優先したに過ぎない。』と語っている。しかし、他の評論家や作家たちの原稿も、モルシー大統領に対し批判的なものは、避けられているようだ。
こうした宗教界やマスコミ界の、モルシー大統領擁護の動きは、まさに独裁者待望の心理の顕れであろう。本人は独裁者になることを希望していないが、こうして徐々に独裁者に、祀り上げられてしまうのだ。モルシー大統領に対し、いまだに厳しい非難の言葉を寄せているのは、身内のムスリム同胞団だそうだ。
Posted by 佐々木 良昭 at 14:31 | この記事のURL
NO・2294『ウオーモンガー戦争を待望する人たち』 [2012年08月16日(Thu)]
 ウオーモンガーという言葉がある。戦争を待望する人たちのことを言うのだそうだが、そんな人種がいるのだろうかと思うのは、日本人だけかもしれない。世界中にはいろんな人たちがおり、いろんな考えを持っているのだ。
一時期騒がれた、イスラエによるイランへの軍事攻撃の話題は、しばらくの間下火になっていた。あるいは平和主義者の日本人の間では、すでにその話題は、忘れ去られていたのかもしれない。
しかし、ここにきてまた、イスラエルがイランへの軍事攻撃を、話題にし始めている。アメリカのパネッタ国防長官が、イスラエルを訪問した際に、イスラエル政府側は事細かに、イランの核兵器製造の危険性を訴えたようだ。
ロムニー大統領候補の訪問の折にも、イランの核兵器の危険性は強調され、選挙の票目当てのロムニー候補は、一も二も無くイスラエルを支持し、自分が大統領に就任したら、イラン攻撃を実行すると語った。
しかし、そうした調子のいい輩ばかりではない。イスラエルのなかにも、戦争反対派が多数いて、彼らはイラン攻撃の危険性を訴えている。元モサドのトップや情報関係のトップたちは、口をそろえて戦争をすべきではない、と強く主張している。
最近になって、イスラエル政府内の良識派の意見であろうか、イランとの間でイスラエルが戦争を起こした場合に、どれだけの犠牲がイスラエル側に出るのかを、明かした人たちがいる。
彼らの考えでは、イスラエルがイランに戦争を仕掛けた場合、最初に相手の電子網を破壊し、次いでミサイル攻撃をするというパターンのようだが、ミサイル攻撃がある程度成功しても、イスラエルもイランやヘズブラ、パレスチナの側からミサイル攻撃を受け、相当の犠牲が出るということのようだ。
イスラエルの市民防衛局の、トップであるマタン・ビルナイ氏は、ミサイルがイスラエルの各都市に飛来し、500人以上の死者が出ると予測を語った。イランとの戦闘の後、戦争は1カ月にわたって継続される、という予測も語っている。
イランの最高権威者であるハメネイ師は、イスラエルがやがては地上から消える、と予測している。
イスラエルがイランに戦争を仕掛けた場合、既にイランアからレバノンに、大量に運び込まれているミサイルが、ヘズブラによって発射されることは、確実であろうし、ガザ地区からもハマースがミサイルやロケット弾を、イスラエル国内に撃ち込むことが予想される。そうなれば日和見主義者のファタ、ハつまりパレスチナ自治政府も、イスラエル攻撃に動きだそう。
加えて、エジプトの体制はムスリム同胞団によって握られており、ムスリム同胞団の兄弟関係にあるのが、ガザのムスリム同胞団によって構成された、ハマース組織なのだ。
イスラエルがイランとの間で戦争を始めれば、エジプトのムスリム同胞団による政府が、イランを支持しようがすまいが、ガザのハマースを支援するという立場から、イスラエル攻撃に参加する可能性は否定できまい。
それだけの危険を覚悟しても、ネタニヤフ首相はイランとの戦争を、始めようというのだろうか。多分に宣伝戦として受け止めたい。もし、イスラエルによるイラン攻撃が現実のものとなれば、ハメネイ師が語っているように、イスラエル国家の滅亡も、十分ありうるのだから。
Posted by 佐々木 良昭 at 14:52 | この記事のURL
NO・2293『シリア元首相の狡猾さを嫌う』 [2012年08月15日(Wed)]
 先週、シリアの首相だったリヤード・ヘジャーブ氏が亡命した。彼はヨルダンに滞在中に、亡命を決めたということのようだ。その後、ヨルダンからカタールに行く予定であったようだが、未だに実現していない。
彼は記者会見を開き、現在のシリアの内情を暴露しているが、どうも彼の発言は、信用しきれない部分があるようだ。彼に言わせると、シリア政府はシリア領土の、僅か30パーセント未満しか、支配していないとのことだ。
