活動報告:レベルアップセミナー
「鎌倉・伝統文化の森での森林セルフケア」座学編
降矢英成(協会理事、赤坂溜池クリニック院長)
・8/20(日)13:30〜16:45 Zoomにて
・「伝統・文化の森とは」
・「鎌倉の伝統・文化の森の魅力」
今回は、会報誌やメルマガでも何回かお伝えしております「伝統・文化の森」という視点でレベルアップ講座を行いましたのでご報告いたします。まずは「伝統・文化の森」とは何か、および、その代表の京都と鎌倉のうち、鎌倉についてを取り上げました。
まず、降矢が「伝統・文化の森」とは何か?についてを、鎌田東二京都大学名誉教授が会長をお務めになっている「京都伝統・文化の森推進協議会」による京都三山の危機を訴えるクラウドファンディングの実際から説明しました。
今年の4月には京都在住の会員の左賀さんもご一緒に、実際に鎌田名誉教授に東山地域の比叡山と東山展望台をご案内いただき、荒廃している森の現状を目の当たりにしました。そして、京都の社寺を中心とした伝統・文化が森と不可分であることを実感する機会となりました。
我が国の「伝統・文化」といえば、京都よりさらに古い地域が奈良となりますので、「奈良の伝統・文化の森」について、「山の辺の道」を、南端の桜井市の三輪山をご神体とする最古の神社である大神神社や元伊勢といわれる桧原神社から、天理市の崇神天皇陵や日本神話の建甕槌神(タケミカヅチノカミ)の剣をご神体とする石上神宮を経て、北端の奈良市の春日大社の所縁をご説明しました。奈良の春日大社は、主神の鹿島神宮の建甕槌神が御蓋(みかさ)山に白鹿に乗って降り立ったことから始まっていますが、それは建立した藤原氏がもとは中臣氏という関東の鹿島・香取地域の出身だったため、より古い伝統としては、出雲の国譲りをした建甕槌神の鹿島神宮と経津主神(フツヌシノカミ)の香取神宮が最最古の伝統・文化の森であることを説明しました。
その後に、「鎌倉の伝統・文化の森」について、梶原さんからご説明いただきました。
梶原さんは、二階堂という場所で生まれ育っていらっしゃる生粋の鎌倉人であり、ご主人はあの梶原景時につながる家系らしいとのことです。
元々運営されているcocorokamakuraでは、鎌倉の自然を活用したプログラムをなさっているため、源氏山公園などの森と由比ヶ浜海岸などの海、つまり鎌倉の森と海の両方の資源を活用されています。しかし、今回、「伝統・文化の森」という視点で鎌倉を見つめてみることになったとのことで、鎌倉幕府の始まりから江戸時代の若宮大路の観光ブーム、そして、近代の鎌倉文士などによる近代芸術の新たな文化活動などをご説明いただきました。
その中でも、特筆すべきは、日本のトラスト運動は、昭和に起こった「御谷(おやつ)騒動」という鶴岡八幡宮の裏山の御谷の住宅地への開発問題に対して、市民が立ち上がった活動から始まったことです。それが今も、「鎌倉風致保存会」という活動として継承されているのだそうです。
最後に、11月19日に予定している「実地編」で訪れる覚園寺、永福寺跡、法華堂跡、宝戒寺、妙心寺などの社寺について一つ一つ詳しくご紹介していただきました。訪れるのは、森感がしっかりあって観光地になっていない、「鎌倉殿の13人」に出てきた源頼朝や北条義時に所縁のある社寺を厳選し、最後にはcocorokamakuraを見学できるコースとなっています。
「森」と一口にいいますが、その意義や位置づけは本当に多様多彩であり、私たちの森林療法・セルフケアを目的とした活動では、基本的には、狭義では「健康」や「医療」を目的として森を見つめていることになります。そして、人間の「健康」や「病気」には、「身体」や「心」や「環境」などが関わってきますので、「運動」や「食事」という視点や「癒し」の視点、そして「自然のある環境」などが直接的に重要なファクターとなります。広義では「暮らし」や「風習」なども関わってくることになり、そこに「伝統」とか「文化」という要素も関わってくることになります。
人間の健康には、「活力」や「意欲」、「興味」などが重要なファクターになることも知られていますので、「面白い」とか、「美しい」とか、「興味深い」などの味わいを、各地の伝統や文化に根差した森から感じることが、私たち人間の健康にもつながる面があるということになります。
そして、上記の2つのレクチャーの後にさらに深めるためにダイアローグを行いました。梶原さんを含めて、日本最最古となる鹿島神宮の森が気になり、行ってみたいという感想が聞かれましたが、実は、今年の春に理事の研修として鹿島神宮・香取神宮・息栖神社(茨城県神栖市)を巡る東国三社詣でをしまして、理事の間でも大変好評でしたので、近いうちにレベルアップ講座で実地編として企画できるように頑張りたいと思っています。
日本には、代表的な鎌倉や京都以外にも、それぞれの伝統・文化をもつ森がたくさん存在しており、会員の方々のお住いの地域の伝統・文化の森をぜひ、確認していただきたいと思います。