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2018年02月22日

【コラム】森林療法のエビデンスG

会員の皆様へ季刊でお届けしております、会報誌「森林療法」2013年12月に発行しました27号より、旧理事で現会員の飯田みゆきさんに寄稿いただきましたコラムをお届けいたします。

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「生理機能に対する科学的検討〜免疫」


飯田みゆき



前回から、実際の森林が私たちの身体〜自律神経、内分泌、免疫などの生理的指標の変化にどのように影響しているのかを紹介しています。

今回は免疫システムのひとつであるNK(ナチュラルキラー)細胞に与える影響について紹介します。NK細胞はリンパ球の一種で、ウイルスに感染した細胞やがん細胞を殺傷する役割をしています。がん細胞は健康な人でも毎日3,000個〜6,000個くらいは体内で発生していると言われており、がん細胞をいち早く発見して殺傷するのがNK細胞です。


◆2泊3日の森林浴プログラムでのNK細胞の変化

企業に勤める37〜55歳の男性12名を対象に2泊3日の森林浴プログラムを行った。2日目の午前8時に採血を行い、午前と午後に2時間ずつの森林散策(約2.5km)を行った。3日目の朝8時に再び採血を行い。結果、NK細胞の活性を増強させ、数自体も増加させた。さらに抗がんタンパク質の増加がみられた。
(森林技術768(3):13-17,2006)

【補足】
「NK細胞の活性が増強した」というのは、NK細胞がウイルス感染細胞やがん細胞を殺傷する力が強くなったようなイメージです。実際にがんを殺傷するときに使うタンパク質「抗がんタンパク質」の増加も見られています。NK細胞の数が増えるだけでなく、パワーアップしたことが見られています。


◆森林環境と非森林環境でのストレス負荷状況におけるNK細胞活性、抗体への影響

男子大学生10名(平均20.6歳)と女子大学生(平均21.3歳)を被験者とした。被験者は森林環境と非森林環境で8時間を過ごしたが、そこで2つのストレスのかかる課題を行った。1つは冷水に手首まで浸す冷水負荷試験、もう1つは色名と異なる色で書かれた色の名前を見て、正しい色を答える精神作業負荷試験。免疫系指標としてはNK細胞活性と抗体の量を測定した。その他、内分泌、中枢神経、心理などのいくつかの指標も同時に検討した。

ストレスを実験的に負荷したにもかかわらず、森林環境で過ごした前後で、NK細胞活性と抗体の量は有意に増加した。非森林環境ではNK活性は低下し、抗体量は変化がなかった。非森林環境に比べ森林環境では、免疫機能が向上していることが示されたと同時に、森林環境がストレス負荷による免疫反応への緩衝効果を有していることを実証したものと考えられる。

また、免疫指標では森林環境の効果がみられているのに、心理指標においてはその効果が検出されなかったことは、森林浴の効果が必ずしも自覚されるものではないことを示している。
(東海女子大学紀要 19:217-232,1999)

【補足】
抗体は、リンパ球のうちB細胞が産生するタンパク質で、体内に侵入してきた微生物などを抗原として認識して結合します。抗体が抗原へ結合すると別の免疫細胞が認識して体内から除去するように働きます。抗体が増えたということは、免疫機能が向上したことを示しています。ストレスのかかる課題を行いながらも、免疫が向上するなんて、森林環境は頼もしいですね。


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posted by Yu SEKI at 12:00| コラム

2018年02月15日

【コラム】森林療法のエビデンスF

会員の皆様へ季刊でお届けしております、会報誌「森林療法」2013年9月に発行しました26号より、旧理事で現会員の飯田みゆきさんに寄稿いただきましたコラムをお届けいたします。

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「生理機能に対する科学的検討」

飯田みゆき



今まで、五感ひとつひとつをピックアップして刺激が身体に与える影響を紹介してきましたが、今回から少し視点を変えて、実際の森林が私たちの身体に与える影響を紹介します。

私たちが感じるストレスは、脳で認識した後、自律神経、内分泌、免疫などの生理的指標の変化として現れます。森林環境は、これらの生理的指標に対してどのように影響を与えるのでしょうか。

