• もっと見る

2024年08月11日

理事コラム

理事コラム
                             理事:原田純子
 その日は昼前に東京からやって来た古くからの友人を駅に出迎え、そのまま湖畔のレストランに行った。注文したピザを食べながら、離れていた時間を埋めるように話しが弾んだ。共通の知人の老いが心配な段階に入っているとか、自分たちの老後についての話題、かと思えば共通して応援しているサッカークラブの話など食後の紅茶が終わっても話は終わらなかった。しかし元々彼女は森の魅力を力説する私の言葉を確かめに、わざわざ出かけて来てくれたのだから、湖の周遊道路をドライブしたのち、森の散策に行くことになった。駐車場に車を置いて森に入り、少し開けた高台の眺望の良いスポットへ案内すると、ベンチに腰掛けてしばらくして湖面を眺めていた彼女が、ふと気が付いたように「これからどうするのかを気にしなくて良いってこと?」と私に問いかけてきた。

 清涼な森の空気の中に居て、好きなだけ景色を眺めたり鳥の声を聴いたり…。こんな贅沢な時間の過ごし方はない!と気づいたのだ。まだ現役社会人の彼女の日常は世の中のサラリーマンそのもの。つまり朝は決まった時刻に起きて朝食を摂り、出勤すれば会社の歯車の1つとなって働き、ビルの中で1日を過ごし、時間が来たら帰宅する…。分刻みの日常が繰り返されて過ぎていく毎日。なのに、ここでは何も気にせずに、飽きるまでひたすら景色を眺めていても良いのだと言う事に気づいたと。最初は私に「次は何をするの?」と聞こうとしていたのに、途中でそうじゃないんだ、何もしなくても良いんだと自分で気づいたのだ。

 はい、ここで深呼吸をしてみましょうと掛け声をかけて深呼吸するのは、実は私も苦手です。でも、その日は本人が勝手に深く息を吸い込んでいる。その後も「あ、今鳴いたのは何の鳥?」「風が優しい…」「木漏れ日が奇麗!」とマイペースで五感を開いていった。そして時間に追われる毎日を過ごしているのに、何もしなくても良い時間があることに気づくなんて、きっと森の魅力を理解してくれたに違いない!翌日も一緒に他の森を歩き、森を堪能して日常に帰っていった。森時間の効果が薄れる頃はタイミング良く紅葉の季節。再会を約束したのは言うまでもない。

image002.jpg

image001.jpg
posted by 田川 at 12:00| 役員コラム

特集:伝統文化の森「神仙峡 吉野町 山口神社の鎮守の森」

特集:伝統文化の森「神仙峡 吉野町 山口神社の鎮守の森」
                          森林セルフケアサポーター 倉上千裕

 先月末、初めての試みである森林セルフケア&自然観察会を奈良県吉野町の龍門地区で行いました。近くの運動公園で集合し、自己紹介の後、準備運動をし、いざ出発!徒歩5分ほどで吉野山口神社・高鉾神社に到着。伊勢街道沿いの竜門岳の麓に鎮座する神社です。一歩境内へ入ると大木が鬱蒼と生え、空気が一変するのを感じました。暑い7月末の30度後半の気温であるにも関わらず、吹いてくる風は心地よく、木々の匂いと風に癒されるひと時となりました。歩みを進めていくと、社殿の奥に「吉野山口神社」と「高鉾神社」の煌びやかな本殿である2つ配されていました。「吉野山口神社」はご祭神が大山祇神(おおやまつみのかみ)で、古来山の神、降雨・止雨を司(つかさど)る神として信仰されています。また「高鉾神社」は元々竜門岳山頂にありましたが、500年前に竜門岳山頂から麓へ遷座、されました。竜門岳を神体山とする山岳信仰の神社だったようです。
竜門岳はかなり早くからあの世に通じる神秘的な霊地とされたようで、明日香宮から龍門岳の向こう側に神仙峡があると言われたとのことです。
 社殿の奥にはこれまた鬱蒼とした森が続き、多くの大木がありました。最近、檜皮葺の屋根の修復をされたため、多くの木の皮が赤くなっている大木もたくさんありましたが、エネルギッシュに立っている姿からパワーをもらうことがでました。またツルマンリョウの群生地もあり、菌根菌の話で盛り上がる一場面もあり、この時には既に参加者のみんなも森の香りに癒されていた様子でした。いやいや、これからだぞーと思いつつ、鎮守の森の恵みをたっぷりと味わう時間となりました。

