第47回ファンドレイジング研究会レポート
テーマ:「ファンドレイジング、失敗の本質 〜失敗事例から学ぶ教訓」
日 時:2014年6月11日(水)18:30〜20:30
場 所:TKPスター貸会議室 新橋 会議室102
講 師:鵜尾 雅隆(日本ファンドレイレイジング協会 代表理事/認定ファンドレイザー)
ゲスト:黒田かをり(一般財団法人CSOネットワーク 事務局長・理事)
記 録:川添 亮(日本ファンドレイジング協会 ボランティア)
【イントロダクション】
失敗の前提:
1.新しいチャレンジをしなければ「失敗」もないし、そこには成長もない
2.「失敗」を恐れると過度にプロセス管理型になり「柔軟性」が失われる
3.重要なことは、「失敗」から学び成長するDNAを持っている組織や業界をつくること。
【事例1】黒田かをりさんによる、ホワイトバンドキャンペーンの教訓

■実施概要:「ほっとけない 世界のまずしさ」によるホワイトバンドキャンペーンは、10の実行団体と68の賛同団体で、2005年に活動を展開。多数の有名人の参加、広告代理店、PR会社とも連携。NGO、NPO、若者を中心に日本中に大きくネットワークが広がる。結果としてホワイトバンドは約450万本売れた。
■キャンペーンの目的:
「貧困を終わらせる声を世界であげること」
⇒ 直接支援が目的ではなかった。チャリティではなく「アドボカシー」が目的。
■問題点:
@情報開示とメッセージの伝達不足:
「これは募金じゃないの?」「あのお金はどこにいったの?」
「これはバンドを売るキャンペーンだったの?」といった疑問の声があがりはじめた。
イメージ戦略としてわざと運営主体を表に出していなかったため、
「誰が運営しているの?」という声もあがった。
A予想外の販売拡大:
当初はレコード店、ファッションストアなど数カ所のみで販売する予定だったが、
想定を超える売れ行きとなったため、コンビニ等での販売も開始。
⇒ 結果、ホワイトバンドばかりが一人歩きし、
肝心のアドボカシーのメッセージが伝わらなかった。
B後手後手の対応:
批判を受けた後にキャンペーンの趣旨を書いたリーフレットを作成したが、
後手後手の対応となってしまった。
Cアドボカシーへの理解:
本来の目的である「アドボカシー」への理解が、当時の日本では難しかった。
Dキャンペーンを行う手順:
連携する企業と、ビジョンの共有や連携の手順を踏んでいなかった。
Eイメージや規模の誤認:
当初、NGO側は500万円規模を想定していたが、
最終的には何十億という規模になってしまった。
キャンペーンのもつイメージ、規模がNGO側と企業側とでかなりのギャップがあった。
■当初の目標は達成できたのか?
貧困を終わらせる声を世界で上げることができ、一定の成果をあげることは達成できた。
しかしキャンペーンの広まりとともに、政策的に世界を動かしたかどうかは不明。
■質疑応答
●質問
「なぜ対応が後手に回ってしまったのか?急いでいたから?空気に流されて?組織の中にペースメークをする人はいなかったのか?」
●回答
黒田:「ホワイトバンドデーなど、世界の日程が先に決まっていた。日本が動きだした時点で既に世界の流れから遅れていた。また連携した企業と出会う前、身の丈にあうキャンペーンをしようとしていた際にイギリスのNPOから既に助成金を貰っており、自分たちのペースで運ぶことができなかった。想定していなかった大波に対応できる組織体制ができていなかった。結果、当初予定していた行動がとれなかった。」
鵜尾:「PR企業の方と話していると、クリエティブ畑の人たちはデザイン性を重視するために説明やメッセージを省いて、シンプルにし過ぎる傾向がある。」
黒田:「プロボノでもあってもクリエティブな人たちには絶対お金を支払わければならない。無料で手伝ってもらうと、こちらが伝えたいメッセージなどを遠慮してしまうことがある。」
【事例2】9.11の時の米国赤十字の教訓
■概要:
9.11直後の米国において、米国赤十字は、“Liberty Fund” を立ち上げ、2月で580億円もの寄付が集まった。しかしその使途が被災者支援だけではなく、通常の血液管理や他の防災事業、ニューヨークでの福祉事業に活用されているという指摘がWatch Dogグループから相次ぎ、一大スキャンダルに。
☆赤十字のLiberty Fundには9.11の被災者支援ということに加えて、「将来の同様の災害を予防するための立案や対策の実施」という文言はFundの説明分には記載されていた。
■問題点:
1.理事会承認を得ずにLiberty fund が立ち上げていたため、手続きの不備が批判の的に
2.調査不足で、集めた献血を破棄するはめに
3.想定以上に、お金が急激に集まってしまった
4.寄付者と仕掛け側のコミュにケーション不足(全米が「米国赤十字」のブランド力、Liberty Fundという名前の元メッセージをミスリーディングしてしまった。)
【事例3】米国のあるコミュニティファンドの停滞

■概要:
地域の15のNPOが連合して一名のファンドレイザーを雇ったことから始まったCommunity Sharesというコミュニティファンド。参加団体は割当資金拠出と一定時間のボランティア提供が義務だった。設立当初から15のNPOの組織代表が1名ずつ参加して15名で理事を構成。以降、参加団体が増えるたびに理事数を増加。企業のWorkplace Givingを軸に資金を集めて参加団体に財政規模に応じ分配していた。
■問題点:
最初の数年は順調だったが、5〜6年で成長が頭打ちになってしまったのは何故か?
⇒当初はCommunity Shares の発展を思い集まったが、参加NPO理事の増加も加え、理事達がそれぞれの組織を代表し、利害関係ばかりを意識する様になったため理事会が機能しなくなっていた。
■解決策:
Community Shares の中期計画を作る人たちを各NPOからの公募。理事ではなく若い人でも、やる気があり、この考えに共感する人なら誰でも立候補し、公平に選ばれるようにした。
⇒結果、団体は再び成長をはじめた。
【事例4】ある社会福祉法人の教訓(朝日新聞 2014年5月26日に掲載された事例)
■論点1.ある社会福祉法人のために土地を寄付した人がいた。しかし、社会福祉法人の理事長は理事会を通さずに財政健全化のため寄付された土地を転売。寄付者は善意を裏切られたと主張。理事長は寄付をどの様に使うか約束をした覚えはないと反論。
⇒寄付者と団体と寄付の使い方に関するコミュニケーションの問題
■論点2.備品の購入や車の購入を理事長が勝手に購入。理事の半分を親族で固め、理事長が団体を私物化。理事会も年に2回開かれるはずが、1回しか開かれておらず、議事録も偽装されていた。社会福祉法人として税制優遇も受けており、民間非営利団体として許される行為か?
【まとめ】
「失敗」を避け、「失敗」から学ぶ組織になるために。
1.寄付使途の「イメージ」コントロール
2.「利益相反」への意思決定プロセスの明確化
3.「理事会」での対話と議決(組織での学び)
4.その団体を一番に考える理事会
ファンドレイジングのリスク管理
1.強制性のある寄付集め
2.使途の転換
3.行き過ぎた成功報酬
4.団体にとって不適切な相手からの寄付
5.個人情報の流失