今回は内分泌システムのひとつであるコルチゾールに与える影響について紹介します。コルチゾールは、副腎皮質から分泌されるホルモンで、ストレスを受けると分泌量が増加するため、「ストレスホルモン」とも呼ばれています。糖代謝、タンパク代謝、脂質代謝、電解質代謝、骨代謝、さらに免疫機構にも関与しており、生命維持に不可欠なホルモンで、炎症を抑制する作用も持っています。


◆森林部と都市部での唾液中コルチゾールに対する生理的効果

12名の男性(22.8±1.4歳)を2組に分け、1日目と2日目でグループを交代し、森林部と都市部において20分歩行+20分座観を行った。唾液中コルチゾール濃度は、都市部群に比べて森林部群で有意に低かった。
また都市部群においては、座観後、座観前よりもコルチゾール濃度が高まる傾向にあった。脳活動も森林部群で鎮静化を生じ、生体が生理的にリラックスしていることが観察された。
これは、快適感、鎮静感も森林部群で有意に高く評価された反映であると思われる。興味深いことに、森林部群は、現地への出発前の測定で既に唾液中コルチゾール濃度が低く、これから出かける場所がわかっていることが生理面に影響を与えたと思われる。
日本生理人類学会誌Vol.9,特別号(2);2004)


◆森林環境と都市環境での唾液中コルチゾール濃度と副交感神経への影響

男子学生12名(20〜27歳)を2群に分け、1日目と2日目でグループを交代し、森林環境と都市環境において午前に20分歩行、午後に20分座観を行った。
唾液中コルチゾール濃度は、歩行条件、座観条件とも都市環境と比較して森林環境で低かった。
心拍変動による自律神経活動の評価では、歩行条件では歩行前、歩行後とも都市環境と比較し副交感神経活動指標が高い値を示し、座観条件でも森林環境において心拍数の低下と副交感神経有意な状態だった。
以上から、都市環境では自律神経機能やコルチゾール分泌に関わる生理機能の緊張が示唆され、森林環境では生理機能の緊張が緩和されたことが示唆された。森林環境による生理機能の緊張緩和は、環境に入った直後の歩行前で観察されたことから、短時間の滞在で得られるものと考えられる。
日生気誌Vol.44,(4)105-110;2007)

【補足】
森林環境で一定時間を過ごすことによって、唾液中のコルチゾール濃度が低下し、ストレス状態が緩和されたことが認められています。また、同時に測定している脳活動や自律神経活動も森林環境で生体がリラックス状態になっていることを示しています。
生理的指標は感覚としてとらえることが難しいものですが、森林の中に身を置くとき、私たちの身体は確実に反応しているようです。森林環境に五感を開くとき、自分自身の身体の声にもそっと耳を傾けてみるのもよいですね。


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posted by Yu SEKI at 12:00| コラム

2018年02月08日

【コラム】森林療法のエビデンスE

会員の皆様へ季刊でお届けしております、会報誌「森林療法」2013年6月に発行しました25号より、旧理事で現会員の飯田みゆきさんに寄稿いただきましたコラムをお届けいたします。

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「EBMを超える医療の評価法とは」


飯田みゆき



今回はちょっと視点を変えて、2013年5月12日にNPO法人ホリスティック医学協会主催の研究会で講演された、心身一体研究所・ルーエ主宰 本宮輝薫先生の講演「EBMを超える評価法の提案〜high probabilityの提案」から森林療法のエビデンスを考察してみたいと思います。

EBMとは、エビデンス(科学的根拠)に基づく医療のことで、現在は「二重盲検法(にじゅうもうけんほう)」が評価法の中心になっています。「二重盲検法」とは、医者にも患者にも薬や治療法などの性質を教えないで進める試験方法で、プラセボ効果(思い込み効果)を防ぐために客観的な評価法として重要とされています。
しかし、代替療法の場合は二重盲検法が適していないことも多く、別の基準を探りましょうという研究会でした。

【本宮輝薫先生講演の概略】

エビデンス(科学的根拠)は「実験と検証によって確証されたもの、同一条件において再現可能であるもの」を求められる。例えばフィギュアスケートでは、技術点はジャンプ、ステップ、スケーティングなど、あらかじめ同一基準が設定され、主観の入る余地は少なく、その評価は客観性の高いエビデンスの考え方に近い。