また、シリア政府内部はモラルが崩壊し、金融が破綻し、軍内部にも乱れがある、ということのようだ。亡命するまでその一角を、彼は担っていたのだ。
そうした状況にシリアがあるので、反政府派は統一して一日でも早く、現体制を打倒すべきだと言っているが、彼はいったい何をするというのであろうか。彼が外国に亡命し、内部の政治家や軍人幹部に、反政府に立ち上がれと呼びかけ、それが効果を生むというのであろうか。
彼はまた、エジプトやチュニジアの軍にならって、シリア軍も大衆の側に着くべきだとも語っている。彼の語った、30パーセント未満の領土しかシリア政府が支配していない、というのは嘘であろう。
確かに反政府側は勇敢に戦ってはいるが、反政府側が所有する兵器は、政府軍が所有する兵器とは、比べ物になるまい。最近、シリア政府は強硬策をとり始めているが、伝わってくる情報を読んでいると、反政府側が政府軍の攻勢を受け、後退しているケースが多いようだ。
悲惨な難民の様子、勇敢に戦闘を展開する反政府側の戦闘員たちの様子が、アルジャズイーラやアルアラビーヤテレビを通じて、世界中に流されており、あたかも反政府側が優位な戦闘を、展開しているような印象を受けるのだが、現実はその逆ではないのか。。
宣伝戦が一定の効果を収めることは、これまで世界中の戦争を通じて明らかではあるが、シリアでも宣伝戦が早期に効果を発揮して、一定の成果をあげ、近い将来シリア政府が打倒されるということには、ならないのではないか。
トルコ政府のエルドアン首相は明日にでも、シリアに軍事進攻するような雰囲気を醸し出してはいるがそうはいくまい。ギュル大統領はエルドアン首相の発言を抑える発言をしているのだ。
アメリカによって飛行禁止区域が、シリアに設定される可能性もあるが、それにはロシアと中国が、真っ向から反対しよう。そうなると、膠着状態が当分続くのではないか。リヤード・ヘジャーブ元首相があいまいな情報をもたらして、多くの犠牲をシリア国民の間に出すことは犯罪行為であろう。
Posted by 佐々木 良昭 at 14:46 | この記事のURL
NO・2292『エルドアンの強硬路線にギュルがブレーキか』 [2012年08月14日(Tue)]
 トルコのエルドアン首相はシリアのバッシャール・アサド体制に、強硬な対応を叫んでいる。これは多分にアメリカの意向もあってのことだろうが、少し乱暴すぎるのではないかと思っていた。それに加え、何を勘違いしたのか、彼の妻エミネ女史までもが、アサド夫人の批判を始めている。
エルドアン首相はいまにもシリアに、軍事進攻するような口調であり、既にシリアとの国境には、前線基地が設置された、という情報もある。そしてもう一つは、シリア領内に難民の避難のための、解放区を設置しようとも、考えているようだ。
最近のエルドアン首相の対シリア対応策は、少し乱暴ではないのかと懸念していたが、トルコ政府内部にも同様の懸念が、あるのかもしれない。確かに、シリアからトルコに流入してくる、難民の数が現在では6万人を超え、シリアのクルド人がトルコの仇敵である、PKKと連絡を取り始めているという情報もあり、トルコにとっては極めて、頭の痛い状況であろう。
そうした状況を踏まえ、エルドアン首相が1日も早く、シリア問題を解決したい、と願う気持ちは分からないでもないが、急ぎ過ぎて強硬路線を踏み出した場合、欧米から非難を受ける危険もあろうし、周辺諸国からの反発も、多分に予想されよう。
この事態を踏まえ、トルコのギュル大統領が冷静な発言をし始めている。彼はシリアの状況を憂慮してはいるが、性急な対応策は取るべきではない、という立場のようだ。
例えば、エルドアン首相が語ったシリア領土内への、難民受け入れの解放区を創ることについて、ギュル首相は『国際的な合意なしには行ってはならない。』と語っているし、反シリア政府派への武器供与についても、『その意思はない。』ときっぱりと、その可能性を否定している。
もちろん、こうしたギュル大統領の発言は、だからと言ってトルコが、シリア問題で何もしない、という意味ではない。自国の安全上問題が生じた場合は、敢然とその対応策を進める、とも語っているのだ。
ロシアや中国のシリア対応については、両国による拒否権発動などを挙げ、何の役にも立たないばかりか、問題をますます困難にしている、という批判的な発言をしている。
このギュル大統領の発言は、取りようによっては、シリア内戦が長期化する、という判断に基づいているのかもしれない。長期化した場合、早い段階から介入することは、大きな負担を伴うということは、誰にも分ろう。
