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NO3613『そろそろ人質事件について書こう』 [2015年01月30日(Fri)]
中東TODAY
をご愛読くださっている方々は、私がいつ人質事件のことを書くのか、実態はどうなのか、と待ちくたびれていたことかと思います。しかし、人質事件のような問題が起こった場合は、情報の出入り口を限定して、敵にこちら側のカードを見せないのが常道です。

したがって、私のような民間人は、出来るだけ邪魔なコメントを、出さないことが得策なのです。実際にテレビを見てみると、00
専門家といわれる人たちが、新聞とテレビの情報をもとにして、連日登場しそれを繰り返しています。それは問題解決の上で邪魔にこそなれ、何の役にも立ちません。

人質事件はどうやら、最終局面に入ったと思われますので、自分の考えを許される範囲で、書いてみることにしました。

まず安倍総理の不穏当な発言が、今回の人質事件を起こしたという非難がありますが、これはばかげています。なぜならば安倍総理が発言するずうっと以前から、人質はとられていたのであり、
IS(ISIL)はそれを何時か利用しようとして、人質を今日まで殺さずにいたものと思われます。

安倍総理の発言があったから起こったのではなく、IS(ISIL)
側はチャンスを待っていただけでしょう。つまり、チャンスさえあれば他のタイミングでも、同じような展開があったということです。

何故IS(ISIL)はこの時期に、後藤氏の人質交換に出てきたのか、ということについては『金』が第一の目的であり、第二の目的は{
サジダ死刑囚の奪還』ではないか思われます。特攻に失敗したサジダに、なぜIS(ISIL)
がこだわるかといえば、彼女を釈放することによって、仲間を守ることをアピール出来るからかもしれません。

実はIS(ISIL)はいま、資金難から戦闘員の離脱が目立ってきています。彼らは捕まるとIS(ISIL)
の刑務所に入れられるか、処刑されています。そうした中では、『裏切らなければ敵につかまっても、奪還してもらえる。』ということが、大きなメリットになるでしょう。

最近IS(ISIL)
は、負傷者はその場で殺害するように、命令しているとのことですが、それは戦局が不利になったことに加え、協力国であろうかと思われるイスラエルやトルコが、だんだん協力を渋るようになってきており、両国で治療を受けることが、難しくなってきているからではないでしょうか。もちろん、負傷者を国外の病院まで搬送することも、不利な戦局のなかでは、大変な仕事になると思います。

ヤズデイの女性を奴隷として取引することも困難になってきており、最近では二束三文で売り飛ばしたり、無条件に多数を釈放するという現象も起こっています。そのことは、
IS(ISIL)がいま、いかに苦しい台所事情になってきているかを、あらわしているということでしょう。

今回身代金を要求した後に、それはいらないと言い出したのは、アラブ人のプライドがなせる業ではないでしょうか。アラブ人はおおむね『貧乏人』『無能』と言われることを、非常に嫌います。身代金問題が立ち消えになったのは、彼らのプライドが邪魔したからでしょう。

さて、現段階ではIS(ISIL)
側は、サジダの釈放を要求しており、明言は避けているようですが、後藤氏の釈放を交換とするようです。しかし、ヨルダン人パイロットの釈放については、殺すか生かすかだけを語るだけで、釈放を口にしていません。

その点が問題であり、ヨルダン政府は国民の前で、パイロットを犠牲にはできないのです。そんなことをすれば、そうでなくとも不安定なヨルダンの王政は、打倒されることもありうるからです。

それでもヨルダン政府は、サジダの釈放を明言しました。もちろん、パイロットの釈放と引き換えです。これは日本に対する日ごろの支援に対する、お礼の気持ちがあったからでしょう。この双方の動きは問題の半分を解決したということでしょう。
IS(ISIL)側は後藤氏の釈放は、サジダと交換だと言い、ヨルダン側はパイロットの釈放と交換に、サジダを釈放すると言ったからです。


これで一応乱暴な言い方をすれば、交渉の半分がまとまったということです。あとは最終的な詰めがありますが、双方が信頼できる仲介者が表れて、仲介の労をとってくれれば、いいということです。今回の釈放はトルコでということのようですが、これまでのトルコと
IS(ISIL)との関係から、IS(ISIL)側はトルコを信頼できる仲介者、とみなしたということです。


日本政府もヨルダン政府も、トルコなら信頼できるでしょう。あとはパイロットの釈放を取り付けるだけです。多分裏ではほぼ話がついているのでは、ないかと思えます。なぜならば、何の話もついていないのに、トルコが名乗り出れば失敗した場合に、トルコが恥をかくことになるからです。


そして最後に残る問題は、仲介者であるトルコが、いかにして日本とヨルダン、そして世界に対して、トルコには知恵と力と温情があるか、ということを示すことです。トルコは人質交換という、世界的なイベントを成功裏に、しかも派手にやりたい、と考えているはずです。

1月28日の夜に私がフジテレビのBS
で、引き渡しはシャンウルファではなく、ガジアンテペだろうと言ったのは、トルコの派手好みを考慮してのことでした。しかし、今ではそれも飽き足らず、派手好みのエルドアン大統領は、人質交換のセレモニーを、彼が最近建て終えた、アンカラにある
AKサライ(大統領公邸)で行うかもしれません。


処刑と拷問の恐怖に取り囲まれていた人質問題は、アラビアンナイトのお話のように、派手な結末を迎えるかもしれません。そうあってほしいものです。その時には安倍総理は深々と頭を下げて、エルドアン大統領に感謝の言葉を贈るべきだと思います。

たとえば『日いずる国日本の総理大臣から、現代の世界で最も優れた、賢明なスルタンである、エルドアン大統領に感謝の言葉を贈る、、、。』といった具合に。
Posted by 佐々木 良昭 at 15:34 | この記事のURL