しかし、アーティスティック・インプレッションの得点は、何をもって芸術性が高いかは、きわめて主観的のものとなる。多くの採点者や観客は、浅田真央の演技に対して高いアーティスティック・インプレッションを体験・実感するが、それが何故なのかは科学的に実証できない。
しかし、審査員の恣意的な判断でしかないのかというとそうではなく、そこには、高い共同認識が存在する。つまり、わたしたちは「計測可能な世界」と「計測不可能な世界」とに生きている。

たとえば、脈拍や血圧などは計測可能であるが、相手や条件によって簡単に変化する。生命体は絶えず相互関係にあって、その相互関係の中で生命活動が営まれる。そこは客観的に計測可能な世界ではなく、脈拍や血圧も正確にいえばエビデンスは不可能である。
まして、感情や意識は、即座に変化する。この世界のほとんどの事象は、客観的に認識できるようにはならず、われわれの生命世界は、むしろ美・快・気持ちいい・美味しいという直観的・感覚的なものに囲まれている。

しかし、「計測不可能な領域だから、主観的にならざるをえない。だから、客観的な判断や評価はできない」と、考える必要はない。実感・体験・直観に基づいて、一定の共同認識が可能になり得る。つまり、高い蓋然性(high provability)を持った認識が可能となり得る。これは体験や実感などから、多くの人にとって共有できる認識が存在し、そうした認識にとっては、高い真理性が存在する、という考え方である。

【考察】

当協会では、森林療法も代替療法の一つであると考えています。そして、森林の健康効果を西洋医学の手法で評価することの難しさも感じていました。
森林セルフケアでは、血圧もストレスホルモンも測定しませんが、ひとりひとりの直感的、感覚的なものを大切にしています。その感覚を共有する場としての「対話」も大切にしています。

「ひとりひとりの体験・実感が多くの人にとって共有できる認識として存在すること」を蓄積していくことが、森林の健康効果の根拠になっていくように思います。蓄積していくためには、対話だけでなく、アンケートなどの質的解析も必要になるのかもしれません。

まだまだ先の長い話です・・・。


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2018年02月01日

【コラム】森林療法のエビデンスD

会員の皆様へ季刊でお届けしております、会報誌「森林療法」2013年3月に発行しました24号より、旧理事で現会員の飯田みゆきさんに寄稿いただきましたコラムをお届けいたします。

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「味覚刺激に対する科学的検討」


飯田みゆき



今回は五感の最後、味覚刺激が身体に及ぼす影響の研究を紹介します。
森林セルフケア体験会では味覚を使った体験はほとんど行いませんが、「食」を通して森林の味覚は楽しまれています。味覚は心と身体にどのような効果をもたらすのでしょうか。今回は、味覚と自律神経活動についての研究と、「森林医学 朝倉出版2006」からの抜粋を紹介します。


◆味覚・うま味と自律神経活動

 22〜32歳の女性に「酸味:クエン酸」「塩味:NaCl」「うま味:グルタミン酸ナトリウム」「甘み:ショ糖」「苦味:キニーネ」の溶液3mlを1分間口に含んだ後吐き出させ、唾液分泌量と心拍のゆらぎを測定した。

すべての刺激により唾液分泌量は増加したが、苦味は他の刺激よりも分泌量増加が有意に弱かった。ポータブル心電計による心拍変動を解析すると、うま味と低濃度の塩味刺激により副交感神経の活動亢進がみられ、苦味と高濃度の塩味刺激により交感神経活動の亢進がみられた。

キニーネは嫌いな味と答えた者がほとんどであり、拒否情動と、塩辛さの不快情動が結果に現れたと考えられる。動物は毒物が呈する味として苦味を本能的に忌避することから、自律神経活動の変化はこの生理的反応を反映した可能性がある。

うま味刺激は唾液分泌効果を介して摂食機能を高めるだけでなく、自律神経の副交感神経を高め、消化機能を高めると同時に情動的にも落ち着いた状態を生じる可能性が示唆された。

(杉本久美子 日本味と匂学会誌Vol.17,No.2:109-115;2010)


【補足】
唾液分泌などの消化管活動は、副交感神経活動時に活発になります。「おいしい」という感覚は、からだ全体をリラックスさせてくれるようですね。
逆に苦味は、交感神経の活動によりシャキッとさせるようです。春先の山菜など、苦味のある食べ物は苦味健胃薬として昔から知られています。
また、自律神経活動として森林セルフケア講座でも紹介している心拍のゆらぎを測定していることも興味深く感じました。


