理事:原田純子
その日は昼前に東京からやって来た古くからの友人を駅に出迎え、そのまま湖畔のレストランに行った。注文したピザを食べながら、離れていた時間を埋めるように話しが弾んだ。共通の知人の老いが心配な段階に入っているとか、自分たちの老後についての話題、かと思えば共通して応援しているサッカークラブの話など食後の紅茶が終わっても話は終わらなかった。しかし元々彼女は森の魅力を力説する私の言葉を確かめに、わざわざ出かけて来てくれたのだから、湖の周遊道路をドライブしたのち、森の散策に行くことになった。駐車場に車を置いて森に入り、少し開けた高台の眺望の良いスポットへ案内すると、ベンチに腰掛けてしばらくして湖面を眺めていた彼女が、ふと気が付いたように「これからどうするのかを気にしなくて良いってこと?」と私に問いかけてきた。
清涼な森の空気の中に居て、好きなだけ景色を眺めたり鳥の声を聴いたり…。こんな贅沢な時間の過ごし方はない!と気づいたのだ。まだ現役社会人の彼女の日常は世の中のサラリーマンそのもの。つまり朝は決まった時刻に起きて朝食を摂り、出勤すれば会社の歯車の1つとなって働き、ビルの中で1日を過ごし、時間が来たら帰宅する…。分刻みの日常が繰り返されて過ぎていく毎日。なのに、ここでは何も気にせずに、飽きるまでひたすら景色を眺めていても良いのだと言う事に気づいたと。最初は私に「次は何をするの?」と聞こうとしていたのに、途中でそうじゃないんだ、何もしなくても良いんだと自分で気づいたのだ。
はい、ここで深呼吸をしてみましょうと掛け声をかけて深呼吸するのは、実は私も苦手です。でも、その日は本人が勝手に深く息を吸い込んでいる。その後も「あ、今鳴いたのは何の鳥?」「風が優しい…」「木漏れ日が奇麗!」とマイペースで五感を開いていった。そして時間に追われる毎日を過ごしているのに、何もしなくても良い時間があることに気づくなんて、きっと森の魅力を理解してくれたに違いない!翌日も一緒に他の森を歩き、森を堪能して日常に帰っていった。森時間の効果が薄れる頃はタイミング良く紅葉の季節。再会を約束したのは言うまでもない。