中東の出来事(1)7月27日 [2018年07月26日(Thu)]
中東で日々起こっていることは、日本人には想像もできまい。人間がするとは思えないような、残虐なことが行われており、それはごく当たり前の出来事のように、報じられているのだ。
日本人には想像もできないような、種々の組織が誕生しては消えている。その典型はIS (イスラム国家)であろう。イスラム国家は突然誕生し、あっという間にシリアとイラクの、ほとんどの領土を、支配するに至った。 そこでは語ることもおぞましいような、出来事が頻発していた。住民が簡単に斬首されたリ、腕を切り落とされたりということが、公開の場で繰り返されていた。 女性たちは捕まり売買されたり、強制的に結婚をさせられたり、その後に売られたりもしていた。そのなかでは、レイプは当然のように行われており、彼女たちは商品でしかなかった。その犯罪の首班であるISは、その行為を神アッラーの法に沿ったものだ、と主張していた。ISの犠牲になった人たちの数は正確にはわからないが何、何十万人規模であろうと思われる。 人間だけではなく歴史的な建造物も、ISの犠牲になっている。中東に残されていた歴史的価値の高い建造物が、次々と破壊されていっているのだ。私が20代(もう40年以上前だが)の頃に訪れた、シリアのシタデルも戦場となり、相当部分が破壊されてしまった、ということだ。 彼らは人間の彫像物を破壊している。これと似たことはアフガニスタンでも、タリバンが仏像の顔を破壊したことがあった。こうしたものは偶像崇拝に繋がるので破壊するのだ、とタリバンは主張していた。ISも同じ理屈であろう。 その歴史的建造物の復興には、膨大な時間と費用が、掛かることであろう。それをシリアやイラクという国が担うのか、あるいは国連の機関が担うのか、あるいはどこかの国が、巨額の寄付をすることによって、修復するのかは分からない。 一体、何故ISなる組織が誕生し、このような破壊と殺戮が起こったのであろうか。一言で言ってしまえば、人間の物欲のなせる業であろう。想像するにISはアメリカによって結成され、アメリカの特定の目的達成のため、使われていたのではないのか。 いま言われているそのアメリカの目的とは、ペルシャ湾の海底に存在する膨大な量のガスを掘り出し、イラクとシリアを経由して、地中海まで運ぶということが、アメリカの目的だという意見が、一部の専門家によって語られている。 そのためにアメリカはISを結成、ペルシャ湾海底のガスの通過経路となる、イラクとシリアを破壊し、ISにその場所を確保させたというのだ。この説については多くの識者が主張している、私などにはそのことを確証する、証拠は手に入らない。ただその説に心情的に賛成はできる。 無敵と言われたISは、敗北を重ねいまではイラクにもシリアにも、彼らが安心して居住する場所は、残されなくなった。そしてISはイラクやシリアから撤退せざるを得なくなっている。その最大の原因はロシアの、シリアへの軍事介入であろうと思われる、 ロシアはシリアのアサド体制を擁護するために、軍を派遣しIS掃討作戦を敢行したのだ。その結果は目覚ましいものがあり、その後、アメリカもIS支援を、大っぴらには出来なくなっている。 次の段階でアメリカが考えたことは、ロシアとの取引だった。アメリカはガスのパイプライン・ルートを確保し、その管理者としての地位を、クルドのミリシアに与え、クルドはシリアのアサド体制と取引をして、シリア北部に自治区を創設することになりそうだ。 ロシアはと言えば、ロシアはアサド体制を維持することにより、シリアの地中海沿岸の軍港を確保し続けることだった。シリアのタルトース港はロシアが地中海沿岸に唯一確保できている軍港であり、それを手放すつもりはない。ロシアの場合も、シリア問題への軍事介入は、善意によるものではなく、自国の利益のためなのだ。 ロシアはアメリカとの取引で、シリアのラタキア港やそのそばの、空軍基地も長期的に、確保することが出来そうだ。この合意が確立すれば、アメリカにとってもロシアにとっても、シリアにとってもクルドにとっても、好都合な状態が生まれるということだ。 そうなればもう、ISのシリアにおける役割は終わり、新たな4者の合意を維持していくためには、ISが同地域から出ていかなければならないことになる。もちろん、ISの同地域からの脱出には、アメリカやイスラエルそしてヨルダンが、協力することになった。 シリアとイスラエルの国境地帯にある、ゴラン高原を経由して、ISの戦闘員がイスラエルに逃れ、そこからヨルダンに向かったということは、そうした経緯からだった。 他方、トルコはこれまで一時期は、ISの影の協力者であり、武器、資金、戦闘員の通路、負傷者の病院などを、提供してきていたが、次第にそのレベルを下げ、今ではトルコ国内に潜伏する、ISを掃討する作戦に出ている。 トルコが強い不信と嫌悪をISに抱き始めたのは、イスタンブールで2年ほど前に起こった、ナイト・クラブ襲撃事件だったと思われる。このナイ・クラブ襲撃事件では、多数の犠牲者が出ている。 しかし、そうは言っても相当数の戦闘員たちが、これまでにトルコ経由で、第三国に逃亡したものとみられる。トルコがISに対して、厳しい対応を取るようになったのは、ISの戦闘員の一部が、トルコに留まるようになり、第三国への出国を、望まなくなったからではないか。 ISの戦闘員たちにすれば、トルコはまさに天国であった。彼らはトルコ国内で自由にアパートを借り、そこに家族で住んでもいたし、休息にも来ていたのだ。戦闘地域であるシリアとは異なり、安全で物資が豊富なトルコは、IS戦闘員にとってはまさに、天国だったのであろう。 しかも、彼らは自分の国に帰国した場合、逮捕投獄が待っているし、運が悪ければ、処刑される危険性もあるのだ。ISの戦闘員を生み出した各国にとっては、実戦に参加し殺人破壊を習得した、戦闘員が帰国することは、国の安全を脅かすことになる。なかでも体制側の人たちにとっては,ISの戦闘員たちは、大変な脅威であろう。 さて、こうした経緯で、シリアから逃れなければならなくなったISの戦闘員たちは、シリアからイスラエルに向け出国した後、ヨルダンなどに集められ、その後、何処へ送られるのであろうか。 考えられる新たなISの戦闘員たちの戦場は、リビアであり、アフガニスタンであり、東南アジアではないのか。もちろん中東の国のいずれかにも、ISの戦闘員は送り込まれるかも知れない。例えばサウジアラビアが、その候補の国の、一つではないのか。サウジアラビアからはISの戦闘に、参加した者の数は多いのだ。 それ以外には、中央アジアの国々、中国の新疆ウイグル地区など、ISの戦闘員を送り込みたい国は幾らでもあるのだ。 |