◆スギ樽貯蔵ウイスキーの味覚刺激

スギ樽貯蔵したウイスキーのブレンド(アルコール濃度25%)を作成し、閉眼状態にて通常のスギなしウイスキー、水、25%エタノールとともに順番をランダムにして舌の上に0.1ml置いた。

その結果、スギなし、スギ樽とも主観評価の快適感において差異はなく、多くの被験者は同じウイスキーを舌の上に置かれたと感じていた。しかし生理応答では、スギなしウイスキーで一過性の収縮期血圧の上昇を認め、味覚刺激前の値にもどるのに50秒を要したのに対し、スギ樽ウイスキーでは有意な血圧上昇は認めず20秒で前値に戻った。

脳活動では、スギなしウイスキーは刺激後90秒間つねに活発な活動が継続していたが、スギ樽ウイスキーでは刺激直後に一過性の脳活動が観察されたのみで、その後は有意な活動は観察されなかった。主観的には差異がなかったが、生理的には明らかな違いがあることがわかった。これらはスギ樽由来の抽出物によるものと考えられた。

(森川 岳ほか 日本生理人類学会大会研究発表要旨集,45:76-77 2001)

【補足】
味覚は、味覚受容体に化学物質が結合して検出されます。自覚していなくても、存在する化学物質によって身体は反応するのですね。知らないところで様々な反応をしているカラダって奥が深いです。


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2018年01月25日

【コラム】森林療法のエビデンスC

会員の皆様へ季刊でお届けしております、会報誌「森林療法」2012年12月に発行しました23号より、旧理事で現会員の飯田みゆきさんに寄稿いただきましたコラムをお届けいたします。

コラム_森林療法のエビデンス.png


「触覚刺激に対する科学的検討」


飯田みゆき



前回までに、五感のうちの嗅覚、視覚、聴覚刺激に関する研究を紹介しました。今回は触覚刺激が身体に及ぼす影響の研究を紹介します。

森林セルフケアでは、樹木の幹肌やコケ、キノコなどに触わり感触を楽しんでもらうことがあります。触れることは、「考える」から「感じる」への入り口になるように思っていますが、さて、実際には身体にはどんな変化が起きているのでしょうか。今回紹介する研究は「森林医学 朝倉出版2006」と、「森林浴はなぜ体にいいか 文藝春秋2003」からの抜粋です。


◆接触刺激による主観評価と収縮期血圧への影響の検討

男子大学生13名を対象に、ナラ、冷やしたナラ、ヒノキ、スギ、金属、温めた金属、アクリル、冷やしたアクリル、塗装したナラ材を用いて、触れているものが見えないように手で接触させた。主観評価では木材と温めた金属が「快適」、金属、冷やしたアクリル、冷やしたナラ材は「不快」と評価された。拡張期血圧は金属、アクリル、冷やしたアクリルで有意の上昇を認めたが、温めた金属では上昇が抑制された。木材では接触直後には一過性の血圧の上昇を認めたが、15秒後には接触前の値に戻りその後上昇することはなかった。冷やしたナラ材では、主観評価は不快であると評価されたが拡張期血圧は上昇しないことが確認された。(宮崎良文ほか 日本木材学会大会研究発表要旨集,48:2161998)

【補足】
宮崎先生はこの研究の前に通常温度での木材と金属の接触刺激を研究し、金属接触時には拡張期血圧と瞳孔径が上昇してストレス状態になり、木材接触時には軽微な上昇後にすぐに接触前の値に戻る結果を得ていました。しかし学会で「木材は元々温かく、金属は冷たいので当たり前である」との指摘を受け、温度条件を変化させて上記の研究を行ったそうです。冷やしたナラ材が不快であっても拡張期血圧が上がらなかったことについて宮崎先生は「人の生理機能は先天的に自然対応にできていることを示す傍証の一つである」とコメントされています。


◆接触刺激の脳活動(α波が脳活動時に減衰することを利用して測定)への影響の検討

男子大学生10名を被験者として、閉眼状態で木材、綿、タワシなど15種類を手のひらで30秒間接触し、その後30秒間は指先で材料を撫でる動作を行わせた。単に触れるという受動的な接触の場合、木材は他の材料に比べて脳活動は小さかった。積極的に撫でた場合は、木材の挽材面(ノコギリ面)で特に強い脳活動が観察された。単に触れた場合には人に対する刺激が少なく優しい材料であるが、能動的に撫でた場合には強い脳活動が観察され、面白みのある素材であると感じられていることが示唆された。
(宮崎良文著『森林浴はなぜ体にいいか』文藝春秋123-124,2003)