Posted by 佐々木 良昭 at 14:35 | この記事のURL
NO・2291『モルシーがタンターウイの首を刎ねる』 [2012年08月13日(Mon)]
 ある意味では、突然の決定であった。エジプトのモルシー大統領がもう一方のリーダーである、国軍のトップムハンマド・タンターウイ国防大臣の、首を刎ねたのだ。その衝撃は少なからぬものがあろう。当然のことながら、このニュースは世界中のマスコミが、トップで扱っている。
一説によれば、シナイ半島のイスラミストやテロリストの討伐作戦に、軍が失敗したことが理由だと言われているが、それは嘘であろう。シナイ作戦で処罰されるべきなのは、モルシー大統領の方だったからだ。兵士に16人の死者を出し、軍は軍の葬式を行ったのだが、モルシー大統領は参列しなかった。そのことを非難する人士は、少なくなかったのだ。
もう一つ考えられる理由は、モルシー大統領が軍との協力のもとに、国内外政治を進めていて、なかなか旧体制は(軍)を処罰しない、という非難の声がムスリム同胞団内部や、世俗派のなかにあった。そこで何の対応もしなければ、やがてはモルシー大統領に対する、非難が拡大していく、と考えて決断したのかもしれない。
モルシー大統領はこれまで、積極的に速攻で軍に対応するのではなく、段階的に対応し、ムスリム同胞団の地歩を着実に固めて来たと思われる。そしていま、彼は機会が訪れた、と判断したのかもしれない。
その対応ぶりは十分に配慮が働いている。タンターウイ国防大臣とサーミー・アナン統幕議長を首にしながらも、彼ら二人には大統領顧問という、新たなポジションを与えているのだ。
しかし、それでことは収まるのだろうか。これから先、軍がこの措置について、どう反応してくるか関心がもたれる。予想される展開は、軍がクーデターを起こし、モルシー政権を放逐するという、最も強硬な対応だ。
しかし、それはまだ機が熟していないと思われる。大衆がモルシー政権の無策ぶりに嫌気がさし、社会が犯罪で混乱し、失業率が上昇し、生活苦に追い込まれる人たちが増えた場合、おのずからムスリム同胞団政権に対する、非難が大衆のなかで高まって行こう。
ムハンマド・タンターウイ国防大臣はその職を解かれ、当分の間は大統領顧問というステータスに、甘んじるのではなかろうか。そしてじっと時が訪れるのを、待つのではないだろうか。
エジプト大衆の不満が頂点に達し、彼らが軍にしか期待できない、と思うようになった時、ムハンマド・タンターウイ国防大臣は初めて、行動を起こすのではないか。それはあくまでも、大衆の意向に沿ってという形でだ、
Posted by 佐々木 良昭 at 15:30 | この記事のURL
NO・2290『トルコ機撃墜はロシア艦船だった?』 [2012年08月12日(Sun)]

 トルコの戦闘機がシリア軍によって撃墜された、という情報が流れたのは、6月22日のことだから、既に大分時間が経過している。しかし、いまだに撃墜に関する明瞭な説明が、トルコ政府からはなされてはいない。
 最近になって、新たな見解が出てきた。そもそも、シリア側の説明ではトルコ機が、シリア領空を侵犯したので、撃墜したというものだったが、トルコ側はシリア領土から、大分離れた位置に墜落したことから、シリア政府の説明を信じなかったし、受け入れもしなかった。
 トルコ機はシリアの陸地から、12キロ以上離れた海に墜落したが、シリア政府が撃墜したと主張する対空砲は、射程が2キロなのだ。つまり、シリア政府の説明は嘘だったということになる。
 そこで出てきたのが、トルコ機が撃墜された当時、その海域にロシアの艦船が3隻いたという事実だ。トルコ機が情報収集で飛来したことは、ロシア艦船にすれば邪魔であったろう。従って、トルコ機の撃墜にこれらのロシア艦船が、何らかの関係があったのではないか、という疑問が沸いてきている。
 トルコ機は3機で飛行していたようだが、2機は電子妨害があったことで、即座に現地から逃亡したということだ。そして、残った1機が撃ち落とされた、ということのようだ。
 トルコ政府はこれまで、シリア領空から5キロ弱離れたところで撃墜され、12キロの地点に落下している、と説明してきている。その地点から戦闘機の残骸が見つかったが、残骸らはミサイルによって撃墜された、何の証拠も出てきていないということだ。
