遺伝子提供をいったん凍結させ、住民の権利保障と倫理の確立を―東北メディカルメガバンク問題で日本共産党宮城県議団が村井知事に要請 [2013年05月23日(Thu)]
村井知事に宛てて日本共産党宮城県議団が5月23日に提出した要請書を紹介します。
宮城県知事 村井嘉浩殿 東北メディカルメガバンク機構による遺伝子情報提供を求める活動をいったん凍結させ、住民の権利保障と倫理確立の措置を求める要請書 東北メディカルメガバンク機構が東松島市に続いて5月20日から七ヶ浜町の定期健診会場で長期健康調査とゲノムコホートへの遺伝子情報提供を求める活動を始めました。 日本共産党は、ヒト遺伝子研究の手法の一つとしてのゲノムコホートを否定していません。しかしゲノムコホートは、「究極の個人情報」と言われる遺伝子を研究対象とするので、人権を保障する措置と医学研究に関する倫理を厳格に守ることが当然の大前提です。国際社会では、世界医師会の採択した医学研究の倫理規定である「ヘルシンキ宣言」をもとに、各国がバイオバンク法や遺伝子差別防止法などを定めています。 ところが、東北メディカルメガバンク機構のゲノムコホートは、遺伝子研究に関わる法制度が日本で未整備であるにもかかわらず、東日本大震災を「千載一遇の好機」として具体化を急いだもので、危惧される事態が進展しようとしています。 県民の人権擁護と倫理の確立のため、以下の事項に取り組むよう緊急に要請するものです。 1、研究に協力する県民にたいして、その人権保障を担保する「誓約書」(仮称)を交付するよう同機構に要請すること。 同機構は、住民に説明同意書を渡して理解を求めていますが、同意書は仮説検証を行う特定の疾患を例示せず、どんな研究にも遺伝子情報が使われることに住民の「包括同意」を求めるものになっています。情報はバンクに集められ各種の研究に活用されることになっていますが、民間企業を含む外部研究機関にも提供されることになり、提供された先の企業で情報管理が適正になされるか、企業グループによる営利事業への情報流用の心配など、不確かな問題がたくさんあります。 同機構は、遺伝子情報の厳格な管理などを行うことを文書に記載はしていますが、住民の人権擁護を担保する措置がないのは極めて問題です。 安全確保措置が不確かな段階での第三者への提供は行わないこと、とりわけ営利活動と結びつきやすい研究機関への提供は行わないことを求めます。 関連して、同意説明書には遺伝子情報の提供先として考えられる機関を列挙するよう、改善を求めます。 説明と反する事態や損害が発生した場合の補償、同意を撤回した住民が自分の情報が削除されたことを確認できる措置などを約束する措置をとるべきです。 また、医学研究に関わる県民の人権を保障し倫理の確立を進める県条例を制定してください。 2、遺伝子研究のリスクも知らせて、同意説明書の内容の改善を図ること。 研究協力の呼びかけにあたっては、研究の意義と研究計画を明らかにすることはもとより、メリットだけでなく協力することに伴うデメリットを隠さずに公正な説明を行い、納得と自発性に基礎をおいた協力のとりつけを進めることが当然です。劣性遺伝子の発見による地域や血縁に対するスティグマの発生、遺伝子調査により実子でないことが判明して「実子問題」が引き起こされる事態など、遺伝子研究にはリスクもつきまとうことに対する記載がないのは問題です。 「基本計画」では、研究の目的・個別研究の箇所で、仮説検証を行う疾患として、「地域住民コホート」については、高血圧、糖尿病、高脂血症、心筋梗塞、脳卒中をあげていました。「三世代コホート」については、PTSD、抑うつ、アトピー性皮膚炎、注意欠陥多動症(ADHD)、喘息、自閉症をあげていました。しかし「説明同意文書」には仮説検証を行う疾患についての記述がいっさいありません。研究計画があるのに、プロトコールを示すことができない段階で同意書の提出を求めているとしたら、同意書を求めるのは時期尚早ではないでしょうか。 同意説明書の妥当性を第三者もまじえて検証し、基本的事実を知る権利を住民に保障するものに是正するよう求めます。 3、倫理審査がどのように行われたのかを公開し、倫理審査委員会に被災地代表や患者・障害者など、当事者も加えて改組すること。 医学研究にあたって倫理は重要問題です。同機構によるゲノムコホートについては、東北大学の倫理審査委員会による審査をへたと説明されていますが、その会議録などが公開されていません。地域には「気味が悪い研究」と受けとめている住民がいるのが実情です。自治体・住民の代表、仮説検証を行おうとしている疾患・障害の当事者団体の代表を含む、東北大学以外の第三者を加えた倫理審査委員会に発展させるとともに、議事については最大限公開する措置をとってください。 同機構が全県の市町村で事業を進めようとしているので、県の責任で倫理審査委員会を設置して下さい。 4、以上の3つの措置がとられるまでのあいだ、東北メディカルメガバンク機構による遺伝子情報提供を求める活動をいったん凍結すること。 5、国に対して遺伝子研究における人権保障と倫理の確立を規定する法整備を要望すること。 同機構の事業に関わって人権や倫理上の問題が発生しているのは、わが国ではアメリカの遺伝子差別禁止法やヨーロッパ諸国のゲノム研究法に相当する法整備が遅れていることがおおもとの原因です。国に対して法整備を強く求めてください。 6、法整備までの間は県が県民の人権擁護と倫理の確立に責任をもち、必要な協定見直しなどを進めること。 村井知事は、平成23年6月に開催された東日本大震災復興構想会議でこの事業を提言しており、政治的道義的に大きな政治責任を有しています。 同機構と宮城県が取り交わした協定は、協定違反や問題が発生した場合に宮城県の側から必要な事項を指示できるとしていますが、住民や市町村に被害があった場合の補償、悪質な協定違反や重大事故に対する協力停止・協定破棄については明記されていません。協定は、双方の対等平等が原則で、住民の人権を保障するものになるよう必要な改善を要望するものです。 7、東北メディカルメガバンク機構の研究計画を見直すこと。 世界医師会の採択した医学研究の倫理規定「ヘルシンキ宣言」は「人間を対象とする医学研究においては、個々の研究被験者の福祉が他のすべての利益よりも優先されなければならない」と原則をうたっています。とくに第17項で、「不利な立場または脆弱な人々あるいは地域社会を対象とする医学研究は、研究がその集団または地域の健康上の必要性と優先事項に応えるものであり、かつその集団または地域が研究結果から利益を得る可能性がある場合に限り正当化される」と規定しています。 被災地住民がゲノム研究に参加することで得られる直接的な利益は、今のところみあたりません。今回のバイオバンク構築に被災地で住民に遺伝子情報提供を求めることは、「ヘルシンキ宣言」に反することです。私どもは、震災復興とは無関係で、被災者の生活再建に何ら寄与しない事業に復興予算を500億円以上も充てることは、惨事便乗主義以外のなにものでもないと考えます。 2013年5月23日 日本共産党宮城県議団 団長 横田 有史 遠藤いく子 三浦 一敏 天下みゆき |