2011年、NPO法の改正、寄附税制の見直しが実現し、その活用に多くのNPO関係者は歓喜しています。私が心配しているのは、NPO自身が他力本願でなく、経営力を向上させる努力をしているかどうかです。それは簡単なことでなく、真摯に組織内でしっかり議論し、計画をつくりマネジメントしているのかです。さらに、サードセクターとしてのアイデンテティをもち、サードセクターが形成され、政府・行政セクター、企業セクターと連携・協力し、社会を変えることができているかどうかです。そのためにも、政府のNPO政策は重要ですが、政権も短期に交代し、混迷を極めていることを心配しています。
@市民による自発的な活動(町内会、コミュニティ組織、NPOなど)とA市民に一番近い自治体への市民参加や活動とは明確に区別して考える必要があります。日本においては、その区別が明確でなく、結局。支援も中途半端なままです。
ただし、全国各地の先駆的な自治体においては政府の方針や政策とは別に地域における市民の自発的な活動については、試行錯誤でありながらも@については、地域内分権(都市内分権、近隣政府)など新しい取り組みも始まり、Aについても民間提案型事業など公共サービス改革も含め自治体の経営への市民参加も進められています。特にAにおいて、サードセクター組織への支援として、有給職員を雇用し、継続的に事業を実施していくような組織に対しては、行政は中途半端な助成金ではなく、仕事をだすことが有効です。そして成果を約束し、必要以上の管理はさけ、サードセクター組織の良さを発揮できるようにしてほしいと思います。
●民主党のNPO政策
(2009年10月鳩山総理(当時)の施政方針演説)
私が目指したいのは、人と人が支え合い、役に立ち合う「新しい公共」の概念です。「新しい公共」とは、人を支えるという役割を、「官」と言われる人たちだけが担うのではなく、教育や子育て、街づくり、防犯や防災、医療や福祉などに地域でかかわっておられる方々一人ひとりにも参加していただき、それを社会全体として応援しようという新しい価値観です。
(2010年6月菅総理(当時)の施政方針演説)
鳩山前総理が、最も力を入れられた「新しい公共」の取組も、こうした活動の可能性を支援するものです。公共的な活動を行う機能は、従来の行政機関、公務員だけが担う訳ではありません。地域の住民が、教育や子育て、まちづくり、防犯・防災、医療・福祉、消費者保護などに共助の精神で参加する活動を応援します。
とあります。
「新しい公共」の推進として、平成22年度補正予算234億円、平成23年度予算1858億円の2092億円が、各府省予算として計上されました。2011年6月に新寄付税制とNPO法改正が国会で立。認定NPO法人、公益財団・社団、学校法人、社会福祉法人等の50%の所得税額控除が実現。認定NPO法人の基準も緩和されました。
私は「新しい公共」に期待し、「新しい公共の推進会議」委員として提言をしてきました。ところが、いつまでたっても狭義のNPO法人や市民活動団体に関する議論が多く、寄附税制の見直しとその活用の話ばかりで、落胆を隠せませんでした。さらに野田前総理の施政方針演説については「新しい公共」の言葉が消え、「新しい公共」の推進会議の開催もほとんどありませんでした。
結局「新しい公共」の理念実現のための核心の部分には踏み込みこまれなかったといわざるをえません。
新しい公共の実現のためには、政府・行政セクター、企業セクター、サードセクターが一体的に変化していくことが必要であり、政府・行政セクターの改革、つまり、新しい政府、新しい自治体の在り方を目指し改革すべきであり、企業との連携・協力についても積極的な議論はあまりありませんでした。
新しい公共の推進会議の報告書では市民セクターと称し、JACEVOではサードセクターとしていますが「特定非営利活動法人、一般社団・財団法人、公益社団・財団法人、医療法人、特定公益増進法人(学校法人、社会福祉法人等)、協同組合、法人格を持たない地縁団体(自治会、町内会、婦人・老人・子供会、PTA、ボランティア団体等)等の民間非営利組織のほか、公益的な活動を主な目的とする営利組織からなるセクター。(引用:内閣府「新しい公共」推進会議 資料より)」と広範な輪郭を捉えました。このことは評価すべきことです。にも関わらず、会議における議論や専門調査会などは狭義な組織を主に捉えていました。さらに、「新しい公共」の自立的な発展の促進の ための環境整備」を進めるとし、平成22年11月26日に87.5億円の補正予算が成立しました。しかし、全国の都道府県においてはNPO担当課がその事業の実施を担い、広範なサードセクター組織を対象にしているかどうかは疑問です。いくつかの都道府県では、特定非営利活動法人に向けての事業であると明言しているところもありました。
ただし、「新しい公共」の概念は民主党政権にて新しく始まったものではなく、されど、民主党が国家戦略の柱としたことは評価されるものです。そのうねりは、おきてきています。私たちは「新しい公共」をより具現化していく役割があると思っています。
●自民党のNPO政策
自民党は町内会、自治会など、地域の基礎的コミュニティが、関係者の懸命の努力にもかかわらず、想像以上に劣化している現状に、改めて、大きな危機感を持ち、地域コミュニティの劣化防止のため、平成21年5月に「コミュニティ活動基本法」の素案をつくっています。
○ 行政は、町内会・自治会等住民の自発的な地域コミュニティ活動をしっかり把握する。
○ 行政は、このような地域コミュニティ活動をバックアップする。
○ 個人情報保護法の過剰運用を排し、適切な情報提供を受けられるようにする。
ことを骨子とするものです。この時の素案のイメージ図にはNPOという言葉が見当たらなかったと記憶しています。
そして、今回の「自民党 政策BANK」では「活力」の「6 地域活性化・地方分権」にて、「地域で活動する団体やNPO法人の育成・支援」が盛り込まれ、町内会・自治会・消防団など地縁団体を支援する「コミュニティ活動基本法」の制定と併せて、NPOなどの育成・支援が公約されています。
また、自民党の議員さんがどこまでまとまっているかはわかりませんが、新自由主義であり、民間にチャンスがありますので、当然民間非営利組織にもチャンスがあります。
●NPO政策の今後
民主党は、1998年以降全国で4万6千をこえている特定非営利活動法人をはじめ、比較的小さなボランティアサークルや共助の精神の組織をイメージしていたのではないでしょうか。また、もし自民党が従来の地縁的組織の再生と狭義の特定非営利活動法人の育成をイメージしているのであらば、それは、新しい自治体のカタチを目指し、先駆的にNPO政策をすすめようとする自治体をさらに混迷させます。
下記のことが期待されます。
1.市民による自発的な活動
@町内会、コミュニティの活動について
・自己決定、自己責任にてまちをよりよくしていくことができる重要な市民活動であり、行政のお手伝いではなく、自治の主役としての意識改革が必要です。
・有給職員をおくなど本格的な体制強化が必要です。
・そのためには、中途半端な補助金ではなく仕事をだすのがよいと思われます。
ANPOを狭義に捉えるのではなく、急増する非営利型の一般社団・財団も含め、新しい公共の推進会議の報告書にあるような広範な輪郭の法人形態を捉え、公益的な活動ができるような支援が必要です。
2.自治体への市民参加
@市民参加の重要な主体として、町内会やコミュニティを位置づける必要があります。
A行政のパートナーとなるような、有給職員を有し、持続的に活動できる非営利組織の育成・支援が必要です。
B民間のよさが発揮できるように公共サービス改革をすすめる必要があります。
そこでは、サードセクター組織の自律性をいかに堅持あるかが鍵です。
(市民活動の整理については、JACEVO代表理事後房雄の論文を参考にしています。)