 トルコの戦闘機には、対ミサイル防衛システムが搭載されており、ミサイル攻撃を受ければ、自動的にそれが機能するはずでもあった。それでは何故そうならなかったのか、という疑問が沸いてくる。最近になって出てきた情報は、実はトルコ機が撃墜されたのは、シリア軍の対空ミサイルでも対空砲でもなく、ロシアの艦船から発射された、電子兵器によるものだったという説だ。
 この情報が事実であるとしても、トルコは軽々にはそのことを主張し、ロシア非難を始めることは出来まい。トルコはシリアやイラン、イラクとの関係が悪化しているなかで、ロシアも敵に回さなければならなくなるからだ。
 それではロシアは、何故トルコ機を撃墜したのであろうか。単にトルコ機が情報収集を、していたためであろうか。あるいは、ロシアはトルコとの緊張関係を、作り出したいと考えているのであろうか。もちろん、それはロシアが撃墜したという前提が、正しければ初めて検討される課題だが。
Posted by 佐々木 良昭 at 21:30 | この記事のURL
NO・2289『トルコの禁じ手』 [2012年08月11日(Sat)]

 トルコはいま、極めて危険な淵に立たされている。あるいは、敢えてその選択をしているのかもしれない。それは、当初トルコが掲げていた、周辺諸国との良好な関係の拡大に、最近は敢えて逆行する動きに、出ているように思えてならないからだ。
 少し前までのトルコは、シリアのバッシャール・アサド大統領に対し、民主化を進めることによって、国内の問題を解決し国民の不満を解消し、安定した政権を維持するよう助言していた。もちろんトルコとシリアとの関係は、極めて良好なものとなり、両国間に埋設されていた、地雷の撤去も進んでいた。
 イラクとの関係も、トルコの要人がバグダッドを何度となく訪問し、良好なものとなり、トルコ企業は他国に優先して、イラクの復興に参加していた。同時に、イラクの北部クルド地区の開発では、イラク全体の手本となる、安全で繁栄した都市づくりを進めていた。
 イランとの関係も両国が相互に必要を感じ、良好な関係を築いてきていた。イランは欧米からの制裁の、強化されているなかで、トルコを唯一の外国との接点として頼りにしていたし、トルコに石油ガスの供給をすることにより、トルコを助け自らも、外貨を獲得し続けてきていた。
 しかし、これらの国々との関係が、いま一気に崩れかけている。シリアに対しては過剰なまでの介入関与が目立ち、アサド大統領はトルコを反政府派の、拠点と認識するようになっている。
 イラクについても、クルド自治政府との関係が促進するなかで、イラク中央政府との交渉をないがしろにし、クルド自治政府との取引を進めたため、イラクの中央政府はトルコに対し、激怒するようになってきている。
 イランにとってもトルコの過剰なまでの、シリア敵視が許せなくなってきている。イランにとって、シリアは中東諸国への台頭の、重要な拠点国であり、ヘズブラとの接点ともなっているのだ。
 こうした周辺諸国とトルコとの対立が、目立ってきたのは何故であろうか。それは一言で言えば、アメリカ追従が強すぎることにあろう。トルコがシリアへの対応で、過剰なまでに厳しい姿勢をとっているのは、アメリカとの協力ということからであろう。
 加えて、トルコの野心が見え隠れするのは、私だけであろうか。シリアの北部地域の相当部分は、かつてのオスマン帝国の固有の領土であった。その失った領土を、今回のシリアの内紛に乗じて、奪還しようと考えているのではなかろうか。
 しかし、それはまさにトルコにとっては、禁じ手であろう。トルコが今後、偉大な国家となっていくためには、当初掲げていた周辺諸国との、良好な関係を維持する政策を、遂行していくことであろう。
 トルコはあくまでも、当初の自国の考えに則って、周辺諸国との良好な関係を、維持していくべきであろう。欧米の意向に沿って、その意向に沿うことが自国の利益だ、という幻想を抱くべきではなかろう。
 一時的な利益を追っては、トルコは偉大な国家にはなっていけまい。トルコの短期的な利益追求や、無定見な欧米への追従は、必ずトルコを苦しめる遠因となろう。中東の国々がいまトルコに求めているのは、尊敬に値する指導国としての、トルコなのだから。
 トルコは歯を食いしばってでも、中東諸国がトルコに求めている、尊敬できる国家を目指すべきであろう。トルコはアラブ諸国の多くの大衆にとって、理想の国家であり、憧れの対象なのだ。トルコにはそれに応える義務があろう。なぜならばトルコは、偉大なオスマン帝国の末裔なのだから。
Posted by 佐々木 良昭 at 23:19 | この記事のURL