「森林浴はなぜ体にいいか」には、この他にも足にフローリングや畳を接触させる研究なども紹介されています。受動的な接触、指で撫でる接触、また素材が何であるか分かっているかどうかによって脳活動は変化するそうです。

森林には「快適でリラックスする」副交感神経を活性化する要素と、「対象に興味をもって体が活動的になる」交感神経を活性化する要素と、両方あるように思います。森であれこれ触っていると、交感神経と副交感神経がしなやかに連動し始めるかもしれません。但しかぶれたり、トゲがある場合があるので、気をつけましょう〜。


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2018年01月18日

【コラム】森林療法のエビデンスB

会員の皆様へ季刊でお届けしております、会報誌「森林療法」2012年9月に発行しました23号より、旧理事で現会員の飯田みゆきさんに寄稿いただきましたコラムをお届けいたします。

コラム_森林療法のエビデンス.png


「聴覚刺激に対する科学的検討」


飯田みゆき


前回までに、五感のうちの香りと視覚が身体におよぼす影響を紹介しました。今回は聴覚刺激が身体に及ぼす影響を検討した研究を紹介します。森林療法は五感全体を通して調和を感じるものですが、森林内での小川のせせらぎや、小鳥のさえずりなどの音は、心地よいと感じる代表的な要素です。前回と同様に、紹介する研究はいずれも「森林医学 朝倉出版2006」からの抜粋です。


◆室内での聴覚刺激による脳活動への影響

男子大学生12名を対象に、目を閉じた状態で

@小川のせせらぎ
Aカッコウの鳴き声
Bウグイスの鳴き声
C田園のカエルの鳴き声
D「ピー」というピュアトーン

を2分間聞いてもらい、近赤外線分光分析法による前頭前野の脳活動の測定で評価した。

その結果、脳活動は、

ウグイスのさえずり>小川のせせらぎ>カッコウの鳴き声>田園のカエル

の鳴き声の順で鎮静化した。不快であると評価されたピュアトーンでの脳活動は、増加も減少も大きな変化を生じていた。ストレス反応は一般に闘争・逃走反応と言われるが、脳活動も活動が昂進するケースと脳活動を低下させ災難が過ぎ去るのをじっと待つ消極的なケースに分かれるように思われる。
(宮崎良文、菊池吉晃 日本生理人類学会大会要旨集,33:14,1994)

【補足1】近赤外線分光法について
近赤外線とは、赤外線のうち赤色に近いおよそ0.7 - 2.5 μmの波長を持ち、赤外線カメラや赤外線通信、家電用のリモコンなどに応用されている光です。近赤外線は皮膚や頭蓋骨によって遮られず、ヘモグロビンの酸素との結合度合いを測定できるため、血流量、酸素消費などから脳活動の様子を推測することができます。

【補足2】前頭前野について
脳活動の調節に重要な役割を果たし、記憶や学習と深く関連している脳の一部で、不快なストレス刺激や不安感により、活性化されます。森林の音が前頭前野の脳活動を鎮静化させるということは、ストレス刺激が少なくなったと考えられます。しかし、うつ状態でも前頭前野の脳血流量が低下しますので、適度な低下が良いようです。


◆音楽と森の音による効果の性差、年代差

20代男子を対象として目を閉じて音楽を聴く過程での前頭部脳活動を測定した結果、音楽のジャンルを問わず脳活動は鎮静的な状態になっていることが示唆された。特に、楽曲を快適と感じた被験者は鎮静化の度合いが大きく、快適感との関連が確認された。同年代の異性被験者や壮年期の被験者では、気分状態の主観的な変化や曲のジャンルにより脳活動の変化に差があった。
一方、森林にまつわる音を聴取した場合には、音楽聴取の場合と比較して脳活動の鎮静の程度が大きくなく、性差、年代差、個人差が少なかった。
(森本兼曩ほか監修『森林医学』朝倉書店149-155,2006)