 その後、龍門山口地区の田園風景を眺めながら、カエルさん達のお出迎えを受け、龍門岳の麓の森へと進みました。木々の木漏れ日からフィトンチッドのシャワーを浴び、途中整備された広場で休憩。ハンモックでは熟睡する人もいて、すごく気持ちが良いのです。20分程度ですが、とても長い時間眠っていたような気分でした。地元名物の「こばしのやきもち」を食べ、ティータイムでは各々におしゃべりを楽しみ、リラックスもマックス。お昼のお弁当を食べた後、もう少し森の奥へと進みます。そこには「龍門の滝」がありマイナスイオンが降り注いでいました。みんな思い思いに、滝つぼに足を浸け、リラックス絶頂を体感していました。滝つぼから上がった足は軽やかで、全身で木々から、草花から、滝から、大地からと癒しを享受している様子が自身でセルフケアしているなと実感する場面でした。
 「龍門の滝」の上には奈良時代には東大寺の学僧たちが勉学に励んだ「龍門寺跡」があります。「龍門寺」では大伴仙・安曇仙・久米仙の三人の仙人が住むと伝えられるなど、俗世から離れた仙境であり修験道のルーツとも言われる神仙思想の聖地でした。特に『今昔物語』にある久米仙人の話は有名であり、若い女が洗濯をするために着物の裾をたくし上げていた足を見て、一目ぼれをして神通力をなくすところなどは人間らしく微笑ましく感じました。「龍門寺」には当時の権力者である宇多上皇や菅原道真も参詣しています。この森には神秘的な伝統を感じずにはいられませんでした。参加者の方々はしっかりと森の恵みを体に取り込み、元気いっぱいに帰って行かれました。最後に、これが私がやりたかったことなんだ、四季折々にたずねていき、たくさんの方を案内したいと強く思いました。
posted by 田川 at 11:51| フォーラム委員会より

特集:【伝統・文化の森】 熱田神宮と杜

特集:【伝統・文化の森】    
理事・森林セルフケアコーディネーター 鈴木 友よ
「熱田神宮と杜」
 愛知県で生まれ育った私にとって、地元の大きな神社といえば「熱田さん」と呼ばれ親しまれている、熱田神宮です。

 三種の神器の一つ「草薙神剣(くさなぎのみつるぎ)」が祀られている由緒ある神宮で、
113年(景行天皇43年)に日本武尊(やまとたけるのみこと)が名古屋市緑区に草薙神剣を留め置いたことに始まるそうです。ご祭神の「熱田大神(あつたのおおかみ)」は天照大神(あまてらすおおみかみ)のこと。元旦の四方拝にて天皇陛下が遥拝される神社の一つです。

 また、織田信長との縁が深く、大河ドラマ「麒麟が来る」の信長登場の場面で、「熱田の浜」という海岸に釣りから戻った姿が描かれていました。
現在では熱田神宮は都市に囲まれ、面影はありませんが、江戸時代初めまでは熱田神宮の南は海岸でした。熱田湊などと呼ばれる港でした。
三重県桑名市までの「七里の渡し」という、東海道唯一の海上路(船渡し)があり、熱田神宮周辺は宿場町としても栄えたそうです。

 諸説ありますが、熱田の地は「蓬莱島」と伝えられています。蓬莱とは、古代中国で東の海上にある仙人がすむ山のこと。波静かな海岸に面し老松小杉の茂る「熱田の杜」が、海に突き出る港のように見えることから、蓬莱島に似ているとされたからだそうです。名古屋には尾張徳川家ゆかりの「蓬左文庫」、ひつまぶしで有名な「蓬莱軒」があります。根強く伝説として残されてきたのでしょう。

 古来より緑豊かだった熱田の杜。58000坪の広さの森は都市部の鎮守の森として、人や生き物にとっても大切な場所となっています。クスノキ、ケヤキ、カシなど大きな枝を伸ばしてこの場所にたたずんでいます。鳥居をくぐると、包み込むような緑が続きます。
参道入口.jpg
(参道入口の写真)

 緑の回廊でもある参道を歩くと、ご神木の「大楠」があります。弘法大師お手植えの木とされ、樹齢1000年とも伝えられています。枝ぶり、たたずまいがとても魅力的。引き寄せられるように近づくと、木のたもとには静かに祈りをささげる人々の姿がありました。
また、周りに柵があり、根元に卵がおいてあります。この大楠には神の化身とされる白蛇をはじめ、蛇が住んでいて、その供物だそうです。
大楠.jpg
(大楠の写真)

 本殿の北側に「こころの小径」があります。千年の時を超えた楠の巨木は圧巻です。静謐な雰囲気の中、緩やかな勾配のある道を歩きながら、いくつもの社を参拝していると、ふとここが都市部にあることを忘れ、心が穏やかになりリラックス感を味わうことができました。
posted by 田川 at 11:43| 特集