• もっと見る
« 2016年08月 | Main | 2016年10月»
NO4241『トルコ紙・2016年はIS最後の年』 [2016年09月04日(Sun)]
トルコのサバー紙が『2016年はIS(ISIL)にとって最後の年になるだろう。』という記事を掲載した。トルコはいま、かつて友好的であり、支援を送っていたIS(ISIL)と、敵対関係になり、クルド攻撃に加え、IS(ISIL)攻撃も始めている。

従って、この記事は、極めてトルコ的な判断に立ったものであろう、とも思われるが、実際にIS(ISIL)はイラクでもシリアでも、リビアでも厳しい状況に、置かれていることは確かだ。

リビアのシルテ市を、第二のIS(ISIL)の首都にする、と言っていたが、そのリビアのシルテ市からも、ほぼ追い出された形になっている。統一リビア軍に、他のリビアのミリシア。グループが参加し、IS)ISIL)を支援する組織はいなくなったのだから、無理も無かろう。

イラクでIS(ISIL)は一時期、3分の1の領土を支配していたのだが、最近では14パーセントしか、コントロール出来ていないということだ。バグダッドの北のアブ・ガリーブを失い、ファルージャからも、ラマデイからも撤退している。

ルトバからも同様に撤退しており、アンバルに通じるアカシャトの、インターセクションを手放し、物流のルートを遮断されることになった。モースルもほぼ陥落した状態にあり、ここはシリアのラッカに次ぐ、IS(ISIL)の重要拠点であっただけに、少なからぬショックを、IS(ISIL)内部に生んだものと思われる。

シリアではジャラブルスを失い、ハサカのカビーバ油田も手放している。またパルミラからも追い出されているが、これはIS(ISIL)にとっては痛手であったと思われる。

それはパルミラが世界遺産のゼノビア王女とその遺跡のある、国際的に知られた場所であり、IS(ISIL)にとっては、軍事的優位を宣伝する上で、極めて効果が大きかったからだ。

シリアではIS(ISIL)はアル・バデーアのセメント工場を手放し、ヒットからも撤退を余儀なくされた。ホムスの近郊の街も手放しているし、マンビジュもつい最近になって失っている。

今ではIS(ISIL)は、これまで支配していた、126重要拠点のうちの、56拠点を失ったということのようだ。トルコのサバー紙の報道は、ほぼ正確なのかも知れない。いまではロシア、アメリカ、トルコが敵に回り、IS(ISIL)への攻撃を激化している。

加えて、イラク軍ともシリア軍とも、戦っているのだから、IS(ISIL)は相当厳しい状況に、追い込まれているということであろう。これでは、サバー紙が主張するように『2016年はIS最後の年』になるかも知れない。
Posted by 佐々木 良昭 at 10:36 | この記事のURL
NO4240『シリアはトルコのベトナム戦争になるか』 [2016年09月04日(Sun)]
トルコはシリアとの国境地帯の、安全を確保すると宣言し、シリア領内に軍を進めた。それが今後、当初の目的を、早期に果たすことが出来、トルコ軍がシリア領土から撤収することが、出来るかどうかが、いま問われている。

今回のトルコ軍のシリア進軍について、アメリカはトルコの攻撃は、自国の防衛目的だ、ということに加え、IS(ISIL)を攻撃する、ということで認めたし、空からトルコ軍の侵攻を、支援もした。

しかし、トルコ軍が実際に攻撃しているのは、IS(ISIL)ではなく、クルド人だった。そのため、アメリカはトルコが主張するように、クルドのミリシアに対しては、ユーフラテス川の東岸まで、撤退するように指示した。しかし、トルコ軍のクルドに対する攻撃は止まない。

それは、クルド・ミリシア側は簡単には、ユーフラテス川の東岸まで、撤退しなかった。幾つもあるクルドのミリシアの一部は、未だにユーフラテス川の西岸に居残り、トルコ軍に攻撃を続けているからだ。

このクルド側の対応を、アメリカが大目に見ているのは、アメリカにとってクルドのミリシアが、IS(ISIL)との戦い、アサド体制との戦いで、極めて勇敢で、有効な駒だからであろう。

ジャラブルスだけではなく、トルコ軍がマンビジュやコバネなども、攻撃の対称にしている。その事は、クルド側にとっては、絶対許せないことだ。多くの血を流し、同胞の犠牲の下に、コバネは
IS(ISIL)の手から、クルドは奪還することが、出来たのだ。

戦闘が長引くにつれ、エルドアン大統領のシリア越境攻撃の意図が、国境の安全を確保することにあるのではなく、シリア領土の一部を奪うことにあるのではないか、という懸念を持つ国が、増えていった。ロシアがそうであり、イランも然りだ。

アメリカもやはり、現在のトルコ軍のシリア領土内での展開には、問題があると考えるようになった。ギュレン問題でアメリカとトルコとの関係が、悪化しているなかでは、アメリカのトルコに対する見方は、厳しくなっているのだ。

トルコは当初唱えていたような、国境の安全を確保するという、目的を果たすには大分時間がかかり、場合によっては、トルコ軍は今後、5年から10年シリアに留まるのではないか、という意見さえ出ている。

つまり、刀を鞘に納める理屈が、出来上がらないからだ。トルコには戦争の明確な目的が決まっていない、という意見が専門家の間から出ている。エルドアン大統領は戦争の専門家ではないし、トルコ軍の幹部の多くが、更迭されている現状では、戦略も、作戦もしっかりしたものは、立てられまい。

また、一部の専門家の間からは、エルドアン大統領がまず、シリア領土を占領し、次いで、かつてのオスマン帝国の領土を、順番に落として占領し、支配する気ではないか、という敵意に満ちた意見まで、出て来るようになってきている。

そのなかには、湾岸諸国やイラク、イエメンやエジプト、そしてリビアも含まれるということだ。つまり、トルコに対する悪い評価と評判が、ヨーロッパからもロシアからも、アメリカ、イランからも、そしてアラブからも出始めている。それはエルドアン大統領にとって、極めて不味い展開であろう。
Posted by 佐々木 良昭 at 00:04 | この記事のURL
| 次へ