【補足】音楽が人の生理的、心理的、社会的な痛みを和らげることは経験的に知られていました。第二次世界大戦中に米国の野戦病院で音楽を流したところ兵士の治癒が早まり、その後音楽による治療効果が立証されていきました。日本では2001年に日本音楽療法学会が発足し、音楽療法士の認定を行っています。
森の音が音楽と比べて個人差が少ないという結果は、森林が文化を持つ前からの人類の故郷であるからかもしれません。予定のない週末、CDで良いので目を閉じて静かに森林の音を聞いてみるのも良さそうです。


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2018年01月11日

【コラム】森林療法のエビデンスA

会員の皆様へ季刊でお届けしております、会報誌「森林療法」2012年6月に発行しました21号より、元理事で現会員の飯田みゆきさんに寄稿いただきましたコラムをお届けいたします。

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「視覚刺激に対する科学的検討」


飯田みゆき



前回は、森林が私たちの健康に及ぼす原因物質としてフィトンチッド(代表としてのαピネン)の研究を紹介しました。
フィトンチッドは私たちには香りとして感じられます。では、香り以外の感覚は私たちの身体にどのような影響を及ぼすでしょうか。

今回は、五感の中でも特に影響が大きいとされる視覚刺激に関する研究を紹介します。紹介する研究は、いずれも「森林医学 朝倉出版2006」からの抜粋です。


◆大型ディスプレイによる視覚刺激の検討

70インチ、高解像度のディスプレイを使用し、男子大学生14名を被験者として脳前頭前野の活動、血圧、脈拍数に及ぼす影響を調べた。室内は映画館程度の照度で臨場感を持たせ、画像は、「パリの森林浴風景」と「満開の桜」の風景を用いた。
「パリの森林浴風景」は、主観的には快適で鎮静的であると評価され、収縮期血圧、拡張期血圧とも統計的に有意に低下し、鎮静的なリラックス状態となった。さらに脳活動も鎮静的な変化を生じ、自律神経と脳活動の変化が連動して起きていた。一方、「満開の桜」においては、主観的には快適で覚醒的であると評価され、脈拍数が有意に増加し、脳活動も90秒間連続的に昂進していた。この場合はわくわくした状態を反映していると考える。
(須田理恵ほか.日本生理人類学会大会要旨集,45:84-85,2001)


◆ヒノキ材と白壁による視覚刺激の検討

男子大学生14名を対象として、節の多いヒノキ材と白壁を壁一面に提示し、自律神経反射と主観評価を調査した。主観的には、ヒノキ材の壁を見ることによって抑うつ、疲労が減少し、活気が増加した。白壁では抑うつ、怒りが増加し、活気が減少した。
ヒノキ材、白壁とも14名平均の血圧に変化は認められなかったが、主観的に「好き」群と「嫌い」群に分けて評価したところ、両方とも「好き」群においては有意に血圧が低下した。「嫌い」群においてはヒノキ材では変化がなく、白壁では血圧が上昇した。(Sakuragawa S et al. J Wood Science,51(2):136-140,2005)

【補足】室内であっても、森林風景や自然素材の視覚刺激により血圧や脈拍が低下し、リラックス状態になるのは興味深いですね。
また、「好き」群と「嫌い」群に分けた評価からは、「自分がどう感じるかが大切」というセルフケアの基本が読み取れます。さらに、自然素材の刺激は「嫌い」であっても緊張状態には導かないということも興味深いと思います。私たちが本能的に自然を求めているということなのかもしれません。これらの室内実験の様子は「森林浴はなぜ体にいいか 宮崎良文著 文春書店2003」にも詳しく書かれています。

もうひとつ、実際の病院で実施された研究を紹介します。


◆病室の窓からの眺めが与える影響を検討

1972年から1981年にかけてペンシルベニア病院で胆のう摘出手術を受けた患者を対象に、窓から木が見える群23名と、壁しか見えない群23名に分けて術後の入院日数、看護師による患者の記録、鎮痛剤の服用量などを比較。
結果、退院までの日数は、窓から木が見える群が7.96日、壁しか見えない群8.70日と比較して統計的に有意に短く、看護師による患者のネガティブな記録も有意に少なく、鎮痛剤の服用回数も少なかった。
(Ulrich RS.Science,224(4647):420-421,1984)

