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NO・2966『シリア情勢の影響を受ける周辺諸国』 [2013年09月28日(Sat)]

 国連での、シリアの化学兵器をめぐる討議が、結果的にはロシアや中国が押す考えに、まとまりそうだ。つまり、アメリカが希望していたシリアに対する空爆は、国際社会が認めないという方向だ。
 それはアメリカにとってだけではなく、これまでシリアに敵対的に関与してきた、周辺諸国にとっても大きな不安を呼ぶものとなっている。サウジアラビア、カタール、トルコがその典型であろうし、イスラエルにとっても、少なからぬ影響が及ぼう。
 一説によれば、サウジアラビアはシリアの反政府派テロ集団に、武器と軍資金(軍事資金と、戦闘員への給与)を提供し、自国内で逮捕され死刑判決が出ていたサウジアラビア人を始め、イエメン人、クウエイト人、パレスチナ人、スーダン人、ヨルダン人、ソマリア人、イラク人、パキスタン人、アフガニスタン人、エジプト人などに対しては、シリアでの戦闘に参加することを条件に、釈放しているということだ。
実際にこのことについては、公文書が一般に流れ出してインター・ネットの世界に広まっており、多くの人たちが知るところとなっている。
 カタールについては、自国のアルジャズイーラ・テレビが、反アサド体制の宣伝番組を重点的に放映していたし、アラブの春が起こった国々に対しては、革命の扇動を行ってきていた。
 もちろん、カタールが反シリア戦闘組織に対して、資金を提供してきていたことは、公然の事実となっているし、世界の国々はそれを噂としてではなく、真実として受け止めている。
 トルコもまたサウジアラビアやカタールと並んで、反アサドの立場を堅持してきていた。トルコはサウジアラビアやカタールが、反政府側戦闘組織に提供する、資金と武器の経由地として、また戦闘員の通過地としての役割を、果たしてきていた。
最近になって、そのトルコではエルドアン首相の、強硬なシリア対応に対する非難が、国民の間で高まっているし、与党内部の幹部の間でも、エルドアン首相とは異なる意見を述べる者が、増加してきている。
トルコの場合、今後予想される事は、エルドアン首相が与党から追い出される可能性と、ヨーロッパ諸国がトルコ国内の混乱を機に、トルコの経済に対する攻撃を、画策してくることではないか。『エルドアン首相は何時の間にか、裸の王様になってしまった。』という意見を述べるトルコ人が増えてきている。
エルドアン首相が与党から去らないとなれば、与党の有力者たちが逆に与党から飛び出し、新党を結成することもあいうるだろう。しかし、こうした与党を始め、トルコ国内の大きな変化に、エルドアン首相は気が付いていないようだ。それは彼の周りにいる人物のほとんどが、イエス・マンだからだ。
ある国際情報に詳しい友人からつい最近『カタールは非常に危険になってきていますよ。注意してみていてください。』というアドバイスをいただいた。まさにその通りであろう。
サウジアラビアは自国だけでは何も出来ないので、アメリカに対して『どれだけでも金は出すから、アサド体制を軍事攻撃して、打倒してほしい。』と泣き付いているようだ。
 シリアのアサド体制が生き残れば、当然アサド側からの、サウジアラビアやカタールに対する破壊工作を、始める可能性が高くなろうし、両国の内部でも、これまでのシリア対応に対する、非難の声が国民の間から高まろう。
 エジプトの場合もそうだが、エジプトと並んでシリアは、サウジアラビアを始めとする湾岸諸国の人たちの、最も人気の高いリゾート地になってきていた。それが両国民にとって危険地帯になるようであれば、国民が政府に対して、非難を始めるのは当然であろう。
 イスラエルについて言えば、同国はアメリカが必ずシリアを攻撃してくれる、と考えていたものが、土壇場で全く予想していなかった、結果が出たことで驚いていよう。それは、シリアに対する攻撃が行われなくなったことが、実はアメリカの世界に対する影響力、強制力、指導力が確実に低下したことを、意味するからだ。
 イスラエルにとっては、シリアのアサド体制がイスラエル攻撃をしてくるとは考えていなかったから、シリアは安全で信頼できる敵国という位置づけだったろう。従って、最初の段階ではシリア人同士が殺しあうことを、歓迎していたろう。
しかし、戦闘が長引く中で、次第にイスラエルがアメリカを動かしている、という認識がシリアを始めアラブ諸国間で広まり、思いがけない危険と敵を、抱えるようになってしまったのだ。
イスラエルはいま、これまで完全に頼りにしてきたアメリカが、目に見えて世界への影響力を低下させてきていることに、愕然としているのではないか。加えてアメリカ国内でも『イスラエルのためにアメリカ国民が戦争をして、犠牲になることは無い。』という考えが広がり始めてもいる。
そのことはイスラエルという国家にとっても、アメリカを始めとする世界中に散らばっているユダヤ人にとっても、大きな不安になりつつあるのではないのか。
Posted by 佐々木 良昭 at 15:09 | この記事のURL
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