【補足】その他にも学生寮や刑務所など建物からの眺望が健康に影響を及ぼすという報告がいくつか「森林医学」に紹介されています。
普段何気なく見ている景色は、思いのほか私たちの身体に影響を及ぼしているようです。


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posted by Yu SEKI at 10:00| コラム

2018年01月04日

【コラム】森林療法のエビデンス@

会員の皆様へ季刊でお届けしております、会報誌「森林療法」2012年3月26日に発行しました20号より、元理事で現会員の飯田みゆきさんに寄稿いただきましたコラムをお届けいたします。

コラム_森林療法のエビデンス.png



「フィトンチッドの科学的研究」


飯田みゆき


 2011年秋のヒットドラマ「家政婦のミタ」。ご覧になった方もいらっしゃると思います。主人公の家政婦の「承知しました。」という全受容のセリフが話題となっていましたが、私が印象深かったのは「それは、あなたが決めることです。」という主人公の決めゼリフでした。

 セルフケアは、まさに「私が決めること」の連続です。ですが、もし判断材料があれば、決める時の目安になります。森林セルフケアも「森に行くと体調が良くなる」という経験を自分で感じ取ることが大切なのですが、科学的な知見を判断材料にすることもできます。今号から、今まで得られている科学的研究を論文や図書から抜粋して少しずつ紹介していきたいと思います。

 ところで、皆さんはエビデンスという言葉を聞いたことはあるでしょうか。エビデンス(evidence)とは、医学および保健医療分野では「ある治療法がある病気・怪我・症状に効果があることを示す証拠や検証結果・臨床結果を指す。(wikipediaより)」ことで、科学的根拠という意味を持っています。これから紹介する研究内容はすべての人に当てはまるものではありませんが、森に行って健康になろうとするときのひとつの目安になるかもしれません。

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「フィトンチッドの科学的研究」

1930年ごろ、旧ロシアのB.P.トーキン氏が植物由来の抗菌作用を持つ揮発性(蒸発しやすい性質、香りとして感じられる)物質を発見し、フィトンチッドと名づけました。

ロシア語で「植物」を意味する「フィト」と、「殺す」を意味する「チッド」からなる言葉です。現在は、一般に森林の香り成分を意味する場合が多いようです。森林の香り成分は多種類ありますが、最も多いのがテルペン類と呼ばれる仲間です。中でも、αピネンという成分はほとんどの樹種に含まれ、フィトンチッドの代表として様々な研究に用いられています。【参考資料:「森林の不思議」谷田貝光克(現代書林)、「森と健康」全国林業普及協会編、「フィトンチッド普及セsンターHP」http://www.phyton-cide.org)



今回はαピネンの研究をふたつ紹介しましょう。森林で香りを感じた時、自分の体にもこんなことが起きているかもしれないと想像して楽しんでみてください。



◆αピネンのヒト生理機能への検討

医学部学生と教員 計12名(年齢20〜45歳)に、胸の上に置いたロートからエアーポンプでαピネンを10〜20分拡散させ、脳波と心電図に及ぼす影響を検討した。αピネン拡散後数分以内に全員の脳波にα波増強が観察され、心電図では自律神経を副交感神経系の方向にする結果が得られた。この結果は、αピネンがヒトに対して落ち着いた感を抱かせる結果と考えられた。

(山岡.aromatopia,Autum:16-21,1992)

【補足】α波はリラックス時に多く出現することが知られています。また自律神経では緊張時に交感神経が働き、リラックス時には副交感神経が働くことが知られています。このバランスは心拍数が変化する様子を測定することで検査することができます。



◆αピネンのヒトの疲労への検討

とある会社の新入社員69名(18〜20歳、女性)を対象に、光の点滅への反応から疲労度を測定するフリッカーテストを実施。合宿研修中の4泊5日間、寝室にαピネンを入れたアルコールランプを設置し小型のファンで連続的に拡散させた29名は、αピネンを漂わせなかった40名と比較し疲労回復が早く、自覚症状の訴えが少なかった。この結果から、αピネンにより疲労が軽減されたことが示された。

(島上ほか.日本衛生学会雑誌,38(1):184,1983)


【補足】フリッカーテストは、光の点滅速度を上げていった時に連続して見えるようになる速さを測定するもので、疲労や注意力の客観的な測定に用いられます。


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posted by Yu SEKI at 12:00| コラム